山田ルイ53世×カツセマサヒコ『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』出版記念トークイベント

執筆: 榎並紀行(やじろべえ) 写真:小野奈那子 

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2019年12月に出版された『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』(SUUMOタウン編集部監修、ポプラ社)。雨宮まみさん(西新宿)、岡田育さん(四谷)、patoさん(八王子)、ヨッピーさん(渋谷)など、多様な執筆陣が、思い入れの深い東京の街について綴っています。

今年2月には、書籍化を記念したトークイベントも開催。本書にエッセイを寄稿した山田ルイ53世さん(中目黒)、カツセマサヒコさん(荻窪)が、東京の街をテーマに対談しました。二人にとっての思い出の地である下北沢(本屋B&B)で行われたイベントから、一部内容を抜粋してお届けします。

敷居は低くない。それでも若者が集まる下北沢

山田ルイ53世さん(以下、山田):下北沢は久しぶりです。若いころはよく「しもきた空間リバティ」っていう劇場に出てたんですよ。そこで、貴族のお漫才というネタが産声を上げたんですね。2005年くらいかな。僕ら「髭男爵」ってコンビで2008年にまあまあ売れたんですよ。下北のライブに出ていたのは、その少し前ですね。

カツセマサヒコさん(以下、カツセ):僕は前に勤めていた会社が下北沢にありました。今もあるんですけど。駅北口からすぐの、雑居ビルの4階です。当時、再開発のマップ内に会社も含まれていて、つぶれるんじゃないかってドキドキしてたのを覚えています。20代後半は昼夜逆転で、ずっとそこでライター仕事をしていました。美味しいお店とかには、全然詳しくならなかったですね。

山田:僕もお店はあまり知りません。ライブ後にたまに居酒屋行くくらいだったんで。下北沢で名店っていうと、どこになるんですかね。茄子おやじ、都夏、そると、そのへんですか。

カツセ:有名店はあるんですよね。でも、下北沢の知る人ぞ知るお店とかは、敷居が高い印象があって。「オープン」って書いてあるのに、クローズにしか見えないお店が多いんですよね。

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山田:若者の街みたいなイメージあるけど、そんなに物価も安くないし。

カツセ:そうなんですよね。だから、不思議な街だなと思って。下北って若手の芸人さん、バンドマン、作家さんとか、売れてない人がたくさん集まって切磋琢磨してる街じゃないですか。そのわりには家賃も物価も高い。お金がない人たちがたくさん住んでいるはずなのに、激安店とか全然ないんですよ。学生っぽさがないというか。下北でご飯おかわり自由の店を見つけるの、めちゃくちゃ難しいですからね。前にランチタイムはアボカドがおかわり自由になる店があったんですけど、見事につぶれてしまいました。食べ放題が馴染まない街なんですかね。

山田:まあ、そもそもアボカドって量食べるもんでもないし。でも古着は安いんじゃないですか? 僕はあまり着ないけど、下北は古着の街で有名なイメージがある。

カツセ:古着は安いですね。シャツが400円で買えますよ。

山田:あ、ちなみにね、スギちゃんがあの衣装を見つけたのは下北沢だそうです。劇場の出番前に街を散策してた時、古着屋の店頭に飾ってあるのを見て「これやー」と思ったらしい。で、ワイルドキャラでものすごく売れたじゃないですか。あの年、アパレル業界がデニムのベストだかセットアップを流行らせようとしてたのに、スギちゃんのイメージがついて思惑がつぶれたらしいですよ。いろんな店から悲鳴が起こった。いっぱい入荷したのに、全然売れへんって。

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【山田ルイ53世】 本名、山田順三。お笑いコンビ・「髭男爵」のツッコミ担当。1975年兵庫県生まれ。地元の名門・六甲学院中学校に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て、愛媛大学法学部に入学、中退。99年、ひぐち君と髭男爵を結成。主な著書に『ヒキコモリ漂流記 完全版』(角川文庫)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)がある。「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」(文化放送)をはじめとしたラジオのフィールドでも活躍、毒舌交じりの話術に定評がある。

中目黒はポン酢をジュレにしたがる街?

カツセ:山田さんって人生も波瀾万丈ですけど、住んできた街の変遷もすごいじゃないですか。語ればいくらでもエピソードが出てくる。『わたしの好きな街 独断と偏愛の東京』の書籍で、どの街を出してくるんだろうって興味がありました。

山田:僕の中で一番強いカードは北大塚の3畳8000円の家なんですけど、本で書いたのは中目黒ですね。

カツセ:そのチョイスも面白いなと思って。中目黒は、売れた後に住んだんですか?

山田:売れた直後は三軒茶屋で、中目黒は「一発屋」になりつつある時期かな。三茶の時の家賃が19万円で、中目黒の時が23万くらい。

カツセ:絶頂期が19万円で、傾斜がかかった時期にあえて23万に上げたのはどうしてですか?

山田:結論から言うと見栄なんですよね、やっぱり。売れてたころの感じを、そのまま続けたいみたいな。見栄っ張りになってた時期なので後輩に盛大に奢ったりするのもやめなかった。

カツセ:当時の辛い心境が出たのか、エッセイでは中目黒をけっこうディスってるんですよね。「わたしの好きな街」ってタイトルの本なんですけど(笑)。

山田:いやディスってはない!中目黒の店は「すぐポン酢をジュレにする」と書いただけです。

カツセ:めちゃくちゃ偏見ぶつけてくるやん!って思いましたよ。

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山田:でも、実際のところ中目黒のちょっとした店はね、すぐポン酢をジュレにしよるんですよ。若い子はジュレのほうがいいんですかね? おっさんはもっとポン酢でビチャビチャにして食べたいんやけど。

カツセ:ジュレのことは分かんないですけど、中目黒のおしゃれな感じはテンション上がりますけどね。一度、有名な作家さんに中目黒のバーに連れていかれたんですけど、こじゃれたバーテンダーから聞いたこともないシャンパンを出されて。「うわ港区っぽい…」って思いました(笑)。アイドルとかも普通に来てましたしね。

山田:僕は目黒川沿いの水炊き屋でクリスタル・ケイに遭遇しましたよ。

カツセ:エッセイにも出てきますよね、というか、後半はほとんどクリスタル・ケイさんの話。

山田:あのね、クリスタル・ケイの存在感すごいよ。ファンでなくてもテンションを上げさせてしまう。一緒に飲んでたやつら、みんな見に行きましたからね。

カツセ:ご自身も芸能人じゃないですか。

山田:向こうは本物のアーティストの方だから、僕らとはまるで関係なさすぎる。共演の可能性もないので、こっちは一般人と同じ気持ちですよ。

まあ、そんなクリスタル・ケイの話も含め、僕は芸人やからネタっぽく書いているところもありますが、カツセさんの荻窪のエッセイは胸キュンというか、情景をデッサンしているかのような文章ですよね。橋の下の家に住むくだりは、本当に良かったです。

東京には「オプション」が多すぎる

カツセ:中目黒以外に印象に残っている東京の街はありますか?

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【カツセマサヒコ】 自営業。1986年東京生まれ。編集プロダクションでのライター・編集経験を経て、2017年4月に独立。取材記事や小説、エッセイの執筆・編集を主な領域としつつ、PR企画やメディア出演など、活躍は多岐に渡る。

山田:やっぱり北大塚ですかね。上京当時に住んだ3畳一間、家賃8000円のアパートです。愛媛で大学生やってたんですけど、ある日、ゼミの先生にもバイト先の仲間にも、親にすら何も言わずに片道切符で上京しました。ただ、上京したものの入居が1週間後やったんで、それまで北大塚の路上で寝てたんですよ。500mlのポカリスエット2本で一週間しのぎました。だんだん手足がしびれてきて死ぬかと思ったけど、何とか生き延びて無事に入居できました。その後もボロアパートからボロアパートを転々として、北大塚には結局10年近くいたでしょうか。

あとは乾杯漫才を最初にやった下北沢や、売れてから住んだ三軒茶屋も思い出深い。三茶は8年付き合った女性と結婚するために引越したんですよ。引越してから1年後に、彼女がサッカー選手と浮気していることが分かって別れましたけどね。だから三茶は僕にとって魔都です。

カツセ:結局そういう話になっちゃう(笑)。

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山田:やっぱり僕はまだ、どこか東京に苦手意識があるのかもしれない。暮らしにくいというか、満喫できないんですよね。東京はね、オプションが多すぎるんですよ。生活をキラキラ輝かせようとするオプションが多い。なんやボルダリングやら、フットサルやら、BBQやら、そういうのをしてないと満喫してない、人生が充実してないみたいに見られる恐れがある街だっていう気がしてしまう。

カツセ:ボルダリングをしている東京人が嫌なんですか?

山田:その人自身じゃなくて、ボルダリングをさせようとしてくる東京がイヤ。

カツセ:誰も強要してないですよ(笑)。

山田:いやいや、田舎やったらボルダリングなんかないもん。ホットヨガもないし。東京は「週末はこんなふうに過ごしたほうがいいですよ~」って選択肢が多すぎて、それをしてない人は怠けているかのような気持ちにさせられる。週末を充実させようとする気持ちが強すぎるんですよ。何もしたくないときだってあるでしょ。

カツセ:確かに、週末何もしないと罪悪感を持っちゃう人はいますけど……東京だからなんですかね。

山田:カツセさんは東京出身でしょ?

カツセ:はい。井の頭線沿いに実家がありました。

山田:東京出身者は、地方から上京してきた人をどんなふうに見てるんですか? ここにいる人たちも、東京以外の出身者のほうが多いと思うんですよ。「銀河鉄道999」で言うたら、俺らは鉄郎やからね。

カツセ:なんでちょっとトゲのある言い方(笑)。みなさん、目的があって東京に来ているわけですよね。夢や目標をかなえにきている人が多い。そういう人と下北で飲んだりしていると楽しいし、羨ましいなと感じます。

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家賃1万円の差なら、よりいい家に住んだほうがいい

カツセ:山田さんは、これから住んでみたい街ってありますか?

山田:55歳ぐらいになったら山梨の北杜市に引越そうと思っているんですよ。仕事で毎週、山梨の甲府に通ってるんですけど、北杜市はすごく評判いいですね。日本の住みやすさランキングでも上位だし、新しく入居してくる家族が多いらしいから、地元の習わしみたいなものもそんなに気にする必要ないと。

若干さみしい話ですけど、都内キー局にレギュラーがバンバンあるような芸能人でもなかったら、べつに東京に住む理由はないんですよね。僕みたいに地方営業が中心だと、東京には寝に帰るだけですよ。もうベッドタウン。最近は書く仕事もいただくようになって、それこそどこでもできますからね。
カツセさんは老後に住みたいとこありますか?

カツセ:今住んでいる町田は、老後も暮らしやすいだろうなと思います。あとは、江の島もいいですね。新江ノ島水族館の向かいにマンションが建っていて、モデルルームを見に行ったことがあります。夕日がめちゃくちゃ綺麗でしたし、風も気持ちよかったです。

山田:風、夕日、空……。

カツセ:j-pop みたいに言わないでください(笑)。でも、9000万もするんですよ。中古ですよ。あそこに住んでる方たちは、すごいお金持ちばかりですよね。しかも、ほとんどセカンドハウス利用で、定住している人はほとんどいない。仕事もあるし、当面は無理ですね。編集者が原稿を取りに来てくれるような、作家先生になれば別ですけどね(笑)。

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山田:あ、そろそろ時間? まとめらしいです。

司会:最後に、これから上京する人、引越しをする人にアドバイスをいただけますか?

カツセ:家賃1万円の差で物件を悩んだら、高くても本当に住みたいほうを選ぶのがいいと思います。1万円なんて、飲み会を3回我慢すれば出せます。朝起きたときにテンションが上がる家に住むかどうかって、けっこう大事なことですから。それに、高い家賃を払わなきゃいけないから頑張らなきゃと、自分を鼓舞する意味でもいいんじゃないですかね。

山田:確かに、3畳8000円の部屋に住んでたら、労働意欲ゼロやね。毎朝、地獄ですよ。飲んでないのに二日酔いみたいな感じで、常に体がしんどかった。

カツセ:特に東京で働くとストレスが半端じゃないので、心から「自分の城」と思えるところに住んだほうがいいと思いますね。


山田ルイ53世さん、カツセマサヒコさんのエッセイが収録された『わたしの好きな街』好評発売中

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SUUMOタウン編集部監修 / 1,400円(税別) / ポプラ社刊


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著者:榎並紀行(やじろべえ)

榎並紀行(やじろべえ)

編集者・ライター。水道橋の編集プロダクション「やじろべえ」代表。「SUUMO」をはじめとする住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手掛けます。

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