整理収納アドバイザーのTSUN(つん)さんは、「快適な暮らし」をテーマに発信するYouTubeチャンネル「uchilog(ウチログ)」を運営しています。家事をラクにするアイデアや収納のコツが多くの人に支持され、開設から5年で登録者数は18万人を突破。なかでも前編、後編あわせて約300万回再生と大きな反響を呼んだのが、長年ため込んだ荷物を整理する「実家じまい」をテーマにした動画です。
二階建ての一軒家にあふれる大量のモノを片付ける作業は、プロであるTSUNさんも大変だったそう。今回はさまざまな買取業者、処分業者を駆使しながら完遂した実家じまいの一部始終を教えてもらいました。そして「後悔しない実家じまい」のために知っておきたいこととは?

記事の目次
実家売却と母の住み替え 同時進行したふたつの決断
ーーTSUNさんがまずご実家を「手放す」と決めたきっかけを教えてください。
3年前、父が亡くなったことがきっかけです。もともと6人で暮らしていましたが、私たち子どもが家を出て、祖父母が亡くなってからは、両親2人だけの生活になっていました。父の死後、母がひとりで暮らすには、広くて古い家は住みづらいだろうなと感じていました。

母に強い思い入れがあれば手放すことはなかったかもしれませんが、父が亡くなってすぐ「もうこの家はいらない」と言い始めて。母がサービス付き高齢者向け住宅へ引っ越す手続きを進め、同時に実家売却の話も動き出しました。

ーー 長年住み慣れたご実家を潔く手放したんですね。TSUNさんの心境はいかがでしたか?
正直、「少しもったいない」という気持ちもありました。不動産価格がどんどん上がっていくし、東京都内で土地を買うのは今後ますます難しいと思ったので、「ここに家を建て直して住む」「賃貸として貸し出す」など、さまざまな活用方法を調べてはみたんです。いずれも費用と労力がかかるし、相続の関係からも現実的ではありませんでした。かといって、このまま放置していると固定資産税もばかにならない。家族で話し合って、手放すのが最善だろうということになりました。
ーー実家の売却が決まる前に、お母様がサービス付き高齢者向け住宅に引越しをして新たな生活をスタートできたのも大きかったのでしょうか?
そうですね。実は途中で「やっぱり売却をやめようか」と母が言い出したこともあったんです。でも、週に1回ぐらい実家の掃除をしたり庭の手入れをしたりしている期間があって、少しずつ気持ちの整理ができたのかもしれません。
また、サービス付き高齢者向け住宅で、住人たちとのコミュニティができたことも大きいです。母と同じような境遇の人も多いですし、母自身が暮らしを楽しめるようになっていました。慣れない環境で、体調を崩したりして大変だった時期もしばらくありましたが、徐々に安定して、私も安心できました。
ーー本当に良かったですね。お母様の住み替え後、実家の荷物の処分も始めたそうですね。まず、家の中を見渡してどう感じましたか?
実家には、父の趣味で描きためた油絵が大量にあって「これは大変だな」と思いました。
もともと祖父が木工業を営んでいて、1階が作業場だったんです。祖父が亡くなったあと、作業場を父がアトリエとして使用していました。アトリエにリフォームする際、木工業で使用していた機械や端材の処分に苦労したと言っていました。
そんなこともあってか、父は生前から「自分は終活は一切しない」と言い切っていました。「自分たちが親の片付けをしたんだから、自分たちの片付けは子どもにやってもらう」と。
最近は子どもに迷惑かけないように、早めに終活しようと考える親御さんが多いと思うんですけど、うちは真逆でしたね……。
実家じまいは書類の整理から。まずは必要な書類を見つけ出す

ーー8LDKの広い一軒家で、まず初めに片付けたのはどの部分でしたか?
書類がたくさんたまっていたので、まずは書類の処分から始めました。
ここで気をつけなければならないのが、土地の権利書、登記書類など、土地の売却に必要な書類を誤って捨てないことです。必要な書類が何かを調べて、大量の書類の中からどうにか探し出しました。
母はモノは捨てられるタイプですが、書類はしっかり保管しておく性格で……。実家には大量の書類が残っていました。ほとんどが不要なものですが、中に必要な書類が紛れている可能性もあるので、一枚一枚確認して、仕分けするのが大変でしたね。

ーー書類の管理や処分が苦手な人も多いと思います。整理収納アドバイザーのTSUNさんからアドバイスはありますか?
書類はついため込みがちですが、必要な書類はごくわずかなんですよね。それらを確保すれば、あとは処分してもなんとかなります。例えば、絶対に残さなければいけないのは不動産売買契約書(土地の権利書など)や登記書類、住宅ローン契約書。保証書や遺言書などもそうです。確定申告書類は内容により5~7年間の保管が義務付けられていますが、古いものは破棄しても大丈夫。
逆に、一見重要そうに見えるけれど、捨てても大丈夫なのが取扱説明書や生命保険の契約内容のお知らせ、ねんきん定期便などです。インターネットで確認できますし、あとから窓口に問い合わせることもできます。
ーー個人情報が含まれる書類はどのように処分しましたか?
シュレッダーにかけて捨てる方法もありますが、わが家は書類の量があまりにも多かったので、溶解処理サービスを利用しました。
不要な書類を専用のダンボールに詰めて、注文するだけで回収してくれます。業者がダンボールに入ったままの状態で溶解するので情報漏洩の心配がありません。郵便局や主要な運送会社などにも溶解サービスがあるので、利用しやすいと思います。
ーー個人情報といえば、不要なパソコンや携帯電話などの処分に困っている人もいそうです。
パソコンは環境省認定の回収サービスに依頼しました。有料でデータ削除もしてくれるのでラクです。家電量販店でもパソコン回収を請け負っていますね。どこまで気にするかは人それぞれですが、念のため、安心できる処分業者を選びました。
本やレコードの買取価格には期待しないで
ーー書類を整理して、やっとモノの片付けスタートです。まず何から着手しましたか?
大量にあった本と、レコードの処分ですね。父の趣味で美術本が多かったので、最初は「どこに売ればいいのかな?」と悩みました。全国に店舗を展開するような大手の買取チェーンだと、美術本はあまり値がつかないのではと思い、美術書を専門に扱う古本屋さんをインターネットで探して、訪問買取をお願いしました。
ーー専門店なら高く買い取ってくれそうですよね。
……それが本棚にぎっしり詰まっていた本のうち、買い取ってもらえたのは20冊ほど。買取金額は全部でたった5000円でした。

ーー厳しいですね……! 意外と高値がついたもの、逆にまったくつかなったものはありますか?
中原淳一(なかはらじゅんいち)の画集は比較的高く売れました。一方で、古い雑誌や映画のパンフレットは値がつかなかったので、すべて処分しました。J-POPや洋楽、映画音楽などの古いレコードもたくさんあったのですが、一般的に流通量が多いヒット作は希少価値が高くないようで、ほとんど値がつきませんでした。
本に限らず、まずはフリマサイトなどで検索してみると、市場価値があるかないか、あらかじめ大体の相場を把握できるのでおすすめです。需要がないものは諦めて、捨てます。
まだ使えるけど買い手がつかないものは「寄付」か「譲る」
ーー 本、書類の次に着手したモノは?
ブランド品や骨董品など、値打ちがありそうなものを買い取ってくれる出張サービスを利用しました。ただ、わが家に価値のあるモノなどあるわけもなく……時計や着物などはほとんど値がつかなかったです。
高級な家具やブランド品が多くあるご家庭は、利用するといいと思います。

ーー服は寄付できるサービスを利用されたんですね。
「古着deワクチン」というサービスです。手数料はかかりますが、専用の大きな袋に着なくなった服を詰めて送ることで、発展途上国で活用され、子どもたちにポリオワクチンが届けられます。
母は「お金を払ってでも、使えるものは必要な人に寄付したい」と考える人なので、以前から利用していました。
ーー そのほか、捨てにくいと感じたものはありますか?
捨てにくいのは「まだ使えるモノ」ですね。古くてボロボロなら、深く考えずに捨てられるんですけど。
ーー具体的には何に苦戦しましたか?
父のアトリエに残された画材です。油絵用の大きいイーゼル(※)などは高額ですし、美大の学生さんとか、これから絵を始める方の中には欲しい人がいると思うんです。でも、フリマアプリで売るにも、大きくて梱包と配送が大変で。
※絵画やポスター、看板などを立て掛けてディスプレーするための三脚やスタンドのこと
ーーどうやって手放したんでしょうか?
最終的には、父の絵画仲間に引き取ってもらうことができました。イーゼルや父の作品、使いかけの絵の具なども引き取ってくださったので助かりましたね。

ーーお母様も趣味のシャドーボックス(同じ絵柄の紙を重ねて立体的に仕上げるアート作品)を「ご自由にお持ちくださいBOX」で処分されていましたね。時間をかけてつくった作品を手放すことに抵抗はなかったんでしょうか?
母は割とクールなタイプで、自分がつくったものに執着がなく「もういらない」とあっさり処分しました。「ご自由にお持ちください」と書いて家の前に出しておいたら(※)、持って行ってくださった方がいてすごく助かりました。
他にも食器や、まだ使ってない箸、お歳暮やお中元でいただいたタオルなどを置いていたら、あっという間になくなったので、これは意外といい処分方法だと思いました。
※公道にはみ出さないよう、必ず私有地内で行い、地域のルールを確認してください

最後は、処分業者に頼んで「全撤去」へ
ーー いろいろな処分方法でモノを減らして、最後に全てのものをリサイクルの回収業者にお願いしたんですね。7名で2日間に及ぶ作業だったとか。
最後は売却をお願いした不動産屋さんに紹介していただいた処分業者さんに全撤去をしてもらいました。専用の大きな袋に分別しながら、テキパキとものすごいスピードで作業が進んで驚きました。
トータル10時間で12トンもの家具や荷物が見事に空っぽになり、本当に感謝です。エアコン6台分の撤去も含めて全部で74万円かかりましたが、これはかなり良心的なお値段だったようです。





ーー 実体験をまとめた貴重な動画なので、参考にされた方がかなり多そうですね。荷物を一掃されたときは、どんな気持ちでしたか?
複雑でしたね。「ああ、やっと終わった! スッキリ!」という気持ちと、この家が「もう人の手に渡っちゃうんだな……」という寂しさがありました。
ーー 家具・家電などの残置物を置いたまま、家を売却する方法もあります。TSUNさんは全てのものを処分して売却したんですね。
不動産業者や購入者が処分まで引き取る場合もありますね。うちは購入を検討されている方が内見にいらっしゃるときに、散らかっていると印象がよくないかなと思って、早めに荷物の片付けを進めました。
でも結局は、古い家なので、解体して更地にする前提で購入を検討する方が多く、荷物の有無は関係なかったかな? と思いました。
ーー実家じまいのご経験を踏まえて、TSUNさんご自身の老後についても考えが変わった部分はありましたか?
あらためて「自分の終活は早めに進めよう」と思いました。うちは子どもがいないので、将来この作業を誰がするのかと考えると、より早めの終活が大事だと実感しました。
後悔しない実家じまいのススメは「段階的にやる」
ーー「親に終活してほしいけど、なかなか言い出せない」という声もよく聞きます。
なるべく早めに話し合ったほうがいいです。「死」がまだ現実的じゃないうちに「この家、ゆくゆくはどうするの?」と尋ねてみましょう。「まだちょっと早いんじゃない?」と、軽く言い合えるぐらいのときがチャンスです。
ーー 実家じまいはモノの処分に悩んだり、家族と揉めたりすることも想像できてしまいますが、お片付けのプロである整理収納アドバイザーのTSUNさんでも億劫なものでしたか?
はい。とても億劫でした(笑)。
例えばご実家が遠方の場合、処分業者に丸っとお任せして、全部捨ててもらうのが一番早いしラクなんですが、最初からそのように達観できる人は少ないと思うんです。
やっぱり実家に2、3回は足を運んで、自分たちで整理したり、買取サービスを利用したりしてトライしてみる。そうすることで、ある程度「現実と向き合う瞬間」があるんですよね。
最初から「全部プロにお任せ」をしてしまうと、思い出に向き合う時間も持てず、人によっては後悔することもあるかもしれません。できるところまでは自分たちで片付けて、最終的にはプロを頼る。そうやって段階的にやるのが悔いが残らない実家じまいなのかもしれないです。

ーー これから実家じまいに取り組みたい人に、最初の一歩になるようなメッセージをお願いします。
実家のある方なら、いつかは誰かがやらなければならないのが「実家じまい」。大量の荷物を目の前にすると、取り掛かる前からウンザリしてしまうと思いますが、少しづつでも着手すれば、いつかは必ず終わります。
ただ、時間や体力、気力がないときは無理をせず、積極的にプロの力を借りましょう。皆さんがそれぞれベストな実家じまいができるよう、少しでも参考になればうれしいです。
仕事・育児・介護など、多忙な現役世代である40〜50代。これから直面する実家じまいに「わかってはいるけど、なかなか手をつけられない」、「何から手をつけたらいいかわからない」という人も多いのではないでしょうか。でもお話を聞いてみると、頼りになるさまざまなプロが存在することに少し安心感を覚えます。TSUNさんのご経験をヒントに、少しずつ実家じまいを始めてみてはいかがでしょうか。
<取材・構成 川崎絵美 / イラスト 蟹めんま / 編集 小沢あや(ピース株式会社)>


