札幌から「板橋」に14年暮らした芸人、グランジ・遠山大輔が語る、東京の街の選び方

取材・編集: 小沢あや(ピース株式会社) 撮影: 小原聡太

ラジオでさまざまなレギュラー番組を抱え、音楽に造詣が深い遠山大輔さん。

札幌で育った遠山さんが、東京でお笑いトリオ「グランジ」を結成してから今年で20周年を迎えました。

遠山さんの上京物語は、19歳で移り住んだ東京・板橋からスタートしたそう。生まれ育った札幌の思い出と、「あまりに居心地が良くて14年間も住んでいました」と語る板橋の魅力も伺いました。

北海道・札幌で育った、音楽と街の記憶

―― 遠山さんが生まれ育ったのは、札幌のどのエリアでしょうか。

遠山大輔(以下、遠山):「大通」や「すすきの」などの栄えているエリアから、地下鉄で10分くらいのところで育ちました。田舎ではなく、マンションも団地もいっぱいあるし、自転車で30分も走れば中心地に行ける。困ることは何もなかったですね。

―― 便利な街だったんですね。音楽好きの遠山さんが札幌でよく通っていたスポットは?

遠山:家から一番近かったのが、今はもうないけど「ミュージックショップ国原」。道内のCDショップだと「玉光堂」。

そして僕が高2くらいの時、ついに札幌にタワーレコードができました。そこからはよく、タワレコに通いましたね。フリーペーパーのbounceで新譜情報をチェックして。

CDをコツコツ集めていたけれど、札幌のライブハウスシーンの盛り上がりを把握したのは上京後でした。地元のライブハウスにbloodthirsty butchersとか、eastern youthがいたんですよ。見ておけばよかった、と後悔しました。

―― 札幌でたくさん聴いた音楽の知識を活かして、音楽番組のレギュラーもたくさんお持ちです。そんな遠山さんが、そもそもミュージシャンではなく芸人を目指したのはなぜでしょうか?

遠山:僕、目が悪くて。10代の頃は、親から買い与えられた銀縁のメガネをかけていたんです。「メガネの俺は垢抜けないからバンドは無理だ」と思い込んでいて……。今思うとなんだか変ですよね。

―― 実際にメガネのミュージシャンもたくさんいらっしゃいますし。

遠山:不思議ですよね。自分の行動に制限をかけてしまっていたんですよね。垢抜けたくて仕方がなかったのに。

でも、「自分が一番面白い」という自信だけはあって。芸人になることは決めていました。人前に出るのが好きだし、地元でもチヤホヤされていたので、いけるだろうと。


―― 札幌で実際に生のお笑いに触れたことも?

遠山:はい。千原兄弟さんに憧れていて。僕が高校生の頃、ジュニアさんとせいじさんが全国ツアーで、札幌に来てくれたんです。「ペニーレーン24」というライブハウスでの単独ライブ。お二人がとにかくかっこいいし、もうとにかくめちゃくちゃ面白くて。「俺も絶対にこうなりたい!」と思って、NSC入りを決めたんです。

板橋の魅力は、商店街とちょうどいい便利さにある

―― 遠山さんは、19歳の時に札幌から上京されたんですよね。

遠山:もともと芸人になることしか考えていなかったし、東京に来ることは決まっていたんです。高校卒業後は札幌でアルバイトをしながら、NSCの入学資金を貯めていました。

―― 上京後は、板橋に長くお住まいだったそうで。

遠山:祖父母が住んでいた家が、たまたま板橋だったんです。祖父が亡くなった後は、祖母が一戸建てにひとり暮らしになってしまって。「とりあえず、2階が空いているから来たら?」と声をかけてもらって、気がついたら14年も板橋にいました。

―― 板橋の居心地は良かったですか。

遠山:そりゃもう便利で、板橋を出る理由がなくて。もともと中学生の頃から祖父母を訪ねて夏休みには板橋に来ていたし、土地勘も少しあったからすぐなじめましたね。祖母の家を出た後も、板橋のマンションを借りて住んでいました。

―― 板橋はお店も充実していますよね。個人店もチェーン店もバランスが良い印象です。

遠山:板橋エリアは商店街がいくつもあって、僕はとくに、「仲宿商店街」が大好きでした。ひたすら長い商店街で、にぎわっていて。ずっと進んでいくと、桜並木で有名な石神井川もある。景色もいいし、歩くだけでも楽しいんですよね。

板橋区内だと、大山のアーケード「ハッピーロード大山商店街」もとにかく長いし、お店が多くて盛り上がっています。コロッケ屋さんやゲームセンターによく行きました。

―― 板橋ってエリアとしてはとても広いですよね。「板橋」と名前がつく駅も「板橋駅」「板橋本町駅」「上板橋駅」「中板橋駅」「下板橋駅」……ほかにもたくさんあります。遠山さんはどのあたりにお住まいだったんでしょうか。

遠山:正確な最寄り駅は都営三田線の「板橋区役所前」でした。JR埼京線の「板橋」までも徒歩15分くらいで、とても便利なエリアでしたね。

―― 「板橋」はとくに、都心へのアクセスも良好ですよね。

遠山:はい。板橋から新宿までは埼京線でたった9分。池袋からも、余裕で歩けるので、山手線の終電に滑り込めばなんとか帰れます。

在来線だけでなく、新幹線も便利なんです。大宮からパッと乗れますからね。

―― 劇場や地方出張が多い芸人さんが住むにはぴったりの街かもしれませんね。

遠山:都営三田線も意外と便利なんですよ。2007年に神保町花月(現・神保町よしもと漫才劇場)ができたんですが、「板橋区役所前」から都営三田線で一本で行ける。「板橋ってこんなに芸人に便利な街なんだ」と感動しました。

―― 芸人さんは中央線エリアに住む方が多いイメージなのですが、板橋も実は人気なんでしょうか?

遠山:僕が芸人を始めた頃は、板橋に住む知り合いが少なかったんですけど、最近は板橋在住を押し出した「板橋ハウス」(東京NSC22期の3人で結成)もいて。彼らのライブはチケットも即完売だし、芸人の中での板橋の格を上げてくれた気がしますね。

下町感と人との距離があたたかな街

―― 板橋での暮らしは、どんな雰囲気でしたか?

遠山:住みやすいし、当時は一軒家やアパートが多くて、大きなマンションもなく、こぢんまりとしたエリアだったんです。

住民同士の交流もたくさんあったし、いつもあいさつを交わしていました。札幌にいた時は「もしかして東京って殺伐としているのかな」と思っていたけど、全然そんなことはなかったです。


―― 板橋は少し、下町に似た空気があるかもしれませんね。

遠山:そうですね。最初は東京にビビっていましたけど、僕が住んでいたエリアは本当にのんびりしていました。

―― 板橋の街で印象に残っている思い出は。

遠山:夜中に帰宅したら、鍵を忘れたことに気がついたことがあって。祖母は寝ているようだったので、窓越しに小声で「おばあちゃん〜〜」って声をかけ続けていたら、住宅密集地だから向かいの人がガバっと起きて表に出てきちゃったんです。「なんだ!? なんの声だ!?」って。「やばい! 近所迷惑になっちゃった!」と焦って逃げちゃったんですけど、霊的なものだと思われたかも……(笑)。

都心に引越してからも自転車で通い続ける板橋の名店「洋庖丁 板橋店」

―― たくさんのお店がある板橋ですが、遠山さんがとくに思い入れがあるお店は?

遠山:「洋庖丁 板橋店」です。都営三田線の「新板橋駅」の近く、板橋駅前本通り商店街あたりにある洋食屋さんです。思い出のお店というより、今もふと思い立って新宿から自転車で40分かけて通うくらいお気に入りの店です。立ち漕ぎで全力で。

―― 自転車で40分立ち漕ぎ! そこまでしても通いたいお店なんですね。

遠山:上京してからずっとお世話になってます。週末、板橋を出て渋谷とか原宿とか池袋とか大きな街に遊びに行って、お金はないけどCDや服を見たりして。19時くらいに板橋に帰って、洋庖丁に寄って夕食を楽しむのが定番でした。

池袋や高田馬場にも洋庖丁という名前のお店はあって、メニューも似ているんですけど、僕は圧倒的に板橋店派です。

―― 遠山さんの推しメニューは?

遠山:「からし焼き肉ランチ」がダントツで最高なので、食べてほしいですね。店員さんも常連さんも、みんな「からし〜」ってオーダーするんです。

―― からしが入ってるんですか?

遠山:いえ、からしは入っていなくて、黒胡椒焼きなんですよ。豚肉を黒胡椒で炒めて、なにか入れているようなんですけど、店員さんの手際が良すぎて、厨房を眺めていても未だに全貌がよくわからないんです。

しっかり黒胡椒の味がついた豚肉と、キャベツの千切りとトマトと、カレー味のスパゲティが添えられていて、さらにおいしい豚汁とごはんがつくんです。とにかく、めちゃくちゃおいしいです。黒胡椒がピリッと効いて、ごはんが進みまくる!

―― 遠山さん的には「からし」一択なんでしょうか。

遠山:ほかにも「なすと肉のしょうが焼ランチ」や「ハンバーグステーキランチ」「白身魚のバター焼ランチ」もおいしいんですけど、結局店に入った瞬間「からし〜!」ってオーダーしちゃうんですよね。あ〜、今すぐ食べたいくらいです。

―― もう「からし」の口になっているんですね(笑)。ほかにも、よく通っている板橋のお店は?

遠山:JR板橋駅の「荘病院」の向かいにあるお惣菜屋さん「つるや」のからあげ弁当は外せないです。めっちゃめちゃデカいからあげがドン! って詰まっていて、プラスチックの容器ギリギリまでごはんが入っていてすごいボリューム。そこにキャベツと漬物も添えられていて、満足度が高いです。

今は原材料の高騰もあって価格が違うと思うんですが、昔は300円切ってた記憶があります。「つるやは安くておいしい」と、板橋で評判のお店です。

自転車と音楽さえあれば東京の街は楽しめる

―― グランジは今年20周年を迎えます。秋に開催される単独ライブのタイトルが「上京物語」ですね。

遠山:そうなんです。まだネタも何をやるかも未定なんですけど、響きだけで決めちゃって(笑)。

―― グランジが20周年ということは、遠山さんの東京歴も約20年。街歩きの楽しみ方も熟知されているのでは。

遠山:昔も今も、自転車で移動するのが好きです。朝10時くらいに目的地も決めずに家を出発して、なんとなく信号が青の方に進んで、気がついたら東京ドームとか皇居とかにたどり着く……そんな休日を楽しんでいました。お金がなくても楽しかったですね。知らない街に着いたら、その風景を眺めながら音楽を聴くんです。

―― 「東京」をテーマにした名曲もたくさんありますよね。

遠山:くるりの「東京」を聴きながら、「俺、上京したんだな」と浸ることもあります。

上京したての頃は、音楽と街の景色を全部新しい気持ちで楽しめました。それこそ日本武道館とか東京タワーとか「ドラマで知ってたけど、本当にあるんだ!」というような興奮がありましたね。

―― 今後上京を夢見る芸人やミュージシャン志望の方に東京暮らしのアドバイスがあれば。

遠山:結局「板橋、いいですよ」ですね。都心よりは家賃もお手頃だし、安くておいしいお店や、昔ながらの銭湯もある。

さっき、交通アクセスの良さもお話しましたけど、実はりんかい線直通だから、新木場やお台場方面にも行ける。売れてテレビに出られるようになっても、便利に暮らせる街です。魅力的な街はほかにもたくさんあるけど、まずは板橋からスタートするのも、いいんじゃないですかね。

お話を伺った人:遠山大輔さん(グランジ)

北海道札幌市出身。今年結成20周年を迎えた吉本興業所属のお笑いトリオ「グランジ」のメンバー。個人としてはTOKYO MX「70号室の住人」(毎週水曜21:25~)、TOKYO FM「全農 COUNTDOWN JAPAN」(毎週土曜13:00~)、渋谷のラジオ「親父ロック部」(毎月第2・5週目日曜19:05~)、bayfm「シン・ラジオ-ヒューマニスタは、かく語りき-」(月曜パーソナリティ/毎週月曜16:00~)などに出演中。ライブMCも多数務めている。

編集:ピース株式会社