好きなものに囲まれたこのマンションで、これからも家づくりを楽しみ続ける|メレ山メレ子

室内の様子

好きなものに囲まれた住み心地のいい家を求めて、都内の中古マンションを購入してフルリノベーションをしたという、ブロガーのメレ山メレ子さん。これまでの住まいの遍歴を振り返りながら、家づくりに興味を持つきっかけとなったある物件との出会い、そして「メレヤマンション」と名付けた今の家のこだわりについて語っていただきました。

窓辺の多肉植物

好きなものに囲まれたい……

珍妙でかわいいものたち

自分がひとつひとつ選んだ、珍妙でかわいいものを愛でていたい……

本棚の中

好きなものに囲まれていれば、つらいことがあってもがんばれる……!

と念じ続けた結果、こういう部屋になりました。


完成したメレヤマンション
(撮影:宇壽山貴久子)

こんにちは、メレ山メレ子です。東京都内で会社員として働きながら、趣味で生きものに関するイベントや文筆活動をしています。

上の写真は、いま住んでいるマンションに入居した2016年に撮影したもの。わたしが乗っているのは、ガーナまで行って自分のためにつくった装飾棺桶です。何でそんなものをつくったかについては、話せば長くなるので拙著『メメントモリ・ジャーニー』(亜紀書房)をお読みください。

今回は、このマンションを購入するまでの経緯と、家づくりのこだわりについて書いてみます。

自分好みの家への憧れはあったけれど……

大学進学のために大分から上京し、在学中はいくつかの賃貸アパートに住みました。最初は大学生協に紹介された、井の頭線・永福町の木造アパートの1階。その後も西巣鴨、北池袋とアパートを移り住みましたが、電車の踏切音や隣人の生活音に悩まされることも。

大学卒業後、司法浪人時代は京都の北白川で妹と同居したこともあり、引越し経験はそこそこ多いほうです。都内で就職してからは、立地は便利だけれど小さな社員寮で3年間生活。その間ずっと、「いつかは床や壁から自分好みの素敵な家に住んでみたい」とぼんやりした憧れを持っていました。

賃貸でも狭い部屋でも、工夫とセンスさえあれば住み心地よくできたかもしれません。しかし、当時は趣味も嗜好もまだ固まっておらず、「何かが違うけど、どうしたらいいのか分からない……」の連続でした。

理想の集合住宅との出会い

「あ、この建物は好きだな」と集合住宅に対して初めて思ったのが、独身寮の居住期限である3年が過ぎ、当時の交際相手と住む部屋を探していて紹介された分譲賃貸でした。ふたり暮らしだと、1人分の予算は同じでも、物件のレベルはぐんとアップするものです。

1977年築ですが、よく手入れされているためか、年数がたっていても嫌な感じがしない。非常用のらせん階段やエントランスに、どこか開放的な雰囲気が漂っているのも好印象でした。

桜の季節は外に出なくてもお花見ができる

しかも小さな川がマンションの裏に流れていて、桜の季節は外に出なくてもお花見ができる立地でした。ある時は会社に行く時間になっても熟睡していたところ、用水路のカモのガアガアいう声で飛び起きて九死に一生を得たこともあります。

窓の様子


キッチンの様子


内装も古さを感じるものの、レトロの範疇にぎりぎり収まっている。持ち主がみずから手を加えたとも思われるペンキ塗りの棚などの造作もあり、「この家が自分のものだったら、もっと根本的な改装ができるのにな……」と夢想していました。

ひとり暮らしに戻ったのをきっかけに、マンション購入を検討

しかし、その後同居生活を解消し、再度「東京近郊でのひとり暮らし」の厳しい現実に直面。前の家があったエリアは住んでいる間に人気が出て家賃も高騰しており、住み続けるのをあきらめました。

さらに、広い家に浮かれて買った家具たちがとにかく大きく、しかし愛着があるので処分するにしのびなく、これも物件探しの制約に。それでもなんとか引越しを済ませたのですが、なぜかわたしの住宅事情にわたし以上にナーバスになっていたのが、実家の母です。母はインテリアオタクで、わたしの生まれ育った家の建築も母のかじ取りによるもの。わたしが妙に家にこだわるようになったのも、母の影響と思われます。

以前から不動産サイトのURLを送ってきては「ここにしなさい」「会社から遠い!」などの不毛なやり取りをしていたのですが、わたしが引越した部屋の写真を見た母は「こんな部屋に住んだらいけん!」と激怒。「月々の支払いが同じで都内のまともな部屋に住むならば、マンションを買うしかない」と、不動産会社の社員の霊が乗り移ったかのごとくマンション購入を勧めてくるようになりました。

以前なら「とはいえ、一度買ってしまうと引越ししづらいし、地震とか怖いし……」とはねつけていたでしょう。しかし、たしかに「通勤圏内でもっと広くて居心地のよい部屋に住みたい」と願うならば、「誰かと金銭的に助け合って暮らす」という選択肢を消した以上、「35年ローンを組む」という選択肢しか残っていない。

それに、前に住んでいた家の快適さは、面積や立地だけによるものではありませんでした。わたしたちの部屋以外はみんな分譲での居住者で、所有物だけあって大事にされ、まめに清掃やメンテナンスがされていました。そのことを思い出して「あんなふうに大事にされているマンションなら、購入してもいいかも」と、本腰を入れてマンション探しを始めたのでした。

そうしていまのマンションに出会ったのは、実はいまのマンションの向かいにある別のマンションを内見したのがきっかけです。前のマンションにも通じる雰囲気がひと目で気に入り、不動産会社の人に「今日内見に来たマンションじゃなくて、向かいにあるあのマンションの部屋が出たら欲しいです!」と主張。当時は売り物件がなく、出ても改装済みで予算が折り合わなかったりして、購入までずいぶん時間がかかってしまいました。

築年数が古い物件はまず選択肢に入れない人も多いですが、わたしの場合はそもそも「いい感じの古さなら、古いほうがむしろ好き」という嗜好があるようです。

好きなものに囲まれる家づくり

物件探し中にリノベーション事例集を読みあさり夢をふくらませた結果、わたしもご多分に漏れず「築古物件をフルリノベーション! 施主支給*1!」と鳴く生きものに変貌していました。

友人たちとフルリノベーション

ふすまに壁紙を貼る様子

「みんなで宴会ができる家にするから!」と甘言を弄(ろう)して週末に友人を集め、古い壁紙をはがしたり漆喰(しっくい)を塗ったりする日々はとても楽しかった。今は新型コロナウイルスの影響で集まれないので、写真を見ると申し訳なさが込み上げます……。

そうやってできたメレヤマンションのエリア別に、気に入っている部分を紹介していきます。

リビングルームには、壁一面の大きな本棚

リビングは壁一面を本棚に

古いマンションによくある、いわゆる「田の字」の間取りだったので、窓側の壁を取りはらってLDKにしました。

壁一面の本棚は、DIYが得意な造形作家の友人の多大な協力を得て実現。コンクリートの壁の前に木の壁を立て、本箱を固定しています。造り付けの本棚ほどきっちりした見た目ではないですが、今後も棚を増やせるし、ランダムな棚の間に雑貨を並べるとすごくかわいい。

アフリカの戦士の仮面とリングフィット アドベンチャーのリングコン

アフリカの戦士の仮面もリングフィット アドベンチャーのリングコンも、壁にネジを留めて気軽に引っかけられます(気軽にリングフィット アドベンチャーしているかどうかは、また別の問題です)。

手前にある物体は、飼っているムネアカオオアリの巣です。

棺桶の上のメレ子人形

部屋を見つめる棺桶の上のメレ子人形。この珍妙な棺桶が部屋の主役になることがあらかじめ決まっていたため、コンセプトは「雑多で陽気な部屋」にしかなりえなかった。

ダイニングテーブルとキッチン

本棚の反対側にはダイニングテーブルとキッチンがあります。

ダイニングテーブルの上にはお気に入りの雑貨やカップ・文房具を

ダイニングテーブルは就寝時を除いていちばん滞在時間が長い場所なので、お気に入りの雑貨やカップ・文房具などを集めました。

ガス管を加工したポール

お願いして付けてもらったポール。ガス管を加工したものだそうです。乾燥機にかけたくない衣類は、洗濯後ここにハンガーごと掛けるとすぐ乾くので重宝しています。

窓辺につるしたコウモリランやエアープランツ

コウモリランやエアープランツは、窓辺につるすと見た目が楽しく生育も早い。植物に限らず、いろんなものを天井からつるすのが好きです。

家での宴会が楽しくなるキッチン

リビングルームの一画にあるキッチン

リビングルームの一画にあるキッチン。実はキッチンにはあまりこだわりがなく、リビングと対面であればいいかと思っていたのですが、建築士さんが「あえて壁を立てて、コックピットみたいなキッチンにするのはどうですか?」と提案してくれました。キッチンツールは壁付け収納したいものも多く、大正解でした。

一面はチョークボードペイントを塗って、黒板にしています。フィットボクシングをがんばろうという強い意気込みが記してある。木の扉の中には、電気のスイッチとインターホンのモニターがまとまっています。

キッチンの様子

キッチンとダイニングテーブルの間もふすまで仕切れます。在宅勤務でオンラインミーティングするときなど、地味に助かる。

友達が遊びに来てキッチンに立ってくれるとき(わたしの友人は基本的にわたしより料理がうまい)、このカウンターを介してお酒や料理をやりとりするのがお店みたいで、地味に楽しいんですよね……早くまた宴会がしたいです。

深い青色の寝室

ウィリアム・モリスの壁紙を貼ったふすま

家の中は有効面積を稼ぐため、基本的に引き戸(ふすま)で仕切っています。狭い印象にならないよう、建築士さんが高さのある建具を手配してくれました。ウィリアム・モリスの壁紙をふすまに貼っています。

青く染め上げた寝室

部屋ごとに印象ががらっと変わるというのをやりたくて、寝室を青く染め上げました。よく眠れそうな深い色が気に入っています。眠るだけの部屋なので、天井の照明も思いきってなくしました(枕元にはフロアライトを置いています)。

土間を自転車置き場に


寝室の向こうのクローゼット


寝室の向こうにクローゼットがあり、

クローゼットの向こうの土間

クローゼットの向こうにモルタル仕上げの土間があります。

採光と通風を何よりも重要視しているため、ベランダ側と廊下側の窓を風が抜けるように考えた結果、この間取りしかありませんでした。夏場もかなり涼しいです。


自転車を置いている土間


昨年から自転車通勤を始め、土間に自転車を置くようになって、土間の良さを実感しています。帰宅するなり電動自転車を畳んでケーブルを挿すだけで充電できる。「バッテリーを外す」という一動作が省けるだけで、最高に便利です。あと、大きな声では言えないけれどゴミ出し前の一時退避場所にできるのはありがたい。

土間の奥はイベントで販売する虫グッズや同人誌の在庫で満載です。

玄関には絵を飾っている

玄関はもうちょっと整然とさせたいなと思いつつ、今はこんな感じ。

マンションを買ってよかった点のひとつが、壁に絵を飾るのが身近になったこと。賃貸に住んでいたときは、画鋲一つにも気を使っていたので……。コンクリートの壁には、熱で炙って圧着するタイプのフックを使用しています。

浴室・洗面所には、お気に入りの青いタイル

洗面所兼ランドリールーム

洗面所兼ランドリールーム。ドアがないのでのれんをかけたり、棚を造作できなかったところに自作の棚を置いたりしています。

浴室には名古屋モザイクの「コラベル」のブルーのタイルを

寝室と同じく、くつろぐ場所は青にしよう! と、名古屋モザイクの「コラベル」シリーズのブルーのタイルを導入。多色使いされることが多いですが、一色で貼ってもいい感じの変化が出ます。

一方でタイルは目地のカビや経年劣化が気になるので、浴槽はハーフユニット。水が頻繁にかかる腰下の部分のみ、ユニットバスをはめ込んでいます。タイル目地も撥水加工がしてあるのか、特に掃除しなくても今のところきれいです。

浴室天井の屋根のような傾斜と、洗面所との間の「窓」も建築士さんのアイデア。狭さを感じさせない抜け感のある部屋になるよう、いろいろと工夫していただいています。

すぐのぼせるのでお風呂に興味が薄かったのですが、最近は入浴が楽しくなり、朝晩お風呂にiPadを持ち込んで映画を見たりしています。なにしろ古い家なのでお風呂に浸からないと温まらない、という身もふたもない事情もありますが……。

次は何をしようか、考える時間を楽しむ

リノベーション工事がひととおり終わったのが2016年夏でしたが、1年足らずで社内公募に応募し、上海の子会社に出向することに。中国で勤務している間も、メレヤマンションは一時帰国や家族の一時滞在に心強い拠点だったので、売ったり他人に貸したりすることは考えませんでした。

本来は2020年4月から東京本社に戻る予定でしたが、1月末の旧正月に中国から日本に一時帰国したところ、新型コロナウイルスであれよあれよと大騒ぎに。結局、中国に一度も戻れないまま荷物を送ってもらって帰任しました。

以前のように外出や旅行が思うようにできない生活でも、この家で家具の配置を考えたり棚をつくったり、「家に手を加えること」自体が気分転換になっています。

この家を終の棲家にするという気持ちはあまりなく、将来的に状況が許せばマンションのリノベーションもまたやりたいし、なんなら一軒家も建ててみたい。友人とのシェアハウス形式の共同生活には興味があるし、そういうスタイルなら地方にも拠点が持てるかも……と、新しく家をつくることへの浮ついた気持ちも止まりません。

一方で今住んでいる家も、これで完成だと思えることはおそらくないのだと思います。この家に住み続けるかぎり、次は何をしようかと考える時間を楽しんでいきたいです。

著者:メレ山メレ子

メレ山メレ子

1983年、大分県別府市生まれ。平日は会社員として勤務。2012年から、昆虫研究者やアーティストが集う新感覚昆虫イベント「昆虫大学」の企画・運営を手がける。著書に『メレンゲが腐るほど旅したい メレ子の日本おでかけ日記』(スペースシャワーネットワーク)、『ときめき昆虫学』(イースト・プレス)、『メメントモリ・ジャーニー』『こいわずらわしい』(亜紀書房)がある。

ブログ:メレ山メレ子 Mereco Mereyama

【新刊情報】
2021年1月20日に新刊『こいわずらわしい』(亜紀書房)が発売されました。
これまで昆虫や旅に関するエッセイを書いてきましたが、今度は初めての「恋愛」に関するコラム集です。「恋愛至上主義はちょっと……」という方にこそ、読んでみていただきたい本になりました。試し読みはこちらから

編集:はてな編集部

*1:キッチンやトイレなど、住宅の設備を施主が自ら購入し取り付けること