私の大好きが詰まった街・京都 祇園祭と自然とコーヒーとケーキとか|文・てらいまき

写真・文: てらいまき
大文字山から望む京都市

ただの幼なじみ程度の関係だった京都

私は結婚して家を出るまでずっと京都の中京区で暮らしてきた。中京区は錦市場(京都錦市場商店街)があったりお寺も多く、八坂神社があり祇園祭とも関係が深い地域なので、クラスメイトには、囃子方*1や旅館の跡取り、和菓子屋の⚫︎代目など京都と縁のある家柄の子がたくさんいた。

でも私の家は継ぐものがない一般家庭だったので、京都が歴史ある街であり、日本を代表する観光地であることに気づいたのはだいぶ時間がたってからだったように思う。

京都っぽいところといえば家の造りが町家だったことくらい。でもそれも夏は暑くて冬は激サムの古い木造の家という認識であった。

二条城のまわりを体育で走らされることはあっても中に入ったこともないし、京都御苑(地元民は「御所」と呼ぶ)もとてつもなく大きな公園という認識だし、成人するまで金閣寺も見たことなかったし、地元の友達もみんなそんな感じだったのである。

成人して地元の友達と京都巡りをしていたとき、その場にいた全員が初めて金閣寺を見たレベル。「本当に金色やん!!」と誰でも言うセリフをみんなで口にした。ちなみに金閣寺は3回しか見たことがない。

両親も生粋の京都人で、2人とも京都が大好きなのでいろいろ連れて行ってもらったような気もするが、興味がないのでまるで覚えていない。奈良公園の鹿に会いに行ったのは覚えているのに!

唯一「京都っぽかったのでは?」と思うのが人気お土産の「阿闍梨餅」にパン屋「SIZUYA(志津屋)」のカルネ、老舗パン屋「まるき製パン所」のコッペパンサンドや6月30日に厄払いをするために食べる「水無月」が朝ごはんに出ていたことかも。どれも全部テンションが上がる朝食だった。それは今も同じ。

ということで京都に興味がなかった私は、10代の思い出のほとんどが「新京極(新京極商店街)と寺町京極商店街」あたりに集約されている。新京極とは四条通と三条通の間に位置する、南北に延びる500mほどのアーケード型商店街で中高生が遊びに行くならこのあたりが鉄板。観光地とか寺とかそんなことはどうでもよくて新京極で遊べたらただそれでよかった。

左が寺町京極商店街で右が新京極。寺町京極商店街と新京極は隣にあるので行き来することができる

御所や鴨川にも遊びに行くけどそれよりも新京極〜!! 飛行機をぶった切ったようなオブジェが目を引くゲームセンター「京都オリンピア」で待ち合わせして、今はなき「河原町ビブレ」で文房具を買い、「河原町オーパ」で服を買って、プリクラを撮るかカラオケに行く。それしかしていなかった。

ゲームセンターの「京都オリンピア」。ここは子どもの頃から外観が全く変わらない。今はプリントシール機がたくさん置かれている

よく覚えている出来事といえば2001年、新京極に映画館「MOVIX京都」ができたこと。その時私は中学生で友達と「ディズニーランドの匂いがする!!!!」とはしゃいだのを覚えている。なぜなら1階の売店でキャラメルポップコーンが売られていたから。

映画好きな両親ともよく映画を見に行ったし、友達とはポップコーンだけ買いに行くこともしばしば。暗く見える建物の中で、オレンジの照明がピカピカ光っている感じもアトラクションぽくてワクワクしたし、座席の指定ができる映画館は私の人生初のことだったので心の底から「すごいものができた……」ととにかく興奮した。

高校生の時には新京極公園の近くに大型古着店の「ハンジロー(Hanjiro)」ができて、そこが特別おしゃれだった。

クラスのみんなが「ハンジロー行った!? インコとシマリス見た!?」と話していて、実際行ってみると古着屋なのにガラス張りの飼育スペースがあり、そこでインコとシマリスが飼われていてびっくり。あとは大きなバスタブの中で金魚が泳いでいたのにもダブルで驚いた。今はもうなくなってしまったけど、今でもその建物には古着屋が入っているし、雰囲気もわりと当時のまま残っている。

入口からすぐ階段を登る仕様になっているのだけど、とっても天井が高い。天井からたくさんランプがつるされているのも昔のまま。初めて見た時はおしゃれすぎて腰抜かしそうになった。

現在は「スリースター」という古着屋さんが営業している

そして京都を語る上でやっぱり「祇園祭」は外せない。

7月に入ったらず〜っとワクワクしっぱなし。2014年に後祭が復活する*2までは7月14日、15日、16日に屋台が出ていたので必ず3日間街に繰り出した。*3

四条通が歩行者天国になり、道の真ん中に立つと遠くまで山鉾(やまぼこ)がたくさん立っているのが見えて気持ち良かった。

『セーラームーン』の影響で今でも月鉾(つきほこ)が好き

鉾に乗っている男子が中学と高校のクラスに数名いたので、祇園囃*4を奏でる友達に手を振ったり、好きな男子に祇園祭で遭遇できるんじゃないかと友達とひたすらウロウロしたり、3日間が夢のように楽しくて毎年光の速さで過ぎていった。

ちなみに囃子方は祇園祭の目玉である7月17日に行われる*5山鉾巡行*6中は、学校を休むことが許されていた。そんな特別感と鉾に私も乗りたかったから、とてつもなくうらやましかったことを覚えている。授業の一環で山鉾巡行をクラスのみんなで見にいくのだけど、ただただ囃子方の子に羨望のまなざしを向けていたなぁ。

中高生あたりまではこんな感じで大体の思い出が寺町京極商店街・新京極あたり(&祇園祭)に集約されている。今思うとだいぶ狭い世界で暮らしていた。

京都についてちょっと興味が出てきたのは20代

大学は滋賀だったが、みんなが集まりやすい京都で大学の友人と遊ぶことが増えた。

相変わらず新京極や四条河原町あたりで遊んでたけど、中高時代と違うのはカフェ好きな友達がいたこと。そこで初めて京都のカフェ文化に触れたような気がする。

カフェといえば定番の「リプトン」か「前田珈琲」にしか行ったことがなかったので「京都ってカフェ多ない?」ってことに在学中に気づいたのである。

特に有名な「スマート珈琲店」「フランソア喫茶室」や「六曜社珈琲店」もドキドキしながら行ったのをよく覚えてる。

朝イチで行ったスマート珈琲店でカフェオレを飲んだときに、身体がシャキッと目覚めるのを感じて、それ以降大好きになったり、フランソア喫茶室の豪華客船をイメージしたという内装やかっこいい赤いビロードの椅子に「おおっ」となったり、六曜社珈琲店のドーナツがさくっとしていて素朴ながらも本当に美味しくて感動したり。すてきなお店がこんなにあったのか〜と衝撃を受けて京都のカフェ文化にどっぷりと漬かるようになっていった。

六曜社珈琲店のドーナツ
フランソアのコーヒー(クリーム入り)と豪華絢爛な店内

こんな感じでじわじわ〜っと「京都」に興味が出てきた。地元としての京都は大好きだけど、みんなが思い描くような「京都」については全然知らないことに「このままでええんか?」と思うようになったのもこの頃。

「私って京都のこと何も知らんと死んでいくんかな、子どもができても地元のこと何も伝えられへんのとちゃうか」と思い立ち、カフェ巡りだけじゃなくて両親と神社や庭園巡りをしたり、「ミッドナイト念仏」に夜中の午前3時に参加したり、清水寺の「胎内めぐり」や南禅寺の水路閣や琵琶湖疏水*7などいろいろと巡った。

両親が毎年行っているという行事にもついて行った。壬生寺(みぶでら)へ炮烙(ほうらく)を納め*8に行ったり、お盆には六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)へ行ってお精霊(しょうらい)さんをお迎えしたりなどなど。

ちなみに個人的に一押しの行事はミッドナイト念仏。ミッドナイト念仏とは、法然(ほうねん)上人が亡くなった日に知恩院で行われる法要のこと。1996年(平成8年)から始まった比較的新しい行事で、午後7時〜午前7時まで念仏を唱えながら木魚を叩き続ける、というなかなかパンチの効いた法要であり、近年人気がすごいことになっている。

普段は公開されない三門楼上(さんもんろうじょう)に入ることができるので、そこもポイントの一つ。大勢の人が一斉に木魚をたたいて念仏を唱えている光景は圧巻。そこでしか味わえない異空間である。薄暗い部屋の中でぼんやりと浮かび上がるお釈迦さまと十六羅漢像(じゅうろくらかんぞう)は痺(しび)れるくらい神秘的だった。

夜中の4時に友人と知恩院で待ち合わせして木魚をたたき念仏を唱え続け、そのまま朝を迎えて朝日に照らされながら歩いて帰ったのが最高に楽しかった。

あとは伝統行事である八朔(はっさく)へも見学に行った。八朔とは8月1日に舞妓さんが黒紋付を着てお師匠さんや日頃からお世話になっているお茶屋さんへあいさつまわりをする行事のこと。

この日は舞妓さんが祇園のいろんな場所から出現するので、それを追いかけるファンもいて、映画『舞妓Haaaan!!!』の世界だ!と知らない京都を垣間見ることができて驚いた。

京都に住んでいると舞妓さんとすれ違うことって結構あるけど、八朔の日はまた特別感があり、黒紋付を着ている舞妓さんが凛としていてとってもすてき! そしてとにかくかわいい……。その感動が忘れられなくて八朔は何度か見学しに行った。

こうやって過ごしてみると京都ってお祭がずっと続いている、というか一年中楽しい。どの季節も何かしらお祭や行事やイベントがあって、巡る場所も数え切れないくらいあるからずっと飽きないのだ!

30代の今となってはもう、どっぷり

そして現在30代。結婚して子どもが生まれ、現在は下京区在住。実家がある中京区も徒歩圏内なのであまり環境は変わってないが家族が増えて、行動範囲は昔とがらっと変わった。けど、今も変わらず京都が大好き! LOVE!

今リアルに住んでいて「京都ってええとこやな〜」と思う点は「街がコンパクトで自然もほどほどにある」ことだと思う。

京都御苑(御所)や鴨川・糺の森(ただすのもり)のような自然スポットが街中にあり、水族館・植物園・動物園・博物館・美術館・幼児でも登れる山があり(大文字山)、カフェやパン屋の選択肢も無限にあるのが最高。

現在は子ども中心の生活なので、よく行くのは御所。コロナ禍以降、最近はどこもかなーり人が増えて「ひえ〜」と思うこともしばしば。

ただ御所だけはとてつもなく広いのでいつ行っても全然混んでいないし、カフェもあるし遊具もある。川も流れていて自然もいっぱいで、子連れの身からするとありがたすぎて涙が出てくるレベルの場所なのである。

春は毎年御所でお花見をするのも自分の中で決定事項だ。御所が広すぎるあまり、場所取りに必死にならずとも桜の木の真下で花を楽しむことができる御所って最高〜っ!と声に出して言いたい。秋は紅葉も美しい。

そして土日はできればどこかへ行きたいタイプなので、京都各地で行われている催しも家族みんなで行く。最近のお気に入りのイベントは糺の森で開催される「左京ワンダーランド Prsents 糺の森ワンダーマーケット」。左京区の面白いお店が集まっていていつでも新しい出会いがあるイベントである。

糺の森とは下鴨神社境内に広がる賀茂川と高野川が合流する三角州にある森のこと。森の中なので空気が澄んでいて、足を踏み入れるだけで気持ちがいい

活版印刷のワークショップに参加したり、おいしいおはぎを買ったり、クッキーやチャイ、コーヒー、スパイスカレーにホットドッグ……!!

きのこに扮(ふん)した人たちがゲリラ的にきのこ踊り?を踊っていてワクワクいっぱい。気づいたら5時間くらいたっているなんてことも。

京都大学の熊野寮も出店していたので、何を売っているのだろうとのぞいたら、マムシ酒の匂いをかぐだけのスペースだったのもなんかほっこりした。

そして熊野寮のちょうど横のスペースに「家族写真撮ります」という看板が出ていたのが気になって、家族写真も撮ってもらった。

この写真は宝物で、待ち受けにして毎日眺めている。ちなみに下鴨でフォトスタジオを営んでいる「こめじるし」さんに撮ってもらった。その後もこめじるしさんには息子のランドセル写真を撮ってもらったり、今度は実家まで出張撮影を頼んでいるので両親の写真を撮ってもらう予定。こういう出会いがうれしいなあ。

京都には私の好きが詰まっている

食べることが大好きな私は、おいしいお店を常に探している。人との出会いと同様、すばらしいお店との出合いも京都の大きな魅力の一つだ。

ただ子どもを産んでから、以前よりお店を巡る頻度は減ってしまった。

現在はテイクアウトできるお菓子やコーヒー豆を買って家で楽しむ方向にシフトしていて、仕事場にエスプレッソマシーンを導入してからは、コーヒー豆ごとの飲み比べを楽しんでいる。

京都は数え切れないくらい喫茶店があるので、コーヒー豆も選び放題だ!

よく買っているコーヒー豆のお店ラインナップ

そして現在進行形でハマっているおやつは「キャロットケーキ」と「どらやき」の二つ。

日本でもじわじわはやりかけているキャロットケーキが個人的にアツい!

4、 5年前に神宮丸太町の「ミスリム(MissliM Tea Place)」さんで食べたことがきっかけで好きになり、メニューで見つけると必ず頼むように。

キャロットケーキは端的に言えばにんじんが入っているケーキなのだが、店によって見た目も、入っているスパイスも全然違うのが面白い。京都にはキャロットケーキを置いているカフェもたくさんあるのでありがたい。

個性があって楽しい京都で食べられるキャロットケーキたち

このほかには「サラサ3」や「松之助 京都本店」「センティード(Sentido)」も最近食べに行ったり、テイクアウトしたり。でもまだまだ行けていないお店がたくさんあるから、もっといろいろ食べ比べがしたい。

コーヒー豆にキャロットケーキだけでもこの選択肢の多さ……やっぱりLOVEだよ京都!

そしてどら焼きだけど、ハマっているというより、すごく好きなお店ができたという方が正しいかも。

そのお店の名前は京都のどらやき専門店「Wrap」。生地がモッチモチで本っ当に美味しい。たまたま見つけたお店だけど、りんごシナモンやチャイラテ味など少し変わったどら焼きが並んでいて、「どら焼きってこんなに自由で良かったんや〜」と気づかせてくれたお店だ。

季節限定の味も全て制覇する勢いで通い中。今人生で一番どら焼きを食べているかもしれない。この前のバレンタイン限定のどら焼きもおいしかったなあ。

京都のどらやき専門店「Wrap」のバレンタイン限定どら焼き

食べ物以外だと最近できてヤッタ〜!と感じたのは京都高島屋S.C.にある「nuunu KYOTO」。

アーティストの作品制作時のラフや実験的に描いた作品がレコード店のように陳列されていて、1枚1枚取り出して作品を探す時間にものすごく癒やされる。

手に取りやすい価格なのもアートが身近に感じられてうれしいし、逆に欲しい作品がありすぎて困るくらいだ。悩んで悩んでずっと買えなかったのだが先日ついに購入!

原画には作家のパワーが込められている気がして、眺めるだけで元気になれる。

そう、京都は私の好きなものが至る所にあり、好きが詰まった街なのだ。

どの年代も楽しめる街

こんな感じでいろいろと書いてきたが、紹介したスポットの全てが自転車で行ける距離感である。そこが京都の一番好きなところかも。全部手が届く範囲にあるから移動のハードルも低い。なのにこんなに魅力的な場所があって楽しい〜!

「京都から出たことないくせに」と思われるかもしれないけど、つまらない街だな〜と思ったことは一度もない。

どの年代も常に楽しく過ごせる場所なのではと思っている。両親も2人でよくどこかへ行っていて「今はどこどこで限定公開の仏像がある」とか「25日やから天神さんへ行く」など今もフレッシュに京都を楽しんでいる。

「将来私もこうなるんかな?」と何となく想像がつく。

だから何歳になっても「百万遍(ひゃくまんべん)の手作り市」*9に行っているだろうし、カフェ巡りしてるだろうし、南禅寺の琵琶湖疏水から蹴上インクライン*10まで夫と散歩してると思うし、鴨川沿いも自転車で走ってるだろうし、死ぬまで京都を楽しんでいると思う。

筆者:てらいまき

食べ物イラストが得意な京都在住イラストレーター。著書『めんどくさがりやの自分の機嫌を取る暮らし』『北欧フィンランド 食べて♪旅して♪お洒落して♪』『アイスランド★TRIP』『子育てがぐっとラクになる「言葉がけ」のコツ』絶賛発売中!
X(旧Twitter):@maaki888maaki

編集:はてな編集部

*1:はやしかた・祇園祭で鉾に乗って音楽を奏でる人

*2:1966年〜2013年まで合同化されていたが、2014年に祭本来の形を取り戻そうと「前祭」「後祭」が復活した

*3:現在は7月15日、16日の2日間、屋台が出店されている

*4:祇園祭で鉦(かね)、横笛、太鼓で奏でる各山鉾が演奏する音楽

*5:現在は17日(前祭)と24日(後祭)の2回行われている

*6:23基の山鉾が順番に、四条通、河原町通、御池通、新町通をゆっくりと練る祇園祭のハイライト

*7:琵琶湖の水を京都市へ流すために明治時代に作られた水路

*8:節分の時期に参拝者が素焼きの器「炮烙」に願い事を書き、奉納する行事がある

*9:百萬遍知恩寺で行われる雑貨、陶器、衣類、食品に至るまで、そこにしかないオリジナルの手づくり品に出会える

*10:全長582mの世界最長の傾斜鉄道跡