北海道や東北など寒冷地や積雪地域で見られる一戸建ての風除室(玄関フード)。設置することでどのようなメリットがあるのでしょうか。また、後付けする場合にはいくらくらいのリフォーム費用がかかるのでしょうか。北海道や東北を中心に風除室(玄関フード)の設計・施工を手がけるNissho(日昭株式会社)で施工管理を担当する田村高広さんに話を聞きました。

風除室(玄関フード)とは?
風除室(玄関フード)とは何か?
風除室とは、建物の玄関の前に設けられた空間のこと。ガラス張りになっているものが多く、オフィスビルや商業施設、公共施設などのほか、一般の住宅にも見られます。この記事では、一般の一戸建てに設けられる風除室について解説します。
風除室(玄関フード)は雪や寒さへの対策から生まれた
北海道や東北などの積雪地域、寒冷地では珍しくない風除室ですが、風除室のある一戸建てが見られるようなったのは50年ほど前から。普及する以前、住宅の断熱性や気密性は現在よりも低く、暖房器具の熱が届かない冬の玄関ホールは、外の気温とそれほど差のない寒さでした。最高気温が氷点下の時期には、玄関に置いていた瓶のジュースやミカンが凍ってしまうことも。
「ドアを開け閉めするたびに寒風が吹き込む玄関を、冬の間は木の板やトタンなどの波板で囲って、春になったら撤去するという対策も、昔はよく見られた光景だったようです。やがて、吹き込む雪や寒さに困っている人たちの要望を受けて、サッシを扱う職人さんたちが店舗などで使われていたアルミのフレーム材を応用し、一般住宅に風除けの空間を施工したのが風除室の始まり。その後、当社の住宅用玄関フード(風除室)『雪んこ』がヒット商品となり、各アルミ建材メーカーからも製品化されて普及していきました」(田村さん、以下同)
風除室(玄関フード)は後付けのリフォームだけでなく新築一戸建てにも有効
風除室はリフォームで後付けをすることができます。寒さ対策として設置されるなら、築何年くらいの一戸建てで施工されるケースが多いのでしょうか。実は、古い一戸建てに限らず、築浅の一戸建てにもニーズはあるのだそう。
「最近の住宅は断熱性能が非常に高くなっています。しかし、建物や玄関ドアの断熱性、気密性が上がっても、人の出入りでドアが開いたその一瞬に、冷たい外気が入り込み、玄関内の温度を一気に下げてしまいます。外と玄関ホールの間に風除室があることで、冷たい外気がダイレクトに入ってくるのを防ぎ、玄関ホールの急激な室温低下を抑えることができるのです」
つまり、築年数や、中古、新築にかかわらず風除室を設置することで、得られる効果はあるということです。

風除室(玄関フード)を後付けするメリット
既存の住宅に風除室を後付けすることで、どんなメリットが生まれるのでしょうか。
寒さ対策になる
風除室を設置したいと思い立つきっかけの多くは「寒さ」。前述したように、建物や玄関ドアの断熱性・機密性が高くても、ドアを開ければそのたびに冷たい風が玄関内に入ってきてしまいます。風除室があることで玄関ドアと外との間に空気の層ができ、玄関内の温度の低下を抑えます。
風や雨、雪が直接玄関に入らないので玄関内が汚れにくい
外から帰ったとき、まず、風除室のドアを閉め、それから玄関ドアを開ければ、風や雨、雪は風除室の中までしか入りません。そのため、玄関内が汚れにくくなります。風除室にはホコリや雨、雪が入りますが、風除室は半分外のような空間。汚れはホウキなどでザッと掃き出せばOK。玄関内のマットや靴、フローリングなどが汚れにくくなるのは気が楽です。
玄関ドアや玄関ポーチの劣化を防ぐ
風やホコリを遮る風除室は玄関ドアの劣化を防ぐ効果もあります。
「リフォームや新築で、気に入った玄関ドアを選び、その美しさを保ちたいと思われる方からのニーズにも風除室は応えられます」
玄関ポーチでの転倒を防ぐ
「玄関の外で滑ってケガをしそうになった、という理由で風除室を後付けされる方も多いです」
玄関ポーチはぬれていたり、凍っていたりすると滑りやすく転倒のリスクがあります。特に床が乾いた玄関からぬれた玄関ポーチに出た一歩目は危険度が高いといえます。玄関ポーチを乾いた状態に保てることも風除室を後付けするメリットです。
【施工事例】滑りにくい素材を敷いた風除室にリフォーム
既存の玄関ポーチはタイルが敷かれ、経年劣化や雪、氷の影響で割れていた部分もありました。風除室を後付けで設置する際には、滑りにくい素材のゴムチップマットを敷き、安心で美しい玄関まわりに生まれ変わりました。


帰宅時、暖かい風除室内でアウターについた雪を落とせる
雪の日、アウターや靴底についた雪を玄関に持ち込まないよう、玄関ドアの前で払うのは、一刻も早く家の中に入りたい吹雪の日や寒い日には辛いもの。風除室があれば、外よりは暖かく、風も吹かない場所で雪を落とすことができます。
雪かきスコップなど一時的な物置きに使用できる
雪かきスコップは冬の必需品ですが、見た目的にも玄関内にはあまり置きたくないもの。でも、外に置くと雪かきスコップに雪が積もり、すぐに取り出せないことも。風除室に置いておけば、雪かきのときにサッと取り出せます。
「観葉植物やベビーカーなどを置く方も多いですね。最近は、置き配を利用する方も多いと思いますが、風除室の中に置いてもらえば雨や雪の日でも荷物がぬれません」
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温度差による体への悪影響を減らす
急激な気温の変化が原因で血圧が上昇・下降し、心臓や血管に負担をかけて健康被害を引き起こすのがヒートショック。冬場は、暖かい部屋と寒い部屋の出入りにも注意が必要です。
「風除室があると、家から外へ出る際に、玄関内よりは寒いけれど外よりは暖かい風除室の温度がワンクッションになります。また、風除室があることで玄関内と暖房器具のあるリビングなどの室温の差も小さくなります。ヒートショックを防ぐための対策になると考えられます」

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風除室(玄関フード)を後付けするリフォーム費用
メリットの多い風除室ですが、気になるのは後付けする場合の費用です。ここでは、風除室の主なタイプ3種類のリフォーム費用の目安を紹介します。
なお、掲載する費用の目安は製品代、取付費、既存撤去費用を含みます。また、建物の状況やデザインなどによって価格は変動します。金額は施工会社や地域によっても異なり、今後、変動する場合があります。
I型風除室の費用の目安
玄関ドアが外壁から奥まった場所にある場合に、外壁と風除室の扉の面がそろうように設置されるのがI型です。凹凸のない仕上がりにできるため、外観デザインがすっきりする点も魅力です。玄関ポーチの上部に建物の構造が張り出していれば、風除室の天井部分の材料費用は不要になるなど、材料費を抑えて風除室をつくることができ、費用の目安は15万〜35万円です。

L型風除室の費用の目安
玄関が建物の角にある場合に、壁を2面追加して風除室をつくるのがL型です。2方向から日差しが入るため風除室内が明るいことが特徴です。2面それぞれに扉や窓を設ければ、冬季以外の風除室内の通風も確保できます。I型の風除室と同様、建物の外壁や玄関ポーチの上部分を活用することで材料費を抑えることができ、費用の目安は35万〜60万円です。

コ型風除室の費用の目安
I型やL型のように玄関ドア側以外の外壁を活用できない場合に、3面に壁を追加してつくるのがコ型の風除室です。施工会社や設備メーカーによっては、コの字型、C型、U型とも呼ばれます。I型、L型よりも材料費がかかるため、費用の目安は50万〜100万円です。

玄関の形状や風除室のデザインによって費用は異なる
一般的に後付けで設置される風除室のタイプは、I型、L型、コ型の3種類ですが、ほかにもさまざまなデザインがあるそう。
「基本の形はI型、L型、コ型ですが、実際には建物の形状などによって風除室の形もさまざまです。例えば、外壁と玄関ドアがフラットで玄関ポーチの上に庇もない場合は、屋根のついた風除室をつくることになります。そのほか、一般的な住宅よりも基礎部分が高くなっていて、地面と玄関が階段でつながっている場合は、玄関ドアの外のポーチ部分だけでなく、階段も丸ごと囲む風除室にするケースがあります。風除室は、I型、L型、コ型といったタイプから選んでいただくというより、それぞれの玄関に合わせてプランニングをし、提案を行います」
かかる費用は、どのような風除室にするかで異なります。風除室そのものが大きい場合は材料代が高くなりますし、2階の屋根までの高さのある風除室にする場合は、材料が増えるだけでなく、設置のための足場代もかかります。希望する形状の風除室はいくらくらいかかりそうか、必ず見積もりを取りましょう。
【施工事例】冬の玄関階段に雪が積もらない、階段すべてを囲んだ風除室
玄関が高い位置にある住まい。雪が積もる冬は階段の昇り降りが心配です。そこで、階段すべてを囲う風除室を設置。風除室に雪が積もらないよう屋根部分を斜めにするなど、丁寧な加工で実用的に仕上がっています。階段に雪が積もったり、凍ったりすることなく家への出入りも安心です。


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風除室(玄関フード)を後付けする注意点
風除室を後付けできないケースはまれ
新築時であれば、風除室は問題なく設けることはできますが、後付けの場合はどうなのでしょうか。
「玄関まわりがあまりに狭い場合など、後付けすることが難しいことはあります。そのほか、コンクリートの土間(玄関ポーチ部分)がない場合、風除室を設置するためにはコンクリート工事が必要になり、施工費用が大きくアップします。また、コンクリートの土間がなく、地中に配管が通っている場合は、その配管が障害物となるため風除室の設置ができません。とはいえ、設置できないケースはごくまれなこと。ほとんどの住宅では後付けすることは可能です」
風除室のドアは引き戸と開き戸。どちらを選ぶのがいい?
風除室のドアは玄関ドアと同様、引き戸タイプと開き戸(開閉扉)タイプから選ぶことができます。
Nisshoの田村さんによれば、圧倒的に多いのは引き戸タイプなのだとか。横に引いて開閉する引き戸であれば、外に積もった雪が壁になってドアが開けられなくなるということがありません。また、開閉するときにドアの前後にスペースを開けておく必要がなく、空間を有効に使えます。
開き戸の場合は、風除室の中から開ける場合に手前に引くタイプを選べば大雪の日にもドアは開けられますが、ドアの開閉時に風除室内でスムーズに動ける広さが必要になります。
「引き戸の中でも人気で、現在の主流になっているのがノンレールタイプの2枚引き込み戸(3枚引き戸)です。下にレールがないノンレールタイプの戸は足が引っかかる心配がありません。レール部分に土ボコリなどの汚れがたまらないのもメリット。掃除のときにもホウキで外へ掃き出すのがラクです。2枚引き込み戸はドアが縦に3分割されていて、開けたときに、2枚の戸が片側に引き込まれるため、開口部が大きくなります。大きな荷物の出し入れの際に便利です」
【施工事例】開口部が広く取れる2枚引き込み戸を採用した風除室
すっきりとしたI型の風除室に、人気のノンレールタイプの2枚引き込み戸を選択。開口部を広く開けることができ、風除室に開放感がある。玄関ドアも、風や雨、雪による劣化を抑え、美しい状態を保ちやすい。夏は室内への虫の侵入も防ぐ。


風除室設置の工期は?
「風除室を後付けする場合、現場調査や工場での部材の加工、ガラスの手配などの準備に数日いただきますが、部材を現場に搬入すれば特殊なデザインの風除室以外は、工事は1日で完了します」
外出中に施工してもらえる?
施工場所が家の外であれば、工事の間、施主は留守にしても大丈夫なのでしょうか。
「ご在宅でなくても工事は可能ですが、電気の電源をお借りしたり、近所の方へのお声がけなどもあるので、在宅をお願いできればと思います」
風除室を後付けすると固定資産税はかかる?
後付けで風除室をつくると固定資産税が上がったりするのでしょうか。
「新築時に風除室があるプランで建築確認申請を行うと、固定資産税の課税対象になりますが、後付けの場合、風除室の形状や大きさ、自治体の判断によって対応が異なるようです」
気になる場合は、風除室の施工実績が多い施工会社に確認してみるといいでしょう。
雪や雨の吹き込みや玄関の寒さ対策になる風除室(玄関フード)。玄関ポーチでの転倒や玄関の汚れ、玄関ドアの劣化が心配な人にもメリットの多い風除室は、新築時だけでなく、後付けのリフォームでも設置することができます。玄関まわりの悩みがある人は、リフォーム会社に相談してみるといいでしょう。
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取材・文/田方みき イラスト/上坂じゅりこ
広告制作プロダクション勤務後、フリーランスのコピーライターに。現在は主に、住宅ローンや税金など住宅にかかわるお金や、住まいづくりのノウハウについての取材、記事制作・書籍編集にたずさわる。