ここ数年、老朽化したまま放置されている空き家が増加し、社会問題となっている。実家のある40歳代~60歳代にとって、空き家の問題は決して人ごとではない。残された実家を空き家にしないために、どのような対策がとれるのだろうか。
空き家に住む予定がないのであれば、解体や売却、賃貸として利用する、更地にして活
用する、空き家バンクに登録するなどの対処法が考えられる。将来的に実家をどうするのか、親が元気なうちに話し合っておくことが重要だ。
今回は、実家の空き家トラブルを避ける方法について、NPO法人の空家・空地管理センター代表理事の上田 真一さんに伺った。
空き家を売却するには?売却方法の選び方や流れ、費用・税金など注意点を解説

記事の目次
利用されない「空き家」が増加
全国の空き家は年々増加し、2023年には約900万戸に達している。中でも増加が著しいのは、賃貸や売却用でもなく、自己利用もされていない「その他の住宅」で、2013年から10年間で50万戸以上増え、2023年には約385万戸となっている。
こういった「利用されない空き家」が増えているのはなぜか。上田さんは次のように解説する。
「一番の理由は、高齢少子化や人口の都市集中という社会構造によるものです。かつては、二世代、三世代同居の大家族が主流で、親が亡くなった後は長男が家を継ぎ、実家に住むのが普通でした。
しかし、今は子が実家から独立して大都市で仕事をもち、自分の家を買うのが一般的になっています。このため、親が亡くなって実家を相続しても住む必要がなく、空き家のままにしておくケースが増えているのです。現在、団塊の世代が65歳以上となり、高齢者のみの世帯が増えていますが、将来的にはその持ち家も住む人がいなくなり、空き家はさらに増加すると予想されています」
空き家数の推移と内訳(全国)

空き家を放置するリスク
空き家をそのまま放置してしまうと、固定資産税の増加や建物の老朽化、犯罪リスクの増加、近隣住民とのトラブルなどのリスクが発生する。リスクの大きさを理解したうえで、空き家をどのように取り扱うか考えていく必要があるだろう。
固定資産税の増加
空き家が著しく劣化し、保安上危険な状態や衛生上有害となる状態などと認められた場合、当該空き家は特定空き家に指定される。特定空き家には、固定資産税の住宅用地の特例措置が適用されなくなる。 通常、居住用の建物が建っている土地の固定資産税評価額は、200㎡以下の部分は6分の1、200㎡を超える部分は3分の1に軽減される。しかし、特定空き家はこの特例が適用されないため、固定資産税が大幅に増加してしまうのだ。
建物の老朽化
適切に管理されていない建物は徐々に劣化してしまう。木造建築は定期的に換気が必要です。適切な管理を怠ると壁や天井、屋根などは朽ちていき、最悪の場合建物が倒壊してしまう危険もあるだろう。 また、老朽化した建物が強風にさらされれば、屋根材が飛んで隣家や通行人に損害を与えてしまうかもしれない。他人に損害を与えた場合は損害賠償責任を問われる可能性もあるだろう。
犯罪リスクの増加
長期間空き家として放置された住宅は、犯罪に利用される可能性があり、周辺地域の治安悪化につながってしまう。 家の中のものを盗まれるだけでなく、放火される、犯罪者の拠点として使われるなどの恐れもあるため、定期的に管理することが大切だ。
近隣住民とのトラブル
空き家は近隣住民とのトラブルの種にもなる。人の手が入らない住宅には動物や害虫が住み着き、衛生環境を悪化させ隣家に悪臭をもたらす。また、庭木などが植えられている場合は、放置することで枝が隣地や道路にはみ出してしまうこともあるだろう。ゴミを不法投棄されれば、景観がさらに悪化し、悪臭も発生する可能性がある。このような事態が発生すると、空き家の管理者として責任を問われかねない。近隣住民に迷惑を与えないためにも、空き家の適切な管理は重要なのだ。
将来、実家をどうするか、親が元気なうちに話し合っておこう
将来、実家に誰も住まないなら、親が亡くなったときに、売却や賃貸などの方策をとればいいと考える人も多いだろう。しかし、実家の売却や賃貸について、相続人の間で意見がまとまらないケースも多い。また、土地や建物を相続した後で、いざ売却や賃貸に出す時はどうすればいいのだろうか。
実家をどうするか兄弟姉妹の間でトラブルを防ぐために
「実家をどうするかは、相続の際に兄弟姉妹の間でトラブルになる主な原因の一つです。例えば、きょうだいの1人が『親は、家を処分して金銭を分けてほしいと言っていた』と主張、もう1人は『思い出の多い家だから残してほしいと言っていた』と主張するなど、お互いに親の気持ちを代弁して、なかなか譲れない。また、家に残した遺品の整理にも時間がかかりますし、兄弟姉妹の誰が片付けるかで、さらに衝突することもあります。
このようなトラブルを避け、相続時にスムーズに実家を処分するためには、親が元気なうちに子を集めて、実家をどうするか話し合い、親の意向を子どもたちにはっきり伝えておくのが一番の方法です。親が方向性を示してくれていれば、最終的には親の意向に沿った形で話がまとまると思います。この話し合いには、親と兄弟姉妹全員が集まることが大事。また、子の配偶者や孫は連れて行かないほうがまとまりやすいようです」
親から相続した土地や建物を売却・賃貸に出したい!どうすればいい?
また、親から相続した土地や建物の売却や賃貸については、法律上の手続きや経費に関することなど、多方面の専門知識が必要な問題が多い。
「例えば、東京都では空き家対策の一つとして、2016年12月から『空き家のワンストップ相談窓口』を設置しています。ここでは、相続関係の法律や土地活用、建物の解体や実家の荷物の整理など、実家の相続にまつわる多様な相談を無料でできるのが特徴です。また、民間でも、こういった複合的な相談窓口を設ける不動産会社などがあるので、相談してみるといいでしょう」
空き家を長期間放置すると、修繕や撤去を命令されることも
空き家の増加が社会問題として取り上げられることが増えているが、具体的にどんな問題があるのだろうか。
「空き家問題の報道などを見ていると、空き家は全部悪いような印象を受けます。しかし、実家を相続して、『リタイアしたら実家に住もう』とか、『タイミングを見て売りに出そう』などと考え、空き家にしておくこと自体は、決して悪いことではありません。また、実家に1人で暮らす親が介護施設に入居することになり、空き家にせざるを得ないケースもあるでしょう。こういった場合に大事なのは、空き家の管理なのです」
管理をしないまま、長い年月空き家を放置すると、老朽化が進み倒壊の危険性が生じたり、近隣の住環境の低下を招くなどの問題が起こる。こういった管理不全の空き家は、現在増加傾向にある。
「2015年に施行された『空家対策特別措置法』は、適切に管理されていない住宅を市区町村が、『特定空家等』に指定するところから始まります。特定空家等は、固定資産税の軽減措置の対象から外れるなど税制の面で不利になります。さらに、市区町村は特定空家等の所有者に修繕や撤去の指導・勧告・命令を行うことができ、所有者が応じない場合は代執行も可能になります。
同法に関する自治体の取り組みについては、既に調査を終えて特定空家等の指定を行っている自治体がある一方、調査等が進んでいない自治体もあります。しかし将来的には、空き家対策はどの自治体でもより本格化していくと思われます。
なお同法とは別に、現時点で既に400以上の市町村が空き家条例を設けているほか、建築基準法や環境法、道路法などの法律や条例を基に、管理不全な住宅に対して、適切な管理や修繕などの指導を行うケースもあります。また、空き家の管理や除去に補助金を設ける自治体もあります」
空き家管理のポイントを知っておこう
上述したとおり、空家対策特別措置法により、空き家の所有者には適切な管理を行う義務が課されることが明確になった。では、空き家の管理とは、具体的にどんなことをするのだろうか。
「空き家の管理の目的は、建物の老朽化や敷地の荒廃を防いで資産価値を維持すること。また、不法侵入や放火などの被害を防ぐ配慮や、近隣に住む人の理解を得ておくことも大切です。具体的には、次の4つのポイントを押さえておきましょう」
まとめ!空き家管理のポイント
1.定期的に現地に行って確認する
・家の周りの掃除(ゴミなど可燃物が散乱していないか確認)、草むしりや木の枝の剪定(せんてい)などをする
・雨どいが詰まっていないか、雨漏りの後などが見られないかを確認する
・家に入ったら、窓を開けて風を通し、湿気を逃がす
2.近所にあいさつに行く
・しばらく空き家にする場合は、隣近所の家にあいさつをして、何かあったときに連絡をしてもらえるよ う、連絡先を伝えておく
・現地に行ったときは、あいさつをして異常などがないか聞いておくとベター
3.定期的に点検・修繕を行う
・家の老朽化を防ぐため、専門会社に定期点検や修繕などを依頼して、予防的な処置をしておきたい。
空き家の場合、現地に行く回数が少ないため、雨漏りなどがひどくなってから発見することになり、
多額な修繕費用がかかることもあるからだ。
4.戸締まりはしっかりと
・ドアや窓の雨戸はもちろん、門扉も閉めて施錠しておく
・ポストはガムテープなどでふさいでおき、チラシなどが入らないようにしておく
・可燃物を外に出しておかない
親が住まなくなった後、実家をどう利用するか。相続した時点で話がまとまらず、空き家のまま放置することがないよう、「売却または賃貸にするのか」「空き家として管理をしながら所有するのか」、「誰かが住むのか」、今のうちから親子で検討しておきたい。
空き家を放置すると固定資産税が6倍になる?「特定空家等」に認定されないための税金対策や補助金について
取材・文/森島薫子(ライター・SUUMO編集スタッフ)
取材協力・監修/上田真一 (空家・空地管理センター)


