屋根のリフォームを勧めて、ずさんな工事や高額な請求を行うなどの詐欺が急増。全国で逮捕者も出ています。詐欺の被害に遭わないためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか。また、万が一、被害に遭ってしまったときはどう対処すればいいのでしょうか。さくら事務所のプロホームインスペクター、田村啓さんと佐伯牧子さんに話を聞きました。
屋根修理の費用相場は? 瓦やトタンなど屋根材別の注意ポイントや、リフォーム詐欺についても解説

記事の目次
屋根工事のリフォーム詐欺が急増!
以前からある悪質な訪問販売。最近多いのは屋根や外壁に関する訪問セールス
無料点検といって一戸建てを訪問し、「シロアリ駆除の必要がある」「耐震補強をしなければ家が倒れる」などと嘘の報告をして、工事代金をだましとろうとする悪質な訪問販売、訪問営業は以前からありました。
「最近多いのは屋根、そして外壁に関する訪問販売です。屋根や外壁は外から見えるため、訪問営業をする側からも『あの家は劣化が進んでいるな』『屋根が傷んでいるな』ということがわかりやすい。そういうお宅は、住んでいる方もメンテナンスをあまりしていないことや、外観や汚れたり傷んでいたりすることを気にされているケースが多く、詐欺をする人にとってはだましやすいのです」(田村さん)
消費生活センターへの相談件数は年々増加
訪問販売による「屋根に不要なリフォーム工事をされた」「ずさんな工事をされた」「代金を支払った後、リフォーム会社と連絡が取れない」などのさまざまなトラブル。全国の消費生活センターや消費者センターにも多くの相談が寄せられています。
例えば、消費生活センターと連携する国民生活センターのまとめによると、屋根工事の点検商法に関する相談件数は年々増えており、2018年度には923件だったのが、2022年には約3倍の2885件に。2023年度は8月31日までの相談件数が1346件で、前年度同時期893件よりも多くなっています。また、点検商法の相談全体に占める屋根工事の相談の割合も大きく、2022年度は35.4%、つまり相談の3件に1件以上が屋根工事に関するものでした。

逮捕者も出て、消費者庁や警視庁からも注意喚起
詐欺容疑や詐欺未遂による逮捕者も全国各地で出ており、消費者庁や警視庁からは悪質なリフォーム事業者への注意や、点検商法への注意喚起が出されています。屋根のリフォーム詐欺は、他人事ではありません。誰もが注意をしておかなくてはならない問題です。
一戸建てが狙われる?屋根のリフォーム詐欺の手口
被害に遭いやすいのは一戸建てで暮らす高齢者
悪質な訪問販売によるリフォーム詐欺の被害に遭いやすいのは、直接訪問しにくいオートロックのあるマンションよりも一戸建て。
「私の所見になりますが、マンションの場合は共用部分の工事を勧めるにしても相手は管理組合で契約へのハードルが高い。それに対して、一戸建てはリフォームの意思決定者が少ないためだましやすいといえます」(田村さん)
一戸建てであることのほかに、高齢者であることも狙われる要素。国民生活センターのまとめでは、屋根工事の点検商法に関する相談での、契約当事者は81%が60歳代以上です。

どんな言葉や手口で屋根のリフォームを勧められる?
屋根のリフォーム詐欺は、どのようにやってくるのでしょうか。
「突然、インターホンを鳴らし、『隣の屋根を修理中に、お宅の屋根を見たら瓦がずれていましたよ』『近所で工事をしているので、よかったら無料で点検をしましょうか』などと声をかけてきます。厄介なのは悪意を持って訪ねてくるのが、必ずしも怪しい雰囲気の人ではないということ。人の良さそうな人や、リフォームに詳しそうな雰囲気の人がやって来るため、つい信用してしまう恐れがあります」(田村さん)
相手を信用して、言われるがまま工事や点検をしてもらうと、不要な工事やずさんな工事をされて高額な請求をされたり、着手金を払った後にリフォーム会社が計画倒産してしまったり、などのケースがあるそう。
「点検するといって屋根に上がった際に、もともとなかった傷をつけられるというケースも、多くはないですが耳にします」(佐伯さん)

保険金詐欺に加担してしまうことも
台風による強風で屋根に被害が出た場合、修理が火災保険の対象になることを悪用する悪質な事業者もいます。
「災害の後、保険を有意義に活用することに問題はないのですが、『ほかの部分も保険で修理してしまいましょう』と、抱き合わせ工事を勧められたら断ることが必要です」(田村さん)
台風などの自然災害以外の原因で傷んだ箇所に保険を活用するのは保険の契約違反になる恐れがあります。相手の話にのってしまうと、保険金詐欺に加担してしまうことになるのです。
悪意のない事業者に、不要な工事をされるグレーなケースもある
訪問販売のリフォームでは、事業者に悪意がなくても結果としてリフォーム詐欺と同様の結果になるケースもあります。
「直接訪問して無料点検を行い、リフォームをするという方法を、営業手法の一つとして取り入れている事業者さんがいます。現場で点検をしているスタッフに知識がないために不必要な工事をしてしまい、リフォーム詐欺のような結果になっているというグレーなケースもあります」(田村さん)
不要なリフォーム工事をしてしまったために、雨漏りにつながることも。
「普及しているスレート屋根(セメントや天然石を原料とした薄い板状の屋根材)には、屋根材メーカーが再塗装を勧めていないものもあります。しかし、リフォームの訪問販売で『塗装をすると長持ちしますよ』といわれて、不適切な塗装リフォームをすると、屋根に落ちた雨水の通り道がふさがれてしまい、雨漏りの原因になることがあります」(佐伯さん)
リフォーム詐欺だと気がついたらどうすればいい?
契約前、契約後の対処法は?
訪問販売に対応し、話を進めている途中でリフォーム詐欺だと気がついたらどうすればいいのでしょうか。契約前であれば、気づいた時点ではっきりと断り、契約は結ばないことが基本です。
「注意したいのは口約束。契約は書面を取り交わすことが正式ではあるのですが、口頭で『●月●日から屋根の修理をしますね』『お願いします』といったやりとりも法的に契約と認められてしまうこともあります。事業者から『約束したじゃないか』など詰め寄られるような事態になったら、一人ではなく家族など複数人で対応する、または消費生活センターや消費者センターに助けを求めることです」(佐伯さん)
契約後にリフォーム詐欺だと気がついた場合はどうすればいいのでしょうか。
「訪問販売の場合、申込書面や契約書面のいずれか早い方を受け取った日から8日以内であれば、無条件で申し込みの撤回・契約の解除ができるクーリングオフという制度があります。それを行使して、『契約は中止してください』『材料の手配や職人さんの手配もやめてください』としっかり書面などで伝えることが重要です」(田村さん)
クーリングオフ(クーリング・オフ)ができる期間は取引の種類によって異なります。自宅を訪ねて契約の申し込みや契約の締結をさせる「訪問販売」にあたるリフォームは8日間です。ただし、申込書面や契約書面に不備がある時は、この期間を過ぎていてもクーリングオフできる場合があります。
クーリングオフは、書面の(ハガキ可)のほか、電子メール、USBメモリなどの電磁的記録で手続きを行います。書面などには、契約年月日、契約者名、購入商品名、契約金等やクーリングオフの通知をした日を記載し、期間内に通知します。クーリングオフについての詳細や、手続き方法は下の国民生活センターのホームページで確認してください。
リフォーム詐欺は消費者センターなどに相談。警察へも通報を
フォーム詐欺だと気がついて、契約解除を求めてもリフォーム工事を強行されそうな場合は、第三者に助けを求めましょう。
「消費者センターや消費生活センターに相談し、それを告げるだけでも効果があることがあります。それでも工事を強行された場合や、代金の請求をされた場合は、『警察を呼びます。もう来ないでください』とおっしゃっていただき、緊急の事態であれば警察へ通報されていいと思います」(田村さん)
支払ったお金の回収は難しい。被害額を抑えるポイントは
リフォーム詐欺だと気がついたときには、すでにリフォーム代金を支払った後、ということも。支払ってしまったお金を取り戻すことは非常に難しいため、契約時に支払い方法の確認を慎重にすることでリスクを回避することが重要になります。
「工事費の大きなリフォーム工事は、着工時3割、中間時4割、引き渡し時3割というように、数回に分けて代金を支払うのが一般的です。工事費がそれほど大きくなければ着工時5割、引き渡し時5割ということも。しかし、危険なのは着工時の割合が大きいケース。着工時に代金の8割など高額な支払い、場合によっては全額を要求されたら明らかに悪意があるか、後日、計画倒産の可能性もあります。その場合は、契約をしないこと。もしも、全額支払ってしまったなどの場合は、あきらめずに弁護士や消費生活センターなど専門家に相談していただきたいです」(田村さん)
リフォーム詐欺に遭わないための注意ポイント
訪問営業は家に入れない、屋根に登らせない
リフォーム詐欺の相手に関わると、面倒なことになります。被害に遭わないために、どのような注意をしておくといいのでしょうか。
「訪問営業でリフォームを勧めてくるケースは全て断ることです。無料点検といわれても、屋根に登らせないこと、敷地に入らせないことが基本です」(田村さん)

契約書や図面、打ち合わせの記録をもらう
リフォーム工事を勧められて依頼をした場合、契約書や図面、そして打ち合わせの記録を事業者から必ずもらうようにしましょう。
「これらの書類をきちんと作成しない事業者以外は、工事や対応にずさんな点がある可能性があります」(田村さん)
実家の親が高齢なら防犯カメラの設置を
実家の親が高齢だったり、一人暮らしだったりする場合、子どもたちが対策をしておくことも大切です。
「高齢の方は、親切そうな人が訪問営業に来ると、つい招き入れてしまうことがあります。不審な点を感じても、自分の子どもには心配をかけたくないという気持ちが働いて連絡をせず、子どもが気づいたときには手遅れ、ということがあります。『最近、リフォーム詐欺や強盗もあるから気をつけて。何かあったら連絡してよ』と伝えるだけでなく、自動で録画されるインターホンや防犯カメラを設置して、何かあったときに客観的な証拠を出せるようにしておくといいでしょう」(田村さん)
普段からメンテナンスに気を配る
屋根リフォームの訪問営業や無料点検は断る、敷地に入らせない、依頼した場合は書類を残すなど、どれも重要な注意ポイントですが、実は、第一に大切なのは、住まいのメンテナンスに普段から気を配っておくことが重要。定期的に屋根や外壁の点検を受けている人や、いつ、どんなメンテナンスが必要かを理解している人は、不要な工事を勧めてくるリフォーム詐欺の被害には遭いにくいといえます。
「今はインターネットでさまざまな情報が得られる時代です。家の構造や必要なリフォームのことは専門家じゃないとわからない、と思わずに、自分でも調べて理解しようとすることが、詐欺に遭わないことにもつながります」(佐伯さん)
また、かかりつけ医のような存在を住まいにも持つといいでしょう。
「10年後、20年後のメンテナンスについて、新築時の施工会社や、自分で探してリフォームを依頼したことのある会社に相談すると安心です。中古で購入された場合は、ホームインスペクターに依頼し、いつ、どのようなメンテナンスが必要になるのかの診断を受けるのも選択肢の一つかと思います。5年に1度程度、家の健康診断として屋根の状態などを確認してもらうと安心です」(田村さん)
屋根のリフォームが必要かどうか、自分で確認する方法
離れたところからスマホのカメラでも確認できる
我が家の屋根がリフォームの必要な状態なら、自分でリフォーム会社を探したり、普段お願いしているリフォーム会社に依頼したりできます。リフォームは不要な状態だとわかっていれば、リフォーム詐欺の訪問営業がやって来ても「無料点検」などの言葉に心を引かれることはないはず。
では、屋根の状態を自分で確認するにはどうすればいいのでしょうか。
「屋根に登って確認するのはとても危険です。ご自身で確認される場合は、地面から見える範囲にとどめましょう。一戸建ての屋根は、少し離れたところからだと広い範囲が見えるものです。双眼鏡や望遠鏡で見てもいいですし、スマホのカメラのズーム機能を使ってもいいですね。違和感はないか、割れたり、ずれたりしていないか。台風の後などは、飛んできたもので傷がついていないかなどを確認し、記録を取っておくといいでしょう」(田村さん)

信頼できるリフォーム会社の探し方
評判のいい近所のリフォーム会社を直接訪ねてみる
定期的な点検をしてもらったり、いざというときに屋根の修理などのリフォームをお願いしたりできるリフォーム会社は、どうやって選べばいいのでしょう。
まず、探したいのは近所や地域で評判のいいリフォーム会社。住まいにトラブルがあったとき、我が家まで1時間も2時間もかかる会社よりも、近くにある会社の方が早く対応してくれやすく、また、近所のクチコミも集めやすいといえます。
「良さそうなリフォーム会社が見つかったら、ぜひオフィスを訪ねてみてください。実在する会社なのかがわかりますし、直接会い表情を見ながら話すことで評判通り信頼できる会社かを確かめることにつながります」(佐伯さん)
将来を見据えた提案をしてくれるかを確認
屋根の状態が気になる、と伝えたときに、どのような提案をしてくれるかも信頼できるリフォーム会社かを判断する材料になります。
「屋根が気になると伝えて点検を要望すれば、どのリフォーム会社も屋根を見てくれます。その際、信頼できるのは、屋根だけでなく建物全体の状況を見て、優先させた方がいいリフォームがあれば、その提案もしてくれる会社です。10年先、15年先を見据えて、どういうサイクルでメンテナンスをしていけばいいのかを考えてくれる会社であれば信頼できますし安心して暮らせると思います」(田村さん)

リフォーム会社の選び方は?信頼できる会社の見分け方と比較ポイント
スーモカウンターリフォームでも相談できる
近所で探したり、インターネットで調べたりしても、理想のリフォーム会社が見つからない場合や、探す時間がなかなか取れないという場合は、リフォームアドバイザーが相談にのるスーモカウンターリフォームを利用するのも一つの方法。
スーモカウンターリフォームでは、リフォームの相談や悩みをアドバイザーがサポートするほか、予算や希望に合わせたリフォーム会社を無料で紹介してもらえます。相談だけでもOKで、紹介された会社であればお断りの代行もしてもらえます。
「そろそろ我が家も屋根のリフォームをした方がいいかな」と感じている人ほど、リフォーム詐欺に注意することが必要。訪問営業には対応せずに自分で信頼できるリフォーム会社を探すことが重要。工事内容の提案や金額を比較検討するためにも、複数の会社に相談し、見積もりをとるようにするのもいいでしょう。
構成・取材・文/田方みき
屋根リフォームの改修方法は、塗り替え、重ね葺き(カバー工法)、葺き替えの3種類。費用相場や実例、補助金も紹介!
屋根の葺き替えリフォームの費用相場と工事期間。葺き替えの時期の目安、実例、補助金も紹介!
ガルバリウム鋼板の屋根が人気の理由は? メリット・デメリットや費用相場、ほかの屋根材との比較、メンテナンス方法を紹介
スレート屋根の特徴とリフォーム費用。寿命やメンテナンス方法、ガルバリウム鋼板との違いも解説
広告制作プロダクション勤務後、フリーランスのコピーライターに。現在は主に、住宅ローンや税金など住宅にかかわるお金や、住まいづくりのノウハウについての取材、記事制作・書籍編集にたずさわる。