私がこの街を好きな理由〜代々木上原〜

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住んでいる人に“街の魅力”について語ってもらう本企画。 今回は、代々木上原に特化したローカルメディアを運営しているライフサウンド株式会社代表・山内直己さんに、「代々木上原」(東京都渋谷区)の魅力について語っていただきました。

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田園調布や成城と肩を並べる都内有数の住宅地

まずは本題に入る前に、代々木上原になじみのない人のために、街の概要について簡単に紹介しておきましょう。

代々木上原は、渋谷区の西部に位置する住宅街で、地形的には坂が多いのが特徴です。駅周辺の低地は商業エリア。駅の北側、南側ともに高台に向かうにつれて瀟洒(しょうしゃ)な住宅地が広がりはじめます。広々とした一戸建てや低層マンションが目立つ地域ですが、なかでも駅北側の西原〜大山町一帯は、大正末期に富裕層向けに開発分譲された住宅街として知られ、今も財界人や文化人などが多く住んでいます。


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▲関東大震災の際に地盤が強固で被害が少なかったことから、宅地開発が進み、都内を代表する邸宅街となった大山町。都心に近いわりに緑が多いのもこのエリアの特長


駅には小田急線(急行停車駅)と東京メトロ千代田線の2路線が乗り入れていて、新宿まで約5分、表参道まで約6分、オフィス街の中心地、霞ヶ関や大手町へも乗り換えなしで約20分以内と、どこに出かけるのにも便利。さらに千代田線の始発駅のため、朝のラッシュ時も早めに家を出てホームに並べば、着座通勤・通学が可能です。

また、「東京ジャーミィ・トルコ文化センター」、「コートジボアール大使館」など、外国人関連施設が近隣にあるためか、外国人の姿も多く、どことなくインターナショナルな雰囲気が漂っているのもこの街の特徴といっていいでしょう。

代々木上原が好きすぎて、ローカルメディアを立ち上げた

そんな代々木上原に焦点を当てたWebサイト「ACT LOCALLY YOYOGIUEHARA」を2017年11月に立ち上げたのが、山内直己さんです。

山内さんが代表を務める「ライフサウンド」は、ソウルミュージック専門の音楽レーベルと、フォトスタジオを運営する会社で、ローカルメディアの運営は主軸ではないそうですが、サイトの充実ぶりには目を見張るものがあります。

ショップや飲食店情報から、公共施設の活用法、人物インタビューまで、独自取材によるコンテンツはどれもクオリティが高く、地元の人はもちろん、代々木上原を知らない人が読んでも十分楽しめる内容となっています。


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▲代々木上原のヒト・モノ・コトに焦点を当てたローカルメディア「ACT LOCALLY YOYOGIUEHARA」。ランダムに店や人を取材するのではなく、山内さんや編集スタッフが本当にいいと思ったものだけを紹介している


かなりの手間と情熱をかけてつくったサイトのようですが、何がきっかけで、代々木上原に特化したメディアを立ち上げようと思ったのでしょう?


「もともと代々木上原周辺は僕にとっての地元。幼いころは、坂が多くて自転車をこぐのにはつらい街だなぁ、といった印象しかなかったのですが、音楽の仕事でヨーロッパやアメリカに幾度も出かけるうちに、“今の代々木上原は、海外の人気タウンにも負けないくらい魅力的な街になってきている”と感じるようになったんです。外からの視点で日本を見られるようになったことで、地元の魅力に改めて気付かされたといったらいいのかなぁ……。それで、代々木上原の新たな魅力を自分自身ももっと知りたいし、地元の役に立って、人の交流が活発になるようにと思って、サイトを立ち上げることにしたんです」(山内さん)


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▲「今の上原は、ニューヨークに例えれば、マンハッタンというより、ちょっとローカルだけど独特の文化が感じられるブリックリンのような街になってきているんです」と語る山内さん


街の規模からは想像できないくらい、レベルの高い飲食店が多い

一昔前までの代々木上原は、商業地としての個性はそれほど感じられない住宅街だったはずですが、「ここ10年ほどの間にどんどん個性的で面白い街へと進化してきている」と山内さんは語ります。


「まず注目してほしいのが、飲食店のレベルの高さです。ニューヨークのブルックリンもしゃれたカフェや気の利いたレストランが多い地区として知られていますが、最近の代々木上原は、それに匹敵するくらい飲食店が充実してきているんです。ミシュランガイドに載っている店が10軒近くもあるし、雰囲気のいい隠れ家的レストランや、おしゃれなカフェもどんどん増えてきています」(山内さん)


最近は、女性誌等に「おしゃれなグルメタウン」として頻繁に取り上げられるようになったせいか、わざわざ遠くから食事を楽しむために、この街を訪れる人も増えてきているとか。ちなみに、山内さんはお気に入りとして次のお店を挙げてくれました。


「よく行くのは『ファイヤーキングカフェ』。ここは昼から深夜まで通しで営業しているから、仕事の打ち合わせをしたり、一人で考えごとをしたりと、いろんな使い方ができるのがいいんです。グリーンカレーや、エスニック系の冷やしラーメンなど、料理も美味しい。

ミシュランガイドに掲載されたことのある店のなかでは、うなぎの『鮒与(ふなよ)』と、創作料理の『wasabi』がおすすめです。鮒与はこの値段でこんなにうまい鰻が食べられて本当にいいの?と疑いたくなるほどコストパフォーマンスが高いのが特長。wasabiは僕と同世代の店主が開いた和食ベースの創作料理の店で、何を食べても美味しいのですが、特に“焼胡麻豆腐”は平野レミさんも太鼓判を押すほどの逸品です」(山内さん)


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▲wasabiのオーナー窪園さん。「いろんな美味しいものを食べ歩いてきた人たちが、ふつうに美味しいものを食べたいときに来てもらえる店が、うちのコンセプト。特別なものをお出ししている意識はないんですよ」と謙虚に語る


新しいカルチャーの波が押し寄せて、街はさらに面白くなってきた

飲食店の充実ぶりに加えて、新しいセンスやカルチャーを感じさせるショップが増殖しつつあることも、最近の代々木上原の魅力だと、山内さんは語ります。


「例えば、古いマンションをまるごと一棟リノベーションして、クリエイターさんたちが小さなショップを始めたり、マニアックなレコードショップが新しくオープンしたり……以前と比べると、文化的なショップやスポットが明らかに増えてきています。ほかにも、作家やフードクリエイターによるマルシェイベントや、音楽と料理のコラボライブイベントが開かれたりと、街のあちこちで今、クリエイターたちによる面白い動きが起こり初めているんですよ」(山内さん)


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▲駅を出てすぐの場所に2015年にオープンした店舗、住居スペース、オフィスなどが入った複合施設「NODE UEHARA」。上原の街には大人の落ち着きが感じられる


新たなものをつくり出す新住民と、それを受け入れる余裕をもった旧住民

それにしても、なぜ代々木上原はグルメでセンスのいい街になったのでしょうか。その理由を山内さんは次のように分析します。


「感度の高いクリエイターやアーティストたちがこの街に集まり始めたことが、街の変化のきっかけといっていいでしょうね。でもそれだけではなく、古くからこの街に住んでいた旧住民のなかに、新しいカルチャーに理解を示す人が多かったことも、そこには関係しているように思うのです。アートや音楽、食事など新しい文化を拒絶するのではなく、面白がって、受け入れようという意識をもった人が多いんですよ」(山内さん)


山内さんは、ファイヤーキングカフェに通ううちに、旧住民の文化的感度の高さを実感するようになったといいます。


「ファイヤーキングカフェでは、壁面をギャラリーとしてアーティストたちに開放しているのですが、驚いたことに数十万円以上もする高価なアート作品が、住民たちの間に飛ぶように売れていくんです。全ての作品に売約済みの札が貼られていることだって珍しくありません。住民のなかにアーティストを応援しようという気持ちがあるかどうかは別としても、結果的に旧住民のそうした行動や意識が、この街の新しいカルチャーやムーブメントを下支えしているように僕には感じられるんですよ」(山内さん)


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▲アート作品が展示販売されているファイヤーキングカフェの店内。投資目的ではなく、「別荘に飾りたい」「新築した家のリビングに飾りたい」といった理由で作品を購入する人が多いのだとか


日常の買い物にも便利だし、ネイチャースポットにも恵まれている

お話を伺うほどにますます魅力を感じてしまいますが、住むには少しハードルが高そうで気が引けてしまうのも事実。実際の住み心地はどうなのでしょうか。


「実際の代々木上原は、みなさんがイメージするほどハードルが高い街というわけではないんですよ。駅前には昔ながらの商店街が広がっていて、豆腐屋や八百屋、銭湯など古くからの店も健在だし、古い店とおしゃれな店がバランスよく共存しているのが今の上原の姿です。日常の買い物に使えるスーパーも何軒かあるし、緑も意外に多くて代々木公園へも徒歩15分くらい。職業や世代に関係なく、どんな人が住んでも十分満足できる街だと思いますね」(山内さん)


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▲駅周辺には「代々木上原駅前商店街」「上原銀座商店街(上写真)」など昔ながらの商店街が広がっていて、朝市や盆踊りなどの地域イベントも盛ん


実際に住むとなると、地域コミュニティにうまく入っていけるかも気になるところですが、住民同士のつながりについては、いかがでしょう?


「この街では、夜のバーや居酒屋が社交場となっていて、趣味やセンスの合う人たちが自然につながり、いろんなコミュニティがつくられているんです。音楽やアート、ファッションなど自分なりのこだわりをもっている人には特にオススメですね。代々木上原についてもっと詳しく知りたければ、GMTでプレスをやっている三浦さんと、ファイヤーキングカフェのオーナーの阿部さんに、話を聞いてみてはいかがでしょう。二人とも上原の街に詳しいだけでなく、地元人脈も広いので、きっと面白い話が聞けるはずですよ」(山内さん)


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▲代々木公園が近いだけでなく、玉川上水旧水路幡ヶ谷緑道(写真)や、遊具を備えた代々木大山公園、上原公園なども駅から徒歩圏内に整備されている


そこそこ都会でありながら、下町的なあたたかさがあるのがこの街の良さ

代々木上原についてさらに深掘りするべく、取材陣は山内さんのアドバイスにしたがって、まず「GMT」の三浦由貴さんを訪ねてみました。

GMTは、靴の卸やセレクトショップの運営を行っている代々木上原に本社をおくアパレル会社。三浦さんは現在プレスを担当していますが、以前は駅前にあるセレクトショップ「バーニッシュ」の店長兼バイヤーを務めていたそうです。

山内さんによれば「三浦さんは誰よりも地元に知り合いが多く、老若男女みんなに愛されているナイスガイ」とのことですが、三浦さんの目には、上原の人々はどんなふうに映っているのでしょう?


「上原に住んでいる人たちは一見クールそうにみえて、実はすごく優しいところがあるんです。セレクトショップを任された当初、僕は“ショップを軌道にのせるためには知り合いを地元にたくさんつくったほうがいい”と考えて、毎晩のように上原のバーを飲み歩いていたのですが、当時は千葉の実家から通っていたから終電を逃して帰れなくなることもあるわけです。

そんなとき『じゃぁウチに泊まっていきなよ』と声をかけてくれるお客さんがいて、ずいぶん助けられましたね。御好意に甘えて一週間泊まりっぱなしなんてこともしょっちゅうでした(笑)。アーバンローカルとでもいったらいいのかなぁ。そこそこ都会でありながらも、下町っぽい温かさが感じられるのがこの街の良さなんですよ」(三浦さん)


代々木上原の魅力は住民の優しさ――と語る三浦さんですが、一方で、地元愛の強さゆえの“厳しさ”を感じたこともあったといいます。


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▲GMTのセレクトショップ「バーニッシュ」で話を聞かせてくれた三浦さん。この店のコンセプトは邸宅ブティック、マイクロクローゼット。「自分の家のクローゼット感覚で、足を運んでいただけるとうれしいですね」


「上原のみなさんは自分たちがショップや飲食店を育てているという意識が強いため、飲食店やショップが新しくオープンしても、オーナーやスタッフの態度が悪かったりすると、その店には誰も寄りつかなくなる。つまり、上原の人は店に並ぶ商品や、提供される料理だけでなく、そこで働く人が信用できる人物かどうかを見ているんです。そういう部分もなんだか下町っぽいんですよ」(三浦さん)


この街で商売を続けるには街の人との信頼関係を築くことが大切と考えた三浦さんは、バーニッシュのバイヤー時代は「この服なら、あのお客様に気に入ってもらえるんじゃないか?」と、地元のお客さんたちの顔を一人一人思い浮かべながら洋服を仕入れていたそうです。


「人と人との距離が近い街ですからね。自然とそんな気持ちで商品を仕入れるようになったんです。面倒くさそうに思えるかも知れませんが、僕にとっては逆にそれがすごく楽しかった。不特定多数のお客様を相手にする新宿や渋谷の店では感じられない喜びがこの街にはあるんです」(三浦さん)


代々木上原での商売の面白さにハマった三浦さんは、やがて実家を離れて店の近くに住み始めたそうですが、今ではほかの街で暮らすことなど考えられないといいます。


「一度でもこの街に住んだ人は、居心地が良すぎてほかの街には引越せなくなっちゃうんです。飲み友達のなかにもほかの街に引越してはみたものの、結局はこの街が恋しくなって舞い戻ってきたって人が結構多い。にぎやかな街や、おしゃれな街はほかにもあるはずなのに、わざわざ戻ってくるということは、やっぱりこの街の人間的な温かさに魅力を感じているってことなんでしょうね」(三浦さん)


人と人との絶妙な距離感が保たれているのもこの街の魅力

次に取材陣は、ファイヤーキングカフェのオーナー・阿部俊英さんの元へ向かいました。この店がオープンしたのは今から18年前。街を見続けてきた阿部さんは、上原の魅力をどんなふうに捉えているのでしょう?


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▲「バブルのときも、大山町界隈に住んでいる人たちの多くは土地を手放そうとはしなかった。それを見てもこの街の人たちが、いかに余裕があるのかが分かりますよね」と阿部さん


「代々木上原を“都会の村”と表現する人が多いようだけど、一般的にイメージされる“村”とはちょっと違うんです。村というと、ベタベタした濃密な人間関係を想像しがちですよね。でも、この街の人間関係はもう少しサラッとしている。人間的な温かさをちゃんと持っている一方で、必要以上に他人に干渉したり、人の生活に深く入り込んだりはしない。濃密過ぎず淡泊過ぎず。人と人との間に絶妙な距離感が保たれているところが、この街の良さなんじゃないかな」(阿部さん)


こうした独特の街の空気感は、つくろうとしてつくれるものではなく、古くからこの街に住んでいる住民たちによって時間をかけて熟成されたものだ、と阿部さんはいいます。


「上原には昔からそれなりに所得の高い人が多く住んでいますが、彼らはこれみよがしにブランド品で身を飾ったり、フェラーリやランボルギーニを乗り回したりはしない。本当に余裕がある人っていうのは見栄を張る必要がないから、上品で気取りがないんですよ」(阿部さん)


店の壁面に展示されたアート作品を買っていくお客さんの様子からも、住民たちの余裕や意識の高さが感じられるといいます。


「高価なアート作品を買うときは、普通だったら作者の経歴や、世間における評価を気にしますよね。でも、上原の人たちは自分が気に入れば、たとえ無名アーティストの作品であっても平気で大金を払うんです。つまり、世間体やブランドでモノを評価するのではなく、彼らは自分なりの価値基準をもっている。

人に対しても同じで、外国人やLGBTだからといって彼らは特別な目で見たり、差別したりはしません。個々の人間の本質を見て、受け入れるかどうかを判断するんです。そういう意味では、すごく文化的に熟成した街といってもいいのかもしれませんね。クリエーターやアーティストなど面白い連中が、この街にこぞって移り住むようになったのも、おそらくはそうした旧住民たちが育んできた街の空気にシンパシーを感じたからなのではないでしょうか……」(阿部さん)


本物を見抜く目をもった人たちが、この街に変化をもたらした本当のキーマンだったようです。

代々木上原に興味をもった方は、まずは山内さんの「地元愛」が詰まったサイト「ACT LOCALLY YOYOGIUEHARA」の記事で情報を収集してから、街に足を運んでみてはいかがでしょうか。今、この街に何が起こっているのかがリアルに分かるはずです。


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▲山内さんのオフィスの屋上から眺めた代々木上原の風景




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(取材・執筆/中村宏覚 撮影/鈴木さや香)