池袋が近年、ますます愛おしい。駅のシンプル構造、動きやすさ、書店と食関係の充実、買い物至便…通って35年のライターが語り尽くす池袋の魅力!|文・白央篤司

著: 白央篤司
池袋をほめたい。
そんな思いがこのところ膨らんできて、仕方ない。簡単にいえば、「動きやすく」「使える」からなのだ。まずもって、電車のホームから目的地までスッと行きやすいのが本当にありがたい。というのも、池袋駅の構造がシンプルそのものだから。


池袋駅図

あまりにもざっくりだけれど、これが池袋駅の構造図である。直方体の箱に3つの通りがあり、大まかに東側か西側に出るだけ、という明快さが年々……いとおしくすら思えてくる(※北口とかもあるけど、あくまでざっくり書いてます)。
新宿や渋谷に比べてなんと動きやすく、分かりやすいことか。そして地上に出る高低差もJRなら1フロア分だけ。それだけの移動でスッと目的地に行ける、この「動きやすい」点がたまらない。


右がジュンク堂書店 池袋本店、ビル1棟が書店になっている

そして「使える」ということに関して。

個人的にいちばん魅力的なのは「書店充実のまち」ということ。売り場面積が2千坪のジュンク堂書店 池袋本店、そして駅直結の三省堂書店池袋本店という大型書店がふたつあり、さらには駅すぐのルミネにくまざわ書店、駅直結の東武デパートに紀伊國屋書店もある。

今の時代、ひとつのまちで書店めぐりができるというのは最高に贅沢だ。「気になる本と偶然出合いたい」「本を物色したい」人のためのまち、池袋。リアル書店は「さほど興味ないジャンルだけど……なんかこれ、気になる」という本との出合いが生まれやすい。また駅から鬼子母神方面にちょっと歩くが、すばらしい品ぞろえの『古書 往来座』という古書店があることも書き添えておきたい(ここは映画関係の本が特に強い!)。

家電量販店も池袋は充実かつ行きやすい。駅からすぐのところにヤマダデンキ、ヨドバシカメラ、ビックカメラとあり、東武デパートにはノジマもある。そして駅直結のデパートというのも今や貴重だ。デパートっていいものだなとこの頃、あらためて思う。“それなりのもの”、ショッピングモールとはまた違うラインのメーカーやブランドを一度に見られることがありがたい。

ちょっとかしこまったときの手みやげを買うにもいいし、私は池袋東武なら『木屋』などでキッチン関係のものをよく見ている。タイミングによっては結構なセール価格になっていて、今使っている銀杏製のまな板など、かなり得をした。それから地下の『菓匠 花見』や『仙太郎』で和菓子もよく買うし、『一保堂茶舗』で質のいい茶葉などを買って、たまに『あんみつ みはし』のイートインに行ったり、プラザ館地下の『サンマルコ』でカレーを楽しんだり。関西で人気の『サンマルコ』、東京ではここでしか食べられない。カツカレーにほうれん草トッピングが好きなんだな。コクはあるけど軽めのルーが胃にやさしく、さっくり薄めのとんかつが私にはうれしい。


池袋駅で利用できる路線。副都心線は駅中央部からちょっと歩きます

池袋に注目するようになったのは数年前、南池袋エリアをウロウロしたときからだ。ジュンク堂で資料本を買ったあと、せっかくだから周辺をぶらつくか……と歩き出してみたら、気になる飲食店の多いこと。


ジュンク堂書店のすぐわきにある東通り

東通りと呼ばれる道を進んでいくと、まず気になったのが『ラシーヌ ブレッド&サラダ』というお店で、広く取られた入口においしそうなパンとドーナッツがずらり並んでいる。サラダと共にいくつか買って食べてみたら、これがおいしい。オリジナルドレッシングのファンにもなってしまった。そして若いお客さんの多いこと、周囲にはいくつか専門学校があるから、そこの学生さんだろうか。

東通りはタコス店やモダンダイニング的なベトナム料理店も人気で、その間には歴史を感じさせる庶民的な中華料理店や理髪店も元気に営業中。新しい店と年季の入った店が混在している通りはいいものだ。個人店が元気そうなのはうれしい。


鬼子母神の夏市の張り紙がいい味出してました

ちょっと脇に入れば、池袋ランドマークのひとつ『タカセ』(大正9年創業、駅前すぐの洋菓子店でベーカリー、レストランや喫茶スペースもある)の喫茶店や、中国茶専門店の『梅舎茶館』もある。また、どら焼きで有名な『すずめや』もこのエリアにあるんだが、いつ行っても売り切れでなかなか買えない……。ともかく、寄りたくなるような店がわりとあちこちにあるんだな。


『梅舎茶館』で買った中国茶。店内にはカウンターの喫茶スペースもある


池袋のランドマークのひとつ、サンシャイン60をのぞむ南池袋公園

先の『すずめや』の近くには南池袋公園があり、芝生スペースが広大で気持ちいい。『ラシーヌ ファーム トゥー パーク』というカフェが併設され、モーニングから夜まで営業している。名前のとおり、先に紹介した『ラシーヌ ブレッド&サラダ』の系列店だ。

テラス席もあって、涼しい時季は外でランチを食べる人も多い。フリーエリアはお昼時にパンやお弁当を食べる会社員や学生でにぎわう。うーん、池袋らしからぬ……なんて言ったら失礼だが、都会的というかアメリカのドラマに出てきそうな雰囲気がちょっとあるんだ、ここ。

とはいえ、公園から出て数歩も行けば昼飲み可能な居酒屋もあり、明るいうちからお酒を楽しむ人の姿も。赤ちょうちん揺れる昔ながらの、猥雑な池袋っぽい感じの一画とモダンな公園が隣り合っている。こんなギャップに、私は惹かれてしまう。現代的なビルのはざまに、風情のある古い雑居ビルも残っている。古い建物が多いほど、まちの“顔”は味わい深く、そぞろ歩きが面白くなる。

行き交う人々の年齢層が幅広くて、属性も様々。「いろんな人が居ていい」というリラックスした感じを私は南池袋に感じる。この“るつぼ”感というか、ミックスカルチャーと多様性の感じられる点が好ましい。新宿や渋谷が失ってしまったものが残っていると思えてならない。


南池袋エリアに並ぶビル

南池袋は駅の東口サイドだが、反対側の西口サイドも多様に楽しめるエリアだ。最近では「ガチ中華」なんて言われるお店の急増が話題になったけれど、西口のランドマークといえばやっぱり東京芸術劇場ではないかと。私はクラシック音楽も好きなんだが、このホールではショパンコンクールの優勝者や、今は亡き不世出のソプラノ、ジェシー・ノーマンのリサイタルも聴いた。駅から徒歩3分ぐらいのところに劇場がある、というのは実に豊かなことだと思う。さらには鑑賞を終えてすぐに食事やお酒を楽しめるのもうれしい。劇場といえば池袋にはミニシアターとして歴史のあるシアターグリーンもあるし(※こちらは東口サイド)、寄席の池袋演芸場もある。エンタメ的にもバラエティ豊かだ。


東京芸術劇場の手前にある池袋西口公園。園内にあるカフェはビールやワインも結構手頃な価格で飲める。駅周辺に公園が多いのも池袋のいいところ

西口の飲食店も数多いけれど、私が好きなのはまずベトナム料理の『フォーベト』、ランチが人気でいつ行っても混んでいる。ただ15時までランチ営業なので、スッと入りたいときは遅めの入店を狙いたい。ナポリピッツァの『BORSA』も人気でしょっちゅう行列ができている。ああ、ここの具だくさんサラダとにんにく香るマリネ―ラ・ピッツァでまたビールが飲みたい……。駅西口からだいぶ歩くけれど、絶品豆腐と油揚げの『大桃豆腐店』は池袋の至宝のひとつ。豆腐好きならぜひ一度クーラーバッグ片手に訪ねてみてほしい。

池袋の宝といえば個人的には、新・文芸坐も推しておきたい。こちらは東口サイド、名画座を今の時代に続けてくれているありがたさよ。はじめて行ったのは高校生の頃、情報誌の『ぴあ』でその存在を知ったんだったな……。今はきれいなビルになったが、当時は古びた建物で独特のにおいがしたような。思わず、遠い目。バイト代片手に「自分ひとりでどこかに入る」ということ自体がもう楽しかった。池袋にあったCDショップの『WAVE』や書店の『リブロ』でどれだけの放課後を過ごしたろう。このアルバムもほしい、あの本もほしい……とか思いながら買える範囲で何を選ぶか、悩み抜いた時間は今の私の一部を創っているように思える。『リブロ』はとにかく選書がカッコよかった。そしてドリカムのアルバム『The Swinging Star』は『WAVE』で買ったなあ。最初にプレイヤーにかけたとき、「新しい時代の音楽だ!」と興奮したんだった……。


池袋駅東口、カフェ『ROMA』のあったあたり

十代の後半を埼玉の川越で過ごしたので、東京の入口といえば池袋。駅東口を上がってすぐ目の前、今はドン・キホーテがあるあたりに『ROMA』という名の小さなカフェがあった。メニューを開くと、何かのアメリカ映画で知った「カプチーノ」という飲みものがある! 実態がなんなのかも分からないのに「飲んでみたい」と強く思い、頼んでみた。
運ばれてきたのはカフェオレみたいなのに、シナモンスティックが添えてある。高校生の私はそれがシナモンスティックだなんて知るわけもない。お店の人に「なんすかこれ?」と訊くのも恥ずかしい。「お菓子のシガールみたいだな……アイスにウェハース添えるみたいなもんか?」とか思った私は、思いっきりシナモンスティックを噛んでしまったのだった……!

まあ硬かったのなんの、痛かったなんてもんじゃなく。
歯からずきーんと痛みが響いてきて、お店の人に見られてないかと焦って。池袋東口に上がるとたまに思い出す、カフェ『ROMA』のこと。いつぐらいまであったんだか、もうビルごと無くなってしまった。そして“カプチーノ”という響きにわくわくしたような気持ちが自分の中に無くなっていることにも気づかされてしまう。

あ、池袋の東口には素敵な喫茶店が残っていることも書いておきたい。『皇琲亭』というお店は1983年創業、駅すぐの立地なのに本当に静かで、気持ちの鎮まるお店。私の本のうちの3冊はここでの打ち合わせから生まれた。


線路を挟んで右が西口サイド、左が東口サイド

帰り際、買いものをするにも池袋駅はすごーく便利な場所である。駅地下にある池袋ショッピングパークはスーパー並みの値段で、質のいい野菜や魚介も買えるのがありがたい。南館の『こだわりや』は、『蒲鉾本舗 矢野傳』のおいしいさつま揚げをおいてくれているのでよく買っている。「じゃこ天ぷら」は魚を食ってるなあ……としみじみ来るうまさ。すり身ファンはぜひお試しを。

日本各地のおいしいものなら西武デパートの地下1階「諸国名産 味小路」コーナーも重宝しており、私はよく『奥井海生堂』のだし用昆布をここで買っている。と、池袋語りは尽きない。他にも推し店はたっくさんあるんだが、まあ今回はこのへんで。

※三省堂書店池袋本店は、2026年12月31日に閉店することが本記事の校了中に発表になりました

著者:白央篤司

白央篤司

フードライター、コラムニスト。1975年東京都生まれ。兵庫、宮城、埼玉で育つ。主な著書に「自炊力」(光文社新書)、「台所をひらく」(大和書房)、「はじめての胃もたれ」(太田出版)など。「CREA」「クロワッサン」のウェブサイト、「朝日新聞ウィズニュース」などでコラム連載中。旅、酒場、古い映画好き。
Instagram:@hakuo416
note:https://note.com/hakuo416

編集:スーモ編集部