「逗子はちょっと不便なくらいでいい」逗子葉山経済新聞編集長・玄真琴さん【私がここに住み続ける理由】

インタビューと文章: 小野洋平(やじろべえ)  

あなたが、その街に住み続ける理由は何ですか? 便利で暮らしやすい。好きなお店がある。自然環境が豊か。街並みが美しい。住民同士の結びつきがある。これ以外にも、きっとさまざまな理由があると思います。そんな、一つの街に長く住む人にフォーカスする「私がここに住み続ける理由」。

今回は23年前から神奈川県逗子市に暮らす、玄真琴さんにお話を伺いました。

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美しい海に感動し、山の中の森を歩き、川の流れに癒やされる

――玄さんは逗子市在住で、「逗子葉山経済新聞」の編集長も務めていらっしゃいます。逗子とはいつから縁があったのでしょうか?

玄真琴さん(以下省略)「逗子は幼少期を過ごした街でした。その後、一度は街を離れてしまいましたが、23年前に帰ってきました。幼いころと変わらない景色に、ホッとしたのを覚えています。駅前に高いビルが建つこともなく、商店街には活気があふれていて、とても懐かしかったです」

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写真提供:玄真琴

――戻って来られたのには、何か理由があったんですか?

「逗子から内陸に引越して、ずっと海が恋しかったんです。幼いときにのんびりと海で遊んでいた原体験が強く、いつかは戻りたいと思っていました。サーフィンやサップといったマリンスポーツをやらない人でも、ここでは海が生活に欠かせないものになっていると感じます。浜辺を散歩したり、ただぼんやりと波を眺めたり。逗子の海はペットもOKなので、よく犬を見かけます。私が好きなのは、海に夕日が沈んでいく時間帯ですね。時期によってはダイヤモンド富士が見られることもあり、市民カメラマンの方が集まります。なかには、逗子海岸の写真を撮りためてカレンダーをつくった人もいるほどで、多くの人にとって愛着のある風景なのだと思います」

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――逗子は海だけでなく、山も近いですよね。

「はい。山頂からの景色は最高ですし、ウォーキングやジョギング、トレッキングランも手軽にできます。特に、神武寺の山は鬱蒼とした森があり、ハイカーに人気です。個人的には川も好きですね。街の真ん中を流れる田越川には、ガルガモなどが棲息していて、アオサギなどの野鳥の姿も見ることができます。ホッとしたいとき、気持ちに余裕がないとき、立ち止まって何か考えたいときなどによく訪れています。

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写真提供:玄真琴

自然が身近にあるからか、逗子に住んでいるとゆっくりと時間が流れているように感じられます。それに、大きな建物がないので、空が広く感じられ、壮大で美しい景観を堪能できるんです。都心に通える範囲で自然を存分に満喫したい人にとっては、これ以上ない街だと思います」

漁港が近所で、新鮮な生しらすやサザエ、伊勢海老が手に入る

――街のなかで好きな場所や、お気に入りのお店などはありますか?

「たくさんありますが、最初にパっと思い浮かぶのはJR逗子駅を出た瞬間の風景と、においですね。抜けるような空が広がり、風向きによっては潮の香りがして“あー逗子に帰ってきたな”と思えるんですよ」

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「それから、市内の唯一の漁港『小坪漁港』も外せません。漁船や釣り船が並んでいる場所があって、眺めているだけで気持ちが安らぎますし、漁師さんとの世間話も楽しいです。今日はどんな魚がとれましたか? 生しらすは揚がりましたか?って。ちなみに、生しらすは揚げた当日しか食べられない貴重品。なかでも『生しらすの沖漬け』はぜひ食べてもらいたいです。他に、タコ、サザエ、伊勢海老など、新鮮な海の幸が手軽に買えるのは魅力ですね」

――漁師さんというと、少しとっつきにくいようなイメージもありますが、実際はそんなこともないのでしょうか?

「気さくな方も多いですよ。ワカメの時期に“ワカメ干し”のお手伝いをすると、御礼にとワカメをプレゼントしてくれる人もいます。それくらいの近い距離感で接してくれると、こちらもうれしくなりますね」

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――市場だけでなく商店街もあるし、自然と地域に顔見知りが増えそうな環境ですよね。

「そう思います。私も商店街にはよく行って、お魚屋さん、八百屋さん、お肉屋さんは日常的に使っています。なじみの店がいくつもあって、みなさんの顔を見ると安心しますね。しいていえば洋服を買う場所はあまりないけど、横須賀まで車で30分ですし、茅ヶ崎・辻堂に行けばオシャレなショッピングモールもあります。横浜も遠くないですしね」

――飲食店はどうですか?

「数がすごく多いわけではないけど、個性的なお店はけっこうありますね。特に、『立喰すし処いなせ』という、ご夫婦でやられているお寿司屋さんは人情味あるお店です。大将が沖縄県の伊是名島出身で、私の大好きな泡盛が常に置いてあるんですよ。ゴーヤの漬物と、その日オススメのネタを食べながら、ご夫婦とおしゃべりするのが楽しいです。

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立喰すし処いなせ。数種類の泡盛をそろえる 写真提供:玄真琴

あと、今年オープンした『fujico muffin』のマフィンも好きですね。生のおからを使ったマフィンの専門店で、どれを食べても美味しいです。ちなみに、こちらのお店も滋賀県から移住された方がやられています。移住された方が店をオープンすると、昔からの住民の多くが『よく逗子に開いてくれました!』という、ウェルカムな気持ちで出迎えているように思いますね」

花火、食、アートなどの多彩なイベント

――逗子はイベントも盛んなイメージです。

「『逗子海岸花火大会』『逗子海岸映画祭』『逗子アートフェスティバル』『逗子・葉山 海街珈琲祭』など、花火や食、カルチャーまで多彩なイベントがあります。手前味噌ですが、私も『逗子沖縄まつり』というイベントを開催しているんですよ。逗子には、『海』と『美味しいもの』があり、沖縄との共通点もあるため、毎年たくさんの方が訪れてくれました。昨年からコロナで開催を見送っていますが、またぜひ再開させたいです。

それから、『ツール・ド・逗子』も素晴らしいイベントだと思います。逗子市内のポイントを巡る10Km 程度のコース、三浦半島を巡るロングコースがあり、新しいスポットやお店をめぐるため、地域の魅力が存分に伝わるんです。ちなみに、JR も京浜急行も階段を使わずに改札を出られるので、自転車を担いだままスムーズに降りられます」

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写真提供:逗子沖縄まつり実行委員会

――輪行にももってこいの環境ですね。

「逗子は程よい丘陵地で、小高い山もいくつもあるため、サイクリストの方にとっても飽きないと思います。住民も海にいくときや買い物にいくときなど、日頃から自転車に乗っていて、自転車文化が根付いている街なのかもしれませんね。駅前にも駐輪場があって便利ですよ」

――イベントがこれだけ多いと、一年中楽しめそうですね。

「ただ、私が戻ってきた20年前はとても静かだったんですよ。今では人気の『逗子海岸花火大会』も当時はボーン…シーン、ボーン…シーンという感じで、静かなイベントでした」

――では、ここ20年でイベントが活発になったのでしょうか?

「はい。徐々に地域を盛り上げるイベントが生まれていきました。私が生まれる前から住んでいる人たちに話を聞くと、もともと逗子はとてもにぎやかな街だったそうです。海岸で商売をする人たちがたくさんいて、そのおかげで商店街も栄え、アーケードができたと聞きました。しかし、いつからか衰退し、海辺の静かな田舎町になっていきました。もちろん、そんな静かな環境も魅力の一つですが、夏なのに活気のない海って、本当に寂しいんです……。
私としては、イベントをきっかけに逗子の海の魅力を知っていただき、多くの人に訪れてもらいたいですね。夏で一気に街が活気づき、それが過ぎたらまた静かな海に戻る。海の家が撤去された海岸に夕陽が落ちて、少し寂しい気持ちになる。そんなふうに夏の終わりを実感できるのも、ここに住んでいる醍醐味の一つだと思うので」

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――早くコロナが収束し、にぎやかな海が戻るといいですね。最後に、これからの街に期待することはありますか?

「できれば大規模な開発が行われず、このままでいてほしいですね。大きな施設ができて便利になっても、昔ながらの大好きな景観がなくなってしまったら意味がありません。逗子はちょっと不便なぐらいでいいかな(笑)。利便性に変えられない素晴らしい魅力がたくさんあって、それこそが私がここに住み続ける理由ですから」

インタビューと文章: 小野洋平(やじろべえ)

 小野洋平(やじろべえ)

1991年生まれ。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服がつくれず、ライター・編集者を志す。自身のサイト、小野便利屋も運営。Twitter:@onoberkon 50歳までにしたい100のコト