東京は私にとって夢をつかむ場所であり試される街でした――水樹奈々さん【上京物語】

インタビューと文章: 山田井ユウキ 写真:小野奈那子

進学、就職、結婚、憧れ、変化の追求、夢の実現――。上京する理由は人それぞれで、きっとその一つ一つにドラマがあるはず。地方から東京に住まいを移した人たちにスポットライトを当てたインタビュー企画「上京物語」をお届けします。

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今回の「上京物語」にご登場いただくのは、紅白歌合戦に6年連続で出場し、声優としても活躍中の水樹奈々さんです。歌手になることを夢見て15歳で上京した水樹さんですが、下積み時代は苦労の連続だったといいます。

夢をかなえた今、あらためて上京当時の東京生活を振り返っていただくとともに、地元・愛媛への思いや東京のお気に入りスポット、さらに住む街やお部屋の探し方など、「街」にフォーカスしてお話を伺いました。

東京は夢をつかむ場所であり、試される街だった

――地元で暮らしていたころは、東京という街にどんなイメージを抱いていましたか?

水樹奈々さん(以下、水樹):人が多くて眠らない街、ですね。キラキラしているけれど、近所付き合いが少なくて、クールで、ちょっと怖いイメージがありました。同時に、歌手を目指していた私にとっては、憧れというよりも夢をつかむ場所、試される街だと思っていました。

――そんな東京に、15歳という若さで上京されました。

水樹:やはり歌手という夢をつかむためには、東京に出るしかないと思っていました。今みたいにインターネット環境が十分に整っているわけではなく、情報といえばテレビと雑誌が中心だったので「東京に行って修行を積んでプロダクションに入ってデビューする」ものなんだと。今はまた違う道もありますよね。地方に住んでいても動画などの投稿で存在を知ってもらい、そこからデビューされる方も多いと思います。

――相当な覚悟を持って上京されたわけですね。

水樹:まだ子どもでしたが、ふわふわした気持ちは一切ありませんでした。東京という厳しい場所に行くからには、いくら泣いても愛媛には帰れないんだという思いでいました。

――実際に上京してみて、東京の印象はいかがでしたか?

水樹:なんて便利なんだろう! というのが第一印象です(笑)。この便利さを知ってしまうと離れられないなと。それに、想像していたよりも怖い場所ではなかったです(笑)

――地元とは何もかもが違いますよね。

水樹:家の近くにコンビニがあって、しかも24時間営業! ファストフードも充実していて、経済的に大変だったころはずいぶん助けてもらいました。電車が来る間隔の短さに驚いたし、バスの料金が安いことにまたびっくりしました。田舎では距離に応じてどんどん高くなっていくのに、一律料金なんてどういう安さなの! って(笑)

それに、夜が怖くないんです。街灯がたくさんあって、お店の明かりも輝いていて、光にあふれていました。田舎は夜になると真っ暗ですから(笑)

上京して最初に住んだ東小金井、大好きだった吉祥寺

――上京して初めて住んだ街はどこでしたか?

水樹東小金井です。歌の先生のお宅に下宿していました。そこから中野にある堀越高校まで中央線で通っていました。

――東小金井で思い出深い場所などはありますか?

水樹:今も営業されている「宝華」という中華料理屋さんが大好きでした。高校を卒業した後は吉祥寺でアルバイトをしていたのですが、給料日のあと、自分へのご褒美として宝華の「肉野菜炒めライス付き」を食べるのが楽しみだったんです。本当においしいんですよ! かなりボリュームがあるので、お客さんは男子学生さんやサラリーマンの方が多かったですね。そこに混じってがっつりいただいていました。腹ペコな私にはぴったりのお店でしたね。

――アルバイトは吉祥寺でされていたんですね。

水樹:はい。吉祥寺は今でも大好きな街です。古着屋さんが多いので、人前に出るお仕事があるときはバイト帰りに衣装を買いに行ったり。あとは、行列のできるお肉屋さんでコロッケを買って食べたりしていました。

吉祥寺に限らず、中央線沿線はどこかノスタルジックで不思議な魅力がありますよね。公園も緑も、大きなスーパーもあって、田舎から出てきたばかりの私にはとても住みやすかったです。

――東京歴もかなり長くなってきたかと思いますが、現在、好きな街やよく行く場所があれば教えてください。

水樹:今はなかなかまとまった時間がとれないので、一カ所で楽しめる場所が好きです。なかでも所属事務所が近い東京ミッドタウンが大好きです。桜の時期やクリスマスなどはライトアップされて綺麗ですし、イベントをやっていたり、レストランや美術館も入っていたりと、いろいろな楽しさが詰まっています。何より、複合施設ってテンションが上がるんです(笑)

上京したからこそ地元への愛が深まった

――東京で暮らして、地元への見方は変わりましたか?

水樹上京したからこそ地元愛が深まったと思います。私が育った新居浜市は歴史が深くて、文化的な街なんです。“東洋のマチュピチュ”と呼ばれている別子銅山や、ギネスブックにも認定された愛媛県総合科学博物館の大きなプラネタリウムなど、文化的なスポットが数多くあるんですよ。もちろん、東京にも文化施設はたくさんあります。ただ自然とふれあいながら楽しんだり学んだりできるのは、山と海に囲まれた自然豊かな愛媛ならではかなと思います。

それから食! 地元にいたころ、当たり前のように食べていた魚はなんておいしかったんだろうと改めて思います。

――愛媛といえばみかんも有名ですね。

水樹:やっぱりみかんは愛媛ですよね! 東京で買うと高いので実家の母が送ってくれるんですけど、最高においしいです。愛媛だとジュースを飲む代わりにみかんを食べていましたし、絞って自家製みかんジュースにしたりも。夏は給食の冷凍みかんも楽しみでしたね。本当にすばらしい環境だったと思います。東京ではさまざまな場所のおいしいものが楽しめますが、やっぱり「食」はその土地で味わうのが一番です。

――コンサートツアーなどで全国を飛び回ってらっしゃるかと思いますが、そのなかで印象に残っている街はありますか?

水樹:それがですね、残念ながらぜんぜん時間がなくて街を巡れず……。いつもライブの当日に現地入りして、会場に移動して、リハーサルをして、本番をして、翌日には仕事があるのですぐに東京に戻るというスケジュールがほとんど。観光は一切できないので、せめておいしいものだけは食べて帰っています。

よく周りから「仕事でいろいろなところに行けていいね」と言われるのですが、滞在時間が短くライブ会場と食しか満喫できていないんです(笑)。ツアーの合間に移動日があるといいのですが、どうしても声優のレギュラーの仕事があるので戻らなくてはいけなくて、遠征して歌って、戻って収録して、また遠征して歌って……という感じです。

――歌手と声優、両方で活躍されている水樹さんならではのエピソードです。

水樹:その代わり、プライベートでお休みをもらったときは旅行に出かけて、観光も楽しんでいます! 忘れられないのは竹富島の星空ですね。私は“宇宙的なもの”が大好きで、星空観測ツアーやナイトサファリによく行くんです。ハワイ島にある標高4200mの山頂から見た星空も、オーストラリアの遺跡から見た星空もすばらしかったけど、やっぱりナンバーワンは竹富島の星空。星が降ってくるような夜空が最高でした。

――星空を楽しむのは東京ではなかなか難しいですよね。

水樹:東京は明るすぎますからね。星が見たくなると自然豊かなところへ行きたくなります。普段、窓がなくて気温も一定、わずかな音もたてられないスタジオで収録することが多いので、愛媛県で育った人間としては自然や光が恋しくなるんです(笑)。休日は光を浴びて風を感じたいので、外に出かけることが多いですね。

部屋を決めるのに譲れない条件は収納とキッチン

――最近、引越しをされたと伺いました。部屋探しの「こだわり」があれば教えてください。

水樹収納です! 今回、10年ぶりの引越しだったのでかなり断捨離したのですが、もともと物持ちが良いタイプなので長年使っているものがたくさんあるんですよ。それが収納できるスペースがないとダメです! 私、見せるおしゃれな収納とかは上手くできなくて、来客時はぜんぶ隠してしまうタイプで(笑)

――声優さんは衣装も自前の場合が多いと聞くので、自然と荷物が増えちゃいそうですね。

水樹:あとはワンちゃんを飼ってるので、この子にとって快適かどうかも重視していますね。日当たりが良くて、日向ぼっこできる場所が必要です。私自身も光が大好きなので、リビングに外光がどれくらい入るかもポイントです。

もう一つ大事なのはキッチン。料理が大好きなのですが、一汁三菜でおかずをたくさん並べたいんですよ。同時進行でいろいろつくりたいので、コンロは絶対に3口。直火派なのでガスであることも譲れません!

――部屋に対する強いこだわりを感じます(笑)。住む街についてはいかがですか?

水樹:スーパーが近くにあるとうれしいですよね。とはいえ、たまには料理をサボりたいこともあるので、おいしいお店もあればいいな。お米が大好きなので和食のお店と、焼肉屋さんも近くにほしいです。ライブ前は赤身の肉を食べて喉をケアしているので。回復のスピードがぜんぜん違うんですよ。

勇気を出して外に出かけて、自分の中の地図を広げて

――水樹さんのように夢を抱いて上京される方に向けて、“上京の先輩”としてなにかアドバイスがあれば教えてください。

水樹:知り合いのいない東京に単身上京となると、不安でたまらなくなると思います。私もホームシックになって、家でポテチばかり食べていた時期がありました(笑)。でも、それで引きこもってしまうとそこから進めなくなってしまいます。

勇気を出して、まずは近所の開拓から始めてみてください。外に出かけて、いろいろな人と知り合って、友だちをつくってほしいです。そうすると視野も行動範囲も広がって、自分の中の地図がどんどん広がっていきます。それを楽しんでほしいですね。

チャンスはいろいろなところに転がっています。私もアルバイトを探すとき、すごく好きな吉祥寺を選んで、そこからコミュニティが広がっていきました。修行中だったこともあって、みんなからのエールが励みになったことを覚えています。

――東京のどこに住めばいいのか分からない人も多そうですよね。

水樹:そういう場合は「旅」をしてみるのがいいと思います。東京を知らないということは、東京に対する先入観が少ないということ。その状態を生かして、気になる街に行ってみてウロウロしてみるんです。

それで直感的に「ここが好き!」と思った街に住むのはどうでしょう。今はいくらでも情報が手に入りますが、やっぱり現地に行って空気を感じないと分からないことは多いです。私自身も住むお家をそうやってフィーリングで決めてきました。最後はフィーリングです!



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お話を伺った人:水樹奈々

水樹奈々

歌手・声優。1980年1月21日生まれ、愛媛県出身。趣味は音楽鑑賞で、特技はお菓子づくり。10月24日に38thシングル『NEVER SURRENDER』をリリース。レギュラーラジオ『水樹奈々 スマイルギャング』(文化放送ほか)、『水樹奈々のMの世界』(TOKYO FM/FM愛媛)などに出演中。

公式サイト:NANA PARTY

聞き手:山田井ユウキ

山田井ユウキ

大学卒業後、会社員を経て現在はフリーライター/カメラマン。専門はインターネットカルチャー、ポップカルチャー、デジタルガジェット、AI、ワインなど。MacFan、料理王国などで執筆するほか、企業のオウンドメディアも多数手がける。2001年から運営する個人サイトは累計9000万PV以上。著書に『サイバー戦争』など。

Twitter:@cafewriter

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編集:はてな編集部