
千葉県八千代市にある実家を相続したTさんは、地元の不動産仲介会社と媒介契約を結んで売却活動をスタート。コロナ禍が重なり8カ月決まらなかったものの、200万円値下げして不動産会社の買主が現れました。
| 不動産区分 | 古家付き土地 |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県八千代市 |
| 築年数 | 50年 |
| 間取り・面積 | 約255m2 |
| ローン残高 | なし |
| 査定価格 | 3200万円 |
| 売り出し価格 | 3400万円 |
| 成約価格 | 2950万円 |
八千代市の実家を母親から相続。妹と分割するべく売却へ
愛知県で暮らすTさん(60代)は、2019年に母親が他界し、千葉県八千代市にある実家を妹との共有名義で相続することに。家屋は1970年に建てた4LDKの2階建て。最寄駅までは徒歩約12分で、特急が停車する京成電鉄「勝田台駅」、東葉高速鉄道の始発駅で、東京メトロと相互直通運転もする「東葉勝田台駅」の2駅が使え、都心まで約1時間と利便性は上々。スーパーは駅前にしかないものの、落ち着いた住宅街に立ち、近くには小学校・中学校もありました。
土地はもともと原生林を大規模に宅地造成してできた分譲地で、長辺が真南を向く長方形。日当たりが良く、前面道路の幅員が6メートルのため、車の乗り入れがしやすいのも特長でした。
「中学生のときから大学を卒業するまで生活し、社会人になってからも度々、帰省していた思い出のある家。アパートに建て替えて賃貸経営するなど、手放さない選択肢もあったのでしょうが、今の時代、リスクが高いですし、妹と分けることを考えると売却して現金にするのが一番かなと。
母親は亡くなるまでの1年半ほど施設で過ごしていたのですが、そのときから『もう売ってほしい』と言っていて。処分することに迷いはありませんでした」
一括査定サイトで数社を見比べ、納得のうえで近場の不動産会社に依頼
早くから売却を決めていたTさんですが、4カ月くらいは遺産分割協議書をつくるなど相続の対応に手いっぱい。いざ動き出したのは2019年7月のことでした。
「この辺りはどこも約50年前に切り開かれた土地なのですが、エリア内に一つA社という不動産仲介会社がありました。一帯で土地を探す人であれは、まずそこに向かうはず。お願いするならA社かなと思いましたが、売却ははじめてのことで何の知識もなく、確信がもてません。まずは状況を把握したいと思い、一括査定サービスを利用することにしました」
3社に一括査定を依頼し、査定価格の幅は3000万円~3200万円。次にTさんはA社に話を聞きにいきます。
「A社の査定価格は、ほかの3社とほぼ同じ3200万円。これがそのまま成約価格にならないとしても、会社によって特別に対応の差は見られませんでしたし、であればやはりA社にお願いしようと思いました」
早速、媒介契約を交わそうとしたTさんですが、思いがけない事態が起こります。
「契約書を書面で送り返そうとした矢先、A社の支店が畳まれ、営業担当者が別の支店に異動することがわかったんです。引き続き見てもらえると聞いたものの、もともと近くにあることが選んだ理由だったので意味がないかなと。振り出しに戻ることになりました」
「地場の不動産仲介会社ほど強みになる」と考えていたTさんは、一括査定した3社の中で唯一、同じ市内にあったB社に依頼することにしました。
2020年1月、B社と専属専任媒介契約を結びます。
8カ月待つも問い合わせのない日々。価格を200万円下げて売却に成功
B社の査定価格は3200万円でしたが、Tさんの希望で売り出しはやや強気の3400万円に。早速、販売活動を始め、自社で運営する不動産仲介情報サイトに加え、他社のサイトでも物件情報をアップします。
「2週間に一度、物件の閲覧件数・問い合わせ件数をメールで報告してもらいました。閲覧件数は少ないときで2~3件、多いときで10~15件と波がありつつも絶えなかったのですが、問い合わせ件数はずっとゼロが続いて。『あれ、売れるのかな』と落ち着かないまま時間が過ぎました」
Tさんは「空き家等の譲渡所得の3000万円特別控除」の特例措置を受けたいと考えていたため、譲れない期限がありました。相続した日から3年を経過する年の12月31日までに売却しなくてはならなかったのです。
「2年半以上先だったので、まだ余裕があると思ったものの、2020年の春からコロナが騒がれ始めて。収入が減った方も多いでしょうし、買い手が少なくなるだろうと心配でした」
進展のないまま媒介契約を2回、更新します。
「自分にできることはなかったので、B社に任せて待ちました。しかし9月になっても決まる様子はなくて、あと200万円、値下げしたらどうかと営業担当に相談。すると直後に買主が現れたんです」
しかし物件に興味を示してきた不動産会社は、「2650万円にして欲しい」と交渉してきました。
「かなり安くなりますが、チャンスを逃すわけにはいきません。交渉の結果、結局2950万円で売却することになりました。
というのはそのころ、実家が特別控除を受けるのに必要な耐震基準を満たさないことがわかったのです。特別控除を受けるためには解体するか耐震リフォームをする必要があり、私の場合は解体してから売却しました。相手にはその解体費用の300万円を上乗せした金額で買ってもらったわけです。
一見、大幅に値下がりしましたが、思い返すとかつて数社が3200万円の見積もりを出してきた際、『買主が古家を取り壊す場合は、解体費用を差し引いて2900万円くらいで売る必要が出てきますよ』と言ってきた不動産仲介会社があったんです。それを考えると『妥当かな』と納得しました」
2020年10月、Tさんは2950万円で売買契約を結びます。
■空き家等の3000万円特別控除とは
空き家をなくすことを目的に創設された特別控除で、親から相続した住宅や土地を売却した際、譲渡所得から最大3000万円を差し引けるというもの。相続する直前まで親が1人暮らしをしていたこと、1981年5月31日以前に建てられた家屋(店舗・事務所などを兼ねた区分所有建物は除く)と敷地、相続開始から3年を経過する日が属する年の12月31日までの譲渡であることなど、利用するには一定の条件があります。また建物が耐震基準を満たしていない場合は耐震リフォームをするか、家屋を解体して更地にする必要があります。
時間を要しただけに売却できて何よりの安堵。遠方でも負担感はなし
2020年11月に更地にして、翌月買主に引き渡しました。その後、特別控除の申請も通ります。
「現地に足を運んだのは、『媒介契約』『売買契約』『引き渡し時』の3回で、それ以外は主にメールでやり取りしたため、負担には感じませんでした。
敷地が広かったため、不動産会社は二つに分けて販売することにしたようですが、もしかすると売却まで時間がかかったのは、コロナ禍でこの広い土地を買える個人客が減っていたからかなとも思います。
懐かしい家を手放したことには心が痛みますし、一代で取り壊される建物のあり方に思うところがありますが、選択できる中ではこれがベストでした。『売れて良かった』の一言です」
Tさんのさっぱりした笑顔には、やり切った気持ちが表れていました。
| 2019年3月 | ・土地の売却を考えはじめる |
|---|---|
| 2019年8月 | ・一括査定サービスを使って簡易査定をする |
| 2019年11月 | ・A社に査定を依頼する |
| 2020年1月 | ・B社に査定を依頼し、専属専任媒介契約を結ぶ |
| 2020年9月 | ・購入を希望する不動産会社が現れる |
| 2020年10月 | ・買主と売買契約を結ぶ |
| 2020年11月 | ・古家を解体して更地にする |
| 2020年12月 | ・土地を買主に引き渡す |
まとめ
- どの不動産会社が良いか決め手に欠ける場合、一括査定をすると相場や傾向がつかめて判断材料になる
- 不動産売却でかかる譲渡所得税には特別控除が使えることもある。自分のケースで利用できるか条件を調べておこう
- 古家付き土地の場合、売主と買主のどちらが解体するかで売買金額が変わることもある
取材・文/星野 真希子 イラスト/キットデザイン


