約7600㎡の中庭が生まれたヒミツとは?
2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックの舞台になった新国立競技場をはじめ、数々のシンボリックな建築物を手がける隈研吾氏。日本はもとより海外でも高く評価をされる世界的な建築家だ。これまでに関わったプロジェクトはホテル、美術館、オフィスビル、公共施設など多岐にわたり、集合住宅の設計や監修にあたることも少なくない。
今回、紹介する「ニュートンプレイス」はその1件だ。約3万8000㎡に及ぶ敷地のランドスケープとともに、地上20階建ての建物のファサード、さらにパブリックスペースのデザインを隈氏が監修。ガラスを印象的に使ったダイナミックなエントランスゲート、縦ラインの格子がリズミカルに連なるアースカラーの住居棟など、随所に‟隈イズム“が感じ取れる。
ランドスケープもまた特徴的だ。サウスコートとノースコートの2棟の間に広がるのは約7600㎡の広々とした中庭。その中央を貫くように大きな花壇が配置され、両脇にはカツラやケヤキなどの木々とともに芝生の広場と大きな水景も。公園さながらの景観は、都心の喧騒を忘れてしまうほどだ。
「この中庭に魅了されて購入を決めました」と口をそろえるのは、今回、お話を伺ったお三方だ。
「子育てに向くマンションとして紹介されたのですが、まさにそのとおりでした。ゲートによって守られた中庭は住人専用の空間なので、子どもを遊ばせていても安心です。加えて、住戸の広さが100㎡台中心なのも魅力でしたね。わが家は102㎡の3LDKですが、家族でゆったり暮らせます」
こう話すのは管理組合の理事長、宮田さん(取材時。現在は任期満了により退任)。
自治会組織「ニュートンプレイス新東京フォーラム」の会長、杉本さんは中庭の緑に加え、静かな環境を魅力に挙げた。
「自宅にいると自動車の音さえ聞こえません。わが家は中庭に面した2階にあるので家の中からも緑を満喫でき、最高の環境です」
その中庭で活動している「花のボランティアクラブ」の代表、宮崎さんも同意見だ。
「以前の住まいは駅前にあったので、環境が一変しました。中庭なら日が落ちるまで子供が遊んでいても心配はなかったですね。部屋も広いですし、一度、ここに住んでしまうと、もう引越しは考えられないぐらいです」
聞けば、緑豊かな住環境は敷地の立地条件にも由来しているという。
「実は、中庭の地下には京葉線が通り、建物の建設ができないのです。それを逆手にとって生まれたのがこの緑の空間。住む側にしたらありがたい立地ですね」(宮田さん)
ちなみに、電車が走る音は、耳を凝らせば聞こえるという噂が住人間である程度。もちろん、振動もなく、生活にまったく影響しないそうだ。
共用施設は随時更新してより便利で楽しい場に
スケールメリットを活かし、共用施設も豊富だ。例えば、共用棟“フォレストミュージアム”にあるカフェラウンジは、2層吹抜けの空間から中庭を見渡せて開放感は満点。同じく共用棟にはフィットネスや広々とした多目的スペース“ソシエアリーナ”があり、住居棟にもゲストルーム、ビューラウンジ、シアタールーム、カラオケルームなどが点在している。さらに、中庭を歩けば、十六角形のフォルムがユニークなキッズルームの“トットハウス”、一風変わった洋風東屋“ガゼボ”といった共用施設も現れて、見て回るだけで楽しくなる。
共用施設については、より使いやすく住人が楽しめる形に随時、更新されている点も見逃せない。例えば、広々としたソシエアリーナはバレエやヨガに使えるよう大型キャスター付きミラーを設備。2023年には150インチのスクリーンも新設された。
「スクリーンは自治会費で購入しましたが、設置して大正解でした。ラグビーのワールドカップが開催された折には、この部屋をパブリックビューイングの会場にして、集まったみなさんで日本代表を応援しました。大勢で観戦するととても盛り上がり、住人同士の交流も深められました。このモニターは理事会のときにもオンラインで参加する方や議案の資料などを映して活用しています。大きくて見やすいと好評ですね」(杉本さん)
ほかにも、ビューラウンジは3年前、フィットネスは2年前にそれぞれリニューアル。フィットネスについてはスペースを広げ、すべてのマシンを一新したという。さらに、昨年7月に改修したばかりなのが、2室あるゲストルームの“ビュースイート”。インテリアを1室はシックに、もう1室はナチュラルテイストにし、好みやシーンで使い分けができる。改修後は連日予約でいっぱいとか。 「ミニショップがあるのも便利ですね。食材や調味料も売っているので、買い忘れがあったときに助かります」(宮崎さん)
豊かな住環境は住人の手でブラッシュアップ
中庭についても竣工から20年の間により磨きがかけられている。その主体となるのが、竣工の翌年、自治会に組織された「花のボランティアクラブ」だ。現在、メンバーは代表の宮崎さんをはじめ約30名。中庭の花壇のほか、エントランスなどに置かれた約40台の花のコンテナの管理をメインに行っている。
「お花の水やりやお手入れは、小グループに分かれて行っています。頻度は1人につき月3〜4回ほどですね。また、植え替えは春と秋の年2回。植え付けは居住者全体に参加を呼びかけ、グリーンアドバイザーの指導のもと、みんなでわきあいあいと進めています。自分で植えたお花は愛着もひとしお。お子さんの参加も多いですよ」(宮崎さん)
宮崎さん曰く、活動の目的はお花を通じた仲間づくり。子育てが終わって子どもを通じての仲間づくりが難しくなった世代でも、活動するなかで自然と友達ができるという。もちろん、花壇をより美しくしたいという思いも熱い。メンバーは草花を愛する人たちばかり。花壇がきれいになることで喜びが生まれ、ボランティアでの活動も苦にならないそうだ。
この活動により植栽の管理に対する意識も向上し、竣工6年目には管理組合の下に緑化推進委員会が発足。住人有志の“非理事委員”も加わって、植栽管理会社「東邦レオ」と連携しながら樹木の保全・管理を行っている。
「花のボランティアクラブと兼務するメンバーも多く、私もその1人。中庭をよりよい場所にしていきたいと活動しています」(宮崎さん)
その思いを象徴するのがサクラの植樹だ。春にお花見を楽しめるよう2本のソメイヨシノを新たに植え、開花の時季に合わせてライトアップも行っている。単に維持をするのではなく、常にブラッシュアップすることで美しく心地よい空間になっているというわけだ。
先鋭的な自治会がマンション内外で多彩なイベントを企画
中庭への思いだけでも充分な熱量だが、さらに目を見張るのは杉本さんが会長を務める自治会「ニュートンプレイス新東京フォーラム」の取り組みだ。サークルの支援をはじめ活動は多岐にわたり、主催するイベントは年間通じて目白押し。端午の節句や七夕など歳時に合わせた飾り付けにも力を入れ、マンションの風物詩になっている。
そのなかで一大イベントになるのが、毎年9月、2日間にわたって行われる「フェスタニュートン」だ。来場者数は、なんと延べ2000人超!
中庭の特設ステージではフラメンコやフラダンスなどのサークルが練習成果を発表するのに加え、プロのミュージシャンによる歌や演奏も楽しめる。ワークショップや物販の出店数も多く、花のボランティアクラブではメンバーがつくったミニブーケやドライフラワーなどを販売しているそうだ。
「フェスタニュートンに合わせて実施する大抽選会も人気です。景品は毎年替わりますが、ブルーレイレコーダー、空気清浄機、東京湾クルージングディナーペアチケットなど豪華。コロナ禍でフェスタを開けなかった年は、大抽選会をインターネットで生配信しました。司会はプロに依頼しましたが、技術スタッフは住人。効果音の入れ方などトレーニングをして臨みました。景品も例年よりグレードアップし、特別企画賞は『鬼滅の刃』のラーメン13種類を全部買い集めたコンプリートセット。漫画にちなんで手づくりしたオリジナルパッケージも大ウケでした」(杉本さん)
クリスマスのイルミネーションも人気イベントの1つだ。中庭全体にさまざまなLEDの電飾が施され、光の楽園になるという。
「イルミネーションは業者に依頼せず、すべて自分たちで取り付けています。配線をしたり、高所に取り付けたりするのに苦労しますが、それによって費用を大幅に抑えられます。毎年、イルミネーションを楽しみにしてくれる方は多いので、頑張り甲斐がありますね」(杉本さん)
聞けば、杉本さんはテレビ番組の制作に携わっていた、いわば企画・演出のプロ。その技術とアイデアに住人パワーが加わって、多彩なイベントは支えられているようだ。
こうしたイベントに加えて、スキーツアーや屋形船での花火鑑賞など、マンションを飛び出して行われる催しが多いのも特色だ。数だけでなく内容の濃さでもマンションイベントのレベルを超越しているといえるだろう。
防災やDX化など管理組合の活動も精力的
ここまでで住み心地はおわかりいただけたと思うが、最後に管理組合の取り組みについて理事長の宮田さんに伺った。
「理事会の役員は監事を含めて33名。任期は2年で半数ずつを入れ替え、仕事をスムーズに引き継いでいけるようにしています。力を入れていることの1つは防災。災害時には理事が防災隊として動ける体制を整えているほか、防災訓練を年2回実施し、コンロと大鍋を出して炊き出しの演習もしています。また、イベントと連動させ、クイズのなかでAEDの設置場所を聞くなど楽しみながら防災意識を高められるよう工夫しているのもポイントですね」
もう1つ、目下、推進しているのは理事会運営のDX化だ。ペーパーでのやりとりは極力減らし、メール等を使って意見交換をするといったことで効率性を高め、同時に理事になった誰もが意見を発しやすい場づくりにも活かしているという。
「コロナ禍で理事会の開催が難しくなったときも、ウェブ会議ツールの導入は早かったですね。今も半数弱はウェブで参加するハイブリッド形式で開いています」(宮田さん)
こうした取り組みに加えて、コンシェルジュによる手厚いサービスや24時間有人管理の安心感なども住み心地を押し上げているそうだ。
竣工から20年。昨今は親世帯が子ども世帯とマンション内で近居するケースも増えているという。
「子ども家族を呼びたくなる気持ちはよくわかります。まさに住人自慢のマンションなんです」(宮崎さん)
住む人たちの手によってブラッシュアップされている庭園マンションは、これからもさらに輝きを増し続けていくことだろう。