「東京まで片道1時間強」の距離が、今の自分をつくってくれた――ピエール中野さんの埼玉愛

インタビューと文章: 小沢あや 写真:飯本貴子

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「埼玉県から来ました、凛として時雨です」

凛として時雨は2002年に埼玉県で結成され、それぞれが上京するまでの数年間、ライブのMCで毎回こう自己紹介していました。

なかでもドラマーのピエール中野さんは、生まれてから34歳まで、越谷市の実家で育った埼玉人。「埼玉愛はとても強いです」と語る彼に、地元の名産物から観光地まで教えてもらいました。

本当に広いぞ! 埼玉県

――今回はピエール中野さんの地元、「埼玉県越谷市」の魅力を存分に語っていただこうと思います。

ピエール中野さん(以下、中野):僕は東武伊勢崎線の「せんげん台」駅で生まれ育ちました。エリアでいうと、クレヨンしんちゃんで有名な「春日部市」の近くです。とにかく、いいところがいっぱいあるんですよ。ごはんも美味しいし。でも、あんまり知られていないですよね。

――一般的には、埼玉というと、「大宮」「浦和」「所沢」あたりが有名ですよね。

中野:「越谷? どこ?」みたいな。埼玉県って広過ぎるし、どの沿線上に住んでいるかで、県民同士でもちょっと壁があるんですよね。ファンの子から「僕も埼玉です!」って声をかけられても、「所沢です!」って言われると「お、おう」って、何も言えなくなっちゃう(笑)。春日部とか岩槻とかなら、超盛り上がるんだけど。

――たしかに、池袋を経由する東武東上線や西武池袋線沿線と、上野から先に行く東武伊勢崎線では、生活圏も文化もまったく違うでしょうね。そんな広大な埼玉県ですが、「埼玉名物」は?

中野:分かりやすい名物だと難しいですよね。いいものを持っているのに、プロモーションがあまり得意じゃないんですよ、埼玉って。埼玉銘菓も、TVCMをバンバン売ってるのは「十万石まんじゅう」くらい。でもね、美味しいけれど素朴すぎるんです。だから、総合評価がなんとなく「埼玉、普通だね」になっちゃうの(笑)。

――分かるような、分からないような……。ちなみに、ピエール中野さんは埼玉銘菓、何推しですか?

中野:お菓子なら、「梅林堂」の「武州路(ぶしゅうじ)」! 小豆あんと乳菓あんがパイ生地に包まれているおまんじゅうです。僕も、34年埼玉県民やってて最近まで知らなかったお菓子なんですけど。今、ツアーで47都道府県を回っていて、楽屋には各地の名物が置いてあるんです。埼玉のライブハウスに行くとき、「さあ埼玉、何を出してくるんだ?」って思うじゃないですか。

――一般的には、やっぱり「十万石まんじゅう」か「草加煎餅」が定番ですよね。

中野:僕もそう予測したんだけど、「武州路」が出てきて! パッケージも見たことないお菓子だったからびっくりしたんだけど、すっごく美味しかったんです。それ以来、おすすめしてます。埼玉土産の定番としてPRしたいんですよ。もっと広めたい。

「東京まで片道1時間強」の距離が、今の自分をつくってくれた

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――中野さんは、埼玉のPRを背負っていますね。

中野:埼玉、好きなんですもん。20代の後半のときに凛として時雨がブレイクしだして、事務所に「中野くん、そろそろ上京してくれないかな?」って言われたことがあったんですけど、地元が好きなので、断りました。それからもしばらく「引越さない?」って言われてたけど、だんだん「中野くんは埼玉好きだから無理だね」ってなって、最終的には諦められました。

――そこまで地元に残ろうとした理由は、どこにあるんでしょうか。

中野:東京の魅力もいくらでも話せるけど、とにかく埼玉が好きなんですよ。街全体に、流れている速度がすごくゆったりしている。情報も、人もね。34歳でようやく実家を出ることにしたけど、上京後は、働くことに使命感が強くなりました。そういう意味では東京に来てよかったと思いますね。逆に、埼玉の魅力に気づけることもあったし。

――「越谷にいたからこそ今がある」と感じる部分は、どこですか?

中野:「東京への憧れ」を持ちながら「気軽にいける距離」なのが大きいですね。「東京」の歌にも感情移入できるし、「上京」も難なく経験できる。バランスがいい。高校までは近所で進学したけれど、東京の音楽専門学校に通っていたときは、電車で1時間以上かけて通学していました。音楽をひたすら聴けるのも大きかった。それが今に繋がってると思います。

――東武伊勢崎線に揺られながら、ピエール少年はどんなカルチャーに触れていたんでしょうか。

中野:専門学校時代にずっと聴いていたのは、椎名林檎の初期作品と、アラニス・モリセットの1stアルバム『Alanis』。本も読んでいて、花村萬月の『夜を撃つ』や『二進法の犬』が気に入っていました。

埼玉には星の少ない名店がたくさん!

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――中野さんは、食通としても知られています。地元の美味しいお店は?

中野:越谷って、美味しいご飯屋さんがいっぱいあるんですよ。食べログとかRettyの評価は、気にしないでチャレンジしてほしいです。「星は少ないけど実はうまい店」がいっぱいあるんですよ。体感的にだけど、東京の星3.6が、埼玉の星3.1くらいな気がするな。ちゃんと自分の足を使って探せば、いい店が見つかるんです。

――星のつきかたが全然違うんですね。

中野:そうそう。東京の人気店って並ぶじゃないですか。もちろんすごく美味しいお店多いけど、埼玉はゆったりしてるし、混雑していても不快な気分にならないんだよね。居心地がとにかくいい。上京後も、越谷には月1で帰ってるかな。「あの店のアレが食べたい!」っていう店がいっぱいあるんですよ。

――埼玉で美味しいお店を探し出すコツって、ありますか?

中野:美味しいお店の常連になって、そこのマスターやスタッフさんに「このあたりに美味しい店ありますか?」って聞くようにしています。お店情報だけじゃなくて、まずは何を頼んだらいいかも合わせて確認するのも大事です。メニューによって、得意不得意がありますからね。僕は、とにかくそうやっていろんな店を通いまくってたなあ。あと、埼玉は意外と海鮮もいけるんですよ。

――そうなんですか? 海がない県なのに、意外です。

中野:海がないからこそ、調理を工夫している店が多い印象がありますね。回転寿司チェーン「がってん寿司」は、埼玉の企業。魚介が美味しい海の近くの街に仕事で行っても「あれ? がってん寿司のほうが美味しいな?」ってときがあるくらい。埼玉に来たら、ぜひ寄ってみてほしいです。

――分かりました! 埼玉の中でも、越谷でおすすめのお店はありますか?

中野:越谷って、東京で修行してきた人が地元に戻ってきて、こじんまりした店を開いていることが多い。名店だらけですよ。「孤独のグルメ」に、埼玉県で初めて取り上げられたのは、越谷のお店なんですよ。「厨(くりや) SAWA」は、何を頼んでも最高に美味しい! 

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僕はそこのマスターと、地元の行きつけのバーで出会ったんですけど、「本当は行列ができるはずの店なのに、人が思ってたより来ないんだよね」「なんでだろうね、こんなに美味しいのに」って話してて(笑)。でも、その会話の半年後に『孤独のグルメ』で取り上げられて、今では人気店。遠くからくる人もいっぱいです。

イタリアンなら「トラットリア要」。外観が可愛らしくて、『仮面ライダーオーズ』のロケ地になっているんですよ。ランチはお手ごろ価格だし、日替わりでメニューがかわるんですよ。

気軽にひとりで入れる店でおすすめなのは、せんげん台駅から徒歩5分のところにある四川ラーメンの「輪(りん)」。

――中野さんの定番のメニューは。

中野:担々麺をコーントッピングで麺固め。注文するときに「赤い粉ください」って伝えてください。かけると美味しいので。餃子も合わせて食べてほしいです。

越谷人は人懐っこい?

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――中野さんは、その場その場で出会う人たちとのコミュニケーションを大切にしているんですね。

中野:いろんな飲み屋もよく行くんですけど、常連同士を繋いでくれるマスターの存在が大きいですね。越谷の人って、人懐っこいのかも。みんな地元が好き。とにかく、住みやすいんですよね。交通の便もいいし。上京してから知り合った人にも、越谷の人多いんですよ。日テレの森圭介アナウンサーも越谷出身。人との距離のとりかたがすごく上手な人が多い気がするんですよ、越谷って。

――若いバンドマンにも、越谷おすすめですか? 

中野:埼玉は家賃と駐車場が安いし、メリットがあります。でも、「東京」は知った方がいい。だから上京は経験したほうがいいんだけど、お金に余裕が無いのであれば、一度埼玉を挟むのはアリだと思いますね。みんな地元好きだし、「不便だな」って感じることもないし。越谷レイクタウンは買い物だけじゃなくて、夕日が綺麗。よく行ってたな。いい街ですよ。

まだまだあるぞ! 埼玉の魅力

――「観光地」としては、どこがおすすめでしょうか。

中野:僕は、日高市にあるサイボクハム推し。埼玉の肉加工メーカーがやっている牧場なんですけど「豚肉ってこんなに美味しかったんだ!」って感動しますよ。店舗内にあるスーパーのセレクトがとにかくよくて、肉以外にも自家製のパンだっておいしいし、本当に一つ一つのセンスが良くて楽しい!

――千葉の「マザー牧場」埼玉の「サイボクハム」って感じでしょうか。

中野:「サイボクハム」すごいですよ! 温泉も併設してるんですよ。温泉通からも「隠れた名湯」と言われてて。まとめて観光するのに、いい場所なんですよ。ちょっと車を走らせればムーミンバレーパークもあるし、秩父もいけるし。とにかく、サイボクハムに行ってほしいですね。

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――ありがとうございます! 電車移動派のおすすめスポットも教えてほしいです。

中野:東武動物公園! 遊園地と動物園だから楽しくないわけがないですよね。つい最近も行ってきました。夜はライトアップも綺麗だし、とにかく空いてるんですよ。でも、埼玉県民の日(11月14日)は混み合うから注意かな。日本には数が少ないホワイトタイガーもいるし、おすすめです。あと、東武動物公園行くなら、駅の近くに美味しいカフェもあります。

――気になります。

中野:「Taiwan Tea & Foods Bar Formosa」というお店です。台湾で日本の音楽カルチャーを教えていた先輩のドラマーがやっているカフェなんです。時雨も台湾ツアーのときにお世話になりました。タピオカブームの前からずっとつくり続けているし、本当に美味しいですよ。台湾の有名ミュージシャンがふらっとやってきて、アコースティックライブやったりすることもある店。東武動物公園駅の近くにあります。僕の写真も飾ってあるはずなので、ぜひ!

「ださいたまハラスメント」そろそろやめない?

――さて、今日は埼玉を愛する中野さんに、聞きたいことがありまして。「ださいたま」いじりって、実際のところ県民はどう捉えているんでしょうか?

中野:本当にやめてほしい! ださいたまハラスメントですよ。某大ヒット映画も、内容は面白かったけど、「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」ってCMだけで悲しくなっちゃって、観られなかった人もいましたよ。そういう人もいるってこと、忘れないでほしいです。

――「自虐OK」の県民性なんて、ないと。

中野:そうですね。地元を愛する気持ちは、みんなどこの土地の人も変わらないと思いますよ。やめよう、ださいたまハラスメント。

――熱いコメント、ありがとうございました。最後に、埼玉を心から愛するミュージシャンとして、地元を盛り上げるためにやりたいことは?

中野:さいたまスーパーアリーナでやっている「ビバラポップ」っていう音楽フェスに携わっているんですけど、それをもっと有名にしたいですね。僕は、音楽活動も埼玉にこだわってずっとやってきました。自分が生まれた街だから、自分にできるかたちで町おこしできたらと思ってやっているフェスです。あとは、埼玉の親善大使になって、ゆるキャラのディレクションをしたり、グルメマップをつくったりしたいですね。

埼玉、本当にまだ知られてないいい場所がたくさんあるんです。大宮ソニックシティの展望台とかね、夜景綺麗なんだけど中明るすぎて、反射して自分が見えちゃうし、綺麗に写真が撮れないんですよ(笑)。そういう地味な部分の改善とかしていきたいですよね。

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お話を伺った人:ピエール中野

ピエール中野

凛として時雨のドラマー。高度なテクニックと表現力で、豪快かつ繊細な圧倒的プレイスタイルを確立。著名ミュージシャンのレコーディングへの参加や、ドラムチューナー、テレビ出演、番組MC、DJ、音楽監修、イベントプレゼンター、コラム連載など、ドラマーの枠を超えた幅広い活動を展開している。2019年7月には初の著書『Instagramストーリーズ #キリトリ線 ~少しだけ生きやすくなるための思考の整理~』を発表。同月にオーディオメーカーAVIOTとのコラボイヤホン『TE-BD21f-pnk』を発売。 公式サイト Twitter Instagram

聞き手:小沢あや

小沢あや

編集者 / ライター。音楽レーベルでの営業・PR、IT企業を経て独立。ハフポスト日本版、Dybe!、ウートピ等で執筆。Engadget「ワーママのガジェット育児日記」連載中。SUUMOタウンに寄稿したエッセイ「独身OLだった私にも優しく住みやすい街 池袋」をきっかけに、豊島区長公認の池袋愛好家としても活動している。 Twitter ブログ