ライター・泡☆盛子さんの暮らす街「京都」【教えて!あなたの街の飲み心地】

著: パリッコ 

 

酒場ライターのパリッコさんが気になる街へ行き、そこで暮らす人と楽しく飲みながら街の魅力を探る企画「教えて!あなたの街の飲み心地」をお届けします。

◆◆◆

飲食系、特に酒や酒場に関する取材記事を得意とするフリーライターの泡☆盛子さんと初めて会ったのは、約1年前。1989年の創刊以来、関西の情報を確かな熱量で発信し続ける雑誌『Meets Regional』の取材でのことだった。

僕と友達のライター、スズキナオさんで始めた「チェアリング」という遊びがある。アウトドア用の折りたたみ椅子だけを持って屋外に行き、公園や河原など、自分の好きなスポットで座って酒を飲んだり、ただのんびりしたりするというもの。なんと泡☆盛子さんは、このふざけたアクティビティを京都で実践し、気に入り、名門『Meets Regional』京都特集内で紹介する企画の取材を担当してくれたという、世にも奇特な方なのだ。

酒が好きという共通点も自分たちと似ているし、なにしろこんな企画を担当してくれる時点でどこか共通の感覚があるに違いない。僕は、自宅からアウトドアチェアを抱え、ワクワクしながら京都行きの新幹線に乗った。

実際にお会いした泡さんは、僕の想像を超えて魅力的な人だった。

その日一緒に取材を受けたのは、スズキナオさんと、漫画家のスケラッコさん。何度も飲んだことのある3人だから、取材後、コンビニに移動して酒を買い、河原に戻ってプチ打ち上げをしつつ、「さてこのあとはどこに飲みに行きましょう?」なんて話をしていた。そしたら偶然通り掛かったのが泡さん。「もしよかったらご一緒にいかがですか?」とお声がけすると、「え! いいんですか?」と、いそいそとコンビニに自分用の酒を買いに行く。その後ろ姿を見て僕は、「この人は信用できる」と確信した。

その後、そのまま4人で、京都の街を舞台にしたハシゴ酒になだれこむ。行く先々の店で「泡さん」「泡ちゃん」と、店員さんや常連たちに声をかけられる彼女を見て、酔いの加速する頭で僕は、なぜだか深く感動していた。

今回はそんな泡盛子さんに、もう20年以上暮らしているという京都の街を案内してもらう。

しかも、あまりオーソドックスな京都のイメージにはない、「昼飲み」ハシゴ酒コースを。

京都で昼から気軽に飲むなら、居酒屋「たつみ」

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待ち合わせは四条河原町の交差点

京都の台所と呼ばれる「錦市場」も近い、京都を代表する繁華街。その裏道に、昼12時にオープンする大衆居酒屋「たつみ」がある。ここ、泡さんが最もよく通っている店なんだそう。

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居酒屋「たつみ」

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「さぁ、飲みましょか」

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入るとまずはカウンター席

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それから立ち飲み席

さらに奥へ進むと、テーブル席が並ぶ広い空間になっている。今回は落ち着いてお話も聞きたかったので、テーブル席に着いた。

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見上げる短冊メニューが圧巻すぎる

「きずし」(シメサバ)、「てっさ」(フグ刺し)、「かす汁」(酒粕を使った汁物)など、関西ならではのメニューにテンションが上がる。ほかにもとにかく気になるものだらけだ。こういうとき、胃袋に容量があることが心底憎い。

パッと見でどういうものか分からないメニューもちらほら。

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「にぬき」ってなんだろう?

にぬきとは「煮抜き玉子」、つまり、固ゆで玉子の関西風の呼びかただそう。

ではいよいよ飲みはじめよう!

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「ハイリキ レモン」380円

僕は大衆酒場では好んでホッピーやチューハイを飲む。東京の場合、甲類焼酎と割りものがセットになっていたり、もしくは店側が焼酎を割りもので割って出してくれることが多い。しかし関西はどちらかというと、このように初めから割られて完成している酒を飲む文化なのだそう。そんな、ちょっとした違いひとつひとつが楽しい。

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泡さんから手土産をいただいてしまった。本来ならばこちらが持参すべきなのに……

泡☆盛子さん(以下、泡):つい先日、実家に帰ってまして、その時に買ったお土産です。もし良かったら。沖縄ではポピュラーな「塩せんべい」なんですけど、「われせん」のほうがけっこうレアで。この不格好な「みみ」のところが妙に美味しいんですよね。

出身は沖縄の石垣島なんです。だから、大学に進学するなら、島の外に出るしか選択肢がないんですけど、東京や大阪みたいな大都会にいきなり住むっていうイメージが湧かなかったんですよね。それで当時、サブカルチャー全盛の内容だった『宝島』という雑誌をよく読んでいて、みうらじゅんさんとか、ボ・ガンボスっていうバンドなんかがよく京都のことを紹介していたんです。そんな世界に憧れていたところ、たまたま京都の大学に推薦で受かることができて。

ただ、いざ来てみると夜の街でお酒を飲むのが楽しすぎて、どんどんサブカル的なものから離れていってしまった。ライブにもぜんぜん行かへんし(笑)。あまりに居心地がよくて、それから今までずっと、茫漠とこの街で生きてきたような感じですね。

学生時代に飲み屋さんでバイトをしていたとき、お客さんに東京で雑誌『POPEYE』の編集をされていた方がいらっしゃって、「最近東京から京都に帰ってきて、新しく立ち上げるリージョナル誌の編集長になるから、もし興味があったら何か記事を書いてみない?」と誘ってもらったんです。そこからライターの真似事のようなことを始め、今にいたります。

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「パリッコさんカレーがお好きでしたよね?」と、指にはさりげなく「らっきょう」の指輪が

出汁を味わう料理の数々と、お気に入りの「日本酒ロック」

さてここからは、注文をなるべく勝手知ったる泡さんにお任せし、京都の大衆酒場をじっくりと味わっていこう。

:もともとこのお店は、いわゆる「銘酒酒場」といわれるようなお店だったんです。それを、今メインでお料理をつくってらっしゃる2代目が継がれて、店名も今の「たつみ」に変えられた。そこからだんだん、奥さんや娘さんたち、ご親戚などが協力する家族経営の大衆酒場になっていったんですって。

料理もどんどん増えていって、今では100種類以上あると聞いてます。割とクラシカルなメニューは2代目がしてはるんですけど、「トマト天ぷら」みたいな創作ものは、その奥様が開発してらっしゃるそうです。

若いころはこの店、酒飲みのプロ的なおっちゃんばかりで、怖くて入れなかったんです。それよりさらに昔は、このあたりは男性の歓楽街で、女性がひとりで歩くような場所ではなかった。飲み屋さんの客筋も荒くて、けんかなんかも当たり前だったらしいです。だけど街も時代とともに変化して、人の流れが変わって、今やこのあたりはすっかり観光地ですよね。

ただ、京都って東京や大阪と比べると昼飲みできるお店はぜんぜん少ないんです。ましてやこういう大衆酒場となるとものすごく貴重で。

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必ず頼むのはこれ

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「季節のおひたし」(280円)

この日はホウレン草とエノキのおひたし。さりげない一品ながら、ふわりと上品な出汁が香り、ちょっと感動的な美味しさ。

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「はも皮」(280円)

ハモも関西を代表する食材。旬は夏だが、この店の「はも皮」は通年あるそうで、泡さんのお気に入り。独特の食感と旨味が理想的なつまみだ。

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「いもぼう」(480円)

これまた京都の名物料理。「棒鱈」と呼ばれる干したタラと小芋(本来は海老芋)を合わせたもので、タラの身に凝縮された旨味と、小芋の優しい味の組み合わせが、しみじみうまい。

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「鳥ねぎま天ぷら」(380円)

珍しい、焼鳥のねぎまを天ぷらにしたもので、カラシ醤油で食べる。カラシたっぷりが泡さんスタイル。 

言われるがままに食べてみると、なんでこれがもっと一般的じゃないんだろうという美味しさ。キリッとした醤油味とツーンと効くカラシ、いかにも酒飲み好みの味。

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この幸せそうな顔。やっぱり信頼できる人だ

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店の造りに、銘酒酒場時代の名残が

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飲みやすいハイリキが快調に空いてゆく

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店の名物兄さんとはツーカーの仲

泡さん、そろそろハイリキから日本酒に移行するとのことで、僕もそれに乗る。すると、これまたお気に入りの飲みかたがあるんだそうで……。

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ハイリキを飲んでいたグラスにそのまま注いでロックに!

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清酒(380円)

これぞ、泡☆盛子スタイルの日本酒ロック。あえてグラスをすすいでもらったりはしていないので、ほんのりとハイリキ由来の爽やかな香りも加わり、あまりにもスイスイ飲めてしまう危険な一杯だ。これからの季節には特にぴったりだろうな……。

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泡さんとのおしゃべりは、誰もが楽しそう

:京都、住みやすいですね。田舎者なので、やっぱりこのゆっくりとした雰囲気がいい。それから食べ物が美味しすぎて。おかげで私、京都に来てから50キロも太っちゃったんですよ(笑)。

やっぱり「お出汁もの」は定番ですね。京都といえば、おばんざいや料亭というイメージをもってらっしゃる方も多いと思うんですが、例えばこういう庶民的なお店でも、丁寧にとった出汁をきちんと利かせてあるんです。調味料ではなくて、出汁の味メインで料理を組み立てるというか。

それから京野菜をはじめとした地のものが豊富で、季節感がきちんとある。そういうものが当たり前なことが、よそから来た自分としてはすごく贅沢に感じます。

とはいえ、若いころはそんなことには気づいていなくて、なんだか美味しいな、食べやすいな、くらいの感覚だったんです。ところがだんだん年齢を重ねると、あ、こういう理由があったんだ、というのも分かってきて。今や実家に帰っても「そろそろ京都の味が恋しいな……」って思ってしまうくらいなんで(笑)。そんな気分のとき、まずここへ来れば割となんでもあるので、本当に好きなお店ですね。

鴨川の河川敷でチェアリングタイム

続いて、近くのアーケード商店街「新京極」を散歩しつつ、鴨川の河原へ向かう。

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取材は1月だったので、まだ正月ムード

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こういうのに目がないところも趣味が似ている

我々がなぜ鴨川へと向かっているか。

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それはもちろん

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チェアリングするため!

あいにくの曇り空だけど、広い河原はやっぱり気持ちいい。

ここでいったんひと休み、といいつつ、もちろん酒は飲むわけで、つまみは事前に泡さんにおすすめを聞いて買っておいた、京都「志津屋」のサンドイッチだ。中身はビフカツとオムレツサンド、この豪華な相盛りが、なんと500円! 玉子サンドの玉子が分厚いオムレツタイプなのは、京都の昔ながらの喫茶店に多いスタイルだそうで、ランチにはもちろん、酒のつまみとしての実力も抜群。

気鋭の新店が多いのも京都のおもしろさ「レボリューションブックス」

続いて向かうのは、鴨川からすぐの場所にある「レボリューションブックス」。ここにきて、本屋?

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街並みが常に絵になる

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「レボリューションブックス」に到着

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高い天井が気持ちのよい店内

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うん、やっぱり本屋だ

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恥ずかしながら、拙著を発見(『パリッ子の食卓』は僕とは関係ありません)

実はこの店、ただの本屋じゃない。さすがの泡さんチョイス、食関連の本専門の本屋でもありながら、立ち飲み屋でもあるというすごい店なのだ。

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本好き、酒好きにとっては夢のような空間

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メニューも絶妙に気になるものばかり

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真っ黒に染まった豆腐があまりに僕好みな「煮込豆腐」(280円)

その見た目に反し、適度に上品な味わいで、「直管サワー」(340円)の爽やかさとの対比がいい。
ちなみに店主さんによると「直管」の由来は、バイクや車のマフラーからサイレンサーを外して爆音が出るように改造した「直管マフラー」から。「シロップとか余計なものを加えずに管から直接出したままのサワーなので」とのこと。

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「ここに来るとつい本も買ってしまうんですよね」と泡さん。この日は福丸やすこ先生の漫画『海の見える台所(1)』を

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「エレベーター」(300円)

泡さんが「なんやと思います?」と注文した、謎すぎる「エレベーター」なる品がやってきた。見た目は炙った油揚げにたっぷりの大根おろし。

これ、“あげ”と“おろし”、つまり“あげおろし”のシャレからつけられたメニューで、京都の酒場には昔からちらほらと存在するんだそう。

由来はダジャレだけど、ジュワッと醤油を回しかければ、そりゃあ間違いなくうまい。

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酒場のエレベーターガール

締めくくりは老舗ビヤホール「ミュンヘン」へ

いよいよ日も暮れはじめ、街がいっそう色気を増してきた。

最後に向かうのは創業70年以上になるという老舗ビアホールだそう。最後にビールに戻ってくるあたり、何度も言うがやっぱり信頼できる酒飲みだなぁ、泡さん。

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これがごく平均的な街並みなんだから参ってしまう

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ビヤホール「ミュンヘン」

ビールにはもちろん老舗ならではのこだわりがある。この店で扱うのは「アサヒビール」がメインだが、最も一般的な「スーパードライ」ではなく、通称「マルF」と呼ばれる、スーパードライ誕生以前の樽生ビール。ほかではなかなかお目にかかれないこのビールを、温度管理、注ぎかた、ジョッキの口あたりなど、細部にまで徹底的にこだわって提供している。

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「生ビール マルF 小ジョッキ」(660円)とお通し

小ジョッキとはいえ、一般的な中ジョッキのサイズで、その上にも「中」「大」「ジャンボ」と続く。マイルドでコク深いのにキレ味も鋭く、ものすごくうまいビールだ。ハシゴ酒の最後にこの爽快さ。泡さんについてきて良かった!

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ポップコーンはお土産にも買えるミュンヘン名物

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軽快に揚がった「名物 若鶏の唐揚」(920円)との相性が問答無用!

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最後まで幸せそうに飲み続ける泡さんだった

:なぜ京都の街をこんなに気に入って、長く住んでいるのか。

そもそも予備知識がなかったのが良かったのかもしれませんね。石垣島という、日本のなかにあって日本じゃないような土地から、“ザ・日本”な京都に移り住んで、なんでもギャップ。すべてが新鮮。だって、最初は四季があることに驚いてたくらいですから。「着るものっていろいろいるんや〜」って。

私はいまだに、自分がまだ学生のままでいるような感覚があるんです。20年以上も住んでいるけど、家庭を持っていないこともあって、根付かずに京都を漂っているという感じ。

だから今日巡ったような、「いることを許してくれる」って感じさせてくれるお店は、とても居心地がいいし、京都にいる意味があるなって思わせてもらえるんですよね。

今回、あらためて泡さんとハシゴ酒をさせてもらって、ほんの一端ではあるかもしれないけれど、彼女の人間的な魅力の秘密を知ることができた気がした。
京都という街を楽しみ、京都という街に漂う。そして心の底から幸せそうに酒を飲む。

同世代であろう自分がすっかり失ってしまった純粋さのようなものが、泡さんのなかにはまだまだ満ちていて、それがオーラのように輝いている。

酒飲みとして初心に帰りたくなったら、また京都に飲みに行くことにしよう。


※取材は2020年1月に行われました。

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著者:パリッコ

パリッコ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』など。

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