都内に住むTさんは、高齢の両親に代わって、長年親しんだ静岡県伊東市のリゾートマンションを売却することに。複数の不動産仲介会社との一般媒介契約に切り替え、5度の値下げを経て、約2年後、コロナ禍で無事に売却しました。
不動産区分 | マンション |
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所在地 | 静岡県伊東市 |
築年数 | 30年 |
間取り・面積 | 3LDK(約90m2) |
ローン残高 | なし |
査定価格 | 500万円 |
売り出し価格 | 600万円 |
成約価格 | 120万円 |
伊豆半島の高台にある両親の住まいを、高齢に伴い手放すことに
東京都内に家族で暮らすTさん(60代)には、30代のころから休暇のたびに家族で向かう場所がありました。当時、東京に住んでいた両親が1989年にセカンドハウスとして入手した、静岡県伊東市のマンションです。
「バブル時代に現金一括で、約8000万円で買ったリゾートマンションで、ゆったりとした約90m2の3LDK。バルコニーや専用庭のほか、地下にトランクルームを完備していて、建物内に温泉やプール施設がありました」
購入した約10年後、両親は仕事をリタイアしたのを機に自宅を引き払って移住。特にくに子どもが小さなころは、一家で必ず夏に冬にと遊びに行っていたと言います。
「何といっても最高なのはロケーション。高台にあるため景色が良く、窓越しに伊豆半島や大島を一望。正月には日の出を眺め、すぐ近くに漁港があるため、釣り好きの父親は頻繁に魚釣りに出ていました」
15年ほど定住し、自然豊かな暮らしを満喫していた両親ですが、Tさんは「東京に戻って来ないか」と持ちかけます。
「それまで2人は車で生活をしていましたが、ともに80代半ばになり、運転が心配に。物件は崖の上にあるため、徒歩約20分のところにある駅やスーパーへは、とても歩いては行けません。かといってバスは使い勝手が悪くて。この先、免許を返納することになれば、日常生活を営めなくなるのは明らかでした」
初めは後ろ髪を引かれていた両親ですが、数年かけて説得され、2018年10月、東京にマンションを借りて引っ越します。
Tさんは空き家になったマンションを、かつての両親と同じように家族のセカンドハウスにしようかと考えますが、すぐ思いを打ち消しました。
「ここは設備が充実しているだけに、管理費と修繕積立金・駐車場代を合わせると毎月約6万円がかかるんです。自宅として住めるならいいですが、月1回くらいしか利用できないのであまりに高額。それに管理も大変です。親しみのある物件でしたが、手放すことにしました」
リゾートマンションを豊富に扱い、地元に支店のあるB社と媒介契約
東京の不動産仲介会社(A社)に知人がいたTさんは、まずA社に声をかけます。
「しかしあっさりと『エリア的に難しい』との返事が。地元に支店があり、かつリゾート物件の媒介経験が豊富にあるところでないとダメなのだと悟り、ネットで伊東市に根差した会社を調べました。
そして複数あるなかから、駅前に店舗があり、全国各地でリゾートマンションの仲介を行っているB社に電話をしたのです」
TさんのもとにB社の担当者が駆けつけます。
「そこで出された見積もりは500万円。
買ったときの値段と比べると大幅に下がっていますが、父親と母親が心底ほれ込み、約30年間のなかで魅力を味わいつくした物件です。自分は両親に財産を遺して欲しいとは思っていませんし、2人が幸せに過ごせたなら、十分に役割を果たしたでしょう。金額はどんなに安くても構いませんでした。
ただ、売れ残って“負動産”になるのは困りますし、高齢の両親に万一のことがあれば、相続の手続きが厄介だなと。
『とにかく早く売るのが優先』だと思いました」
Tさんは査定価格に納得し、2018年11月にB社と専属専任媒介契約を結びます。
維持費の高さがネックになり難航。2社と一般媒介契約して値下げ
物件を売り出すに当たりB社はTさんに、見積もりよりも100万円高い、600万円に設定することを提案します。
「似たような物件を探している個人の『見込み客』が、すでに1人いるとのことだったので、仮に上手くいかなくても、探せばまだ需要はあると踏んだのでしょう。
『リゾート物件の値段はピンからキリまであり、あってないようなもの』と聞いていたため、言われたままの値段にしました」
すぐにB社は候補者を内見に連れて来ましたが、残念ながら売却にはつながりません。
「物件価格は手頃でも、ランニングコストが高いのがネックだと言われました。
確かに固定資産税や光熱費まで合わせると、年間で100万円近くはするので当然です」
B社は自社のホームページや不動産ポータルサイトに情報を掲載。
Tさんは郵送で「営業活動報告書」を受け取りますが、毎回、問い合わせが1件あるかないかで、めぼしい反響は見られません。
「リゾート地という特殊なエリアで今後、値下がりの余地があるだけに、みなさん急いで買わないのでしょう。
『このまま待っても仕方がない』という思いが、次第に強くなりました」
そのころ偶然、Tさんの親戚の1人が、地元の不動産仲介会社(C社)を紹介してくれることに。2019年5月、B社との媒介契約が終わるタイミングで、TさんはB社とC社の2社で一般媒介契約を結び、物件価格を500万円に値下げします。
5度の値下げとコロナ禍を経て、スタートから約2年後についに売却
一般媒介契約でしたが、TさんはB社とC社から1カ月に1度、業務報告を受け取ります。しかし一向に変化はありませんでした。
「東京に居たため、そうそう様子を見にいけず、会社に鍵を託して待つばかり。そこで2019年9月に400万円、2020年1月に300万円まで値下げしました」
それでも動きのないまま4月に突入。そこでさらに厳しい状況になります。コロナ禍により各地で緊急事態宣言が発令され、自粛ムードが漂うようになったのです。
「ナンバープレートを見て他県からの来訪者だとわかると、追い返されかねない風潮になり、内見だけでなく月1回程度あった問い合わせもゼロに。
こうして待っている間も維持費が重みますし、両親もいよいよ『まだ売れないの』とせっついてくるようになって。
『価格にはこだわらない』とB社とC社に念押して伝え、200万円まで落とすことにしました」
それからしばらくたった2020年11月、C社から1本の連絡が入ります。
「『買ってもらえそうなお客さんがいます』と吉報が。
希望価格を聞くと、『120万円なら』とのこと。迷うことはありません。二つ返事で了承しました」
2020年12月、Tさんは買主と売買契約を交わします。
両親が至福のときを過ごしたことが何よりの価値。後悔は一切なし
買主は、たまたま静岡県東部で住まいを探していた個人客。Tさんは同月のうちに物件を引き渡し、翌年の固定資産税が発生しないよう、年内の所有権移転登記に間に合わせます。
「両親がずっと喜んで住んでいたことがすべて。どんな価格でも悔いはありません。
ただ時期のことをいうと、最初の見込み客が迷っていたときに、一気に値下げをすれば良かったなと。それで相手が買ってくれていたら、約2年分のランニングコストが浮きましたから。でもこの土地でやってきた会社ならではの判断があるでしょうし、むげにはできないのも事実。
ともあれ、売れて良かった。気がかりがなくなり、両親もほっとしています」
「両親にとっては最良の買いものだった」そう話すTさんは、やり切った表情に満ちていました。
2018年9月 | ・マンションの売却を考え始める |
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2018年11月 | ・B社に訪問査定を依頼する ・B社と専属専任媒介契約を結ぶ |
2019年5月 | ・C社に訪問査定を依頼する ・C社と一般媒介契約を結ぶ ・B社と一般媒介契約を結ぶ |
2020年11月 | ・購入者が現れる |
2020年12月 | ・買主と売買契約をする ・売却した土地を買主に引き渡す |
まとめ
- リゾートマンションの売却は、同じような物件を豊富に扱い、相場にも詳しい会社が頼りになる。
- 動きが見られない場合は、一般媒介契約に切り替えて、複数の不動産仲介会社と付き合うのも手。
- 管理費の高いリゾートマンションは、大胆な値下げに踏み切ったほうが、全体の費用を抑えられることも。
取材・文/星野 真希子 イラスト/キットデザイン