不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

駅から少し離れた築43年のマンション。売却をあきらめかけたころに不動産会社から声がかかり成約/大阪府枚方市Tさん(60代)

大阪府枚方市Tさん(60代)/駅から少し離れた築43年のマンション。売却をあきらめかけたころに不動産会社から声がかかり成約

3LDK・80m2のマンションを888万円で購入したTさんは、地域の雰囲気が合わず住み替えることに。1年間売れず一旦、売却をやめましたが買取再販の不動産会社から声がかかり、800万円で売却することができました。

不動産区分 マンション
所在地 大阪府枚方市
築年数 築43年
間取り・面積 3LDK(80m2
ローン残高 なし
査定価格 900万円~1000万円
売り出し価格 値下げ前…900万円、値下げ後…850万円
成約価格 800万円

周辺の静けさが決め手で購入するも、環境が合わず売却を考えはじめる

大阪府吹田市の賃貸マンションに単身で住むTさん(60代)は、散歩中に何気なく立ち寄った不動産会社のイベントで、とある物件を紹介されます。
物件は、大阪府枚方市にある3LDK・80m2のマンション。
築30年(2007年当時)で最寄駅まで徒歩約15分かかりましたが、徒歩約3分の場所にスーパーがあり、生活するのに難はありません。
何より心を引かれたのは、周囲に建物が少ない静かな環境。値段の割に部屋が広く、ご近所付き合いがそれほど面倒でなさそうな小規模マンションである点にも後押しされ、2007年、30年ローンを組んで888万円で購入します。

しかし住みはじめてみると、気になる点が出てきました。通勤で利用する電車をはじめ、地域の雰囲気に今ひとつ馴染めなかったのです。家自体に何ひとつ不満はなかったものの、住み替えを検討するようになります。

住宅ローンを払い終えてから売却活動を開始し、押しの強いA社と媒介契約

まだ住宅ローンを終えていなかったTさんは、残金を繰り上げ返済した2016年春から売却活動をスタート。まず一括査定サイトを使って訪問査定を行います。

「3社に来てもらったところ、結果は900万円~1000万円。購入時より値上がりしていたものの、ちょうど体の調子が優れない時期と重なったため『無理せず進めたい』と、機会を見送ることにしました」

Tさんは体調が快復した2017年春、改めて一括査定を行い、4社で訪問査定を実施します。

「査定価格が前回と同じだったため『まだ手放すのは惜しい』と少し迷いましたが、そうは言ってもすぐ買主が見つかるとは限りません。まずは1度、売りに出してみようと思いました」

そこでTさんは2017年7月、不動産会社のA社と媒介契約を結びます。

「4社の不動産会社のうち3社は連絡がまばらで『ぜひ任せたい』という気になれなかったのですが、A社は『うちで売らせてください!』と押しが強く、かつ大手で実績がある分、信頼できると思ったのです。 契約タイプは『自分で動かずに済むのがラク』だと思い、すべてをお任せする『専属専任媒介契約』を選びました」

■専属専任媒介の特徴

不動産会社と交わす媒介契約のタイプには「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般媒介契約」の3つがあり、複数の不動産会社に仲介を依頼できるのが「一般媒介契約」、1つの不動産会社のみに依頼するのが「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」です。うち「専任媒介契約」は売主が自力で買主を見つけ、個人でも販売できますが、「専属専任媒介契約」だとできません。いわばすべてを1社に託すことになりますが、不動産会社としてはライバルがおらず自社の利益が見込める分、力を入れてもらえる可能性があります。

抑えめの価格で売り出すも、半年間、問い合わせも内見も一切なし

販売前にTさんはA社からアドバイスを受けます。「強気で出るよりも、現実味のある価格にした方が目を向けてもらえる」と言われたのです。

「ネットで調べたところ、売り出されている同条件のマンションで1000万円台はなかったため、その話に納得。感覚的に800万円は切りたくなかったので、まず900万円で売りはじめることにしました」

A社では不動産ポータルサイトに情報を載せるほか、マンション一帯と枚方駅周辺の住戸にポスティング。さらに自社のホームページでは、動画つきで物件を掲載しました。

販売活動の様子イメージ

しかしTさんは1週間に1度、文書で「営業活動報告書」を受け取るものの、1週間、1カ月、3カ月と経っても問い合わせの報告がありません。半年が経過したころA社から提案され、850万円まで値下げします。しかし問い合わせが数件あっただけで、内見の話は出ませんでした。

「今思えば駅から少し遠いことなどがデメリットだったのかもしれません。それでも何が何でも売りたいわけではなかったので、『見込みがなければ取り下げよう』くらいの気持ちで焦ることはありませんでした」

その後も目ぼしい動きがなかったため、Tさんは2018年7月に一度、販売をやめることにします。

諦めていたころ思いがけない吉報が。800万円で売却することが決まる

売却活動をやめて以降、頭の片隅で相場が変化することを期待しつつ、半ば「もう売れないだろう」と思って日々を過ごしていたTさん。そんな折、約1年が経過した2019年8月に変化が訪れます。かつてTさんの物件が市場に出ているのを知っていた不動産会社のB社からA社に「あの物件はどうなったのか」と問い合わせが入ったのです。

「話を聞いたところ『再販するために買いたいと言っている不動産会社がいる』とのこと。ただ、相手が求める購入価格は800万円。少しでも高く売りたいのが本音なので正直、悩みました」

Tさんは数カ月かけて交渉しますが、先方はあくまで希望価格を変えない姿勢。同時にB社では「物件はリフォームできれいにして再販すること」「800万円は不動産会社の買値にしては高額であること」などを熱心に説いてきたそう。

「もう売却を諦めかけていたときでしたし、値段のこともあって迷ったのですが、そのうち『縁があって声をかけてもらえたのだから行動してみよう』と思うようになり、承諾することにしました」

Tさんは買主と期限を定め、2カ月の間に住み替え先を探して引っ越し。2020年2月に800万円で売買契約を締結、物件を引き渡します。

古巣のまちの住み心地は上々。気長に構えたことが成功の秘訣に

新しいTさんの家は、かつて住んだまちで見つけた築50年・750万円・3LDK・65m2の分譲マンション。不動産売却益に自己資金を加え、現金で購入しました。

「最寄駅まで20分ほどかかりますが、バスの本数が多く、すぐ近くにスーパーがあるため、とても暮らしやすいです。やはり私にはこの地域が肌に合っているのでしょう。思い切って住み替えて正解でした」

そう言って笑顔を見せるTさんは、こう続けます。

「時間を費やしたものの、そこそこ成功したと思えるので点数をつけるなら10点中8点。A社もB社もよく対応してくれたため、ひとつも後悔はありません」

Tさんならではの大らかなスタンスが、幸運を導いたのかもしれません。

2016年4月 ・マンションの売却を考え始める
2016年4月 ・3社で1回目の訪問査定をする
2017年4月 ・4社で2回目の訪問査定をする
2017年7月 ・A社と専属専任媒介契約を結ぶ
・物件を900万円で売り出す
2018年1月 ・販売価格を850万円に値下げする
2018年7月 ・物件の販売を取り下げる
2019年8月 ・B社から連絡が入り、購入希望者がいると聞く
2020年1月 ・住み替え先の売買契約をする
・買主と売買契約をする
・マンションを買主に引き渡す

まとめ

  • あまりに強気な販売価格だと避けられる可能性が。最低ラインを守りつつ、現実的な値付けをしよう
  • 販売価格を決めるときは、自分のマンションと同条件の物件の相場を参考にすること
  • 相手とこちらの希望価格に乖離があるときは粘り強く交渉した方が、後々の納得につながる

イラスト/沼田光太郎

●構成・取材・文/星野真希子
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