不動産を売却する際には、売って得られた売却益(譲渡所得)に税金がかかるが、一定の条件を満たすと特例が受けられて税負担が軽くなる。どんな特例なのかポイントを知っておこう。
譲渡所得から3000万円を差し引ける「3000万円特別控除」
譲渡所得が3000万円より小さいと税金がかからない
不動産を売って得られた譲渡所得には所得税・復興特別所得税と住民税がかかるが、自宅(居住用財産)を売った場合はその譲渡所得から3000万円を差し引ける。この特例が3000万円特別控除(国税庁HPでは「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)だ。
この特例を利用すると、譲渡所得にかかる税金の計算式は以下のようになる。
(譲渡所得-3000万円)×税率=税額
もし譲渡所得が3000万円より小さければ、税額はゼロになる。譲渡所得が3000万円を超える場合は、超えた金額に税率をかけて税額が計算される。
税率は売った自宅の所有期間が5年以下か5年超かによって異なり、10年を超えるとさらに低い税率が適用されるケースがある。詳しくは「不動産売却にかかる税金」を参照してほしい。
例えば譲渡所得が4000万円、所有期間が7年の場合の税額を試算すると以下のとおりだ。
所得税・復興特別所得税:
(4000万円-3000万円)×15.315%=153万1500円
住民税:(4000万円-3000万円)×5%=50万円
合計 :203万1500円
買い替えの場合は住宅ローン控除とどちらかを選択
この3000万円控除は前年または前々年に適用を受けていると利用できない。逆に言うと一度利用したら、翌年と翌々年には利用できないということだ。
また買い替えのときに利用できる買換え特例や、売却して損したときの譲渡損失の繰越控除は3000万円控除と併用できない。なお、買換え特例と譲渡損失の繰越控除についてはそれぞれのページを参照してほしい。
さらに住宅ローンの借り入れから13年間にわたりローン残高の0.7%相当額が所得税から差し引かれる住宅ローン控除については、3000万円控除と併用はできない。自宅を売却して新たに住宅ローン借りて買い替える場合、売却益が出ていたら3000万円控除か住宅ローン控除かどちらを受けるか選択する必要がある。3000万円控除を利用しなかったら課税されていた所得税額と、住宅ローン控除で控除される税額を試算して額が大きいほうを選べばいいのだ。
3000万円控除を利用する場合の注意ポイント
以前住んでいた家は住まなくなって3年目の年末までの売却が対象
3000万円控除を利用する場合、注意すべき点がいくつかある。まず対象となるのは自宅の売却なので、自分が住んでいることが原則だ。ただし以前住んでいた住宅でも、住まなくなってから3年目の年末までに売れば対象になる。
例えば病気の転地療養などで一時的に住まなくなっていた場合、病気が治れば必ず戻ってくると認められれば空き家の期間中も自宅として住んでいたものと見なされる。だが、老人ホームなどに転居してそこを生活の本拠としていた場合は、住まなくなった家は自宅とは見なされない。
なお、一人暮らしをしていた親が亡くなって空き家になった実家を相続したケースでは、相続してから3年目の年末までに売却すれば3000万円控除を受けられる場合がある。詳しくは「親の家を売るときの税金の特例」を参照してほしい。
家を人に貸していても控除の対象になる
3000万円控除は自宅に住まなくなってから3年目の年末までに売れば、その家を人に貸していても適用の対象になる。ただし人に貸したままの家を売ると立ち退きの問題などでトラブルになるケースもあり得る。その家を売却する予定があるなら、期限以内の定期借家契約にするなどの対策が必要だろう。
家を取り壊した場合はその1年以内に売買契約を結ぶことが条件
自宅として住んでいた家を取り壊してから売却する場合でも、取り壊した日から1年以内に売買契約を交わし、住まなくなって3年目の年末までに売却すれば、3000万円控除の対象になる。
ただし、家を取り壊した敷地を売買契約の日までに駐車場などとして人に貸した場合は、3000万円控除が受けられなくなる。この点は家を取り壊さずに人に貸した場合とは異なるので注意が必要だ。
●監修
税理士法人タクトコンサルティング
構成・取材・文/大森広司
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住宅系シンクタンク・オイコス代表。住宅ジャーナリスト。SUUMOなど多くの住宅系メディアで取材・執筆などを行う
資産税コンサルティングの草分けとして、長年にわたり、個人の相続・譲渡や贈与など、法人の事業承継、組織再編、M&Aなど、個人・法人の資産税に関わるコンサルティングを手がけている。