「時間はつくるものでしょ」趣味も仕事も全力で楽しむ、古谷徹さんの“遊び術”【楽しい大人の暮らし方】

インタビュー: 劇団雌猫 構成:ちおる 写真:疋田千里

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好きなものがあると、毎日はもっと楽しい。

劇団雌猫がオタク趣味に生きる人に好きなこと、好きな街や暮らしについて聞く新インタビュー企画「楽しい大人の暮らし方」。

第2回のゲストは、『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイ、『ONE PIECE』のサボ、『名探偵コナン』の安室透など、をはじめ、多くの作品で活躍する声優・古谷徹さん

声優として第一線で活躍しながら、スノボやゴルフ、ウィンドサーフィンなど数多くの趣味を持ち、忙しい合間を縫ってプライベートを謳歌しています。

日々、エネルギッシュに生きるための原動力とは? 古谷さんに聞きました。

プログラミングから船舶免許まで

―― 古谷さんの趣味のひとつに「パソコン」とありますが、公式サイトも自作なのですね。

古谷徹さん(以下、古谷):そうなんです、誰もやってくれなかったころから(笑)。最初につくったのが1996年だから……もう20年以上経ちますね。

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―― 1996年というと、公式サイト自体がまだ珍しかったころでしょうか。

古谷:まだ多くはなかったですよね。インターネット以前からずっとコンピュータは好きで。一時はプログラミングにもハマっていて、BASIC(プログラミング言語のひとつ)で確定申告やゲームのプログラムを自作したりなんかしていました。

ファンの方との交流もずっとしてますね。今はないですが、以前はサイトにBBSがありましたし、もっと前のパソコン通信時代には僕が企画して100人規模の「お花見オフ」をしたこともありました。懐かしいな~。

―― ファンとの距離が近い……! アウトドアな趣味も多いようですが、今一番熱中しているものというとなんですか?

古谷:スノボです! 今シーズンは全部で16日行きました。


―― 16日! 結構多いですね。

古谷:今までずっとスキー派で、スノボは8年前、50代の終わりに始めたんです。これまで何度か挫折していて正直苦手意識があったんですが、みっちり個人レッスンを受けてコツをつかんだら面白くて。まんまとハマりました。

なので、ここ数年は、冬はスノボ、夏はゴルフにテニス、たまにウィンドサーフィンって感じかな。仕事の合間を見て、趣味を謳歌していますね。

―― 想像していた以上にアクティブです。一級船舶免許や無線免許も持っていらっしゃるんですよね。

古谷:船も好きですねぇ。横浜生まれ横浜育ちで海の近くで育ったので、小さいころから船長さんに憧れがあったんです。「いつか自分の船が持ちたいなぁ」なんて夢見ていました。

船舶免許、特に一級は取るのが結構大変で、1カ月くらいかかるんです。毎週土日学校に通って、気象学や海図や無線を勉強をして、実技をやって。仕事が暇になったときに頑張りました、『美少女戦士セーラームーン』をやっていたころだったかな?

―― タキシード仮面様!? 全然暇じゃなさそうです!

古谷:(笑)。船も最近はなかなか乗れてないんですけどね。他の趣味がいっぱいあってつい……。

いつか湘南あたりの海沿いに住んでみたいな、自分の船を持ってクルージング、なんて憧れもありますが……ただウィンドサーフィンと季節がかぶっちゃいますね! 困るな~、ウィンドサーフィンも楽しいんだよなぁ。

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「ゴルフなんて接待用スポーツでしょ?」と思ってた

―― 今のように多趣味になったのには、何かきっかけがあったんでしょうか。

古谷:大前提として、5歳から子役として業界にいるので、小学生のころはずっと撮影所にいてほとんど遊べなかったんです。その分、大学生になってから爆発しましたね。青春を取り戻すつもりで。

テニスもスキーも学生時代に友達に誘ってもらったのがきっかけ。ウィンドサーフィンは井上和彦くんにすすめられて始めたんです。


―― 趣味を持ったことで、仕事によい影響はありましたか?

古谷:たくさんありますよ! まず、単純に外に出て体を動かすのは、ストレス解消になる(笑)。

声優という仕事は、演技の最中に体を動かしちゃいけないんです。マイクにノイズが乗らないよう、全力疾走のシーンや格闘シーンであっても動いちゃダメ。それでもリアリティをもって表現するためには、きちんとイメージを持って挑まないといけません。

体はどう動くか、呼吸はどうなるか……スポーツを通じて仕事に活かせることは多いですね。そういう意味では趣味の時間に限らず、日々経験することすべてが勉強になる仕事とも言えます。

―― 大人になってからなかなか新しいことにチャレンジできない、という方も少なくないと思います。興味のアンテナを広げるコツがあれば教えてください。

古谷:うーん、難しいですね。ゴルフとかテニスとか、たくさんの人が楽しんでいるものほど入門しやすいんじゃないでしょうか。


僕の場合、ゴルフに対して始める前まであんまりいいイメージがなかったんですよ。「え? おじさんの接待用スポーツでしょ? 面白いの?」と思っていた(笑)。でも、やってみたらやっぱり面白いんですよ! 多くの人に愛されているものは、その理由がちゃんとあるんですよね。

ゴルフをきっかけにぐっと仲良くなった人もいますし、一緒にコースを回ったことで決まった仕事もあるし、ゴルフ雑誌の取材を受けるようにもなった。趣味をきっかけに人脈も世界も広がりました。

僕は「周囲の人にすすめられてやってみる」パターンが多いですが、例えば、好きなアニメのキャラクターの趣味を真似してやってみるとかでもアリですよね。まずはちょっとやってみて、合わなければやめればいいんですよ。

―― 仕事に忙殺されて時間がない、という人もいそうです。

古谷:でもまぁ……時間は自分でつくらないとね!

―― ものすごく忙しいであろう古谷さんに言われると説得力がありすぎます……!

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Twitterとのポジティブな付き合い方

―― 古谷さんの演じた安室透は、社会現象化するほどの人気を集めました。ご自身の身辺にも変化はありましたか?


古谷:それはもう、女性ファンが一気に増えました。「安室の女」なんて言葉もできましたもんね。50年声優やってきて、一人のキャラクターに対してこんなにダイレクトに反響があったのは初めてかもしれません。Twitterのフォロワーも“安室効果”で5~7万人くらい増えたんじゃないかな。

―― 安室効果……!Twitterではフォロワーの皆さんとフランクに交流されていますよね。


古谷:はは、好きなんですよねぇ、ファンの方とコミュニケーションするのが。パソコン通信時代のお花見の話もそうですが。声優さんの中には苦手な人もいるでしょうが、僕はすごく楽しんでいます。

今も昔も、ファンの皆さんの声が仕事を頑張る一番のモチベーションです。自分の仕事への反応が即座に返ってきたり、演じているキャラクターをこんな風に愛してくださっているんだとわかると、とてもうれしいです。

―― リプライには全部目を通していますか?

古谷:もちろん! 去年の誕生日のときは3000件くらいお祝いの言葉をいただいて、読むのに4日間かかりました(笑)。皆さんのお家の「あむぬい」(安室透をモチーフにしたぬいぐるみの愛称)やねんどろいどの写真たちも、かわいいな~と見ていますよ。


―― そうやって古谷さん自身も一緒に楽しんでくれているのがいいなぁと思います。お仕事告知だけでなく、日常や人柄がうかがえるツイートも多いですよね。

古谷:Twitterを始めたころは、キャラクターのイメージを壊してはいけないのかなという思いもあって、むしろプライベートな内容は抑え気味だったんです。でも、あるとき何気なく投稿したちょっとしたおふざけの動画が「古谷さんお茶目ですね」「親近感がわきました」と思った以上にウケて。

そのときから「そうか、何出してもいいんだな、キャラクターはキャラクターで魅力的に演じれば、僕は僕で自然体でいていいんだ」と思うようになりました。まずは自分が楽しまないとね。

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60歳で隠居しようと思っていた

―― 2019年で声優生活53年目を迎える古谷さん。声優を一生の仕事にしようと決断した瞬間はありますか。

古谷:『機動戦士ガンダム』を終えたときですかね。25歳で出会ったアムロ・レイが、一番の転機です。

―― アムロ以前の古谷さんの大きなお仕事といえば、『巨人の星』の星飛雄馬が思い浮かびます。

古谷:アニメのキャラクターを演じる快感と難しさを知ったのは『巨人の星』ですね。でも、当時はまだ15歳で、本当にこの道でいいのか自信が持てなかった。

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自分のやりたいことを見つめ直そうと、大学時代は仕事から離れていたんです。普通に就職しようかとも考えたんですが、やっぱり、せっかく『巨人の星』で得た勲章を捨てたくないなという思いが自分の中にあって。

ですが、仕事を再開してからも、どんな役をやってもどこかで星飛雄馬になってしまう、それが求められているようなジレンマがありました。脱皮したかったんです。そんなときにいただいたアムロ・レイという役が、今まで演じたことのないタイプの内向的で鬱々としたものを抱えるキャラクターでした。

彼をきちんと演じきることができれば、「古谷は熱血ヒーローだけじゃない」と知ってもらえるし、何より自分の自信につながる。そんな思いを抱えてアムロ・レイに挑み、演じきれたときに「声優一本で生きていこう」と心から思えた気がします。

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―― 長い役者生活の中で、やめよう、と思ったことはないのでしょうか。

古谷:若いころは、60歳くらいでやめようかなと思ってたんですよ。

―― ええっ!

古谷:小さいころからずっと仕事してきたし、「定年でやめて、あとはのんびり隠居生活したいな~」なんて考えていました。やりたいことは他にもいっぱいあるしね(笑)。

でも、『名探偵コナン』の安室透や『ONE PIECE』のサボなど、おかげさまでとても素敵なキャラクターに出会えたので。今は自分で納得できるクオリティの仕事ができる限り、最後まで全うしたいと思っています。

最近は海外ドラマやナレーションの仕事などもあってとても忙しいんですけど、それらすべてが「やりたい仕事」なんです。とてもじゃないけど引退なんか考えてる場合じゃなくなってしまいました。

―― 古谷さんがやりたいと思う仕事って、どんな仕事なんでしょう。

古谷:社会的に有意義な仕事をやりたいですね。報道系のナレーションや情報番組は自分も興味があるので、楽しくお仕事できます。

あとは……何よりかっこいいキャラクターの役ですよね。自分が言ったセリフに対して「うわー! かっこいいな!」って自分で思いたい(笑)。声優として一番幸せな瞬間のひとつです。その快感のために、ずっとヒーローでいたいんですよ!

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お話を伺った人:古谷徹

古谷徹

声優。神奈川県出身。主な出演作品に『名探偵コナン』(安室透)、『機動戦士ガンダム』(アムロ・レイ)、『美少女戦士セーラームーン』シリーズ(地場衛:タキシード仮面 )など。多趣味で知られ、公式サイトの趣味欄には「スキー・スノボ・ゴルフ・テニス・ ウインドサーフィン ・ルアーフィッシング・パソコン・ゲーム・ダーツ」と記載されている。

 


聞き手:劇団雌猫

劇団雌猫

アラサー女4人の同人サークル。「インターネットで言えない話」をテーマに、さまざまなジャンルのオタク女性の匿名エッセイを集めた同人誌「悪友」シリーズを刊行中。その他、イベントや執筆活動などもおこなっている。編著書に『浪費図鑑』『シン・浪費図鑑』『まんが浪費図鑑』『だから私はメイクする』。3月に新刊『一生楽しく浪費するためのお金の話』が発売した。

Twitter:@aku__you

ブログ:劇団雌猫



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