
10年ほど前から実母の介護で家族と離れての生活が続いていたIさん。今度は義母の介護をきっかけに、家族がまた一緒に暮らせる住まいを求めて、築30年のマンションの売却と住み替え先探しを行いました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県富士見市 |
| 築年数 | 約30年 |
| 間取り・面積 | 4LDK(約135m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 1500万〜1800万円 |
| 売り出し価格 | 1800万円 |
| 成約価格 | 550万円 |
刻々と変化していく家族の状況を踏まえ自宅マンションの売却と住み替えを決意
Iさんが売却したのは、30年前の新築時に6870万円で購入した埼玉県富士見市内に建つマンション。はじめはIさんと妻、子どもたちの4人家族で暮らしていました。その後、Iさんのご両親も同居することとなり、一時は6人暮らしに。駅から徒歩12分かかりますが、暮らしやすい住宅街。1階部分にある約135m2の4LDKなので、高齢のご両親も過ごしやすく、6人でも十分な広さがありました。そのうち、息子と娘が独立。2010年に実父が亡くなり、Iさん夫妻と実母との3人暮らしになりました。
「そのころの母は認知症を患い、介護が必要な状態でした。妻はフルタイムで仕事をしていたので、介護との両立はそれはそれは大変で…。お互いに負担なく暮らせるようにと相談した結果、妻は同じ町内にある別のマンションを借りて、別々に暮らすことになったんです」
Iさん夫妻の近距離別居生活は10年ほど続いたそうです。
「その母も亡くなり、今度は妻の両親の具合がよくなくて、介護が必要な状態になったんです。家を出ていた娘も戻ってくることになり、また家族一緒に暮らせる環境を求めて、マンションを売る話が持ち上がったのが2019年3月ごろのことです。私は定年退職をして時間ができましたし、両親の遺品整理をしながら、売却活動を始めることになりました」
一括査定で査定額が一番高かった会社と専属専任媒介契約を結び1800万円で売り出し
「まずはいくらくらいで売れるのかを知りたくて、不動産売却ポータルサイトを利用して一括査定を行いました。5社から見積額が届きました。1500万円弱という査定額のところがほとんどでしたが、1社だけ1800万円と高めの金額だったので、その会社と専属専任媒介契約を結ぶことを決めました。名前を知っている大手の会社でしたし、安心感もありました。バーチャル映像を使った物件写真の掲載サービスもあるということで、物件の魅力をよりわかりやすく伝えてもらえるのではないかという期待感もありました」
依頼した会社の担当者からは、検索条件にヒットしやすい区切りの良い価格設定が良いこと、売り出し前に不具合のある場所は修繕しておいた方が良いことなどのアドバイスがあったそうです。床下の防水工事で100万円ほどかかったため、その分も上乗せしてなるべく高く売りたいと思ったIさんは、少し高いかなと思いつつも1800万円での売り出しを決めました。
しかし、購入検討者はなかなか現れませんでした。
「比較対象物件が周辺に少なく、相場がどの程度なのかよくわからなかったのですが、振り返ってみると売り出し価格が少し高過ぎたのかもしれませんね。少しでも高く売れるといいなという期待感から、高値を提示してくれた会社に依頼しましたが、見誤ったかもしれません。築30年の物件ということもあり、修繕積立費と管理費が合わせて6万3200円と高かったこともネックだったと思います。それに、100m2超の広すぎる間取りも、購入検討者のニーズにマッチしていなかったのかもしれませんね」
売却開始から数カ月後に1500万円まで値下げするも、動きは相変わらず鈍かったそうです。
■マンション売却時の修繕積立金
分譲マンションの修繕積立金は、一定周期で実施される大規模修繕工事を実施するために積み立てられるものです。この修繕積立金額は長期修繕計画に基づいて算出されるのですが、築年数が上がるにつれて値上がりしていく傾向があります。それは新築分譲時、販売しやすいように修繕積立金額が低く設定されていることが一つの要因です。また、人件費や材料費の高騰で工事費が上がり、それまで積み立ててきた修繕費では足りなくなり、値上げせざるを得なくなっているケースもあります。修繕積立金には、「均等積立方式」と「段階増額積立方式」があり、段階増額積立方式を採用している場合は、何年かごとに必ず値上がりしていくことになります。国土交通省は長期にわたって金額の変更がない均等積立方式を推奨していますが、多くのマンションで段階増額積立方式を採用しているのが現状です。
売却の際の物件情報には修繕積立金額が記載されます。買主はその金額も含めて物件選びをしますので、修繕積立金が増額する前に売却活動を開始すれば買い手がつきやすいでしょう。しかし、すでに増額が正式決定している場合は告知する必要があります。また、修繕積立金は基本的に次月分を支払う前納方式です。引き渡し時期によっては、買主と相談の上、按分請求となる場合もあります。
さらに、売却時にそれまで積み立ててきた修繕積立金が返却されることはありません。管理規約上、一旦支払った修繕積立金は管理組合の財産となるため返金はされません。修繕積立金を滞納したままマンションを売却することは可能ですが、滞納された修繕積立金は新しい所有者に承継されます。新しい所有者は前の所有者にその肩代わり分を請求することができるため、後々大きなトラブルへと発展することが予想されます。 マンション売却時は修繕積立金が上昇するタイミングを調べて、無駄なコストが発生しない売却時期を見極めましょう。
新居の準備が着々と進行していく中、売却活動は動きがないまま丸一年が経過
売却活動がうまく進まないまま、家族の状況は刻々と変わり、入院していた義父の容態がかなり悪化していました。
「かつて妻の実家はさいたま市内で自営業をしていて、義父母は土地と建物を所有していたんです。住み替え先としては、それまで住んでいた富士見市内に新築マンションを買うことも検討に入れていたのですが、義父の容態が変わり、妻の実家を相続する可能性も出てきたため、そこを建て替えるという計画に変更することになりました。そこで、気になる住宅メーカーの展示場をネット予約して見に行きました。雰囲気が良くて、もう一目惚れでしたね。ここで建てようと、即決で依頼を決めました」
売却活動を始めてから1年弱の2020年2月、住み替え先の家を建てる住宅メーカーとの契約が無事に成立しました。
「契約の時に、自宅の売却活動が思うように進んでいないことを何気なく話したんですよね。そうしたら、担当者さんから『別の仲介会社を紹介しますよ』と言ってもらえて、仲介会社を変更することになったんです」
それでも購入希望者はすぐには現れず、一般の方だけでなく、リノベーション販売を行う不動会社などへの案内を増やすなど、営業活動の幅も広げてもらいました。さらに価格面でも妥協。あまりガクンと価格を下げて発表してしまうと逆効果かなと思い、表向きの価格設定は変えず、購入検討者が現れた時点で値下げ交渉があれば条件を聞かせてほしいと依頼したそうです。その結果、ようやく2020年の年末になって、『価格はかなり下がるけれど購入してもいいという不動産会社が見つかった』との連絡がIさんに入りました。
「やっと現れた購入検討者の希望価格は500万円とのことでした。売り急いでいたわけではありませんでしたが、いつまでも粘っても仕方がないですからね。新居の方は11月に着工していましたし、かなり価格は下がりましたが500万円で合意しました。経緯は詳しく教えてもらっていないのですが、担当者さんの営業努力によってその後最終的には50万円上乗せの550万円での成約となりました。売却の話がようやくまとまった12月、義父が亡くなってバタバタしてしまったこともあり、売買契約は年が明けた2021年1月末にずらしていただき、同時に引き渡しとなりました。長くかかりましたが、とにかく売れたことにほっとしましたね。新居の方も本当は2020年末までの完成を目指していたのですが、いろいろあって遅れました。引き渡し後、新居が完成するまでの約5カ月間は、妻がそれまで住んでいたマンションで仮住まいをしました。このマンションは当初、知人から借りていたのですが、数年前に買い受けたんです。売却した物件のすぐそばだったので、引っ越しの手間がそれほどかからず良かったですね。このマンションも今は売却活動中です」
値下げに対する葛藤と遺品整理の大変さが身にしみた初めての売却活動
思いのほか売却に時間がかかり、家族のさまざまなできごとも重なって大変だったと振り返るIさん。売却活動が長引く中でも、値下げすることでさらに売りにくくなるのではないかという不安感があり、なかなか値下げに踏み切れない葛藤があったそうです。また、最も大変だったのは遺品整理だったと言います。
「売り出すにあたり、『荷物が多すぎるので、購入検討者の印象を良くするためにも整理してくださいね』と最初に依頼した会社の担当者さんから言われたんですよ。それで少しずつ片付け始めたのですが、両親の思い出が詰まったものばかりでなかなか捨てる判断がつかなくてね。遺品整理は本当に困りましたね。私は退職して比較的時間があったのでなんとかなりましたが、夫婦ともに働きながらだともっと大変だったと思います」
義父の死去で新居の建築契約時期が遅くなったり、コロナ禍の影響で建築設備の搬入遅れなどがあったものの、2021年5月末に4LDK、2階建ての新居が完成。6月に引っ越しが完了し、妻と娘、義母との新たな暮らしが無事に始まりました。
「細かい問題はその時々にいろいろと発生しましたが、トータルの評価としては10点満点中7点くらいかなと自分では思っています。状況は目まぐるしく変わっていきますが、また家族一緒に暮らせる環境が整って良かったです」と話してくれたIさんでした。
| 2019年3月 | ・住み替えを検討 ・ネットの一括査定を利用。査定額が一番高かった会社と専属専任媒介契約を結ぶ ・1800万円で売り出し |
|---|---|
| 2020年2月 | ・新居探しを開始。新築マンションを2件見学。その後、妻の実家を建て替えることが決定 ・展示場見学で一目惚れした住宅メーカーと建築設計契約を結ぶ |
| 2020年3月 | ・新居の建築設計会社から紹介された不動産会社に媒介契約先を変更 |
| 2020年11月 | ・新居着工 |
| 2020年12月 | ・購入検討者が現れる |
| 2021年1月 | ・550万円で売買契約成立。物件引き渡し ・妻の所有するマンションで仮住まい |
| 2021年5月 | ・新居完成 |
| 2021年6月 | ・新居へ引っ越し |
まとめ
- 購入検討者の印象を良くするため、荷物はできるだけ減らして整理整頓をしておくこと
- 売り出し価格が高過ぎると売却期間が長引くことになりかねないため、設定は慎重に
- なかなか買い手が現れないときは、適切なタイミングに適切な値下げをすることも大切
取材・文/馬場敦子 イラスト/カワモトトモカ


