古物店をめぐり、物語はまわる。東京・日野市の回遊案内|文・髙木美佑

著: 髙木美佑
わたしが10歳になる時、他県から日野市へと引越してきた。

日野市は東京都の西側に位置しており、新宿からは京王線の特急に乗って30分ちょっと。

幼い頃は父の仕事の都合もあり転勤族だったけれど、もうかれこれ日野市に住んでいる年数が人生で一番長くなった。
今わたしは仕事の都合で23区内に住んでいて、1〜2カ月に一回程度、日野の実家へと帰る。

日野へ帰る度に行きたくなるところがある。
それは、リサイクルショップと骨董市だ。

日野市内にはリサイクルショップがいくつかあり、また、月に一度高幡不動尊で開催されている「ござれ市」という骨董市がある。
つい先日も実家へと帰る用事があった為、久しぶりにリサイクルショップ巡りをし、ござれ市へと足を運ぶことにした。

わたしがそういった類のものを好きになったのは、恐らく父の影響だ。

わたしが幼い頃から父はフリーマーケットやバザー、リサイクルショップやガラクタ市などで色々な物を買ってきていた。道端にある「ご自由にどうぞ」と置かれている物を拾ってくることも多々あった。
それは便利なものだったこともあるけれど、ほとんどが意味のわからないガラクタだ。
父がなにかを持って帰ってくる度、母に「また余計な物を増やして・・」と呆れられていた。

先日実家へ帰ったときも、孫と遊ぶためにとリサイクルショップでおもちゃを買っていた。
またある時は、「みゆさん(何故かわたしはさん付けで呼ばれている)が好きそうやなと思って」と言われ、ヤシの実のポシェットを貰った。しかも2つ。

父は、そしてわたしも、末っ子で兄弟のおさがりを着ていたこともあり、中古品への抵抗はない。
特段お金持ちな訳ではないし、買い物をするならそりゃ安い方がいいに決まっている。
天邪鬼な性格もあり、他の人と被らない一点物だという点も魅力的だ。
宝探しのような感覚で、予想もしていなかったような物に出会えた時はやはりとても興奮する。


第三日曜日、高幡不動尊で行われているござれ市へと向かった。
天気も良く、また、ちょうどあじさいまつり期間中なこともあり、多くの人で賑わっていた。

朝 7時から16時ごろまで開催されており、約80店が出店している。
古道具や骨董品、着物などいろいろな物が並んでいる。


一通り見て回ったあと、1つ目の気になっていたお店で陶器製の絵の具パレットを購入した。
去年からアクリル絵の具を使い始めたので、絵を描くときに使おうと思う。
裏には恐らく昭和当時の値札シールが貼られたままだった。

お店のお父さんのおすすめは、この木製のちりとり。
庭の落ち葉を掃くのにいいよ、と教えてくれた。

2つ目のお店では、重りを2つ購入した。
恐らく天秤で重さを測るときに使用する物だと思う。
いつもレシートをテーブルの上に置きっぱなしにしてしまうので、それが飛ばないようにペーパーウェイトとして使用するつもりだ。

お店のお兄さんのおすすめは、ノリタケのカップとソーサー。
他にも色々と品物があったけれど、朝一でもうたくさん売れちゃったよ、と嬉しそうに話してくれた。

3つ目のお店では、手首の置物と指輪を購入した。
手首の置物はゴム人形のようになっており、手のツボまで記載されている。
本当はディスプレイとして置かれていたけれど、お店のお兄さんに聞いてみると快く売ってくれた。
こういった出来事も人から直接物を購入することの楽しさだな、と思う。

翌日はリサイクルショップを巡った。

1軒目に伺ったのは、「リサイクル・ショップ あぶ」さん。
個人で経営されているお店で、出張買取まで行っている。

犬の大きな置物があり、気になって見させてもらうと「昔はお金持ちの家の玄関によく置いてあってね、酔っ払って帰ってきたときでも自分の家かどうかすぐわかるよう目印になるんだよ」と話してくれた。
私の今の家は賃貸で、ペットは飼うことができない為、一気に欲しくなってしまった。
家を出る時は見送ってくれて、家へ帰る時は出迎えてくれるものがあるなんて嬉しい。

なかなかの大きさだったのでひとまず購入はしなかったけれど、変わった形のワイングラスとカード立てを購入した。

リサイクル・ショップ Abu
〒191-0012 東京都日野市日野921−7

2軒目は「リサイクルショップ ハートリボン」。
ここは障害のある方々へ就業継続支援活動を行っているお店。

店内で売られている品物は全て近所の方々からの寄付とのこと。
丁寧につくられた手作りの物もある。
わたしはジーパンとシャツを購入した。

残念ながらここの店舗は8月末ごろまでの営業で、それ以降の10月頃からは府中市にある「flower」という店舗へ移転するそうだ。
移転後も経営形態は変わらないので、今後はそちらの方へ足を運んでみてもらえたら幸いです。


リサイクルショップ ハートリボン
〒191-0052 東京都日野市東豊田1丁目17−1

3軒目は「リサイクル事務所」。
ここは公益社団法人の日野市シルバー人材センターが運営している。
リサイクルショップの経営の他にも、公共施設の管理や公園の清掃など、高齢の方々へ雇用の機会を提案しているそうだ。

大型の家具や家電もたくさん取り扱っており、恐らく市内では一番大きい店舗だと思う。
食器類も10円から置いてあり、可愛いマグカップが目に入り、思わず購入。


リサイクル事務所
〒191-0024 東京都日野市万願寺6丁目5−6 リサイクル事務所

最後に伺ったのは「サン・3ショップ青い鳥 高幡店」。
ここも社会福祉法人が運営しており、市内にリサイクルショップがもう一店舗と、その他にパン屋さんを運営している。
ここで売られている品物も全て近所の方々からの寄付で成り立っている。
駅から近いこともあり、わたしが一番多く足を運んでいるお店だ。
恐らく父もよく利用させて頂いているお店のはず。


サン・3ショップ青い鳥 高幡店
〒191-0031 東京都日野市高幡145田上ビル

それぞれのお店へ伺う度に、つい何かしらの買い物をしてしまった。
非営利団体が運営している店舗が多いため、品物を本当に手頃な価格で購入することができる。
日野市へきた際は、ぜひ一度足を運んでそれぞれの宝探しを楽しんでもらいたい。
どこかから「また余計なものを買って……」と呆れた声が聞こえてきそうだけれど、スタッフの方々と出会い話をして購入し、わたしにとっては既にどれもが思い出のある宝物となった。
わたしもまんまと父のDNAを引き継いでしまっている。


そんな父も、先日定年退職を迎えた。
今回日野の実家へと帰省した理由は、父の退職祝いの為だ。
久しぶりに家族全員で集まり、外で食事をした。

父が勤めていた会社は市外だったにも関わらずどうして日野市に住むことにしたのか、そういえばずっと聞いていなかった。
これはいい機会だなと思い聞いてみると、それはわたしたち家族を考えてのことだった。

わたしの一番上の兄は知的障害があり、特別支援学級のある学校へ行く必要があった。
そうした学校への近さや卒業後のケアと、会社への利便性を考慮した結果、日野市を選んだのだ。
わたしはてっきり穏やかで川も流れていて自然もあり、父の趣味でもある畑作業や園芸ができるからだとか、恥ずかしながらそんな理由を想像してしまっていた。

そして退職してなにかみんなに一言、と母が父に尋ねると、「自分の会社の都合で何度も引越しをさせてしまい、申し訳なかった」と頭を下げた。
小中学生だったわたしたち兄弟は確かに転校を何度も経験したけれど、転校したからといって友情がなくなる訳でもないし、色々な街へ住むことができて、それぞれの街で友人ができて、良い経験だったと思っている。

父の勤続がなければこの日野市に住むこともなかったかもしれない。
1ミリも恨んでいなかったし、父がそんな風に思っていたとは知らずとても驚いた。
父が高専を卒業してから勤続45年、本当にすごいことだと思うし尊敬している。

そして父が選んだ日野市で、兄と同じく障害をもつ方々が働くお店でわたしが買い物を楽しみ、その売り上げが運営団体のサポートに繋がっていることは、素晴らしいサイクルだと思う。
今回このタイミングでこうした記事を書くことが必然だったかのようにさえ思う。

外食をした帰り、駅から自宅まで夜の日野市を家族みんなで歩いた。


一度は不要となった物が世代を超えてめぐり、その物にまつわる物語もめぐる。
たまたまの出会いでも、ドラマチックでなくても、なんだっていいのだと思う。
わたしのこの物語をこうして読んでくれている方々に伝えて、そしてまた新しい物語が生まれたらそれはこの上ない幸せです。

著者:髙木美佑(たかきみゆ)

髙木美佑

1991年生まれ、東京都在住。 日本大学芸術学部写真学科卒業。
セルフポートレートや 自己の体験を中心に作品制作を行う。 2020年12月に初の作品集「きっと誰も好きじゃない。」を刊行。
WEB https://www.takakimiyu.com
Instagram https://www.instagram.com/miyu.takaki/
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編集:ツドイ