シンガーソングライター・butajiさんの暮らす街「駒込」【教えて!あなたの街の飲み心地】

著: パリッコ 

f:id:SUUMO:20190708161825p:plain

酒場ライターのパリッコさんが気になる街へ行き、そこで暮らす人と楽しく飲みながら街の魅力を探る企画「教えて!あなたの街の飲み心地」をお届けします。

 

◆◆◆

 

共通の知人を介し、シンガーソングライターのbutajiさんと初めてお酒を飲んだのは、3、4年前のことだっただろうか。


もちろん、ミュージシャンとしてはそれ以前から知っていた。

その、あまりにも真摯に音楽と対峙する姿勢のせいか、寡黙で、ぼそりぼそりと言葉を選びながら、しかしすさまじく切れ味のある言葉を日常的に紡ぐような想像をし、勝手に緊張していたら、普段のbutajiさんはむしろ真逆の印象だった。

顔をクシャッと崩してよく笑い、酒を飲みながらとことんくだらない話に付きあってくれる。

上品で物腰が柔らかく、ついつい同世代か、むしろ後輩のような気持ちで接してしまうのだけど、たまに、実は自分より10歳も年下であることを思い出してはびっくりする。

そんなbutajiさんと一緒にお酒を飲む時間は、心の底から楽しい。

昨年リリースした2ndアルバム『告白』が、音楽ファンのみならず数多くのミュージシャンたちからも高い評価を得、そしてまた、僕も狂ったように聴きまくった。
聴けば聴くほど深く、心地よく、本当にすごい作品。
だからこそbutajiさんが、雲の上の存在になってしまったような気もしていた。

今回、彼が暮らす街「駒込」にお邪魔して、ちょっと久しぶりにゆっくりとお酒を飲ませてもらったところ、やっぱりbutajiさんはbutajiさんのままで、とてもうれしくなったのだった。

 

f:id:SUUMO:20190708204856j:plain

JR駒込駅にて

 

butajiさんと合流し、まずは駒込の街を気ままに散歩する。

 

f:id:SUUMO:20190709113859j:plain

絵になる男

 

東京都豊島区にあり、JR山手線と東京メトロ南北線の2路線が通る「駒込駅」。

駅からほど近い都立庭園「六義園」は、歴史ある大名庭園で、観光名所としても有名。

また、駅周辺には「霜降銀座商店街」「駒込銀座商店街」「染井銀座商店街」など、昔ながらの商店街が多くあり、庶民的な雰囲気が魅力の街でもある。

 

f:id:SUUMO:20190708204929j:plain

中でもbutajiさんがよく行く店が多いという「アザレア通り商店会」

 

僕も個人的に好きな飲み屋がいくつかあるこの商店街を、ああだこうだと言いながら散歩していたら、一軒の古い商店のような建物が目に入った。

興味を持ち覗いていると、女将さんが「どうぞ好きに見てってね」と招き入れてくれる。

 

f:id:SUUMO:20190709105345p:plain

雑多な雰囲気に妙に惹かれる

 

f:id:SUUMO:20190709104308p:plain

女将さんとbutajiさん

 

ここはかつて「三枝海苔店」という老舗の海苔店だった建物で、時代の流れにより閉店してしまったが、この通りがシャッター商店街にならないよう、日中は女将さんがご好意でオープンな状態にしているそう。

店内は歴史ある道具などで溢れていて、butajiさんの誰にでも気に入られてしまう笑顔のおかげか、女将さんはそのひとつひとつについて丁寧に説明してくれた。

気候も良く、この街の雰囲気自体がとても心地よいので、まずはコンビニでお酒を買って、高台にある公園で乾杯することに。

 

f:id:SUUMO:20190709113935j:plain

愛嬌のある猫

 

f:id:SUUMO:20190709113956j:plain

その毛づくろいを眺めながら

 

butaji:「僕の出身は、ここからもそんなに遠くない板橋区です。板橋区役所のあたり。

家を出て初めに住んだのは埼玉の川口でした。もともと住む場所にはそんなにこだわりがないんですよね。川口を選んだのも、家賃が安かったからというだけ。

そこがちょっと手狭になってきたところで、今の家、つまり駒込に掘り出しものの物件を見つけて引越してきました。間取りもちょうどいいし、家賃もかなり手ごろだったので。そこに住み始めて今年で4年目ですね。

駒込の印象は……とりあえず、人が多いですね(笑)。商店街がたくさんあって活気があるし、最近は外国人観光客もすごく多いですよ。やっぱり「六義園」があるからなのかな? とはいえ、個人商店は早めに閉まってしまうので、夜は意外と静かです。

文京区側はオシャレな雰囲気で、北区側はどちらかといえば庶民的。両方の文化が楽しめるのもポイントですね


気さくな大将に癒やされる大衆酒場「もつ田」

さて、いよいよ本腰を入れて飲み始めよう。

やってきたのは、butajiさんの行きつけだという「もつ田」というもつ焼き屋だ。

 

f:id:SUUMO:20190709114020j:plain

「ここが好きなんです」

 

f:id:SUUMO:20190709114039j:plain

「大将、ホッピーもらいますね」

 

さすが勝手知ったる店。

冷蔵庫から自分でホッピーの瓶を取り出す動きが極めてスムーズで、なんとも頼もしい。

 

f:id:SUUMO:20190709114101j:plain

至福の時間!

 

初夏の夕方の涼しい風がよく通る店内にて、ホッピーで乾杯!

人生における究極に幸せな瞬間のひとつに間違いない。


以前ふらりと入ってみて以来、料理の美味しさ、リーズナブルさ、何より大将の気さくな人柄を気に入って通うようになったというこちら。

確かに、気どらずにリラックスできて、あまり懐を気にせず楽しめる、理想的な大衆酒場だ。

 

f:id:SUUMO:20190709114129j:plain

「いや〜、最高ですね……」

 

butaji「僕の活動を応援してくれる方々はたくさんいて本当にありがたいんですが、音楽はまだまだ生活の中心とはいえない状況です。別に仕事もしていますからね。

だから、音楽活動に関わるオファーがきたら、どうしてもスタート時間は仕事が終わってからになる。やり始めるととことん集中してしまうほうなので、どんどん生活サイクルが乱れていっちゃうんですよね。その折り合いをつけなきゃっていうのが、目下の悩みです。

食事は基本自炊なんですが、「エネルギースーパーたじま」っていうスーパーが、24時間営業なので、ものすごく重宝してます。安いし、名前もなんだかかっこいいし(笑)」

 

f:id:SUUMO:20190709114158j:plain

なぜふたりに対しておしぼりを4つも出してくれたのかを聞いたら「オレ、butajiくん応援してるからさ!」と大将

 

f:id:SUUMO:20190709114217j:plain

butajiさんにスマホの使い方の分からないところを聞く大将

 

f:id:SUUMO:20190709114232j:plain

刻んだミョウガが今日の気分にぴったり

 

f:id:SUUMO:20190709114255j:plain

1本100円〜の焼鳥/もつ焼きも絶品。特にオリジナルの「カレーつくね」はクセになる味

 

f:id:SUUMO:20190709114325j:plain

「ナカの量が多い店は正義ですよね」

 

f:id:SUUMO:20190709114352j:plain

(恥ずかしいからと正面の写真はNGだった)大将、良い時間をありがとうございました!

 

新規開拓、スパゲッティ&ワイン

butaji「良さそうなお店の新規開拓、最近はあまりできてないけど、ちょっと前まではよくやってましたね。でもあれってけっこう勇気がいりません? 初めてのお店ってどうふるまったらいいかが分からないことも多いし。だから、2、3軒目からになりますよね。まずは知ってる店で飲んで、下地をつくって(笑)」


そんな話から、今日の2軒目以降は「新規開拓コース」で攻めてみようということになった。

せっかくならば、普段なら選ばなそうなお店で飲んでみるのが楽しそう。

そうして飛び込んでみたのは「むぎわら」というスパゲッティ屋さん。

 

f:id:SUUMO:20190709114415j:plain

気分を変えて白ワインで乾杯

 

まさに「スパゲッティ屋さん」と呼ぶにふさわしい、昔ながらの街のイタリアンといった趣で、おつまみ向きの単品料理もいろいろとそろっている。

 

f:id:SUUMO:20190709114439j:plain

旨味が飽和状態の「3種のきのこのガーリックバターやき」(480円)

 

f:id:SUUMO:20190709114456j:plain

メニューに「一番人気のスパゲッティ」とあった「ミートソース」に、おすすめだという「なっとうトッピング」を追加(1150円)

 

f:id:SUUMO:20190709114516j:plain

麺にソースをよ〜く絡めて……

 

するとこれが、驚くべき美味しさ!

甘酸っぱく旨味濃厚なミートソースに納豆のコクがベストマッチで、フォークに巻きつけてはバクバク、ワインをゴクゴク、とてもお上品になんて食べていられない、これぞ庶民のごちそうスパゲッティだ!

 

f:id:SUUMO:20190709114534j:plain

「ご主人、また食べにきます」

 

さらにディープに街探索

 さて、お腹も酔い心地もずいぶん満足してきたが、もう一軒くらいどこかで飲んで帰りたい。

 

歩いても歩いても興味深い店の途切れない駒込の街。

「ここだ!」というお店を探し求め、我々の探索はさらに続く。

 

f:id:SUUMO:20190709114555j:plain

「中華屋、いいですね」

 

f:id:SUUMO:20190709114613j:plain

なんだかすごそうな店

 

f:id:SUUMO:20190709114628j:plain

夜の街とbutajiさん

 

徘徊の末、我々の目に止まったのは、とある立ち飲み屋。

窓に貼られた「焼鳥 100円」のどこか素っ気ない文字と、「逆転クラブ」という変わった店名に、強烈な魅力を感じる。

 

f:id:SUUMO:20190709114647j:plain

立ち飲み「逆転クラブ」

 

もはや入ってみるしかない。

ここから、共通の友達であり、バンド「チミドロ」のラッパーとして活動するハナイさんも合流。

 

f:id:SUUMO:20190709114707j:plain

最高の笑顔

 

結論から言えば、ここがまたすさまじい名店だった。

お酒も料理もごくごく大衆価格で、どこにでもあるようなオーソドックスな立ち飲み屋に違いない。

そして、そんな店が今の気分にぴったり。

なんて油断しながら飲んでいたら、カウンター上に垣間見える他のお客さんが注文した料理たちが、なんだかやけにキラキラしているのだ。

 

f:id:SUUMO:20190709114736j:plain

お皿の上だけ老舗洋食屋の雰囲気

 

そこで試しに、名物のひとつらしい「ピザ」(小 400円)を注文してみると……。

 

f:id:SUUMO:20190709114756j:plain

本気の焼きたてピザ!

 

あまりに美味しく、4切れが一瞬でなくなる。

こうなってくるとなんでもかんでも食べてみたくなるけれど、胃の残り容量もあとわずか。

検討に検討を重ね、ラストのオーダーは、メニュー名から並々ならぬ自信を感じる「逆転勝ち特製ハンバーグ」に決定。

 

f:id:SUUMO:20190709114816j:plain

やがて目の前に広がった、夢のような絶景!

 

どこからどう見ても美味しそうな肉厚ハンバーグの周囲に、色とりどりの副菜たち。

ポテトと春巻は揚げたて。

なんとこれで450円だというんだから、とても信じられない。

 

f:id:SUUMO:20190709114835j:plain

こんなにいいものをつまみに飲んでいいんでしょうか……

 

さらにここで、陽気なアジア系の女性店員さんから「ご飯あるけど、食べる?」との追い打ちが。

もちろんサービスだそうで、そんなご好意、受けないわけにはいかないでしょう。

 

f:id:SUUMO:20190709114854j:plain

つまりこういうこと

 

f:id:SUUMO:20190709114909j:plain

「……(笑)」

 

f:id:SUUMO:20190709114937j:plain

ご飯をくれた店員のお姉さん

 

f:id:SUUMO:20190709114955j:plain

ただ者じゃないマスター

 

探そうとしてもたどり着けるかどうか分からない、こんな奇跡のような出会いがあるから、飲み歩きはおもしろい。

そしてなんといっても、駒込最高!

今宵の縁をくれたbutajiさんにも、心から感謝するのだった。

 

butaji「そういえば、好きな酒場の話をもうひとつ。駒込に有名な『ロスコ』というサウナがあって、近くに『駒込食堂 じみち』って食堂も経営してるんです。そこも24時間やってる。とにかく生活時間が乱れまくってるので、24時間営業のお店が大好きなんですよね(笑)。

深夜に音楽の仕事をずっとやっていて、それが形になると、やっぱりどうしても打ち上げをしたくなるじゃないですか。そういうときにひとりで行っては、しみじみと飲む。

ごく普通の食堂兼居酒屋なんですけど、一品一品すごく丁寧なんですよね。お酒は瓶ビールの日もあれば、「トマトハイ」とか「アールグレーハイ」みたいなものを頼む日もある。定食、丼もの、つまみ系も充実してるし、ラーメンも3、4種類くらいある。気分によって頼みかたは多岐にわたるんですが、それを受け止めてくれる懐の深さがいいんですよ。日替わりのボードメニューがまた魅力的で!

あぁ、こうやって思い返してみると、あそこも本当にいい店だなぁ(笑)」

 

f:id:SUUMO:20190709115017j:plain

「じみち」店頭の日替わりボードメニュー

 

f:id:SUUMO:20190709115036j:plain

こうして駒込の夜は更けていった

 

f:id:SUUMO:20190709115053j:plain

butajiさん、また飲みましょうね!

 

賃貸|マンション(新築マンション中古マンション)|新築一戸建て|中古一戸建て|土地

 


著者:パリッコ

パリッコ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメイカー。酒好きが高じ、2000年代後半よりお酒と酒場に関する記事の執筆を始める。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』『ほろ酔い!物産館ツアーズ』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』など。

Twitter 公式サイト