
マンションの1階に暮らすKさんは、台風19号で各地の被害を目の当たりにし、より安全な住まいに住み替えることに。販売活動と物件購入をする不動産仲介会社を一括し、最終的に買取サービスを利用して早期の売買契約を実現しました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県戸田市 |
| 築年数 | 築15年 |
| 間取り・面積 | 3LDK(約70m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 2500万円 |
| 売り出し価格 | 3000万円 |
| 成約価格 | 2500万円 |
専用庭付きの便利な1階マンション。台風19号で不安を感じはじめる
埼玉県戸田市に妻と2人で暮らしていたKさん(50代)の住まいは、マンションの1階。専用の庭付きで、その隣には個別の駐車場がありました。
「都心にほど近く閑静な住宅街であること、最寄駅まで徒歩約7分で、かつ会社まで乗り換えせず通える路線だったこと、駅付近のスーパーが充実していたことが、目を向けた理由です。
当時は武蔵浦和駅やひばりヶ丘駅・所沢駅辺りでも探していて、いくつか似たような物件はありました。最終的にここを選んだのは、手前で申し込んだ人のローン審査が通らずキャンセルになり、急きょ、不動産会社が値引きしてくれる話になったから。
そのため1階になったのは偶然ですが、庭で洗濯物を干せるほか、ベランダから門扉を抜けてサッと車に乗り込むこともできて、戸建て感覚で使っていました」
物件は2014年に約3000万円で購入した3LDK・約70m2の新築マンション(当時)。
すでにローンは完済し、15年ほど住んでいましたが、夫妻にとって看過できないことが起こります。
「2019年10月に起きた『令和元年東日本台風(台風19号)』は、戸田市でもかなりの大雨になりました。
実は今までさほど問題視していなかったものの、かねてから夏場に集中豪雨が起きたとき、シンクやバスルームの排水口がぽこぽこと音を立て、トイレでは気泡が出ることがあったのです。うちは1階で地面とほぼ段差がないのですが、近隣エリアでは冠水した道路もありましたし、神奈川では下水が逆流したところもあったと聞きます。
幸い自宅は被害を免れたものの、『今後、いつどこで同じような豪雨があってもおかしくない』と報道されているのを見て、『そうなったらいよいよ危ないし、絶対に後悔する』と居ても立ってもいられなくなって。 妻とも話し合い、『取り越し苦労になってもいいから思い切って引っ越そう』と売却を決めました」
Kさんは台風のあった翌月の初旬に、売却活動を始めます。
■ハザードマップの見方について
その地域にどのような自然災害のリスクがあるかを地図にしたものが、ハザードマップ。主なものには「河川浸水洪水マップ」「土砂災害マップ」「地震災害マップ」「火山防災マップ」「津波浸水・高潮マップ」があり、災害の予想地域や避難場所などが、わかりやすく記載されています。自宅周辺のハザードマップには一度目を通しておくのが良いでしょう。各自治体で作成していることが多いので、ホームページなどで入手して確認しましょう。
売却と住み替え先の購入を同時進行で行うべく、依頼先を一括
物件を手放すことにしたKさんにとって、何より大事だったのはスピード感。しかし物件が売れないと資金づくりがスムーズにいかないため、売却と住み替え先の選定を同時に行いたいと考えました。
そんななかまず連絡を取ったのは、マンションを購入した不動産会社のグループ会社であるA社の営業所です。
「最初は手始めに話を聞いてみようとしただけで、並行してネットで別の不動産仲介会社を調べていました。でも、A社では売却の相談に乗ってもらえるだけでなく、併せて住み替え先の候補も紹介してくれるとのこと。
大手で信頼が置けましたし、季節が巡ればまたいつ災害が起きてもおかしくありません。
複数の不動産会社を比べるのが良いのでしょうが、手間をかけず、早期に決めることを第一にしていた私たちにとって、理にかなっていました」
早速、A社は査定のために現地を訪れます。
「担当者によると台風の影響で、とくに関東圏では1階の物件を手放す人が増えているとのこと。実際、相場は下がっており、戸田市には荒川のほかにいくつか支流があるので、水害を避けるべく地域を出て行く人がいるとなると、売れるまでに時間がかかるのは必至だと言われました」
A社による査定は2500万円。
「購入価格の9~8割で売りたい」と思っていたKさんにとって、まずまずの金額でした。
2019年11月、A社と専属専任媒介契約を交わします。
反響が見られないなか、不動産仲介会社から買取の打診をされる
KさんはA社の担当者から「3月までの引っ越しシーズンを過ぎると売り難くなる」と聞いていました。それもあり、なおさら早い段階の売却を望んでいましたが、物件はまだ築15年。元来、大手不動産会社の分譲マンションであることもあり、安値にしたくない気持ちがありました。
そこで段階的に値引きすることを想定し、販売価格は3000万円からスタート。
A社では自社のホームページのほか、不動産ポータルサイトに情報をアップします。
「しかし売り出しから約3週間がたっても、内見どころかひとつの問い合わせもありません。
担当者いわく、『1階なうえに専用駐車場付きで、同じマンション内で借り手が見つからない限り駐車場代が必ずかかるため、車の無い人にはデメリットになるのだ』とのこと。しかし、そうであってもさすがに引き合いがゼロなのは、台風の直後だからでしょう」
一向に動きが見られないなか、12月になる直前になってA社から連絡が入ります。
「もしこのまま物件が売れなければ、A社で2500万円で買取してくれると言うのです。
値段は一気に下がりますが、買取であれば仲介手数料はかかりません。
もし市場に出して半年、1年と粘れば、最低でも2000万円くらいまでは価格を改めざるを得なくなるでしょう。それだと時間を費やすうえに、金銭的に損をするだけ。
とにかく時期を急いでいましたし、買取してもらうのが最善だと思いました」
そのころちょうど、A社からの紹介で住み替え先を見つけたこともあり、Kさんはすぐに提案を受け入れることに。
2019年11月、A社と売買契約。12月の中旬に引っ越しを済ませ、物件を引き渡します。
内装がきれいで見晴らしもいい築浅・7階のマンションで快適に暮らす
Kさんの新しい住まいは、同じ戸田市内。長く居住することを見据え、修繕費用を抑えられる築浅のマンションにしました。間取りや広さは以前とほぼ同じですが、河川の氾濫に備えて1~3階は避けたと言います。
「購入価格は3360万円。売却金額との差額は自己資金で賄えたので、ローンを組まずに済みました。
選んだのは7階。まだ築6年なので内装がきれいで、かつ眺望がいいのはもちろんのこと、ここで得られる安心感は格別です。以前は水害のニュースを見ると人ごとと思えずヒヤヒヤしていましたが、今は落ち着いて構えていられます」
安全だと感じて過ごせることの大切さを、日々、かみしめているKさんです。
| 2019年10月 | ・マンションの売却を考えはじめる |
|---|---|
| 2019年11月初め | ・A社で訪問査定をする ・A社と専属専任媒介契約を結ぶ |
| 2019年11月末 | ・物件をA社で買取してもらうことになる |
| 2019年12月 | ・A社と売買契約をする ・売却したマンションをA社に引き渡す |
まとめ
- 売却活動と住み替え先の購入を、ひとつの不動産仲介会社で行うと資金計画などを立てやすい。
- 災害が起きたことで売り難くなる物件もある。不動産仲介会社に相談して最善の道を考えよう。
- 買取だと売却するより価格は下がるが、仲介手数料がかからない分、タイミング次第ではお得なことも。
取材・文/星野 真希子 イラスト/カワモトトモカ


