
墨田区のワンルームのマンションを投資目的で購入したTさん。購入から5年後の2017年、都内の不動産価格上昇を機に売却を検討。積極的な情報収集と首尾一貫したスタンスが功を奏し、希望価格での売却をかなえました。
| 不動産区分 | マンション |
|---|---|
| 所在地 | 東京都墨田区 |
| 築年数 | 25年 |
| 間取り・面積 | ワンルーム(19m2) |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 1000万円 |
| 売り出し価格 | 990万円 |
| 成約価格 | 990万円 |
投資用のワンルームマンション。2017年ごろに価格が上昇
節税目的で約20年前からマンション投資を始めたTさんは、常時5~10戸の投資用マンションを保有。2012年5月にマンションを1戸売却し、その売却代金で、東京都墨田区にある19m2・ワンルームを購入しました。
「自宅マンションの住宅ローンが残っていたので返済に充てることもできましたが、マンション投資に回した方が利回りが良いと判断しました。
入手したのは墨田区で随一の繁華街である錦糸町駅から徒歩約12分の物件。築20年(2012年当時)で15階建ての2階にあり、窓が北向きのため日当たりは望めませんでしたが、開業したばかりの『東京スカイツリー』を眺望し、価値があると思いました」
ちょうど、東日本大震災直後で景気が思わしくなかったとき。値上がりはあまり期待できず、だからこそ入居者が決まりやすく継続して家賃収入が見込める、人気エリアの物件を選んだと言います。
「それでも相場が上向きになれば、すぐにでも手放すつもりでした。一方で意識したのは譲渡税が下がるタイミング。税率が39.63%(短期譲渡所得)から20.315%(長期譲渡所得)に変わる、購入して6年目の1月以降です」
しかしその時期を迎える前に、Tさんは売却を考え始めることになります。
「2017年前後から、アベノミクスの影響で不動産の価格がものすごく上昇して。『売りませんか』という不動産会社からの電話が、引っ切りなしにかかってくるようになったんです。 いつもだとそうした中には疑わしい話もあるのでやり過ごすのですが、懇意にしている不動産業界の知人からの情報や、複数の不動産サイトでチェックした相場からも、確実に値上がりしていることがわかりました。翌年1月まで待てば長期譲渡税率が適用になるタイミングだったのですが、売り時を逃したくないと思いました」
積極的な情報収集で相場を読み、適正な値つけをする仲介会社を厳選
かつて別のマンションを売却したときに、相場よりかなりの安値で売買契約をする苦い体験をしたTさん。それ以降は日ごろから率先して情報収集。自分なりの相場金額を割り出し、近い数字で査定額を出してきた不動産会社であれば信用できる、と考えるようにしています。
「今回のマンションの購入金額は720万円でしたが、相場からして800万~900万円で売れるはずだと考えました。そこで月100件近くかかってくる不動産会社からの電話に可能な限り出て、提示してくる価格を聞いてみることに。その金額に満たない場合は、どんどん断っていくようにしました。 そのうち1社、私が思うより高い約1000万円で売れるという会社が現れたのです」
2017年8月、早速A社と「専任媒介契約」を交わします。そこにはTさんがこれまでの経験から得たことが活かされていました。
「個人的に『専任媒介契約』だと買主が見つからない場合に値下げするしかないのではという不安があり、複数の会社に依頼できる『一般媒介契約』の方が安心というのが基本的な考えです。でも、確固たる自分の意志を貫ければ、『専任媒介契約』でもメリットがあると思います。『あなたのところにしか頼んでいないのだから』とハッパを掛けられますから」
売主としての希望を伝えて奮起させ、希望条件での売却を促す
売り出し価格は1000万円を理想としていたTさんですが、「1000万円台だと900万円台とでは印象が違う」とのA社からの提案を受け、990万円に設定し、売却活動をスタートします。

「10人ほどの小規模な会社だったのですが、営業の電話をするほか、自社で企画する不動産投資セミナーでも参加者に物件の案内をしているようでした。 売却活動状況の報告は2週間に1回。日中は仕事をしているのでメールでもらいました。しかし『買いたいと言っている人がいる』と2度ほど連絡があったものの、値段の折り合いがつかないようで、売却には至らず。A社の営業は最初、『1000万円近くでも買う人はいます』と断言していたのですが、値上がりしている都心の物件を仲介したくて多少、強気になっていたのかもしれません。仮にその言葉が本当なら、すぐに買主が見つかるはずでした」
月6万6000円の家賃収入は着実に得ていたため、無理な取引はしないと決めていたTさん。営業の担当者には何度も自分のスタンスを示すことで、活を入れていたと言います。
「『1円たりとも値引きには応じない』と譲れない条件を伝えるのはもちろんのこと、『契約期間の更新はしないので3カ月しか時間はないよ』というのを、ことあるごとに話していました」
そうして媒介契約から満3カ月になろうとするころ、ついに買主が現れます。
仲介会社への手堅い対応で、予定通り3カ月で売却
買主となったのは地方で事業をする法人。A社が代理人となったため、買主とは会うことはなく、売買契約を結びました。 希望通りの価格で、きっかり3カ月で売却できたTさん。今回の取引をこう振り返ります。
「何回か不動産売却をしていますが、仲介を依頼するのは大抵、初めて付き合う不動産会社です。そのためどこまで信頼できるか見定めつつ、譲歩できない点をしっかり主張したうえで、相手とは付き合うようにしています。今回、営業の担当者は若い方だったのですが、ぎりぎりまでよく投げ出さず、希望の条件で売っていただけたなと。 当時の不動産価格はまだまだ上昇傾向だったので惜しむ気持ちがゼロではないですが、投資ではよくあること。結果に満足しています」
確固たる視点をもつTさんであれば、これからも上手に不動産と付き合ってゆくことでしょう。
■譲渡所得税とは
不動産売却で得た利益(譲渡所得)には「所得税」と「住民税」が課税され、総称して「譲渡所得税」といいます。金額は譲渡所得と税率で決まりますが、譲渡所得は不動産の売却価格からもとの購入価格や費用・売却時の費用を差し引いて算出。税率は不動産の所有期間によって異なり、5年以下だと「短期譲渡所得(39.63%)」、5年超は「長期譲渡所得(20.315%)」となります。ただし、売却した年の1月1日時点で5年超でないと「長期譲渡所得」とならないため注意が必要。税負担を軽くできる「3000万円特別控除」などの特例もあるため活用するとよいでしょう。
| 2017年5月 | ・マンションの売却を考え始める |
|---|---|
| 2017年8月 | ・簡易査定をする ・仲介会社と専任媒介契約をする |
| 2017年9月 | ・マンション購入者が決まる ・買主と売買契約を結ぶ |
| 2017年11月 | ・売却したマンションを買主に引き渡す |
まとめ
- 情報収集して自ら相場をつかみ、妥当な査定価格を提示する仲介会社を選ぼう
- 「値下げには応じない」「契約更新はしない」など、譲れない条件はしっかり伝える
取材・文/星野 真希子 イラスト/松尾達


