「死ぬまで、読み続ける確信があります」漫画家・高河ゆんさんのあふれる漫画愛【楽しい大人の暮らし方】

インタビュー: 劇団雌猫 構成:芦屋こみね 写真:飯本貴子

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好きなものがあると、毎日はもっと楽しい。

劇団雌猫がオタク趣味に生きる人に好きなこと、好きな街や暮らしについて聞く新インタビュー企画「楽しい大人の暮らし方」。

第3回目のゲストは、『アーシアン』『LOVELESS』などの名作を生み出してきた漫画家・高河ゆんさんです。プロとして第一線で活躍しながら、同人活動も精力的に続けています。

漫画を描くこと、そして読むことへの愛。約30年住んできた「二子玉川」という街への愛。常に挑戦し続ける高河さんに、エネルギーの源を聞きました。

「学校に行く暇がない」ほど描きまくった高校時代

――高河さんが同人作家として活動を始めたのは、高校生のころですよね。

高河ゆん(以下、高河):はい、17歳のころです。商業漫画家になってからも同人誌を描いているので、かれこれ30年以上同人活動を続けていますね。始めた当時は同世代の仲間が多くて、みんな高校生や大学生でした。

――ネットやSNSもない時代、同人仲間とはどう出会ったのでしょうか。

高河:ファンクラブです。当時は、普通のファンが勝手に立ち上げるアニメ作品の私設ファンクラブがたくさんあったんですよ。アニメ雑誌や漫画雑誌に「○期会員募集中!」みたいな広告を載せてメンバーを集めるんです。

私はそのころ、『銀河旋風ブライガー』というロボットアニメが大好きだったので、そのファンクラブのひとつに入っていましたね。

――なるほど! そこで今でいうSNSのようなコミュニケーションを?

高河:そうそう。同じ作品が好きな何十人、何百人のファンと交流できる仕組みです。私が所属していたファンクラブは、最初はイラスト入りで各話の感想や作画について語る会報をつくっていたんですが、だんだん自分で漫画や小説を描きたい人が増えてきて。

それであるとき、漫画や小説だけを収録した別冊をつくることになったんです。不思議なことに、勢いのあるファンクラブにはどんどんうまい人が集まってくるんですよねぇ。「あのファンクラブはすごいらしいぞ」と噂になって。

そこで気の合う仲間たちを見つけて、一緒に同人活動を始めました。喫茶店やファミレスで、朝から晩まで漫画を描いていましたね。学業そっちのけで……。

――今も昔もオタク趣味は人をつなぐ……! 高河先生といえば凄まじい執筆スピードだったと伝説になっていますが、そのころは、月どのくらいのペースで描いていたんですか?

高河:大体、月200~300枚くらいですね。本当に一日中、描いてたなあ。描くのが忙しくて、学校に行く暇がなかったです(笑)。

――「学校に行く暇がない」!

高河:先生に「どうして来ないんだ」と聞かれても「眠いから」と答えていました。あながち間違いではないですよね、朝まで漫画を描いていた結果、眠いので(笑)。

あまりにサボりすぎて、高校2年で留年したんですよ。でも、2回目の2年生でまた友達ができたし、修学旅行にも2回行けて、楽しかったな~。

――めちゃくちゃポジティブ!(笑)先生とお話しているとなんだか元気が出てきます……!

同人活動は「お店屋さんごっこ」

――1986年に商業デビュー。その後もずっと同人誌をつくり続けていますよね。

高河:最近はあんまり描けてないんですよね。夏と冬にそれぞれ、くらいかな。

――年に2冊は十分にハイペースだと思います!(笑)

高河:そうですか?(笑)仕事で漫画を描くときは、とにかく漫画だけを描けばいいんですけど、同人活動はそうはいかないですからね。入稿から販売まで、いろんな手続きや作業が必要で大変、だけどそれが楽しくもある。「お店屋さんごっこ」的な感覚です。

――高河さんが同人活動を始められた当時と比べると、デジタルツールや通販サイトのおかげで、同人活動そのものが身近なものになりましたよね。

高河:そうですね。私も今はネームから仕上げまですべてフルデジタルですし、iPad Proを使ってどこでも原稿ができるようになりました。今日も持ってきたんですけど、これ1台で全部できちゃうので本当に便利です! カフェや出先でもできるのは革命!

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――iPadで漫画描いている作家さんの話、最近よく聞く気がします。

高河:実際、増えていると思いますよ。私も周りの漫画家さんたちがどんどん使い始めて、みんな絶賛しているから、「いやいや、そんなに言うほど~?」と半信半疑で買ってみたんです。でも、使ったら分かりました、みんなが言っている意味が。一瞬で自分も「めっちゃいいよ」ってオススメする側になりましたもん(笑)。

まだ購入して1カ月なんですけど、今まで使ってたデスクトップPCや液晶タブレット、もういらないかも? というくらい重宝しています。

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ネームもiPadで

都会の田舎、ニコタマ

――ここから少し「街」への思い入れを聞きたいと思います。高河先生はかなり長く二子玉川にお住まいなんですよね。

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撮影:劇団雌猫

高河:ニコタマに戸建て物件を購入したのが25歳のころなので、もう30年近くですね。建売の集合住宅を見に行ったら「いいじゃん!」とビビッときてしまって、隣り合わせで2棟購入しました。

――えっ!二世帯住宅用とかではなく、単純に2棟購入されたんですか!? しかも25歳で……。

高河:ねぇ、なんか気に入っちゃったんですよね(笑)。2棟のうち片方で暮らして、片方で仕事、という風に使い分けていました。

ただ、結婚して子どもが生まれると、どうしてもそうはいかなくなってしまい。家庭と仕事をしっかり分けたいタイプなので、仕事場としては別の賃貸物件を借りるようになりました。

――そもそも、どうして二子玉川だったんでしょうか? 当時はまだ駅前も今ほど開発されていませんよね。

高河:私、「都会の田舎」が好きなんですよ。「田舎の都会」は不便ですけど、「都会の田舎」なら住みやすいじゃないですか。二子玉川は、まさに「都会の田舎」だったんです。

今のように再開発されるずっと前からある百貨店、「玉川高島屋」もお気に入りでした。敷地が広くて、造りが広々としていて、ハワイみたいなスカッとした雰囲気があって。街全体にも通じるそんな雰囲気が好きだったのが大きいですね。ここなら住みたいな、と。

――近年の開発で、かなりオシャレな街になりましたよね。理想の「都会の田舎」とは変わってしまったような気もしますが……?

高河:いや~、確かに二子玉川ライズなんかができてオシャレになったとは思いますが、やっぱり今も二子玉川は「都会の田舎」ですよ(笑)。このカーン!と空が抜けた感じとか。30年前と変わらない雰囲気があるなぁと思いますね。

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撮影:劇団雌猫

――長年ニコタマに住む高河さんが言うと、説得力があります(笑)。

高河:結局ここは田舎だなぁといい意味で思ってます(笑)。ちょっと歩くと多摩川があるし、公園もあるし、原稿に煮詰まったときはよく外を散歩しています。

世田谷美術館や静嘉堂文庫美術館など文化的なスポットもありますし、「どこか行こうかな」の行き先には困らない。

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――お散歩コースがたくさんあるのはいいですね。

高河:安いスーパーや、品ぞろえがいいスーパーが多いのも住みやすいです! 気分転換に自炊をすることが多いので、とても重宝しています。


好きなことだけを全力でやりたい

――同人作家から、プロの漫画家になった高河さん。「趣味でやってきたことを仕事にする」ことに迷いはありましたか?

高河:そういう悩みを持つ方は多いのかもしれませんが、私は迷わず「いやいや、好きなことを仕事にするべきじゃない?」と思いました。というより、好きじゃないことはしたくなくて、好きなことだけを全力でやりたいんです。

漫画づくりにかかわる工程は全部好きだから、漫画家をやめたいと思ったこともないですね。ただ「描きたくない」と思うことや、「今日の私、最低……」と落ち込むことはあります。

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――そんなときは、どうやって気持ちを切り替えていますか?

高河:全部自分で解決します。誰にも相談せず、一人で落ち込みきる。人と一緒にいると、八つ当たりしてしまうのが分かっているので、まず人から離れますね。「今私はすごくダメなやつになっているので、放っておいてくれ」と説明して離れることもあります。

――すべて自分の内側で処理するんですね。

高河:20代から30代にかけて、仕事関連でキツいことが多かったんですが、そのときに「苦しさや辛さを表に出してもいいことないな」と気づいたんです。

私が仕事で「できない」と言ってしまったら、仕事をお願いしていただく方から「じゃあ無理ですね」と引かれてしまうし、一緒に仕事をしているアシスタントさんも不安にさせてしまう。だから、大変なときも「絶対できる、大丈夫!」と言い続けていました。

人類みんなが漫画を描けばいいのに!

――今回のインタビューで、高河さんの「漫画愛」をひしひしと感じました。本当に漫画そのものがお好きなんだなぁ……と。

高河:最近、「漫画を描くより、読むほうが好きかもしれない」と気づいたんです。考えてみれば描くより先に読み始めたわけで、読み歴はもう40年以上。死ぬまでずっと読み続ける確信があります。

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――今、お気に入りの作品はなんですか?

高河:その時々でたくさんあるんですけど……今おすすめするなら、ちょうどアニメもやっている『鬼滅の刃』かな! ジャンプは今、この作品のために読んでるってくらい。違うジャンルだと、田村由美さんの新作『ミステリと言う勿れ』がすごく好きです。

――同人誌も読まれますか?

高河:読みますよ。上手い下手は関係なく、楽しく、好きで描いている人はみんないいなと思いますね。「漫画好き」ファミリーみたいな感覚です。

昔よりいろんな人が気軽に同人活動をできるようになって、本当に楽しい時代だなぁと思います。私、人類みんなが漫画を描けばいいと思っているくらいなので(笑)。

――(笑)。Web漫画もどんどん増えていますし、読もうと思えば膨大な作品に出会えますよね。

高河:本当に! Web漫画も結構チェックしていますね、『外見至上主義』とか面白かったな~。韓国の漫画は、読みやすいし絵がうまいし気になります。

縦スクロール形式にも、描き手としてすごく興味があります。電子書籍やWeb漫画は勉強中なんですが、将来的にはやってみたいな。


――iPadのお話でも思いましたが、時代を追っていく力がすごいです。

高河:でも、「仕事として描くのはこれが最後かも」とはいつも思ってます。漫画が好きでなんとなくここまで来たけど、ニーズがなければ仕事として漫画家を続けることはできないので。「好きだけじゃダメ」、そこが同人活動とプロの一番の違いですよね。

――漫画家としてのニーズと言えば、やはり読者からの評価は気になりますか?

高河:いえ、正直に言うと、他人からの評価は全く気にしてないですね。

「うまい」と言われても、「そっか、君はうまいって思っているんだね。サンキュー!」で終了。逆に「下手」って言われても「そっか、悪かったな。でも関係ねーよ!」と思うだけ。要するに、私が私の漫画をうまいと思えるかどうかが重要なんです。

――悩んだときは誰にも相談しないとおっしゃっていましたし、高河さんは他人の評価を気にしないからこそ、一人で自分の作品と向き合えるのかもしれないですね。

高河:だから、落ち込んだときはとことん落ち込んでしまうんですけどね(笑)。これからも、プロとしてやっていけるかどうかは別として、少なくとも「漫画を描く」ことはずっと止めないだろうなと思っています。

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お話を伺った人:高河ゆん

高河ゆん

漫画家。代表作に「LOVELESS」「アーシアン」など。アニメ「機動戦士ガンダム00」ではキャラクター原案を務めた。最新情報はTwitterInstagramブログで発信中。


聞き手:劇団雌猫

劇団雌猫

アラサー女4人の同人サークル。「インターネットで言えない話」をテーマに、さまざまなジャンルのオタク女性の匿名エッセイを集めた同人誌「悪友」シリーズを刊行中。その他、イベントや執筆活動などもおこなっている。編著書に『浪費図鑑』『シン・浪費図鑑』『まんが浪費図鑑』『だから私はメイクする』。3月に新刊『一生楽しく浪費するためのお金の話』が発売した。

Twitter:@aku__you

ブログ:劇団雌猫


<劇団雌猫による連載、次回は6月後半に更新予定です!>

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