
実家のあった100坪の土地の一角に家を建て、妻と2人で暮らしてきたTさんは、両親が他界したのを機に売却することに。不動産仲介会社のアドバイスを受け、「古家付き土地」として売り出し、10日後に買主を見つけました。
| 不動産区分 | 古家付き土地 |
|---|---|
| 所在地 | 三重県四日市市 |
| 築年数 | 母屋…築63年、離れ…築30年 |
| 間取り・面積 | 土地面積…約334m2 |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 1100万円 |
| 売り出し価格 | 980万円 |
| 成約価格 | 930万円 |
父親から古家付き土地を相続。リフォームか住み替えかを考える
三重県四日市市で妻と暮らすTさんは、実家のあった約100坪の土地の一角に、1990年に一軒家を建てました。建物は約81m2の2階建て。10分ほど歩いたところにローカル線の駅があり、駅前にはスーパーや病院などがそろい、比較的、住みやすいエリアでした。
両親の住む実家は、1957年築・約106m2の2階建て。両者はいわば母屋と離れのような関係で、自宅脇の大きな物置に車の工具類を収納し、休日は趣味にいそしむ充実した日々でした。 しかし、2017年に転機が訪れます。
「父親と母親が続けて他界し、きょうだいで話し合った結果、預貯金は2人で折半し、父親名義だった古家と土地は、私が相続することに。一方そのころ、私は定年退職を間近に控えていて、退職金と相続した預貯金を足すと、まとまった資金が入りました。
自分の年齢からすれば、元気に動き回れるのはあと20年くらいでしょう。自宅も古くなっていましたし、これから有意義に過ごすためにも、自分たちの住まいを改善しようと思い立ったのです」
ここでのTさんの選択肢は3つ。「両親の家を取り壊して離れを増築&リフォームする」「母屋と離れの両方を解体し、更地にしたうえで新築する」「土地を売却し、別の敷地を購入して自宅を新築する」ことでした。
「知人に何人かリフォーム経験者がいたのですが、結局、物足りなくて工事を繰り返すケースが少なくないようで、であればゼロから新築したいと思いました。
しかし古家を解体して家を建てるとなると、仮住まいと合わせて2回、引っ越しする必要があります。
持ち物が大量でしたし、これはかなりの手間。諸々のことを踏まえ、『別の敷地に自宅を新築する』パターンにしようと決めました」
■古家付き土地で売るか、中古一戸建てで売るかの判断ポイント
「古家付き土地」は俗称で、正しくは広告で「土地 ※現況 古家あり」と記載される物件のこと。築20年以上の建物が付いているときにみなされ、築年数が浅い場合は「中古一戸建て」とされるケースが一般的です。ただ、どちらに該当するか明確な基準はありません。たとえ築古でも売主の一存で「中古一戸建て」として売り出されることもありますし、買主が気に入れば「古家付き土地」でも、建物を解体せず住むことが。「土地」と「中古一戸建て」のどちらで売るか、建物の需要を加味して戦略を立てるなど、総合的に判断しましょう。
自宅を新築するときにお世話になった、地元の不動産会社と媒介契約
両親の三回忌を実家で行う予定だったTさんは、住み替えの話を先に進め、売却は、法要と荷物の整理が済んでからにしようと計画。
2018年4月に家づくりをはじめ、2019年1月に新居に引っ越し。
2019年に三回忌を済ませ、1年かけて室内を片づけた後、2020年7月に売却活動をスタートします。
まず不動産仲介会社を選ぶ必要があったTさんですが、迷うことはありませんでした。
「自宅を新築したときに、土地探しでお世話になったA社という不動産会社があったのですが、地元に強く、経験知もあり、営業担当が親切だったので、すぐに頭に浮かびました」
A社に真っ先に声をかけたTさん。
すると営業担当から、「母屋を解体して離れをリフォームし、賃貸化して資産運用してはどうか」と提案されます。
「賃貸にするのは面倒だったので、すぐに断りました。すると今度は『古家付き土地として販売する方がいい』とアドバイスが。
更地にすると300万円ほど解体費用がかかるのですが、そうすると仮に相場通り1100万円で売れても、実質800万円しか実入りがないことになる。それよりは、古家を活用してくれる買主に向けて、『古家付き土地』として売った方がいいと言うのです。980万円くらいで設定すれば、お買い得感が出て売りやすいとのこと。売買契約時に契約不適合責任の免責特約をつければ、心配ないとも聞きました」
このやり取りから、売主の立場で考えてくれていると感じたTさん。
2020年7月、A社と専属専任媒介契約を交わします。
古家に価値を見出し、愛着を持って住んでくれる、最良の買主に出会う
980万円に価格を設定し、A社では自社のホームページに情報をアップ。現地に看板を立てたり、見込み客に声をかけたりして営業します。
すると一週間で2組の内見者が現れました。
「両者とも地元でアパートを経営している投資家で、古家をリフォームし、借家として活用したいようでした。
しかし母屋の方が古過ぎると思われたのか、購入には至りません」
その数日後、3組目の内見者が現れます。
「今度は若い夫婦で、“古民家みたいで面白い”と言ってくれました。
建物を気に入り、工夫して住んでいただけるとは、こんなにありがたいことはありません」

購入の意思を示され、喜んで承諾しようとしたTさんですが、ここで値引き交渉があります。
「リフォームにお金がかかるので、900万円まで下げてくれないかと。本来であれば許容できたのですが、実はそのころ、登記簿の内容があまりに古いため、数十万円をかけて測量する必要があることが判明。測量費用はこちら側で持つため互いに譲歩して、930万円を落としどころにしました」
2020年8月、Tさんは買主と売買契約を交わします。
契機をつかみ、熟考したうえで道を選択。波に乗ったからこそ得た幸運
2020年11月、Tさんは買主に古家付き土地を引き渡し、売却活動の幕を下ろします。
「売却した土地は、父親が結婚するときに祖父から譲り受けた、先祖代々のもの。母屋に関しては、祖父が大工と一緒になって建てた思い出深いものでした。
しかし一方で、親戚づき合いをはじめ、古い地域だけに少し面倒な慣習があったのも事実。
土地を手放すことは、程よくそれらと距離を置き、身軽になる利点もあったのです。
リタイア後の時間をリラックスして過ごす意味でも、選択は間違いでなかったと思います」
「後悔はひとつもない」と笑顔を見せるTさんは、こう続けます。
「定年退職という人生の節目と、両親の他界をきっかけに住まい方を見つめ直し、思い切って行動に出たら、上手に戦略を立ててくれるA社と出会い、とんとん拍子に売却することができました。
タイミングをつかんで波に乗る、これが成功の秘訣だったのかもしれません」
新しい住まいがあるのは、売却した実家から車で約5分の住宅地。
「80歳近くになってから、こまごました家の修繕で出費や労力をかけるのはイヤなので、設備やパーツは耐久年数が25年以上のものに。自分たちの“健康寿命”をあと20年と捉え、その期間、ストレスなく過ごせることを第一に建てました。
以前は母屋と離れの配置上、車をとめるのに苦労していたのですが、今は優に6台は置けて、子どもたちが来ても安心。専用の作業場を作ったことで、車の手入れも存分にでき、とても気に入っています」
Tさんのいきいきとした表情が、今の暮らしの充実度を物語っていました。
| 2017年7月 | ・実家を相続する ・実家の売却を考えはじめる |
|---|---|
| 2018年5月 | ・新築する土地を探しはじめる |
| 2018年12月 | ・自宅を新築する |
| 2019年1月 | ・新居に引っ越す |
| 2019年7月 | ・実家の荷物を片づける |
| 2020年7月 | ・A社で現地査定をする ・A社と専属専任媒介契約をする ・実家を古家付き土地として980万円で売り出す ・購入者が現れる |
| 2020年8月 | ・買主と930万円で売買契約を結ぶ |
| 2020年11月 | ・古家付き土地を買主に引き渡す |
まとめ
- 建物をリフォームして活用する買主もいる。解体せず「古家付き土地」として販売することも考えよう。
- 「古家付き土地」でも相場より低めの価格設定にすれば、建物を活用しようとする買主にはお得に映る。
- 「古家付き土地」として販売する場合は、契約不適合責任の免責特約をつけると保証責任を負わずに済む。
- 値引き交渉をされたときは、言われたままの金額で応じる必要はない。両者の落としどころを見つけよう。
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取材・文/星野 真希子 イラスト/杉崎アチャ


