四半世紀を経て新宿で再生した、サスティナブルな天空のまち

富久クロスコンフォートタワーの外観

外苑西通り、大木戸坂から富久クロスコンフォートタワーを望む
物件名:
富久クロスコンフォートタワー
所在地:
東京都新宿区
竣工年:
2015年
総戸数:
1084戸

55階建てのタワーマンションがランドマークに

「新宿区」といえば、「都庁をはじめとする西新宿の超高層ビル群」「歌舞伎町」「1日当たりの乗降客数日本一の新宿駅」…などを連想する人は多いかもしれない。しかし、その半面、静かな住宅地も点在しており、快適に暮らす場としての側面もある。

例えば山手線の内側に位置する市ヶ谷近辺。市谷加賀町、市谷砂土原町、市谷本村町、市谷柳町…といった旧町名が残るアドレスは、台地上に広がる閑静な住宅街だ。

かつて「市谷冨久町」と呼ばれた、現在の富久町も、そんな新宿区の住宅街のひとつだった。

「だった」というのは、富久町がバブル期に深刻な問題を抱えることになったからだ。当時、都市部を中心に横行した無秩序な土地売買によって街並みが虫食い状態になり、防犯や景観に大きな支障をきたした。

その事態を憂慮して立ち上がったのが、ほかでもない富久町の住人たちだった。1990年に「勉強会」をスタートし、1997年には全国初の住人主導による「西富久まちづくり組合」を結成。その後、野村不動産をはじめとする複数のデベロッパーや、大学、行政なども加わり、再開発事業が始まった。

かくして、勉強会発足から四半世紀の歳月を経て、2015年に完成したのが「富久クロス」だ。当時、山手線内最大規模だった約2.6haの敷地には、スーパー、飲食店などの商業施設、認定こども園、クリニック、賃貸住宅などがそろい、ランドマークとして地上55階建て、1000戸超の「富久クロスコンフォートタワー」がそびえている。

富久クロスコンフォートタワーを真下から見た外観

高さ190m以上のタワーの麓から仰ぎ見る。この一帯にかつて低層の住宅街があったとは想像しづらい

地域住人と新たな住人が協働して開発前からの行事を継承

富久クロスは、先述どおり地元住人の主導で始まったプロジェクト。それだけに、マンションだけでなく、周辺の住人を巻き込み、まち全体の住み心地や資産価値を向上させるためのエリアマネジメントを行っているのも特徴だ。

富久クロスの守り神

かつてこの地にあった弁天、稲荷が、敷地2階の「彩華の広場」の横に祀られている。富久クロスの守り神だ

拠点となるのは、敷地2階にある約800㎡の「彩華の広場」。この場所でマンション住人と周辺住人は協働して行事、イベントなどにぎわいを創出してきた。
全体管理組合の理事長を務める井村さんは、「富久クロスが完成した当初から『地元の西富久町会の催し物に、彩華の広場を使用できる』という規約が定められていました」と話す。

竣工当初から暮す坂本さんご夫妻は、地元町会と協働で行う催しに積極的に参加している。
「毎年8月の夏祭りの時、彩華の広場で行われる盆踊りに参加しています。富久クロスの開発前から地元で継続してきた夏祭りがここで存続しているんです。本番前には踊りの講習会も実施。大人はもちろん、子どもも真剣に、なおかつ楽しんで踊っています。

当初は富久クロス周辺地域の住人が多かった印象でしたが、徐々に富久クロスの在住者も増えてきました。何しろ自宅のすぐそばなので、乳幼児がいるファミリーや、遠出しづらいお年寄りもすぐに参加できます。都会のど真ん中で、高さ190m以上のタワーマンションの麓で盆踊りを踊れるのも面白いですしね。

富久クロスが歴史ある住宅地の再開発であることは、購入前に知っていました。ここで長年続いてきた夏祭り、盆踊りの歴史に自分も一員として加われるのは、ここに住んだからこそだと感じています」

富久クロスコンフォートタワーのふもとで行われる盆踊り

中央に置かれた大太鼓から放たれる威勢のいい音も盆踊りの醍醐味(だいごみ)。右の建物が富久クロスコンフォートタワー(画像提供/富久クロス全体管理組合)

井村全体理事長が続けて語る。
「管理組合が新しく主催した人気の催しのひとつに『富久町のゴミ拾い』があります。富久クロス敷地内から敷地の外も対象にして、親子で参加してもらい、ゲーム感覚でゴミを集め、まちをきれいにしよう、というものです。

例えばタバコの吸い殻は1ポイント、粗大ゴミくらいのサイズなら10ポイント、といった具合に対象物別にポイントを定め、総ポイント・重さで順位を決めて、賞品をプレゼントします。終わったら広場の防災用かまどベンチで火を熾し、そこでつくった豚汁を食べるのが恒例。毎年60人以上が参加して盛況です」

富久町のゴミ拾いの様子

ゴミ拾い前、説明を聞く参加者。計5チームでゴミをゲーム感覚で集める(画像提供/富久クロス全体管理組合)

住人主導の多彩なサークル活動も魅力

マンション内のコミュニティにも注目したい。マンションの開発段階で、デベロッパーがWebアンケートや座談会を通じて寄せられた10万超のアイデアを吟味し『1000のイゴコチ』というユニークな書籍を発行。ここに掲載された共用施設の活用法、コミュニティ形成のノウハウなどを参考に多彩な共用施設が有効に活用され、交流を促してきた。

富久クロスコンフォートタワーの1階ロビー

1階ロビーはリゾート風のインテリア。コンサートなどイベント会場にも使用される

富久クロスコンフォートタワーのスカイラウンジ

43・44階、2層吹抜けのスカイラウンジからは新宿、渋谷方面を一望。コンサートイベントも開かれる

富久クロスコンフォートタワーのゲストルーム

ゲストルームは4種類。ここは和の趣で人気のクラシックスイート

現在、コンフォートタワー(CT)管理組合理事長を務める坂本さんは、竣工当初から管理組合理事に立候補。快適なマンションにするための環境づくり、資産性の向上に、管理組合の他理事たちとともに取り組んできた。

「今も立候補者はおられますが、竣工当初の管理組合理事は全員が立候補者で、特に意識が高かった。理事会が白熱して数時間におよぶこともありました。マンションの黎明期にしっかりとシステム・基礎をつくっておけば、後にマンションを受け継ぐ世代にバトンを渡しやすくなるはず、という考えで頑張っていました」

富久クロスコンフォートタワー管理組合理事の方々

取材に応じていただいた3人。左から井村全体理事長、坂本CT理事長ご夫妻

富久クロスコンフォートタワー内のブックカフェ

ブックカフェ。紀伊國屋書店と契約しており、新刊雑誌、書籍が置かれ、誰でも読むことができる

富久クロスコンフォートタワー1階の和郷カフェ

1階の和郷カフェ。有機栽培のコーヒーが無料で飲み放題のサービスも

熱心な管理組合の活動と、住人の自発的なアクションが融合し、育まれたのが、多彩なサークル活動だ。

「マンションが発着地点で、集合解散がラクなことも好評なバス旅行の会、紅茶の会、ヨガ、ゴルフ、麻雀、住み心地から近所の美味しいラーメン屋さん情報の交換まで、テーマは回毎に異なるマンション生活を良くする会、などジャンルを問わずたくさんのサークルがあります。

管理組合は、サークルに対して共用施設を優先的に予約できるようにしたり、共用部のデジタルサイネージに情報を掲示したりしてバックアップしています。お金の面の支援はなく、走り出したらあとは会員に任せる方式です。管理組合は、ちょっと背中を押す存在でしょうか」(坂本CT理事長)

富久クロスコンフォートタワー共用部のデジタルサイネージ

共用部に置かれたデジタルサイネージでサークル活動の情報も掲示

富久クロスコンフォートタワー44階のパーティラウンジ

44階のパーティーラウンジ。料理教室、ホームパーティーなどの用途で人気

理事になって新たに知ったマンション暮しの醍醐味

イベントもユニークだ。目を引くのが音楽系で、プロのオーケストラで活躍される弦楽奏者の方々や著名なエレクトーン奏者826askaを招いたロビーコンサート、東京藝大の学生を招いてのエンターテインメントに美味しい食事とお酒を楽しみ夜景を見ながらJazzを楽しむジャズライブなど多彩。前出の井村全体理事長が音楽への造詣が深いため、アーティスト依頼や、手配業務、準備などのノウハウを身に付けていたことから実現したそうだ。

富久クロスコンフォートタワーのスカイラウンジでのジャズライブ

43・44階のスカイラウンジでのジャズライブ(画像提供/富久クロスCT管理組合)

富久クロスコンフォートタワーの1階ロビーでのコンサート

826askaを招いて1階ロビーで行ったエレクトーンコンサート。住人に大好評だった(画像提供/富久クロスCT管理組合)

「ただ、あまり音楽に偏るのも良くないので、最近は1階ロビーでのコンサート、43・44階のスカイラウンジでのジャズライブ、たまに1階のカフェで開くミニライブの3種類に落ち着きました。季節のイベントは、お正月の餅つき、ハロウィン、クリスマスなどがありますが、最近特に力を入れているのが、子育てファミリー向けのハロウィンイベント。チェックポイント各所に役員、協力者がいて、そこを子どもたちが巡ってお菓子をもらい、スタンプラリーみたいな感覚で楽しんでもらっています。

富久クロスコンフォートタワーのハロウィンイベント

子どもたちの良い思い出になりそうなハロウィンイベント(画像提供/富久クロスCT管理組合)

次に開催する際は富久クロス内の商業施設にも協力を仰ぎ、そこもチェックポイントに加えることで店舗としても広告効果が上がり、参加する子どもたちは巡る場所が増えてより面白くなるのではと企画しています。こうしたここでしか体験できないイベント、催しに触れることで居住満足度が上がり、長く住んでくれる人が増えれば理想的ですね」

全体管理組合の理事長として快活に語る井村さんだが、実は、住み始めてから最初の2年は、マンションのイベントにはまったく参加しなかったそうだ。

「当時は管理組合にはさほど興味がなかったんですよね。このマンションを購入したのは、当時の山手線内部最大規模の開発という資産性や、東日本大震災の後でしたので建物としての安全性、交通アクセスの良さなど、優れたスペックが理由でしたし。

でも、マンションのイベントは楽しそうだなと感じてはいたし、何より子どもたちにとって良い思い出になるのだろうな、とは考えていました。理事になったきっかけは、マンション内の“意見書箱”にいろいろな投書をしていたこと。共用施設の使い方や利用時間、スカイラウンジにBarを設置しても良いのでは、空間を活かしてこんなイベントを試したらいいのでは…などと色々想像して書いて出していたら、2期当時の理事長から『建設的な意見をお持ちの方に次の理事を務めてほしい。もしやる気があればぜひ』と誘われたのです」

富久クロスコンフォートタワー内のキッズルーム

キッズルーム。年に複数回、1歳未満のお子さんと親御さんを対象に育児コンシェルジュが派遣され、お悩み相談、ワークショップなどが行われる

理事になって、マンション暮しの楽しみ方がひとつ広がりました、と井村全体理事長は続ける。

「管理組合で打ち出す方針が住人の皆さんに受け入れられたり、好評だったりするのはもちろん達成感があり、満足できます。それもさることながら、理事同士のつながり、交流も楽しいですね。理事会は、会社でもない友人でもない、いわば第三のネットワーク。職業、性別、社会的立場、国籍などバラバラでいろいろな価値観に触れられるのは大きな財産になっています。自分自身の成長にもつながったんじゃないかな。理事の方や理事を引退された方とも、時々飲みに行きますね」

前出の坂本さんご夫妻も、管理組合や各種の催し、イベント参加を通してネットワークが広がったことに加え、利便性の高い都心に夫婦二人の終の棲家を確保できたことに価値がありました、と話す。

「ここを購入する前は西東京市の大規模マンション暮し。子どもの独立が近づき、夫婦二人でどこに住むべきか検討しつつ家探しをしていました。郊外でのんびり暮すのも良いかなとも思っていましたが、ビジネスコンサルタントの山﨑武也さん著の『老後は銀座で』にも刺激され、便利で刺激のある都心のマンションで新たな暮しを始めるのも悪くないと考えるようになったんです」(坂本CT理事長)

そんな時に見つけたのが富久クロスコンフォートタワーの新築分譲情報だった。

「以前、ここのそばの新宿御苑を二人で散歩したことがあり、『良いところだね』と話していたんです。そのすぐ近くに登場するマンションということで現地を見に来て、すぐ気に入りました。買い物、美味しい食事を楽しめる店や医療施設も近く、四季折々の自然に触れられる新宿御苑もすぐそば。ここでの暮しには完全に満足していますね」(坂本夫人)

古き良き新宿の住宅街が大規模複合再開発で姿をガラリと変え、次世代が継ぐコミュニティへ――新たな住人の価値観が加わり、将来どう成熟していくのかが楽しみだ。

富久クロスコンフォートタワー管理組合理事の方々

管理組合という新たなネットワークを通じて、マンション暮しの楽しみが広がったという

※2020年のイベント開催は新型コロナウイルス感染症対策のため上記の通りではありません。今後の開催は未定

構成・取材・文/保倉勝巳 撮影/一井りょう

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