不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

築60年以上の古い実家。「古民家みたいで面白い」と喜んでくれた若い世代に売却できた/三重県四日市市Tさん(60代)

三重県四日市市Tさん(60代)/築65年の実家と100坪の庭を売却。買主は、「古民家みたい」と興味をもった若い世代

実家のあった100坪の土地の一角に家を建て、妻と2人で暮らしてきたTさんは、両親が他界したのを機に売却することに。不動産仲介会社のアドバイスを受け、「古家付き土地」として売り出し、10日後に買主を見つけました。

不動産区分 古家付き土地
所在地 三重県四日市市
築年数 母屋…築63年、離れ…築30年
間取り・面積 土地面積…約334m2
ローン残高 なし
査定価格 1100万円
売り出し価格 980万円
成約価格 930万円

父親から古家付き土地を相続。リフォームか住み替えかを考える

三重県四日市市で妻と暮らすTさんは、実家のあった約100坪の土地の一角に、1990年に一軒家を建てました。建物は約81m2の2階建て。10分ほど歩いたところにローカル線の駅があり、駅前にはスーパーや病院などがそろい、比較的、住みやすいエリアでした。

両親の住む実家は、1957年築・約106m2の2階建て。両者はいわば母屋と離れのような関係で、自宅脇の大きな物置に車の工具類を収納し、休日は趣味にいそしむ充実した日々でした。 しかし、2017年に転機が訪れます。

「父親と母親が続けて他界し、きょうだいで話し合った結果、預貯金は2人で折半し、父親名義だった古家と土地は、私が相続することに。一方そのころ、私は定年退職を間近に控えていて、退職金と相続した預貯金を足すと、まとまった資金が入りました。
自分の年齢からすれば、元気に動き回れるのはあと20年くらいでしょう。自宅も古くなっていましたし、これから有意義に過ごすためにも、自分たちの住まいを改善しようと思い立ったのです」

ここでのTさんの選択肢は3つ。「両親の家を取り壊して離れを増築&リフォームする」「母屋と離れの両方を解体し、更地にしたうえで新築する」「土地を売却し、別の敷地を購入して自宅を新築する」ことでした。

「知人に何人かリフォーム経験者がいたのですが、結局、物足りなくて工事を繰り返すケースが少なくないようで、であればゼロから新築したいと思いました。
しかし古家を解体して家を建てるとなると、仮住まいと合わせて2回、引っ越しする必要があります。
持ち物が大量でしたし、これはかなりの手間。諸々のことを踏まえ、『別の敷地に自宅を新築する』パターンにしようと決めました」

■古家付き土地で売るか、中古一戸建てで売るかの判断ポイント

「古家付き土地」は俗称で、正しくは広告で「土地 ※現況 古家あり」と記載される物件のこと。築20年以上の建物が付いているときにみなされ、築年数が浅い場合は「中古一戸建て」とされるケースが一般的です。ただ、どちらに該当するか明確な基準はありません。たとえ築古でも売主の一存で「中古一戸建て」として売り出されることもありますし、買主が気に入れば「古家付き土地」でも、建物を解体せず住むことが。「土地」と「中古一戸建て」のどちらで売るか、建物の需要を加味して戦略を立てるなど、総合的に判断しましょう。

自宅を新築するときにお世話になった、地元の不動産会社と媒介契約

両親の三回忌を実家で行う予定だったTさんは、住み替えの話を先に進め、売却は、法要と荷物の整理が済んでからにしようと計画。
2018年4月に家づくりをはじめ、2019年1月に新居に引っ越し。
2019年に三回忌を済ませ、1年かけて室内を片づけた後、2020年7月に売却活動をスタートします。

まず不動産仲介会社を選ぶ必要があったTさんですが、迷うことはありませんでした。

「自宅を新築したときに、土地探しでお世話になったA社という不動産会社があったのですが、地元に強く、経験知もあり、営業担当が親切だったので、すぐに頭に浮かびました」

A社に真っ先に声をかけたTさん。
すると営業担当から、「母屋を解体して離れをリフォームし、賃貸化して資産運用してはどうか」と提案されます。

「賃貸にするのは面倒だったので、すぐに断りました。すると今度は『古家付き土地として販売する方がいい』とアドバイスが。
更地にすると300万円ほど解体費用がかかるのですが、そうすると仮に相場通り1100万円で売れても、実質800万円しか実入りがないことになる。それよりは、古家を活用してくれる買主に向けて、『古家付き土地』として売った方がいいと言うのです。980万円くらいで設定すれば、お買い得感が出て売りやすいとのこと。売買契約時に契約不適合責任の免責特約をつければ、心配ないとも聞きました」

このやり取りから、売主の立場で考えてくれていると感じたTさん。
2020年7月、A社と専属専任媒介契約を交わします。

古家に価値を見出し、愛着を持って住んでくれる、最良の買主に出会う

980万円に価格を設定し、A社では自社のホームページに情報をアップ。現地に看板を立てたり、見込み客に声をかけたりして営業します。

すると一週間で2組の内見者が現れました。

「両者とも地元でアパートを経営している投資家で、古家をリフォームし、借家として活用したいようでした。
しかし母屋の方が古過ぎると思われたのか、購入には至りません」

その数日後、3組目の内見者が現れます。

「今度は若い夫婦で、“古民家みたいで面白い”と言ってくれました。
建物を気に入り、工夫して住んでいただけるとは、こんなにありがたいことはありません」

不動産売却の内覧に訪れた若い夫婦

購入の意思を示され、喜んで承諾しようとしたTさんですが、ここで値引き交渉があります。

「リフォームにお金がかかるので、900万円まで下げてくれないかと。本来であれば許容できたのですが、実はそのころ、登記簿の内容があまりに古いため、数十万円をかけて測量する必要があることが判明。測量費用はこちら側で持つため互いに譲歩して、930万円を落としどころにしました」

2020年8月、Tさんは買主と売買契約を交わします。

契機をつかみ、熟考したうえで道を選択。波に乗ったからこそ得た幸運

2020年11月、Tさんは買主に古家付き土地を引き渡し、売却活動の幕を下ろします。

「売却した土地は、父親が結婚するときに祖父から譲り受けた、先祖代々のもの。母屋に関しては、祖父が大工と一緒になって建てた思い出深いものでした。
しかし一方で、親戚づき合いをはじめ、古い地域だけに少し面倒な慣習があったのも事実。
土地を手放すことは、程よくそれらと距離を置き、身軽になる利点もあったのです。
リタイア後の時間をリラックスして過ごす意味でも、選択は間違いでなかったと思います」

「後悔はひとつもない」と笑顔を見せるTさんは、こう続けます。

「定年退職という人生の節目と、両親の他界をきっかけに住まい方を見つめ直し、思い切って行動に出たら、上手に戦略を立ててくれるA社と出会い、とんとん拍子に売却することができました。
タイミングをつかんで波に乗る、これが成功の秘訣だったのかもしれません」

新しい住まいがあるのは、売却した実家から車で約5分の住宅地。

「80歳近くになってから、こまごました家の修繕で出費や労力をかけるのはイヤなので、設備やパーツは耐久年数が25年以上のものに。自分たちの“健康寿命”をあと20年と捉え、その期間、ストレスなく過ごせることを第一に建てました。
以前は母屋と離れの配置上、車をとめるのに苦労していたのですが、今は優に6台は置けて、子どもたちが来ても安心。専用の作業場を作ったことで、車の手入れも存分にでき、とても気に入っています」

Tさんのいきいきとした表情が、今の暮らしの充実度を物語っていました。

2017年7月 ・実家を相続する
・実家の売却を考えはじめる
2018年5月 ・新築する土地を探しはじめる
2018年12月 ・自宅を新築する
2019年1月 ・新居に引っ越す
2019年7月 ・実家の荷物を片づける
2020年7月 ・A社で現地査定をする
・A社と専属専任媒介契約をする
・実家を古家付き土地として980万円で売り出す
・購入者が現れる
2020年8月 ・買主と930万円で売買契約を結ぶ
2020年11月 ・古家付き土地を買主に引き渡す

まとめ

  • 建物をリフォームして活用する買主もいる。解体せず「古家付き土地」として販売することも考えよう。
  • 「古家付き土地」でも相場より低めの価格設定にすれば、建物を活用しようとする買主にはお得に映る。
  • 「古家付き土地」として販売する場合は、契約不適合責任の免責特約をつけると保証責任を負わずに済む。
  • 値引き交渉をされたときは、言われたままの金額で応じる必要はない。両者の落としどころを見つけよう。

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取材・文/星野 真希子 イラスト/杉崎アチャ

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