「仙台の観光名所ってどこ?」と聞かれると、考え込んでしまう。
筆者は0歳から仙台育ち。街の雰囲気が好きで、関東の大学を出た後も、しばらく仙台で1人暮らしをしていた。仕事や家庭の事情で今は関東に住んでいるが、一番好きな街はやはり仙台。友人知人にもぜひ訪れてほしいと思う。
そして冒頭の質問。
大観音像は迫力があるし、仙台うみの杜水族館は展示がホヤの養殖スタートで面白いし……と、思い当たる場所を1つ1つ当たっていくが、それが全国各地の有名な観光名所と比べて「どう優れているか?」の説明を求められると分からない。仙台は「ただ、良い」。
毎日キラキラの生鮮食品を眺められるスーパーも、街路樹が青々と茂る大通りも、あの独特の街の空気もすべてが特別だ。あそこはもしかしたら、観光ではなく滞在、ひいては住み着くのに適した土地なのかもしれない。
この記事は、仙台を愛する筆者が仙台の魅力を「住む人」目線で語る、回顧的エッセイである。
森林公園がある街、丘の上の暮らし
まずは自己紹介をさせていただこう。筆者・JUNERAY(ジューンレイ)は、生花店、バーなどの職を経たフリーライターで、今は関東で家族と2人暮らしをしている。
仙台市で暮らしていたのは、0歳から12歳までの12年間と、大学卒業後の2年ほど。小学生時代に暮らした美しい街並みが忘れられず、大学卒業後に戻って仙台駅のやや北、旭ヶ丘というところで1人暮らしを始めた。
旭ヶ丘駅を降りると、目の前に広がるのは森だ。

ここは台原森林公園。この風景が、仙台駅から地下鉄でわずか十数分の場所にある。1周1時間ほどの園路は、まさに森の中を歩くような光景で、夏は蛍にも出合える。爽やかな夏の朝や、秋の夕方に、ウォーキングを楽しむ老人たちと会釈を交わしながら歩くと、驚くほど軽やかな気分になった。
公園の中には「いったいどこにつながっているんだ?」と不安になるような獣道もある。「道悪し」の看板を見て、果敢にチャレンジしようか、大人しく引き返そうか、悩むのも楽しい。「いま森の中にいるのに、駅に戻って地下鉄に乗ればすぐに街に出られるんだ」という不思議な感覚。
仙台は自然と都市とが調和しすぎて、ほぼ境目が分からなくなっている街だ。


森林の間に、ひときわ無機質な建物がそびえているのが見えるだろうか。あれは仙台市立の科学館。筆者の幼少期からあのままの姿で鎮座ましましており、子どもたちには「悪のアジト」と大評判だった。

足を踏み入れてみれば、大人も心踊るような建築。屋内の展示は標本や剥製も多く、動物や虫が好きな方なら1人で行っても楽しい。
良し悪しはともかくとして、街の中心部から少し離れた公共施設は、校外学習の生徒たちでにぎわう昼間の時間帯を除いてしんとしている。東京で最も驚いたことは、どの美術館や博物館も、常に人でいっぱいなことだった。
筆者の知る宮城県美術館(仙台駅からバスを使って15分ほど)は、小雪の舞う静かな庭園と、彫刻が立ち並ぶ美しい場所。そういった文化施設を利用しながら育ったため、東京には「静かに1人になれる場所があまりないのかも」と驚いた記憶がある。
「それはただ街が過疎化しているだけではないのか?」と問われると、決してそんなことはない。仙台は百万人が住む政令指定都市だ。それでも、「人がいるのになぜか静か」な実感がある。

仙台でのすみかを探しているときに、不動産会社の方に連れて来てもらったこの部屋。
「ここはエレベーターがないんですが、その代わり家賃は相場と比べてけっこう安くて……」という説明を右から左に、ベランダからの景色を見て「ここにします」と言った。
駅から徒歩10分ほど。2DKは1人暮らしにはやや広すぎたが、それでも家賃は6万円弱だ。隣人が蛇口をひねる音が聞こえるような1Kで暮らした学生時代を考えると、めまいがするほど贅沢な部屋。今でもたまに仙台の物件情報を眺めては、いいなあこの物件に住みたいなあとため息をついたりしている。

卒業して大学時代の友人とは距離ができてしまったため、とにかく休日は暇だった。仙台の冬は長く、「1人で暇でいていいことなど1つもない」と筆者には思えた。ホームセンターと自宅を往復しては植物を増やし、食べ物やお茶の研究を始めた。
東は海に、そのほかは山に囲まれた土地のおかげで、その辺のスーパーでもおいしい食材が手に入る。花梨や梅など季節のフルーツを酒に漬け、冬の間は飲んで温まり、春になったら野草を摘みに出かける。誰かと一緒に過ごすのが好きな筆者の性格上、きっと関東で1人だったら耐えられなかっただろう。仙台という土地がもつ不思議な魅力のおかげで、小さな趣味を開拓しながら暮らすことができた。
自分だけのためにゆっくりと食事をこしらえ、散歩をし、植物に水をやる。まるで登場人物が自分しか出てこない物語のような、「正しく孤独」な生活である。
入り組んだ路地と古い住宅街、私たちが「仙北」と呼ぶ場所

仙台に住んでいるときにしか聞かなかった「仙北」「仙南」という言葉がある。
一般的には「仙北」とは「仙台市よりも北の地域」という意味で用いられるらしいが、私たちは「仙台駅を中心として、市の北側」という意味で、地下鉄南北線の「泉中央」方面を仙北、「富沢」方面を仙南と呼んでいた。仙南は新しいマンションやショッピングモール、病院などの施設が多く、仙北は古い住宅地が広がっている。筆者が幼少期に育った街も仙北にあり、その雰囲気がとても好きだった。
「泉の方はね、昔から高級住宅街だったのよ」と母に教えられた。ニュータウンのイメージが強いが、確かに大きくて古い家も多い。旭ヶ丘から泉まで、大通りをはずれて北に登っていくと、入り組んだ細い路地を歩くことになる。その間にこれでもかと植えられた庭木が茂っていたり、たまにシャレた喫茶店や洋菓子店があったりと、なんだか「児童文学に出てくるような街だな」と思った。入り組んだ道と、たまに見つかる「いいもの」。散歩が冒険に近くなる。
かつての職場で、「仙北の人とねえ、仙南の人は、仲良くなれないのよ」と言われたことがある。もちろん笑い話だが、新しく開けた仙南と、古く入り組んでいて静かな仙北では、住んでいる人たちの性格が違うのもなんとなく分かる。
仙台出身のミュージシャン・環ROY氏は「泉中央駅」という曲を発表している。地下鉄南北線の最も北の駅である泉中央は筆者も大好きな駅で、休日になるたび散歩していた。いくつか駅ビルがある以外はほとんど住宅街だから、特に通う目的もないのだが、駅ビルの地下で食品を眺めているだけで理由もなく幸せな気持ちになれる不思議な場所だった。個人的なパワースポットを問われたら間違いなく「泉中央駅」と答えるだろう。
植物がなじむ静かな都市に、おいしいご飯とお酒がある
そろそろ仙台の街の中心部の話をしよう。
仙台に初めて来る方が、「こんなに都会だったのか……」と驚く声をよく耳にする。先ほど「自然と都市とが調和しすぎて境目が分からない」と書いたが、駅周辺はしっかりと都会だ(それでも、メインの大通り商店街を歩いた果ては欅並木が美しい定禅寺通りなのだが)。

「仙台ってどんな街?」と聞かれて、筆者が答えるのは決まってこの3つ。
- 街並みがきれい
- 緑が多い
- ご飯がおいしい
上の2つは仙台に来たらすぐに気が付くだろう。駅周辺の通りはとにかく広い。歩道すらも広く、清潔感に満ちている。街自体がきれいだと、歩くことそのものが目的になる。住んでいたころは、ただ駅周辺を散歩するだけで、自然と充実した1日になった。
「緑が多い」のはそれもそのはず、仙台市は「杜の都」を名乗っている。そのゆえんは、仙台市の公式HPによると
「杜の都」の「杜」は,山などに自然に生えている樹木や草花だけではなく,そのまちに暮らす人々が協力し合い,長い年月をかけて育ててきた豊かな緑のことです。「杜の都」と表するところに,「神社や寺,屋敷のまわりを取り囲んでいる『緑』,人々がていねいに手入れをしてきた『緑』こそが仙台の宝」という市民の想いが込められています。
とのこと。確かに、ただ街路樹が多いだけでなく、「なんかどこに行っても緑があるな」と感じるほど、街全体に植物がなじんでいるのだ。
そして最後の1つ「ご飯がおいしい」。仙台駅を中心に小さなレストランやカフェが無数にあり、どこに入っても新鮮な感動があった。これはもう「仙台という街全体の食が優れている」としか思えない。

仙台駅の1階にある仙令鮨(以前の北辰鮨)。職場の先輩に教えてもらってからというもの、仙台へ行くたびに必ず訪れている。最初にここの炙った穴子を口にした瞬間「私がいままで食べていた穴子はなんだったのか」と思った。

同じく仙台に行ったら必ず足を運ぶ、地下鉄・富沢駅近くのBistro Ampoule。何を食べてもしばらく思考停止してしゃべれなくなるほどおいしい。
仙台は水も米もおいしい土地だが、特に海鮮は素晴らしいと思う。三陸や女川の新鮮な魚介が日々食べられるというだけで、仙台に住む価値がある。

市内ではないが、仙台駅から30分ほど電車に乗ると、東塩釜という駅に着く。一般客でも入れる仲卸市場があり、買った食材をその場で食べ歩いたり、それで海鮮丼をつくったりできる。
もしお酒が好きなら、海鮮料理とともに宮城の日本酒を楽しんでいただきたい。宮城県といえば一ノ蔵や浦霞、阿部勘など、そうそうたる銘酒がそろう土地。なかなか関東に出回らない銘柄もある。魚介をこれでもかと入れた鍋をつつきながら冷酒を飲むのが、筆者の冬の一番の楽しみだった。仙台にも銘酒「戦勝政宗」の蔵元・勝山酒造がある。
仙台駅から地下鉄・勾当台公園駅まで続く長いアーケード通りは、雑居ビルや小さな商店が立ち並ぶ細道と網目状に交わっている。チェーン店が軒を連ねる大通りを外れると、古着屋や小さなカフェなど、なんだかオシャレな雰囲気を醸し出している店が多い。仙台に住んでいた頃は、「いい感じのカフェを見つけるまで適当に歩く」という遊びをよくやっていた。

喫茶の名店・ホシヤマ珈琲店。バリスタさんが毎回カップを選んで、説明とともにコーヒーを提供してくれる。ここのクリームブリュレほどおいしいスイーツをほかに知らない。
飲食店においても、「人がいるのになぜか静か」な印象は変わらない。ほぼ満員でにぎわっているようなビストロでも、週末のバーでも、1人で居ようと思えばそうすることができる。他人との距離がほどよい街なのかもしれない。
四季を祭りに感じる街、普段の穏やかさと冒険マンガのような華やかさ
先ほどから「仙台は静かだ」と繰り返しているが、祭りの日となると大にぎわいとなる。1月の「仙台初売り」に始まり、初夏の「仙台・青葉まつり」、8月の「仙台七夕まつり」、秋のジャズフェスティバルなど……。
仙台七夕まつりは「東北三大祭り」に数えられる有名なもので、アーケードにぎっしりと飾られた吹き流しと、その中をくぐり抜けて歩く体験はほとんど探検だ。
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仙台七夕祭りHPより2019年開催時 ©仙台七夕まつり協賛会
祭りの日になると「いったい仙台のどこにこんなに人がいたんだ」というくらい、街がにぎわう。もちろん県外から観光に来ている方も大勢いるが、1月の仙台初売りにいたっては、仙台の店舗が忙しすぎて東京の本社から人が手伝いに来るほど。大通りで踊る人々や、高揚した街の空気を浴びていると、仙台の人たちはもとよりお祭り好きなのだと分かる。
住んでいた当時は、祭りやイベントで四季を感じていた。「青葉まつりが始まるということは、長かった冬も終わって上着がいらなくなる」とか、「光のページェントが始まるということは、もう年末なのだなあ」とか。
駅周辺に主要な施設が集合した地方都市っぽさや、定期的に発生するお祭りなどのイベントも含め、仙台は「なんだかRPGや冒険マンガに出てくるような街だな」と思う。普段は穏やかな雰囲気だけれど、祭りが始まったとたん街中が華やかになる、あの感じ。
自分の居場所が分かる規模感は安心感を与えてくれるが、一方で大きな街ならではの情報量の多さもあり、いくら探索しても飽きることはない。
仙台の良さは名所じゃなく「街そのもの」だと思う理由
自分が幼少期を過ごした街は、特別な場所になるものだ。多少思い出の補正がかかって美しく見えるのだろうと思っていたが、大人になってから住んでみた感想は「仙台って、やっぱりいいところだな」。
今でもたまに訪れるたび、「美しい街並み」とはこういうことかと思う。街全体を爽やかな空気が取り巻いて、不思議と明るく見える。
ここで冒頭の質問に戻って「仙台の観光名所ってどこ?」とあらためて尋ねられたら、筆者は「正直分からない」と答えるだろう。仙台の良さとは青々と木々が茂る景色や、新鮮な食べ物、その街自体のあり方だからだ。もし数日間滞在することができるのなら、観光スポット巡りはそこそこに、何も考えず街を歩いてみてほしい。気になった公共施設に立ち寄ってみるのもいいだろう。
もし住む場所を自由に選べるとしたら、間違いなく仙台の、それも北の方に住みたい。毎日、旭ヶ丘の坂の上から朝焼けを眺めて、泉まで散歩して、なにかおいしいものを見つけて、喜んで帰ってくるような日々を過ごしたい。

著者:JUNERAY (ジューンレイ id:juneray)
日本ソムリエ協会認定ワインエキスパートの花屋。花を売った金で酒を買っている。
ブログ:JUNERAY|note
Twitter:@_June_ray
編集:はてな編集部