
大阪の高校の同級生で結成し、今年芸歴20周年を迎えたお笑いコンビ・トット。「NHK新人お笑い大賞」「上方漫才協会大賞」など数々の賞を受賞し、2020年には東京進出も果たしました。
そんなトットのおふたりに、上京のタイミングや東京の街選びのリアル、関西と関東でのネタづくりの違いなど、芸人視点で語る“街”のインタビューを実施。
大阪時代の住まい遍歴から東京での暮らし方、さらにはまさに今、上京を考えている人へのアドバイスまで、たっぷりと聞きました。
大阪での住まい遍歴――芸人は成長とともに街を移動する

―― トットのおふたりは、それぞれどんな場所で育ちましたか。
多田:どちらも大阪市育ちです。僕が育ったのはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの近く。もともとは何もないところだったんですけど、USJができてから急に地元が発展しました。
桑原:僕は鶴見緑地のあたりです。多田さんの地元よりは、もともとにぎわってましたね。
―― 大阪府、といってもエリアごとに異なるカルチャーがありますよね。
桑原:大阪市内でいうと、大きくは差がないかもしれませんね。でも、そこからちょっと離れると、たしかに違うかも。
多田:エリアでいうと、堺市出身の芸人はちょっとヤンチャなイメージ。見取り図の盛山とか、金属バットのふたりとか、さらば青春の光の森田とか。タバコふかしてるのが似合う芸人、多くないですか? 吹田市の後藤さん(ジャルジャル)とかは、上品な雰囲気ですよね。
桑原:なんかわかるわ。大阪の人ってふたり並ぶとどんな組み合わせでも漫才のようなやりとりになるけど、奈良とか京都の方はちょっと違う目線というか、俯瞰(ふかん)のネタが多い印象です。奈良出身の笑い飯さんとか。まあ、関西の芸人は、みんな劇場の近くに住むから、最終的に似たようなエリアに集まるんですけどね。
―― 大阪時代の、思い出深い街はどこですか?
桑原:やっぱり、劇場がある「なんば」の近くです。でも、なんばは家賃も高くて、駆け出しの芸人はなかなか住めないんですよ。だから少しずらして、隣の「大国町」とか「恵美須町」あたりに住みますね。わかりやすく説明すると、通天閣側です。といっても、なんばまで自転車で10分かからないのでアクセスがいいんです。
多田:僕も、まさに最初は恵美須町に住んでいました。そこから、芸人として仕事が増えると、だんだんと違うエリアに行くんですよ。みんな。
桑原:僕らもそうです。多田が長堀町、僕が松屋町にそれぞれ引越せたときは、「俺ら、芸人としてやっと食えてきたな」と思いましたね。
多田:恵美須町時代は、ミルクボーイの駒場とルームシェアしてたんです。長堀町で初めてひとり暮らしができたときは、うれしかったなあ。芸歴11年目くらいの頃です。ちょうど、バイトも辞めて芸人一本で生活するようになって。
桑原:大きくは変わらないし、自転車で10分くらいの距離での引越しなんですけど、気持ちが変わるんですよ。
芸人としての思い出が街中の飲食店に

―― 芸人さんは飲みが多いイメージがありますが、大阪ではどんなお店に通われましたか?
桑原:大国町にいたときは、芸人仲間と行くのも立ち飲み屋だったり、家で缶ビールだったり。芸歴が長くなってくると、東心斎橋でおしゃれなイタリアンとか、焼き肉とか食べられるようになるんですよ。「かっこええな、芸人やな」ってわれながら思えました。
多田:あるな、それ。僕は長堀橋だったので「焼き鳥diningハマー 本店」にとにかくよく通ってました。テンダラーの浜本さんプロデュースのお店なんです。
桑原:懐かしい! めっちゃ行ってたなー。ほかに長堀橋で思い出すのは、「しじみ 炊き肉 くにき」。
―― しじみ炊き肉……? どんなお店なんでしょうか。
多田:浅い鉄鍋で、国産しじみで炊き上げた牛ホルモンが食べられる店なんです。
桑原:藤崎マーケットの田崎さんが飲食店に詳しくて、いろいろ連れて行ってもらいましたね。「お笑いで賞とりました!」というお祝いのときは、笑い飯の西田さんにふぐを食べさせてもらうことも。「がんこ」とか「和食処 竜田屋」とか、ふぐの名店がいろいろあるんですよ。
多田:寿司だと、「喜多郎寿し」とか「五郎寿し」とか。僕も先輩方にいろいろ連れて行ってもらいましたね。

桑原:「難波酒場」も懐かしいなあ。当時のママが、名物で。笑い飯の哲夫さんたちと、朝まで飲んでいたんです。お会計が終わって店を出ようとしたら「芸人さんは、運が大事だから!!」って、石をカチンカチンと鳴らして、謎の儀式みたいな、願掛けをやってくれるんです。「これで運、良くなったから!!」って。
―― ママ、すごいキャラですね。
桑原:僕らも酔っ払って「ありがとうございます!!」って御礼するんですけど、石をカチカチやるもんだから、火花がパチっとダウンに飛んで、小さな穴が空いて(笑)。
―― (笑)。
桑原:びっくりしたけど、面白い店ですよ。そのママ、今は天王寺にある系列店の「種よし」にいらっしゃいます。こちらも本当にいい店です。まさに先月、哲夫さんと5年ぶりに種よしに行きました。僕らも大阪時代とは状況が変わったけれど、思い出が詰まったお店で、みんなで飲めたのがうれしかったですね。

―― 多田さんにとっての、なじみ深いお店は?
多田:アメリカ村にある「アメ村社員食堂」ですね。かまいたちの濱家さんに連れて行ってもらったのがきっかけです。当時、かまいたちさんはもう大阪では有名人だったんです。一方で、僕は芸人としてはまだまだで、バイトの日々でした。そのバイト先もアメ村だし、お店の近所だったんですけど、お金がないからなかなか伺えなくて。
―― 下積み時代の苦い思い出もあるんですね。
多田:でも、お店のママとパパが「今日のまかないや! 食うてけ!」って、よく食べさせてくれまして。「入荷数が少なくて、お客様には出されへんねん。アンタが食いや!」って、おいしいマグロをいただいたこともありました。
―― すてきな話です。優しくて温かい嘘ですね。
多田:え、嘘なん!?
桑原:多田さんに気を使わせないようについた嘘やん! え、気づいとらんかったん?
多田:今、気づきました……。まあとにかく、「アメ村社員食堂」さんには、たくさん食べさせてもらいました。大変お世話になりました!
思い切って上京するも家賃に驚愕
―― 「大阪にずっといたい派」でしたか? それとも「いつか東京に行くぞ派」でしたか?
桑原:ずっと「東京に行きたい」という気持ちはありました。ただ、どのタイミングで上京するのかが、まったくわからなくて。多田は大阪に残りたいようでした。
多田:芸人として、大阪でしっかりやれるようになった分、東京に出て仕事がリセットされるのが怖かったんです。正規ルートでいうと、千鳥さんとかダイアンさんとか、アインシュタインとか見取り図とか、「売れて、東京の仕事が増えたから上京」とかじゃないから。
多田:僕ら、勝手に来たからね。東京に。
―― 上京する時には、住む街をどう決めましたか?
多田:「お前は見た目がシュッとしてるんだから、しゃれたところにしろ」って言われてたんですけど、中目黒とかは家賃が高くて無理で。
桑原:僕も、最初に恵比寿とか中目黒とかをSUUMOで調べて。でも、バカ高くて。「新幹線に乗りやすい駅がいいんじゃないか」と考えたけど、やっぱり品川も高い。結局、品川から少しズラして五反田に落ち着いています。
桑原:土地勘がないから、きれいな街っぽい「イメージ」で選んで、現実を見てちょっとズラす、っていう。
多田:東京の家賃にびっくりしました。長堀橋から五反田、部屋のグレードを下げても、家賃は1.5倍になりましたから。
―― 事務所の先輩や知人に相談しましたか?
桑原:みんなが口をそろえて言うんです。「東京、どの街もええで!」って。「東京には梅田が8個ある!」みたいな。
―― 「東京には梅田が8個ある!」。たしかに、大きな街がいっぱいあります。
桑原:だから、聞いても結局どこがいいのか、わからないっていう。
多田:結局、みなさん自分が住んでる街が好きで。そこに後輩を呼び込みたがるだけなんです。俺も今、後輩に「五反田がええよ!」って言いまくってます。
苦労したのは東京でのネタ調整「方言と地名の翻訳が一番難しい」

―― 東京の劇場でのウケを意識するなど、ネタづくりで変わった点は?
多田:ネタ自体は変わらないけれど、関西弁の言い回しなど、東京の方には伝わらない部分を調整していますね。細かいところだと「ペットこうて」を「ペット飼って」。「べったこ」は「最下位」で。
―― 「べったこ」、わかりませんでした。
桑原:東京だと、多田さんのキツめの関西弁自体にツッコんだり、僕もわざと強めの関西弁で行く、というスタイルもできました。
多田:「関西弁、キツいねん!」とか「〜やがな!」とか言うんですよ。
桑原:大阪弁をいじるボケ、東京でウケるんです。この間、うっかり大阪の劇場でそれをやってしまったら、お客さんの反応が薄かった。やばっ、ここ大阪や、って。
多田:関西人にとっては、関西弁、普通やから(笑)。苦労でいうと、僕らが東京の地名でボケるのは大変です。それぞれの街の雰囲気というか、ニュアンスがわからないので、東京の先輩に全部聞きます。
桑原:東京の人も「天王寺ミオ」とか、ピンとこないですよね。大阪でつくったネタに出てくる街やビルの名前を、東京に合わせて変換するのが難しい。ミオ、東京やったらどこやろ? 「六本木ヒルズ」より庶民的やし、「SHIBUYA109」も違う気がするし。
多田:結局わからないので、ネタもそのまま「天王寺ミオ」でやってます。
―― 今年は20周年で愛知・宮城・大阪・福岡・岡山・広島・東京と全7カ所を回られます。各地方に合わせて、ネタもさらにブラッシュアップされるんでしょうか。
桑原:ご当地ワードは入れますし、各地で柔軟にやっていきたいですね。逆に、会場ごとに全部ネタを変えてもいいかも。
多田:そんな地名がぎょうさん入るネタある!?
「おしゃれな人に慌ててはいけない」トット流・上京アドバイス

―― 最後に、上京を考えている人に向けてアドバイスをください。
桑原:「東京は坂が多いので、『高低差』をチェックしたほうがいい」「安い物件も、粘って探せば割とある」「レンタサイクルとバスを使いこなすと一気に行動範囲が広がる」ですかね。
多田:「東京にビビらず、一歩踏み込んでもいい。飛び込みで入る店も意外と良い発見になる」とか。
桑原:「おしゃれな人がいっぱいいるけど、慌ててはいけない」も大事ですね。気後れしなくていいんです。
多田:「電車の遅延がとにかく多いけど、駅も路線数も多いから、慌てずに現在地からルート検索をしなさい」も伝えたいね。地下鉄が止まっていても、地上に出て別の駅まで歩いたら、意外と間に合うことが多いから。
お話を伺った人:トットさん
ともに大阪府大阪市出身で、高校の同級生である桑原雅人と多田智佑によるコンビ。NHK新人お笑い大賞 大賞、第52回上方漫才大賞 新人賞など受賞歴多数。芸歴20周年となる今年、名古屋からスタートする6年ぶりの全国ツアー「PROCEED」を開催予定。
編集:ピース株式会社
