不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

“職住近接”で便利だった店舗と自宅。大阪進出を機に手放そうとしたが、売却成立まで約12年かかった/徳島県徳島市Nさん(60代)

徳島県徳島市Nさん(60代)/同じ敷地に建つ住居と店舗。売り出して約12年後、不動産会社に売却

徳島市内に住居と店舗を所有していたNさんは、関西での仕事の比重が大きくなってきたことから物件を手放すことに。約8年間で3社と専任媒介契約を結びますが一向に決まらず、4社目にして不動産会社に売却することができました。

不動産区分 古家付き土地
所在地 徳島県徳島市
築年数 住居…築45年、店舗…築34年
間取り・面積 住居…6LDK(114m2)、店舗…146m2
ローン残高 なし
査定価格 1・2回目…4500万円、3・4回目…3000万円
売り出し価格 1・2回目…5000万円、3・4回目…3500万円
成約価格 3000万円

“職住近接”で使える店舗&住居を、仕事の拠点を移すべく売却することに

徳島県徳島市で自営業をするNさん(60代)は、「自宅の隣に店舗を持ち、職住近接で仕事がしたい」と、1982年に303m2の敷地に建つ中古住宅を購入しました。
住宅は当時築9年・6LDK・114m2。最寄り駅まで車で約10分かかりましたが、新しくできた商店街にあるため人通りが多く、集客が見込めるのがメリット。
丁度、バブル景気に差しかかったころで6400万円と高額だったものの、1982年に現金で購入します。
2年後には建築家にオーダーして、住居隣に2階建ての店舗を新築。順調に事業を営んでいたNさんですが、関西での仕事が増えてきたため、2006年春ごろから事業の拠点を移すべく、住居と店舗をまとめて売却することを考えはじめます。

事業者向けの物件だけに、売りに出すも2年間で内見はわずか数件

住み替え先を買うのにローンを組むのは負担だと思ったNさんは、売り先行で先に物件を売却して資金をつくろうと考えました。電話帳を開いて目にとまった不動産会社のA社に連絡を入れます。

「A社で訪問査定を行ったところ、結果は4500万円。提案されるまま『専任媒介契約』を結びました。
価格は値引き交渉を想定し、500万円をプラスした5000万円にして売り出しました」

しかし半年に1度程度、内見者を迎えたものの、有力な候補は現れず2年が経過します。

「もともと住居と店舗が隣り合わせて建つ、事業者向けの物件。店舗のほうは1階が事務所、2階がホールになっていたのですが、事業内容と合致しなければ使いにくいですし、簡単には売れないものでしょう。
物件の売り出し中は、徳島県の自宅に住み、自宅と関西と行き来しながら仕事をしていましたが、そこまで不便でなかったのもあり、値下げしてまで売り急ごうとは思いませんでした」

まだまだ様子見するつもりでいたNさんですが、一方でA社の営業担当に物足りなさを感じていたと言います。

「最初の値付けでアドバイスされることもありませんでしたし、営業活動報告を十分にしてくれないのも気がかりで、別の会社に乗り換えることにしました」

計3社に当たるも状況は変わらず。それでも焦らず待ち続ける

次にNさんは、たまたま広告で知った不動産会社のB社に連絡。2008年5月、専任媒介契約を交わし、5000万円で売り出すことにします。
しかし反響が見られるどころか、一度も内見希望者が出ないまま2年が経過。
そんなある日、つき合いのあった町内会のメンバーが、不動産会社のC社に勤めていることが分かり「ご近所の方なら親身になってくれるはず」と、C社と専任媒介契約を結ぶことにします。

「このときは以前と比べて相場が下がっていて、訪問査定後『3000万円が妥当です』と言われました。そこでまた500万円を上乗せした3500万円で販売をはじめました」

しかし数カ月が経っても状況は変わりません。
ここでNさんはC社から「建物を解体して更地にしてはどうか」と提案されます。

「せっかくのアドバイスでしたが、きっぱりお断りしました。というのは、仮にこちらで建物を壊したら、その費用を上乗せした価格で売らないと採算が合いませんし、逆に相手が負担するなら、その分を差し引いた金額で売却することになるでしょう。
結局、金額に違いはありません。であれば、店舗のデザインにはこだわりましたし、建物をそのままにして『買主が居抜きで使える選択肢』を残した方が、売却できる確率が高くなると思ったのです」

NさんはC社から「賃貸にする案」も持ちかけられますが、「現状の3000万円の相場が底値だと感じたこと」「元来、気長に構えていたこと」から、首を縦には振りませんでした。

■古家を解体するかどうかの判断基準

家屋付きの土地を売却する場合、「古家付き土地として売る」「家屋を解体して更地にして売る」「中古一戸建てとして売る」3つの方法があり、どれを選ぶかは売主の自由。「古家付き土地」と「中古一戸建て」は実質的に同じですが、前者は土地、後者は住居を購入検討者にアピールするもの。建物のコンディションや、市場ニーズと照らし合わせて決める必要があります。一方、家屋が老朽化しているときは「古家付き土地」か「更地にして売る」のが一般的。しかし解体にはコストがかかるうえ、一概に売れるとは限りません。エリアにおける購買層の動向を踏まえるなど、状況に合わせて対処することが大切になります。

売り出して12年が経過。4社目にして有力な買主候補が現れる

C社でも売却ができないまま4年の月日が流れた某日、Nさんは偶然、地元の不動産会社のD社と出会います。

「近くの駐車場が売却される話が持ち上がり、D社の営業担当がうちに近隣の話を聞きにきたのです。色々と会話をするなかで『実は私のところも売りに出している』とこぼしたところ『ぜひうちで販売させてください』と積極的に言ってもらえました」

不動産を売り出してから12年も売れないイメージ

NさんはD社と専任媒介契約を結び、2014年9月、3500万円で販売をスタート。
しかしD社では不動産会社を中心に営業をかけたものの、反響は変わりません。
それでも価格を変えず、あくまで待つ姿勢でいたNさんですが、2018年5月になって変化が訪れます。

「D社から連絡があり『商店街の立地を気に入って、かなり真剣に考えてくれているE社という不動産会社がいる』とのこと。内見にきてもらったところ、その場で具体的な改装の話をしていて『ようやく本気の人がきた』と期待が持てました」

内見後、NさんはD社から「建物は解体しなくて構わないので500万円値下げできないか」と打診されます。

「正直、値引きせずに済むのが一番ですが、『これを逃すともうないです』とD社から念押しされ、私自身10年以上待った経験からその言葉に納得できるものがあったので、了承することにしました」

無事に資金を得て関西で新居を購入。相場を下回らずに売却できて満足

E社では資金調達などに2カ月ほど要したため、その間にNさんは関西で住み替え先を選定。
2018年7月、E社と3000万円で売買契約し、物件を引き渡すと同時に1280万円で新居を購入します。

新しい住まいは2000年築の2階建てで4LDK・112m2。今回は店舗付きではありませんが、最寄り駅まで約2分と利便性がよく、建物が比較的きれいで満足しているそう。

「売り出し中は頭の片隅に留めている程度であまり意識はしていなかったのですが、徳島と関西の往来には時間がかかりましたから、いざ売却が済むと『肩の荷が下りた』とほっとしました。
ともあれ3000万円の相場を下回ることなく売れたので、点数をつけるなら10点中7点でしょうか」

そう言って笑うNさんに、持ち前の大らかさが表れていました。

2006年4月 ・住宅と店舗の売却を考え始める
2006年5月 ・A社で訪問査定をする
・A社と専任媒介契約を結ぶ
2008年5月 ・B社で訪問査定をする
・B社と専任媒介契約を結ぶ
2010年6月 ・C社で訪問査定をする
・C社と専任媒介契約を結ぶ
2014年9月 ・D社で訪問査定をする
・D社と専任媒介契約を結ぶ
2018年5月 ・購入者が現れる
2018年6月 ・住み替え先が決まる
2018年7月 ・買主と売買契約をする
・古家付き土地を買主に引き渡す
・住み替え先を購入する

まとめ

  • 住居と店舗がセットの物件は、事業内容と合致しなければ手を出しにくいので、焦らず待つ気構えが必要
  • 1社に託して進展が見られない場合は、不動産会社を乗り換えるのも手
  • 建物を解体するより残した方が、買主の選択肢は広がる。更地にする前によく考えよう

取材・文/星野 真希子 イラスト/沼田光太郎

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