家の門から建物へと続く玄関アプローチは、住まいを印象づける重要な場所です。おしゃれで使いやすい玄関アプローチは、どのように計画すればいいのでしょう。リフォームの前に知っておきたいポイントを、東京セキスイファミエス株式会社 ザ・シーズン支店の片柳仁さんに聞きました。
記事の目次
玄関アプローチの役割
玄関アプローチが家の印象を決める
玄関アプローチとは、道路から玄関までを結ぶ道、動線を指します。
「玄関アプローチは門とともに、その家の印象を決めるファサード。単なる通路ではなく、建物を引き立てる場でもあります。門から玄関までまっすぐ直線で結んだアプローチは味気ないものです。道が蛇行していたり、途中に植木があったり、四季折々の風情を感じながら家の中へと導かれていく、いわば癒やしの空間という役割もあります」(片柳さん、以下同)
玄関アプローチには防犯面の役割もある
玄関アプローチは外部とつながる場所であることから、どう作るかによって防犯性に影響します。
門から玄関までの距離はできるだけ長いほうが、泥棒は侵入しにくいもの。また、道路から見えるように計画されたアプローチであれば、もし不審者が侵入しようとしても、周囲から気づかれやすく防犯性が高まります。
玄関アプローチの悩みをリフォームで解消
玄関アプローチの汚れや劣化が気になる
家の印象を決める玄関アプローチですが、見栄えが気になっている人も多いのではないでしょうか。
「玄関アプローチは、その家の住人はもちろん、訪問する人も必ず通るスペースです。日頃からよく使う場所であるため、当然汚れるし、時間が経てば劣化も起こります。そうしたダメージを一新したいとリフォームに踏み切るケースが多いです」
玄関アプローチと建物の色が合わない
建物と玄関アプローチがちぐはぐな印象になってしまっているという悩みもあります。
「家を新築する際、建物に予算を取られて、外構は後回しというケースが少なくありません。その場合は、建物と玄関アプローチの色が合わず、ちぐはぐな印象になってしまいがちです。後から追加でアプローチの施工ができるようにしておくことが大事。そうでないと、既存のものを解体するのに余分に費用がかかってしまいます」
玄関アプローチの水はけが悪い
雨の日に玄関アプローチにぬかるみができてしまい、靴が濡れる、足を取られるといった悩みもあります。
「使っている素材や工事の状態によりますが、しっかり水の逃げ道を作っておかないと水はけの悪い玄関アプローチになってしまいます。素材選びから施工まで、信頼して任せられる会社を選ぶことが大事です」
プライバシーが守れず家の中が丸見え
門から玄関ドアまでまっすぐ直線でつながっている場合は、ドアを開けた時に家の中が丸見えになってしまうことも。
「直線の玄関アプローチは、プライバシーの面だけでなく、安全面でも好ましくありません。特に小さなお子さんがいる家では、子どもが道路に飛び出して事故になる危険がありますから、早めに改善したほうがいいでしょう」
玄関アプローチの段差が危ない
玄関アプローチに段差があると使いにくく、つまずきや転倒の原因になることもあります。
「高齢者や幼児がいる家庭では、段差の解消や手すりを設けたいという要望が多いです。段差を解消できない場合は、一定の法則に基づいた上り下りしやすい階段を設ける方法も。つまずきを防止するため、ライティングなど目立つものをアイキャッチとして置くなどのテクニックもあります」
玄関アプローチのリフォーム費用相場と実例
玄関アプローチのリフォーム相場
玄関アプローチを含む、エクステリア・バルコニー・庭のリフォーム費用の相場は30万円~60万円になります(※2019年4月にSUUMOリフォームが実施したリフォーム実施者調査から算出)。
玄関アプローチのリフォーム費用は、広さやデザイン、使う素材によって変わります。既存のものを撤去する場合は、その分の費用も必要です。
具体的に、玄関アプローチをタイル張りにする場合を見てみましょう。 外構用の床タイルは1㎡当たり5000円~1万円程度。工事費は既存タイル等の解体撤去費用を含めて、1㎡当たり約1.5万円~2万円程度。5㎡のアプローチをタイル張りにするとして、費用は約10万円~15万円となります。
天然石を用いる場合は、材料費が1㎡当たり約1万円~3万円、工事費が約2万円~3万円程度。5㎡のアプローチを天然石張りにすると、約15万円~30万円となります。
工事費は素材によって変わる
前述の例からもわかるように、どんな素材を使うかによって工事にかかる費用は違ってきます。施工に手間がかかる素材は施工費が高め。施工が簡単な素材であれば工事費は安く済みますが、耐久性の面で劣ることもあります。
予算を考えるときは、何度か見積もりを取って調整していくといいでしょう。SUUMOリフォームに掲載されているリフォーム実例も参考にしてください。
リフォーム実例1:天然石、タイル、レンガなど上質素材で南欧風に
訪れる人をやさしく招く、流れるようなアプローチが印象的。南欧風の塗り壁とアイアン門扉の曲線デザインもポイントです。
費用(概算):115万円
施工内容:門扉、塀、玄関アプローチ
リフォーム会社:東京ガスリノベーション
リフォーム実例2:直線だったアプローチは入り口の向きを変え、勾配も緩やかに
門扉から玄関ドアまで直線だったアプローチをリフォーム。階段はコンクリートに小石やビー玉を埋め込みアクセントに。道路との境界は木製フェンスで目隠ししました。
施工内容:玄関アプローチ・外壁
リフォーム会社:スタイル工房
リフォーム実例3:敷石の色にもこだわり和と洋が融合したアプローチに
同じ敷地内に和風の建物もあるため、外構は洋と和をつなぐデザインに。敷石のレンガの色にもこだわり、どちらの建物とも調和するアプローチに生まれ変わりました。
費用概算:200万円
施工内容:門扉、門扉袖、タイル、植栽
リフォーム会社:東京セキスイファミエス
玄関アプローチをリフォームするときの注意点
曲線やクランクを用いて遠近感を出す
まずは、玄関アプローチの動線をイメージしてみましょう。
「門から玄関まで直線で結んでは遠近感が出ません。敷地が狭い場合も、できるだけカーブやクランクを取り入れて奥行をもたせるようにしましょう。奥行があるほどいろいろなしつらえができ、風情が感じられる空間になります。道路への飛び出し防止など安全面でも大切なポイントです」
余裕のあるアプローチ幅を確保
アプローチの幅は、将来の使い勝手まで考えて余裕を持たせておくと安心です。
「人が通るのに必要な幅は約0.6mとされています。しかし実際には、人と人がすれ違ったり、荷物を運んだり、傘をさすこともあります。将来的には車いすを使うかもしれません。そうしたシーンを考慮すると、玄関アプローチの幅は1.2m以上とするのが理想です」
長く使える丈夫な素材を使う
「外構のリフォームは部屋のリフォームのように気軽にできるものではありません。特に解体が伴う工事は騒音やホコリでご近所に迷惑をかけることになり、なかなか踏み切れないものです。リフォームする際は、長い目で見て、できるだけ上質な素材を選ぶことをおすすめします」
濡れると滑りやすくなる素材に注意
雨の日は玄関アプローチが濡れるので。表面が滑らかな素材は要注意です。
「外構用の石やタイルは、雨に濡れても滑らないように加工されています。ときどき種類が豊富だからと屋内用のタイルを使っているケースがありますが、それでは雨が降ると滑ってしまいます。必ず濡れても問題のない屋外用の素材を選びましょう」
死角や暗がりを作らず防犯対策を
玄関アプローチは奥行を出しながら、人が潜めるような死角や暗がりを作らないことが大切です。
「なるべく閉鎖的なデザインにしないことです。外構を設ける場合はフェンスなど見通しのよいものを選び、外から玄関を見えやすくすると防犯対策になります。家の中まで見えないように、パーティションや植栽などを使ってプライバシーを守る工夫を。照明器具の配置も併せて計画しましょう」
バリアフリー対策としてスロープや手すりを
玄関アプローチに段差がある場合は、将来に備えてスロープや手すりの設置を検討しましょう。
「スロープを設ける場合は、今は使わなくても車いすが通れる幅を確保しておくと安心です。ただしスロープは寒い時期には凍って滑りやすくなることも。あくまでもサブ的なものと考え、必ず階段を設けるようにしましょう」
玄関アプローチの素材選びとおしゃれにするポイント
家の外観と調和したデザインに
玄関アプローチのデザインを考えるとき、いちばん大事なのは建物とのバランスです。
「例えば、和風の家にエレガントな玄関アプローチはちぐはぐです。ベースとなる建物のテイストによって、それに合う玄関アプローチのスタイルが何パターンかあるので、外構のプロに提案してもらうといいでしょう」
建物と玄関アプローチの色調を揃えるのもポイントです。
「建物の基調色に合わせて、玄関からアプローチ、門へとつながるようにグラデーションで仕上げるのが一般的です。そこにアクセントとして補色といわれる反対色をプラスすると、グッとおしゃれ感が増します。例えば、メールボックスや表札など、ちょっとした小物がアクセントになります」
イメージに合う素材を選ぶ
玄関アプローチに使われる人気の素材としては、敷石、タイル、レンガ、コンクリート、枕木などがあります。
「素材を選ぶときは、色合いや形に注目してください。敷石にしてもタイルにしても、モダンなものからナチュラルなものまで種類はさまざま。同じ素材でも色合いや形、仕上げによってまったく違うテイストになります」
ただし、どんなに素敵なアプローチでも、ヒールの靴では不安定で歩きづらい、ベビーカーがガタガタして通りづらいというのではNG。素材の特徴を知り、家族が玄関アプローチを通るシーンをイメージして選ぶことです。
それでは、テイストの違う玄関アプローチの実例を見てみましょう。使われている素材と、その特徴も紹介します。
タイルを使ったモダンな玄関アプローチ
シックなカラーのタイルと照明でクールなイメージに仕上げた玄関アプローチ。デザイン的にも、防犯面・安全面でも、足元を照らし出す照明が重要な役割を果たしています。
タイル
高級感があり、経年劣化しにくい素材。大きさや質感、カラーが豊富なので、いろいろなデザインバリエーションが楽しめます。汚れが落としやすく、メンテナンスに手間がかかりません。
レンガ敷きのトラディショナルな玄関アプローチ
建物と門袖をブラウン系のグラデーションでつないだレンガ敷きのアプロ―チ。レンガを薄い色にすることによって植栽のグリーンがよく映える空間に。
レンガ
古くから建築材料として使われてきた自然素材で、温かみのある質感が特徴。色合いや並べ方によって違った表情を演出できます。経年変化により味わいが増すのも魅力です。
洗い出しを使ったナチュラルな玄関アプローチ
ウッドのフェンスや植栽などのナチュラル素材で玄関までを楽しく演出。やわらかなイメージの洗い出しが自然素材とマッチ。目地部分はピンコロと呼ばれる御影石で縁取っています。
洗い出し
コンクリートが完全に固まる前に表面を水で洗い流し、砂利が見えるざらついた仕上がりにする工法。砂利の大きさや色によってテイストが変わります。普通のコンクリートに比べ滑りにくいのも利点です。
自然石を使ったエレガントな玄関アプローチ
建物のカラーに合わせてピンク色の乱形自然石を敷き詰めた玄関アプローチ。緩やかなカーブで奥行を出し、植栽をちりばめてやさしさと上品さを演出しています。
敷石
高級感があり、和と洋どちらのテイストにも合わせやすい素材です。多く使われるのが御影石、石英岩、大谷石など。形は四角や丸いもの、ナチュラルな乱形のものも。丈夫でメンテナンスがしやすいのもメリットです。
まだある、玄関アプローチに使われる人気素材
玄関アプローチに使われる素材はまだあります。主な人気素材を紹介します。
コンクリート
コンクリートの玄関アプローチは、無機質でシャープな印象に。他の素材に比べると施工が簡単で、コストが抑えられます。ただし頑丈さはいまひとつ。仕上げによっては滑りやすくなるので注意が必要です。
インターロッキング
コンクリートのカラーブロックをレンガ調にかみ合わせた舗装方法です。色バリエーションが豊富でデザイン性が高く、滑りにくいのもメリット。隙間から雑草が生えてくることがあるので、メンテナンスが必要です。
枕木
素朴さとアンティークな雰囲気が魅力。安価で使いやすく、ナチュラルにも和風にもアレンジできます。経年劣化や色褪せがありますが、それも味わいに。最近は耐久性に優れたコンクリート製や樹脂製の枕木もあります。
砂利
色や大きさの種類が多く、テイストに合わせて選べます。安価なうえに、敷き詰めるだけと施工が簡単でコストがかかりません。大き目の砂利は人が歩くと音が鳴り、防犯にも有効です。
植物を上手に取り入れる
おしゃれな玄関アプローチに欠かせないのが植物です。花壇や鉢植えを配置することで、石やタイル、コンクリートといったハードな素材の印象をやわらげる効果があります。アイストップとなる樹木や花があれば、歩くのが楽しみな癒やしの空間になるでしょう。
玄関アプローチのリフォーム成功のカギは?
住まいの印象を決める玄関アプローチは、デザインも使いやすさも満足できるものにしたいですね。最後に片柳さんにリフォームを成功させる秘訣を聞きました。
「外構を専門とする会社に相談し、プロにアドバイスしてもらうのがベストな方法です。まず、将来のライフスタイルの変化も視野に入れて、どんな玄関アプローチにしたいか考えてみてくださいで。希望が明確になっているとプランニングがスムーズです」
取材協力/東京セキスイファミエス株式会社 ザ・シーズン支店 片柳仁さん
構成・取材・文/小宮山悦子 イラスト/青山京子