新旧の市民が起こすおだやかな流動が魅力の街、三郷

著: みさとぴシイノキ 

2013年の9月、僕は埼玉県三郷市に家を建てた。多分、今後の人生のほとんどを三郷で過ごし、三郷で生涯を終えるんだろうなという覚悟をゆるやかに決めた。

僕は1979年生まれの39歳。

自分はもちろん、父も母も祖父も三郷生まれ三郷育ちで、遺伝子レベルからの三郷っ子だ。

三郷市は埼玉県の東南の端、千葉県と東京都との県境にある。首都高と外環自動車道、茨城県へと伸びる常磐高速道路を結ぶジャンクションがあるため、ラジオの渋滞情報などで名を耳にすることが多い。

出身の有名人で言うと、女優の遠藤久美子さんや元サッカー日本代表の中澤佑二さんなどがいる。数少ない自慢たち。

まぁ、せっかく筆を取らせていただいたことだし、ウィキペディアに載っているような話はやめて、僕個人にとっての三郷の話をしていくことにしよう。

先祖代々の三郷育ち

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僕が生まれ育ったのは三郷市の南部。

三郷市には武蔵野線三郷駅があるのだけれど、市内でも北部に位置するため、我が家の最寄駅としては隣の千葉県松戸駅、もしくは東京都葛飾区の金町駅などが挙げられる。

しかし、どちらも最寄りというには遠すぎた。徒歩換算で言うと、なんと40分超。

三郷南部は文字通り、陸の孤島だった。遊びとなると、春から夏は田んぼの用水路でザリガニ捕り、借家の私道で水浴び。おもちゃの鉄砲で的当てなど、昭和初期のような過ごし方をしていた。


中学校、高校も地元の学校で過ごした。

体力がついてきたので、遊ぶ範囲は少し広がった。買い物をするなら、自転車で松戸や金町。少し頑張って南越谷にあったショッピングセンターOPA(現在は閉店)まで行くようになった。お年玉で財布が膨らむと、趣味で始めた楽器の機材を買いに電車を利用するようになったりもした。

これまで、三郷という街に対して好き・嫌いといった概念はなかったが、このころから三郷が少し色褪せて見えるようになった。

三郷を出て、4年間を大阪で過ごした

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専門学校を留年して卒業した21歳の夏、三郷を離れた。

当時、付き合い始めた彼女(現在の妻)が大阪で独り暮らしをしていたのだが、うるさい親元と、刺激の消えた三郷という街から逃げるには絶好のキッカケになった。

仕事も決めずに大阪府門真市にワンルームマンションを借り、フリーターをしながら日々を過ごした。

最寄駅が徒歩5分、窓からは西日に輝く生駒の山々。歩いていけるマクドナルドやファミレス、駅前のにぎやかな商店街。期待していたとおりの刺激が溢れていた。

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刺激は溢れていた。

ただ、ここは自分のホームではないという感覚が消えることがなかった。関東と関西という、文化も人も毛色の違う土地だったせいもあるかもしれない。

刺激はあるけれど、思い入れも思い出もない風景を、自分のものとすることができなかったのだ。

彼女との付き合いが終わる時、大阪でのフリーター生活が困難になった時。いずれにしろ、どこかしらのタイミングで『三郷に帰ることを選ぶ』未来が見えたのは、大阪生活の初期の初期だった。

あれは、俗に言うホームシックだったのかな。

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故郷って、きっと土地を指すものではないのだ。

風景の中に自分の姿のある場所。土地というよりは、過ごした時間の質を指す言葉。

祖父と手を繋いで歩いた田んぼのあぜ道、河川敷で遊んだ花火、橋桁の下のひみつ基地。ジージーと鳴る送電鉄塔、合わせて唄うカエル。同じ市内に住む親類たちと過ごした時間。そんな三郷の風景の中にこそ、自分の姿があった。

結婚、子どもの誕生、家の建築、襲いかかる実感

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いろいろあったものの、大阪で付き合っていた彼女と結婚をすることになった。2011年に長女も生まれた。

冒頭にも書いたとおり、我が家は先祖代々の三郷人。いつから継がれてきたものか、詳しいことは分からないけれど、幸いにも、まとまった土地を持っていた。

東京西部のおしゃれな街で生きたいと言っていた妻を、『便利な都内で狭小住宅、辺鄙とは言え三郷で注文住宅どっちがいい?』と説き伏せ、三郷に家を建てることにした。

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2000万円超の借金をして完成した家を見た瞬間に、こう思った。

『あ……マジで三郷で生きていくしかなくなったんだ』

なんだかんだとセンチメンタルな故郷論を披露していたが、それはアレです。厨二的なアレ。経験も裏打ちも実感もない、薄っぺらな話。

35年かけなければ返せそうにもない金額の借金を背負って初めて、三郷で生きる(しかなくなった)ことを肌で感じたのだ。

これをきっかけに、三郷という街と真っ直ぐ向き合うことになる。

「ねぇ、三郷におしゃれなカフェないの?」

という妻。

「ふさけんな。三郷だぞ。あって、せいぜい喫茶店だ。カフェ?ふざけんな(2回目)」

と返す僕。

同じように、三郷で生きる覚悟を決めた北海道出身の妻は足掻いた。インターネットで必死に検索した結果、ある日、2軒のカフェを見つけてきた。

行ってみよう!と誘われるものの、どうせ近所の爺ちゃん婆ちゃんが集まって、一日中将棋指したり、どこそこの◯◯さんが病気したとか世間話してるだけだから行かない!イヤだ!という抵抗も虚しく、渋々行ってみることになった。

三郷のことをなにも知らなかったし、知ろうともしていなかったことを知る

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三郷市の早稲田に見つけた、古民家カフェ『cafe2345』。目の前に現れたのは、喫茶店ではなく、紛れもない古民家カフェ。

三郷にカフェだと……なんでだ……と、ただただ困惑した。

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cafe2345は、三郷の建設会社トヨダ建設さんがリフォームを手掛けた、ショールームも兼ねたカフェ。身体に優しいヘルシーなメニューと、自家焙煎のこだわりのコーヒーが楽しめる。

困惑が続く。三郷にこんなところがあったのか。

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続いて訪れた、三郷市番匠免にある、CAFE TIME。

美容師としての顔ももつオーナーが営んでいて、こだわりの手製家具などのインテリアがヴィンテージな雰囲気を醸し出している。

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選びぬいた豆をハロゲン式のサイフォンで淹れたコーヒーが本当に美味しい。

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スタッフの千葉さんが描くラテアートはガチで本格的。

「まだまだ未熟で修行中なんです」

と謙遜をされるのけど、僕は初めて見るラテアートの美しさに圧倒されて、あやうくエスプレッソマシーンを買いかけた。

自分は三郷という街に向き合うこともしないまま、ここにあるのは故郷の思い出だけだと諦めていたのだ。

この街に住む人々は、僕の想像の範疇を越えて(当然だが)、暮らしを楽しんでいる。お店、大小さまざまなイベント。三郷は、そんな人々の多くのアウトプットで溢れていた。

おそらく、同じように三郷に住む多くの人が、自分の住む街のこと、お店のことを知らないことを知らないまま過ごしているんじゃないか。これはものすごく勿体ないことだと思い、

「こういうお店とかを地域の人に知ってもらう地域ブログやってみない?」

と妻に声をかけ、地域ブログみさとぴというブログを立ち上げて、夫婦で運営を始めてみた。

地域を意識しはじめたことで、改めて三郷という街の輪郭を感じるようになった。


三郷という街と、代表的な幾つかのイベントを、この記事を読んでくれている皆さんに紹介したい。

つくばエクスプレスの開通で発展を続ける街と文化

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2005年に開業した、つくばエクスプレスと三郷中央駅。

昔から『常磐新線』の名での開通が噂されていた、三郷の新駅。『三郷に新駅なんか出来るわけなくない?』と、信じられずにいた。

三郷という街にとって、大きなインパクトになった。

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駅が完成すると、周りには大きな公園やマンション、綺麗なスーパーが出来た。小さなころの自分が見たら、こんなに高い建物が三郷に!と、度肝を抜かれること間違い無し。

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三郷中央駅前のにおどり公園ではたくさんのイベントが行われている。

毎年夏にはmisato style(ミサトスタイル)という、ジャズとグルメのフェスタが行われていて、4万人近くもの人が訪れる。三郷出身の元AKBの宇佐美友紀さんも司会で参加。

そのすぐ後にBIG盆という大きな盆踊り大会、その翌週には隣街流山市と共同開催される花火大会が河川敷で行われ、一年で最も三郷が盛り上がる時期だ。

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秋にはハロウィンフェスが開かれて、公園内にはさまざまな仮装をしたお客さんがイベントを楽しむ。年々パワーアップしていく規模と動員数。次の開催も本当に楽しみだったりする。

次世代の三郷へ

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TXのある三郷中央エリアは、値ごろ感が良いマンションや建売住宅が多いということもあり、都内からの転居者が多い。そんな理由から、住んでいる人も文化も新しい。月日を追うごとに、これまでとは違った三郷の姿が生まれていく。

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武蔵野線三郷駅周辺では、昔ながらの三郷の姿と、勢いのある中央エリアには負けないぞというパワフルさが見えたりする。お寺や公園、団地などで行われるマルシェやイベントもたくさん開催されている。

新三郷駅の周りには、北欧家具のIKEAや、ららぽーと新三郷、コストコなどが立ち並び、新三郷ららシティとして三郷中央駅周辺とはまた違った盛り上がりも見せていたりする。

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僕の育った南部エリアは、三郷を代表する癒やしスポット『みさと公園』がある。僕はもちろん、子どもたちも大好きなエリアだ。

三郷はまだまだ変わる

地域の暮らしをとりあげるブログを始めて、市内を動き回っていろんなイベントに参加したり関わったりする中で、一緒に行動している子どもたちも

『三郷って楽しいよね』

みたいなことを言うようになった。

親として、三郷で生きてきたひとりの人間として、ちょっとうれしい。


自分が幼少期のころには想像もつかない姿になった三郷。

きっと、この街はまだまだ少しづつ変わっていく。三郷を楽しむ子どもたちが大人になるころには、またとんでもない姿になっている可能性もある。

つくばエクスプレスが集めた新しい住民のみなさん、パワフルな昔からの住民のみなさん、のどかで美しい南部で暮らす住民の皆さん。三郷は三つの村が併合して生まれた街なのだけど、個人的に、今はこの三つのエリアに暮らす人たちの色が織りなす街だと思っている。

そんな遠くない未来に、この三つが化学反応を起こしてなにかが起きる気がしている。

願わくば、その反応が起こるシーンに自分も関わっていたいし、自分の子どもたちを含めた次世代へと華麗なバトンタッチが出来たら素敵極まりない。



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著者:みさとぴシイノキ

みさとぴシイノキ

三郷に家を建てたことをきっかけに、"三郷で楽しく生きていく"をテーマに『三郷市の地域ブログ みさとぴ』を夫婦で運営。超人的な社交性をもつ妻を編集長に据えて、裏から妻を操作する。現在はブログだけでなく、地域の企業やお店とイベントなども開催している。

Twitter:@info_misatopic

ブログ:みさとぴ