自宅を売却するにあたり、不動産会社と専任媒介契約・専属専任媒介契約を締結するケースがあります。しかし、なかには思ったような成果が出ないなど、締結した契約を解除したいと感じることがあるかもしれません。
専任媒介契約も専属専任媒介契約も契約期間が定められており、期間内での中途解約は原則として認められていません。ただし、一定の要件を満たす場合には、期間中であっても契約解除が可能です。
この記事では、媒介契約を途中で解除する方法や違約金の有無などを詳しく解説します。
記事の目次
専任媒介契約は途中で解除できる?
媒介契約を締結したものの、不動産会社の業務状況に不満を感じているなどの理由から、契約を途中で解除したくなるケースもあるでしょう。そういった場合、契約途中でも媒介契約を解除することは可能なのかを解説します。
専任媒介契約・専属専任媒介契約は契約期間内でも解除できる
宅地建物取引業法(宅建業法)第34条の2 ・3項において、専任媒介契約および専属専任媒介契約は、3カ月を上限に契約期間(有効期間)を定めることができるとされています。契約期間を定める以上、期間内は中途解除できないというのが原則です。
ただし、不動産会社側の対応に問題があった場合や、違約金を支払ってでも解除したい場合などは、不動産会社に通知することで中途解除が可能になります。
専任媒介契約・専属専任媒介契約を中途解除すると違約金はかかる?
専任媒介契約を中途解除する場合には、解除の理由によって対応が異なります。国土交通省が定める標準媒介契約約款(以下、標準約款という)に示されている、期間内解除に関する方針に沿って解説します。
参考:国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」
不動産会社に原因のある中途解除は違約金がかからない
中途解除の原因が不動産会社にあるのであれば、依頼者側が違約金を支払う必要はありません。標準約款では、不動産会社が以下3つのケースに該当する場合に、違約金なしで依頼者側からの解除が可能とされています。
- 誠実遂行義務違反
- 故意もしくは重過失による虚偽報告
- 不正や著しい不当行為
専任媒介契約において、不動産会社は「契約成立への積極的な努力」「業務処理状況報告」「レインズへの登録・登録証の交付」の3つの義務を果たすことが求められます。これらの義務のいずれかに違反する場合は解除事由にあたり、違約金は発生しません。
依頼者に原因のある中途解除は違約金を請求されることも
不動産会社に落ち度がないにもかかわらず、依頼者の一方的な都合で中途解除する場合には、違約金が発生する可能性があります。
中途解除により違約金が発生するケースの一つが、専任媒介契約を結んだのにもかかわらず、依頼者がほかの不動産会社との仲介で契約を成立させたときです。専任媒介契約の場合、依頼者は1社としか契約できないため、ほかの不動産会社の仲介を受けると契約違反になります。この場合、不動産会社は依頼者に対し、約定報酬額相当分を違約金として請求可能です。
約定報酬額(仲介手数料)には上限があり、売却価格が400万円超であれば「売却価格×3%+6万円」に消費税を加えた額を超えない範囲で定められます。
上記以外で不動産会社に落ち度がない中途解除の場合、不動産会社は依頼者に対し、契約を履行するために費やしたコストの償還請求が可能です。請求できるのは、契約解除までに実際にかかった広告費、営業担当者の交通費、内覧の対応にかかった費用などです。この場合の費用請求できる上限額も、約定報酬額分とされています。
専任媒介契約とは?ほかの契約形態との違いは?
専任媒介契約は中途解約が可能と説明しましたが、そもそも専任媒介契約とはどういった契約なのでしょうか。ほかの契約形態との違いも併せて解説します。
媒介契約について
土地や建物の売買や賃貸借に関し、不動産会社に業務を依頼するため締結するのが、媒介契約です。不動産の売買や賃貸借は法的な決まりや手続きが多いため、素人だけで進めるのは難度が高くおすすめできません。
そのような場合に、専門的な業務を不動産会社に任せることで、売買や賃貸借の手続きをスムーズに進められます。不動産会社に依頼する仲介業務の内容を明文化して、トラブルを未然に防ぐのが媒介契約締結の大きな目的です。
専任媒介契約・一般媒介契約・専属専任媒介契約の違いを比較
専任媒介契約は媒介契約の3つある契約形態のうちの一つで、契約できる不動産会社が1社に限られる点が特徴です。不動産流通推進センターの調査によると、レインズに新規登録された物件のうち35.1%が専任媒介契約を締結しており、3つの契約形態で最も利用者が多くなっています(2022年時点)。
一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
---|---|---|---|
契約できる会社数 | 定めなし | 1社のみ | 1社のみ |
契約期間 |
任意 ※標準媒介契約約款では3カ月 |
3カ月を上限に設定 | 3カ月を上限に設定 |
レインズへの登録義務 | 任意 | あり (締結翌日から7日以内) |
あり (締結翌日から5日以内) |
業務処理状況報告 | 任意 | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
自己発見取引 | ◯ | ◯ | × |
専任媒介契約と専属専任媒介契約は、どちらも1社としか契約できませんが、レインズ登録までの期間や業務処理状況報告の頻度などが異なります。また、依頼者自身が見つけた売り主と直接売買契約を締結する「自己発見取引」に関して、専任媒介契約では認められるのに対し、専属専任媒介契約では不可とされている点も大きな違いです。
このように、契約形態ごとに異なるメリット・デメリットがあるため、比較検討した上で選びましょう。
専任媒介契約の正しい解除方法
専任媒介契約の中途解除をスムーズに進めるには、流れに沿って正しく手続きする必要があります。スムーズに解除するために知っておきたい、正しい解除方法を見ていきましょう。
(1)不動産会社へ契約解除希望の旨を伝える
まず、不動産会社の担当者などに対して契約解除を希望する旨を伝えます。この時点では対面で行う必要がなく、電話での意思表示でも問題ありません。不動産会社側に落ち度があると考えられるケースでは、契約解除を希望する理由を明確に伝えることが重要です。 のちほど詳しく解説しますが、電話での伝達だけで契約を解除するのはリスクがあるため避けましょう。
(2)不動産会社に業務を改善する猶予期間を与える
契約解除を希望する理由が不動産会社の義務履行違反にある場合、違反内容によっては猶予期間を設定します。
義務履行違反のうち、契約成立に向けた努力が不足していると考えられるケースでは、営業活動改善に向けた猶予期間を与えるのが基本です。一方で、業務処理状況報告義務・レインズ登録義務に違反しているケースや、明らかな違法行為などが見られるケースなどでは猶予期間を設けずに、即刻解除手続きに移っても構いません。
猶予期間を与える場合の目安は3〜7日程度です。猶予期間のうちに営業改善に向けた兆しが見られないときは、次のステップに進みましょう。
(3)解除通知書を作成し内容証明郵便で送る
猶予期間を必要としない義務履行違反の場合や、猶予期間を与えても営業改善が見られなかった場合には、正式に解除手続きを行います。契約解除をする際は、以下に挙げる事項を記載した契約解除通知書を作成しましょう。
- 通知書の作成年月日
- 契約相手の不動産会社の名称・代表者名
- 依頼者自身の住所・氏名
- 文書タイトル「専任媒介契約解除通知書」
- 契約を解除する旨と解除事由
- 専任媒介契約の締結日、契約内容
作成した解約通知書は内容証明郵便による郵送で、不動産会社へ通知します。内容証明郵便を使うことで通知時期や通知者が明確になり、トラブル発生のリスクを減らせるでしょう。
専任媒介契約を解除する際の4つのポイント
専任媒介契約は期間中でも解除できますが、解除にあたっては次の4つのポイントを押さえておく必要があります。
(1)明らかな解除事由がない場合は契約満了のタイミングを待つ
義務履行違反や不当行為など、不動産会社を原因とする明らかな解除事由があるケースでは、速やかに契約解除を検討すべきです。しかし、明確な解除事由がなく依頼者都合により中途解除する場合、不動産会社に対する違約金支払いや費用償還請求を負うリスクがあるでしょう。
宅地建物取引業法において、専任媒介契約は依頼者の申し出がある場合のみ更新が可能とされています。つまり、依頼者が更新しなければ自動的に契約は終わります。明らかな解除事由がないのであれば、契約満了のタイミングを待って更新しないというのが、最もスムーズな方法でしょう。
(2)解除通知は口頭だけでなく必ず書面で行う
前述したように、中途解除を希望する場合、最初は担当者に電話で伝えれば問題ありません。しかし、そのまま口頭でのやりとりだけで契約解除すると、トラブルに発展するリスクがあるため注意が必要です。
特に危険なのが、口頭での申し出で契約を解除したつもりになって、新たにほかの不動産会社と媒介契約を締結するケースです。あとから契約締結した不動産会社の仲介で売買契約を成立させると、前に契約を締結していた会社から違約金を請求されるリスクがあります。
この場合、口頭で契約解除したい旨を伝えたに過ぎないため、解約の事実を証明できる明確な証拠を提示できません。つまり、前に契約していた会社が「契約は解除していない」と主張すると、対抗できない可能性があるということです。
こういったトラブルを避けるためにも、契約解除通知書を証拠として残しておきましょう。
(3)違約金を請求されても鵜呑みにしない
「違約金」と聞くと、思わずそのまま支払ってしまうかもしれませんが、なかには根拠もなく不当に高い違約金を請求する悪徳な不動産会社もあります。不動産のプロだからと無条件に信じるのではなく、金額が高いと感じたら鵜呑みにしないようにしましょう。
前述のように、違約金が発生するのは売り主側が明確な契約違反をしたときのみです。売り主都合の中途解除であっても、原則は解除までの契約履行にかかった実費を償還します。不動産会社側に落ち度があるのであれば、そもそも違約金は発生しません。
不動産会社から違約金の請求を受けた際は、違約金がなぜ発生するのか、金額の明細がどうなっているかをチェックし、疑問点を解消してから支払うかどうかを判断しましょう。
(4)事前にほかの不動産会社へ相談しておく
依頼している不動産会社の業務進捗やスタンスに対して疑問を抱いたとしても、いきなり中途解除するのはリスクがあります。先方に落ち度がなければ費用償還請求される可能性があるうえ、契約解除後は一時的に売却活動がストップしてしまうためです。
不動産会社の対応に不満を感じた際は、まずほかの不動産会社に相談してみるのが得策です。信頼できる不動産会社がほかに見つかれば、今の会社との媒介契約を中途解除したとしても、速やかに新たな契約を締結してスムーズに売却活動を再開できるでしょう。
信頼できる不動産会社を見つけるには一括査定がおすすめ
1社としか契約できない専任媒介契約では、パートナーとなる不動産会社選びの重要度が高くなります。信頼できる不動産会社や担当者をいかに見つけるかが、自宅の売却を成功に導くカギを握るといっても過言ではありません。
信頼できるパートナーを見つけるには、複数の不動産会社へ査定を依頼して、各社の業務の質や担当者の対応力を見極めるようにしましょう。
複数の不動産に査定を依頼するときには、SUUMO不動産売却の一括査定を利用するのがおすすめです。気になる不動産会社に対し、1つの窓口でまとめて査定を依頼できるため、信頼できる不動産会社を見つけやすくなるでしょう。
まとめ
- 専任媒介契約を期間中に解除することは可能だが、不動産会社に落ち度がなく、依頼者都合で中途解除する場合は契約履行にかかった実費を償還請求される可能性がある
- 違約金が発生するのは依頼者の契約違反による中途解除のみで、不動産会社の義務違反による解除で違約金などが発生することはない
- 契約解除によるトラブルを防ぐため、契約解除通知は必ず書面で残すようにしよう
不動産・建設会社で土地有効活用のコンサルティング営業経験(6年)。賃貸住宅の建築提案営業を中心に従事。宅地建物取引士、FP技能士2級、日商簿記2級。不動産・金融系のライターとして不動産系メディアでの執筆実績多数。