待てば何でも手に入る時代?千葉県鴨川市でお金を使わずに里山暮らしを楽しむ『居候の家』とは 【いろんな街で捕まえて食べる】

著: 玉置 豊 

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千葉県鴨川市に永野太郎さん(31歳)という友人が住んでいる。

いや、友人ではないか。共通の知り合いは多いけど一度も会ったことはなく、Facebook上での友達申請が永野さんから来たので承認し、なんとなくお互いが様子を見ているという間柄だ。

そんな永野さんが、この春から『居候の家』という活動を始めた。どうやらシェアハウスのようなものらしいが、あえて居候という古い響きを持つ言葉を使っているのだから、横文字のシェアハウスとはなにかが違うのだろう。

一度会ってみたかった人なので、この機会に話を聞いてみようと鴨川へと向かった。

『居候の家』の居候は、意外な人物だった

小雨が降る平日の早朝、教えてもらった住所をカーナビにセット。マシンボイスのいわれるがままに館山自動車道の鋸南保田(きょなんほた)インターチェンジで降りる。

そこから長狭(ながさ)街道という長くて狭い街道を走り、コーヒーを飲みたかったのだが一度もコンビニを見かけないままたどり着いた場所は、『梅本』と書かれた平屋だった。

教えてもらった住所を確認すると、番地の最後に『梅本』と書かれていた。なるほど、ここのようだ。私が到着したころには、雨はすっかりやんでいた。

ちょっと緊張しつつ家に上がらせていただき、永野さんからお話を伺った。

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ここが居候の家のようだ

f:id:tamaokiyutaka:20190808001907j:plain永野太郎さん

永野さんに自己紹介をしてもらったところ、20代前半は0.03ミリのペンで細密画などを描く美術作家をやっていて、その後は介護の仕事をしつつサバイバルを研究したり、パーマカルチャー(恒久的持続可能な環境での農業文化)を学んだり、食用昆虫の養殖を試したりといった経験を踏まえて、この春にこの地で『居候の家』を立ち上げたそうだ。

若干31歳にして紙の履歴書だと書ききれないボリュームの職歴である。そして行き着いた先が居候の家。一体なにがあったんですか。

永野太郎さん(以下、永野):「俺は千葉市出身ですが、本家として400年続く家がここからちょっと離れた鴨川市内にあります。そこに住んでいた祖母が介護施設に入って空き家になったので引越してきたけど、家庭の事情でそこを出なければいけなくなり、心配してくれた近所の方が紹介してくれた物件がここのすぐ近く。とりあえずそこに住んでシェアハウスをやるための物件を探していたら、地元の方の紹介でここを教えてもらいました」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002415j:plain梅本の裏側

永野:「ここは家主が亡くなられて、取り壊される直前に滑り込みで入れたという場所。元々は食堂だったみたいですが、現在の食品衛生法や消防法だとちょっと営業許可が下りないので住居として使っています。

飲食店の経営はできませんが、『梅本』という看板はそのまま利用させてもらい、『居候の家』、そして『開拓屋梅本』という屋号でなんでも屋をやっています。この店は地元の人なら全員知っているから、梅本を名乗ることで、『あ、あそこの人たちか』って分かってもらえるんです」

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昭和58年にオープンして平成25年まで営業していた「梅本」という食堂の居ぬき物件。建物自体はもっと古いのだろう。こういう店のチャーシューメンが食べたい

――ここには誰が住んでいるんですか?

永野:「女2人、男2人、そして自分を含めて5人でちょうど満室。俺以外の住人はみんなこの春に学校を卒業したばかりの人で、SNSや口コミで集めました。それぞれ美術作家、ライター、建築家、数学者とかを目指しています。まだ社会人経験がないというのは大きなメリットで、勤め人を経験すると住民税や保険代が高くなりますから」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002304j:plain永野さんと住人たち(一人欠席)。雰囲気は学生寮みたいだ

――学校を出て就職せず居候生活に突入ですか。モラトリアムの延長ですかね。

永野:「ここは50代が若手と呼ばれる集落なので、20代の彼らなんて思春期ですからね。シェアハウスをやりたかったというよりは、この地域に若い人を呼びたかったというのが正しい。田舎に若者がいないっていうのは全国共通の問題で、高校を卒業したら進学や就職で離れるのが当たり前の世の中。その後に戻ってくるかというと、よっぽどの事情がないと難しい。縁のない若者を、いかに里山に引っ張ってくるかが課題ですよね」

――はい、いろいろな場所で聞きます。でも相当なメリットがないと難しいんじゃないですか。

永野:「田舎暮らしは、挑戦することにお金がかからないという大きなメリットがあるんです。都市部で一人暮らしをしながら、例えば美術作家をやろうとしたら、本業としてなにか仕事がまずあって、生活をする上での家事などを全部自分でやって、その合間にようやく作家活動なので、三足の草鞋を履くようなもの。

俺が見てきた人たちは、三年持てばいいほう。そこがボーダーラインであり、それ以上続けられる人は本当の作家になっていく。もっと作家活動の時間がちゃんととれたら、もっと長い期間挑戦があれば、途中で諦めてしまった人も作家になれたかもしれない。それをできる基盤をつくりたいんです」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002036j:plain元々が食堂なので、キッチンは広い

――石の上にも三年といいますが、その石を座り心地よくするみたいな話ですか?

永野:「生きることにお金がそんなにかからないのであれば、挑戦を長く続けられる。それには死なない程度にお金が稼げるっていうのがものすごく大事。そのツテを手に入れるために、その方法を学ぶために、まずここで一年生活してみたらどうだって誘って、きたのが彼らです。

朝食と昼食はなんとなくの流れで各自ですませますが、夕飯はみんなで食べることが多くて、食費は5人で300~500円。もらったり育てた野菜はあるし、猟師さんのツテから猪とか鹿の肉をもらうことも多いので。農家さんの手伝いをやるとお米をもらうこともあるから、今週買ったのは朝食のパンくらいかな」

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家主部屋に永野さん、そして男部屋に2名、女部屋に2名が住んでいる

――『居候の家』っていう名前の由来はなんですか。

永野:「呼び方はいろいろ考えたのですが、一番定着したのが『居候の家』という名前でした。居候といっても完全に無料ではなく、電気代やガス代、共有する車の維持費や食材費などを折半するということで、住人からお金はいただいています」

――え、永野さんが全員分の生活費を出しているんだと思っていました。

永野:「実は逆です。ここは月に最低6~7万円くらいの維持費がかかりますが、住人には一人あたり月2万5000円払っていただいています。彼らから俺に対してお金をシェアしてもらわないと、彼らに教えるっていう時間がとれないので、俺の時間を買うというところで少し多めに払ってもらうということで。彼らより俺のほうが経済負担は少ないから、今現状ここで居候しているのは誰かというと、俺なんですよ!」

――まさか永野さんが居候側だったとは。実際はなんだかんだで直接の維持費以外にもお金はかかって、それを永井さんが出しているんでしょうけど。

永野:「普通のシェアハウスだと、家主側に強い発言力が出てきてしまう。さらにここでは俺がなんでも屋の仕事を引っ張ってくる親方であり、地元との窓口でもあります。一歩間違えばブラック企業化しやすいパワーバランスだから、俺が居候だからねって住人にいってます。俺のほうが立場は低いんだよと」

――それでバランスをとるんですね。掃除とかは当番制ですか?

永野:「ここを立ち上げるときに細かいルールを設けなかった。シェアハウスって家賃収入を経済基盤に落とし込むために仕組みができてるじゃないですか。でもルールを先につくると、相談をする前にクレームしか来ない。俺は住人とそういった関係をつくりたくなかった。誰かがやってくれるだろう、どうにかしてくれるでしょう、だとみんなが不便になる。ご飯炊いておいたよとか、お茶を飲むときにひと声かけるとか、そういう気持ちを持ってお互いが楽になる関係性を構築するっていうところから、意識を持ってもらえれば。

すでにあるルールに従うのではなく、どういう風に生活するか根底的なことを考えていかないと、田舎での生活は動き出さない。ここでルールや役割を一からつくることを覚えれば、ここを出てからも地域の人と交渉して、仕事や生活のライフラインを整えていくことができる。生き方をデザインしていくことができる。自分らしい暮らしのリズムをつくってくれたらというのが願いです。最終的には俺がいなくても、居候の家が成立する仕組みにしていきたいなと」

――なんと壮大な計画だったとは!

永野:「将来的なことを考えると、20年、30年と俺がここで暮らすことを考えたとき、自分より若い世代を呼んでおかない限り、俺の老後にも未来はないですから」

里山でのらりくらりと生きる方法

――生活費があまりかからないといっても、最低限のお金は必要になります。そのためになんでも屋をやっているんだと思いますが、具体的にはどんな仕事があるんですか。

永野:「ここのいいところですが、こうして人を集めただけで、こっちから仕事をくださいって営業をかけてないのに仕事が入ってくる。地元の人から、今うちに仕事あるからちょっとやってよって。ブルーベリー栽培のネット張り、集落の草刈り、引越しの手伝い、獣害対策とか。年間を通じて社員を雇うほどではないけど、タイミングによってはたくさん仕事がある、人手が欲しいっていう人がけっこう多い。さらに竹が切れたり、小屋や柵をつくれる技術が身に付けば、いくらでも仕事はできる。ただ、せっかく田舎暮らしで自然と近い生活をするのであれば、働きすぎないようにしたほうがいいかなとも思いますが」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002428j:plainいらなくなった畳で囲った手づくりのコンポスト

――田舎は仕事がないっていうイメージですけど、意外とあるものなんですね。

永野:「正規雇用は少ないから勤め人として田舎に暮らすのはハードルが高いですよ。そこで自営業者としてのらりくらりと生きられる基盤をここでつくっていく。とりあえず、彼らは2~3年はここで死なないはず。なんだかんだで地元の人も応援してくれて、もう俺を通さず個々にやり取りして仕事をもらっている住人もいます。

この『居候の家』が土だとすると、彼らは種であり、そして地元の人が雨。土はいいものをつくったつもりです。個性豊かな種も集まってきた。あとは環境っていうところで、雨までは用意できません。周りの人がサポーターとなって、俺以外の大人が彼らに関わってくれない限り、この種は育たないですよって、地元の人たちには説明しています。おかげで自分が考えていた以上のことが、ここ数カ月で起きているというのが実感です」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002434j:plainこちらは竹で囲ったコンポスト。里山での生活の中でさまざまな実験を楽しんでいるようだ

声を上げて待っていれば何でもそろう時代

――田舎でなるべく安く生活するコツってありますか?

永野:「まず家賃ですが、相場は房総の古民家だと2万円くらい。ただ屋根や床が傷んでいたり、水まわりが古かったり、修繕が必要な場合が多く、賃貸だとその修繕費用を借主負担の場合が多い。それなら家を買ったほうがいいですよね。山一つ付いて一軒50万円とかで買えるような場合もありますから」

――中古自動車みたいな値段だ。でもここは借家ですよね。

永野:「そういう優良物件は不動産屋にいっても簡単には出てきません。まずは賃貸で1年、2年と住んでみる。地元の人とゆっくり付き合っていくなかで、そのうちに空き家の情報は出てくるので、そういう情報を逃さないというのが大切です」

――理屈は分かりますが、なかなかの長期戦だ。

f:id:tamaokiyutaka:20190808002450j:plainトタンで囲ってつくった畑。中央を凹ませることですべての場所に手が届くデザインになっている

f:id:tamaokiyutaka:20190808002508j:plain永野さんに教わりながら畑仕事を手伝う住人たち。こうして経験を積むことで、自分でやれることが増えていくのだろう

永野:「今は物も家も土地も余っている時代なんですよ。お金を払ってもいいですが、待てば手に入るものがすごく多い。『待つ』っていうところが人生の計画として入っているかどうか。お金で解決してもいいんですけどね。次にあれをやりたいな、これが欲しいなっていうのを常に話しておけば、いずれ集まってくるので。例えばここのタンスや冷蔵庫、炊飯器、ゴミ箱とかもタダでもらってきています。家財道具の4割くらいはもらってきたものじゃないかな」

――『タイムイズマネー』の逆。時間をかけてお金をかけないと。

永野:「例えば家だって、こだわりがなければタダ同然で建てられるんですよ。柱でも屋根材でも、ホームセンターとかで買わなくても、いくらでもやり方はある。それを器用にやれる人が田舎暮らしを楽しめる。逆に言えば、精神的な余裕と時間的な余裕がないと楽しめない」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002442j:plain住人がほぼゼロ円でつくったビニールハウス

永野:「この辺りには『あわマネー』という地域通貨があって、この地域通貨はお金ではなく、お金のようなもの。自分ができることと、してほしいことを伝え合うことで、不要な物や技術のシェアリングができるんです。住人の不用品を引き取ってもらったり、使わない油絵の道具と養蜂の道具を交換してもらったり。農作業や事務仕事のヘルプを募集している人や、イラストや床張りといった得意なことを売り込んでいる人もいます。お坊さんがお経をあげますよ、なんていうのも。

これはあくまできっかけづくりであって、人としての信頼関係ができれば、あわマネーも必要なくなる。どういうことをやっている人間なんだって覚えてもらえば、お金で支払う仕事が発生するかもしれない。一緒に田んぼや畑をやらせてもらっている方も、あわマネーを通じて知り合った方です」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002534j:plain自分がやれることとやってほしいことが書かれた、あわマネーのマップ

――私はシェアできるような技術を持ってないから、田舎暮らしを楽しめないかもしれません。DIYとかできないし。

永野:「若い人が移住して一番悩むのが、田舎暮らしに必要な技術を教わる術がないこと。草刈り機の使い方だったり、土地の管理方法といった基本知識。古民家が安くても手入れの仕方が分からない。房総に関しては、あわマネーみたいな地域の人とつながる仕組みや、移住者同士のコミュニティがあるので、そこは助かっています。

田舎暮らしは自給自足じゃないとと決めつけて、ストイックに自分で何でもやらないといけないと思っている人も多い。でも実のところそうじゃない。周りの人と助け合いつつ、持ちつ持たれつの助け合いができないと。ここは無人島じゃないですから」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002540j:plainあわマネーはお金ではなく、あくまでお金のようなもの、のようだ

――それをサバイバル研究家でもある永野さんが語るっていうのが、なんだかおもしろいです。

永野:「例えば床板の張り替えをするのだって、ネットや本でやり方を調べて、ホームセンターへ行って、材料や工具を買って、全部自分でやるでもいい。でも先輩の移住者や身近な人に相談してみると、木工所や製材所を教えてもらって無垢の板とかの良い材料を安く手に入れられる場合もある。丸ノコとかの道具はそんなに使うものじゃないから貸してくれる人もいる。教える人と教わりたい人を集めて、床の張り替え作業をワークショップとしてやれば、お金を集めて作業をしてもらうこともできるかもしれない。人に頼ることとか、密な人間関係が苦手な人もいるだろうけれど、それありきで暮らすのが一番いいと思います。

ただ地元のルールを押し付けてくる人もいるから、自分を守るためにもコミュニケーション力はやっぱり必須のスキル。どう地域の人の期待感と折り合いをつけながら、そこに自分の色を付けて暮らしをデザインして生活できるか。それが俺の考える里山の生活なんです」

移住者を受け入れてきた鴨川という土地柄

――鴨川といえば海というイメージですけど、この辺りは山の中ですね。

永野:「ちょうどチーバ君のへそあたり。江戸時代から続いている街道沿いで、昔は馬車もよく走っていたとか。ここ長狭(ながさ)地区は地形的に細長く、そこにバスが走っているので、車が無くても暮らしやすいと思います。そのなかでもここはバス停や郵便局、ガソリンスタンドが近く、なんといっても集落の生命線ともいえるスーパー、『寿しや』が目の前です。田舎のなかでも暮らしやすい場所です」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002626j:plain『寿しや』という名前のスーパーが梅本の目の前にある

f:id:tamaokiyutaka:20190808002638j:plainここで売られている種は、この土地でよく育つものが厳選されているそうだ

f:id:tamaokiyutaka:20190808002644j:plain地元の野菜がとにかく安い!

f:id:tamaokiyutaka:20190808002659j:plain「この辺は排他的じゃない、他人を受け入れる地域。無理に関わろうとはしないけど、人が少ないから来てくれるのはありがたいよね」と語るお店の方

永野:「ここは内房も外房も海まで20キロという距離ですが、鴨川市は漁業の後継者を育成する移住促進の窓口があります。海の近くに住んで漁師の修業をしながら椎茸を栽培したり、大工仕事をしたり、農業をしたり、のらりくらりといろいろやりやすい土地だと思います。やりたいことに合わせて、生活を選択できるのが鴨川です」

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すぐ近くに道の駅みたいな無印良品の店もあった。さまざまな企業が集まる場所のようだ

f:id:tamaokiyutaka:20190808002729j:plain地元のニンジンと鰹節を購入

――なかなか住みやすそう場所ですが、この辺りの人柄はどうですか?

永野:「このエリアはオーガニックの野菜をつくるために引越してくる人も多い場所。無農薬有機農法の鴨川自然王国が1981年にできて、それくらいから移住者たちが文化をつくってきた。また成田空港が近いし、外房がサーフィンの世界的スポットということもあり、11カ国くらいから人が来ている。外国の会社もあって、多様性がすごいんです。国内外の移住者と住民の人が、国籍も世代も関係なく一緒に何かをする場がかなりある」

――寿しやの方もいってましたが、ここは移住者を受け入れてくれる土地だと。

永野:「移住する場所は、人で決めることが大事。地域によっては移住者に対して、どうせすぐ離れるんだろってよそ者扱いする人もいる。集落によって結構違うんです。ここは幸い、先輩の移住者が40年分の信頼をつくってきているので、俺みたいな人間に対しても理解がものすごく速い。例えばお祭りの手伝いでも、地元の人たちがお願いをするっていう立場で接してくれる。それはすごくありがたいです。

ただ直近の問題点は、この辺で活躍していた移住者たちも50代以上になって、その下の世代がすっぽり抜けている。あと5年、10年で動ける人が減ってしまう。どうにかしてこの流れを変えなければいけない。若者を呼んで支える分母を増やさないと、俺一人じゃこの地域は抱えきれない。だったら俺みたいな人を呼べばいいだろうって」

――それが『居候の家』を立ち上げた理由につながっていくんですね。ようやく理解できた気がします。

今後の展望を聞きつつラーメンをつくる

――『居候の家』をやりつつ、なにか別の計画はあったりするんですか?

永野:「どこの集落でも農地を誰が継ぐのかが大きな課題で、移住者が継ぐための仕組みづくりに動いています。最近は自分の田んぼを管理しきれないので、人にお願いすることが多い。でも1人で抱えられる田んぼは限りがあって、そのキャパシティオーバーが起きて、そこで力尽きて脱落してしまう農家さんが増えている。どうにか維持している人がやめたり体調を崩したら、そこが一気に休耕田になってしまう」

――全国の農家が直面している問題だ。

永野:「そこで会社をつくって後継者のいない田んぼや畑をまとめて管理しようと。農地は個人で所有するのが難しいし、助けを求めている農家さんは多いけど、そういう話はだいたい土地が広大すぎて一人だと受けられない。土地と人を上手につなぐコーディネーターがいればこういう話は収まるので、そのための仕組みをつくっています」

f:id:tamaokiyutaka:20190808002832j:plainあわマネーを通じて知り合った方と一緒にやっている田んぼ

f:id:tamaokiyutaka:20190808002840j:plainセリがたくさん生えていた。食べられるものがその辺にあるのがうれしい

f:id:tamaokiyutaka:20190808002901j:plain休耕田の活用も実験中

f:id:tamaokiyutaka:20190808002955j:plain竹藪を切り開き、鶏を飼う計画もあるとか

f:id:tamaokiyutaka:20190808003011j:plainちょっと時季外れだけどタケノコを発見!

f:id:tamaokiyutaka:20190808003019j:plain天然のキクラゲも立派に育っていた

このように永野さんの話を聞きながら、近所で集めた食材がそろったところで、梅本のキッチンをお借りして夕飯としてラーメンをつくらせていただく。

出汁のベースは地元のスーパーで安かった内房産のムツという魚。内臓を丁寧にとって地物の野菜類や鶏ガラと一緒に煮込み、醤油ダレには外房産の鰹節をたっぷりと加える。内房と外房のハーモニーだ。

f:id:tamaokiyutaka:20190808003144j:plain地元にしか出回らない材料でラーメンのスープをつくろう

f:id:tamaokiyutaka:20190903231457j:plainムツと鶏ガラでとったスープで豚バラ肉の塊を煮る。これで肉もスープもうまくなる

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具となるニンジンもスープで煮る

f:id:tamaokiyutaka:20190903232907j:plainよく洗ったキクラゲはたっぷりの胡麻油で炒め、醤油味に仕上げておく。コリコリの食感が最高

f:id:tamaokiyutaka:20190903231513j:plain醤油ダレには贅沢に鰹節をたっぷりと入れる

f:id:tamaokiyutaka:20190903231532j:plainスープで煮た豚肉を醤油ダレに漬けておく

f:id:tamaokiyutaka:20190903232915j:plainハチクのタケノコは重曹入りのお湯で茹でてアクを抜き、醤油ダレに漬けこんで簡易メンマにする

麺は持参した家庭用製麺機という機械で、永野さんたちにつくってもらった。

製麺機はコミュニケーションツールだと思う。

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若干唐突な展開だが気にしないでいただきたい

麺は自家製の手づくり麺、具は今日採取した天然のキクラゲ、セリ、タケノコ、そして千葉県産の豚肉で作ったチャーシューに無印良品で買った味の濃いニンジンをトッピング。

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ラーメンのスープは鶏ガラ、豚ガラ、そして店主の人柄が大切と聞いたことがある。移住先もまた人柄が大事。

内房と外房という二つの海に挟まれつつ、豊かな里山の自然に恵まれたこの土地を、一杯のラーメンで表現できたのではないだろうか。魚介の香りが強い澄んだスープに野趣あふれる天然の具材が生きている。季節が冬だったらジビエの肉類を使いたいところだ。

あわマネーで自分ができることに『ラーメンづくり』と書いておけば、お声はかかるだろうかなんて考えつつ、帰る間際に永野さんへの注文を住人からこっそりヒヤリングすると、なんとも意外な答えが返ってきた。

「……オナラですね」

「部屋の仕切りが障子一枚なんですが……家主の屁が心臓に悪い。寝起きとか寝ぼけているときにあの大きさはちょっと。あと食事中のオナラもやめてほしいです!」

今後、この『居候の家』がどうなっていくかは分からないが、今のところ住人の不満は永野さんのオナラくらいのようだ。

その話を永野さんに伝えた返事はこうだった。

「ははは……ブッ



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著者:玉置 豊

玉置 豊

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺作りが趣味。

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