熊本・大阪・東京。からし蓮根が歩んだ3都市の暮らしと芸人道

取材・編集: 瀬戸遙 編集: 小沢あや(ピース株式会社) 撮影: 武石早代

お笑いコンビ「からし蓮根」の伊織ラッキーさんと青空さんは、芸歴13年目となる2025年4月に東京へと拠点を移しました。熊本県熊本市の高校で出会った二人は、高校卒業後NSC吉本総合芸能学院大阪校に入学。芸人としての基礎を大阪で学んだと話します。熊本での思い出の場所や、大阪・東京それぞれの街への思いを伺いました。

芸人としての「安定以上」を求めて東京へ

―― もともとは、「M-1グランプリ」で再び決勝進出したら上京しようと考えていたそうですね。惜しくも準々決勝で敗退となったなかでの拠点の変更の背景には、どんな思いがあったのでしょうか?

伊織ラッキー:環境を変えてみたいという気持ちはありましたね。上京した先輩たちから「東京に行ったほうが絶対にいい」「いろんな仕事があるよ」ともよく聞いていましたし。芸歴も10年を超えて、関西で出られる賞レースが減ったこともあり「まあ、行くか」と。

青空:大阪では芸人として認められ、安定してきた感触はありました。でも、「安定以上」の成果は得られないかもしれないと思いました。所属変更に関する吉本興業のルールの都合上、4月から上京するか大阪に残るかを決めなあかんタイミングがあって、それが12月のM-1の次の日やったかな、たしか。

―― かなりタイトなスケジュールで決定したんですね。東京で住む街は、どのように決めましたか?

伊織ラッキー:僕はわんちゃんを飼っているので、犬と一緒に暮らせることと、仕事で通う新宿・渋谷に行きやすい地域を条件に探していました。でも、なかなか条件に合う物件がなくて。つい最近まで、お笑いコンビ「カゲヤマ」の益田さんの実家に住ませてもらっていました。SUUMOの「なぞって検索」で、地域を絞りこんで探したりもして、今は世田谷区の物件に住んでいます。

青空:僕は、前年に上京した先輩にお世話になった不動産会社の方を紹介してもらって、オススメされたところから気に入った場所を選びました。子どももいますし、地域の治安は意識しました 。

―― 東京の先輩芸人さんとの交流の機会も増えたかと思います。よく行く場所などはありますか?

青空:飲みに行くのは渋谷・新宿が多いですかね。この前はニューヨークの嶋佐さんに、フレンチみたいなお店に連れて行ってもらいました。あとは家族でディズニーランドにも行きましたね。

伊織ラッキー:僕は世田谷に住んでいる芸人仲間と、下北沢や梅ヶ丘などの小田急線沿いで飲むことが多いです。この前行ったおいしかったところ、どこやったかな……。うわ、店の名前忘れました。下北沢の普通の居酒屋でネルソンズの岸さんと飲んでたら、だんだん芸人が集まってきましたね。

ダイエーの屋上でネタ合わせをした、熊本での学生時代

―― お二人の原点となる、熊本の街についても教えてください。学生時代を過ごしたのはどんな街でしたか?

伊織ラッキー:僕は熊本市内の出身。車がないと不便な場所はありますが、中学生から自転車通学になったことで、一気に行動範囲が広がりました。「1時間チャリ漕いで行けるなら近い」って思ってた。

中高のときは、遊びに行くなら基本的には「下通(しもとおり)」ってアーケード街のほうでした。熊本で一番にぎわっていて、熊本の全部が詰まってる場所です。

伊織ラッキー:あとは、部活で使っているグラウンドが徳王という地域にあったので、練習終わりに「スポーツスタジアム トウヤ」のバッティングセンターに行ったりとか。ちょっと遠いショッピングセンター「ゆめタウン光の森」まで、友達とチャリで行ったりもしましたね。今はなくなっちゃったけど、「熊本交通センタープラザ(現:SAKURA MACHI Kumamoto)」にあった「センターボウル」ってボウリング場にもめちゃくちゃ行ってました。

青空:僕は出身が熊本県小国町で、高校から熊本市内に来て、18時が門限の寮に入っていました。テストで昼までに学校が終わると、寮生みんなで下通にカラオケに行ったり、飯食いに行ったりしてましたね。

―― 高校で知り合ったお二人は部活も別で、本当にただの同級生だったところからコンビを組んだそうですね。熊本での思い出の場所などはありますか?

伊織ラッキー:スーパーの「ダイエー」ですね。

青空:(笑)。

伊織ラッキー:今はイオンになってますが、屋上駐車場のボイラー室の前で、よくネタ合わせをしてました。

青空:あとは下通に遊びに行ったりですね。

―― 熊本では、どんなところがお笑いの世界との接点になるのでしょうか。

青空:お笑いを好きになるきっかけは、「M-1グランプリ」や「爆笑ヒットパレード」のようなネタ番組でした。熊本ではなく九州になっちゃいますが、初めて生で芸人さんを観たのは、小学5、6年生の頃に行った大分県の「城島高原パーク」でのワタナベエンターテインメントのお笑いステージだと思います。にしおかすみこさん、パラシュート部隊さん、ゴリけんさんが出てました。

伊織ラッキー:僕は、吉本新喜劇の熊本公演を中学生のときに見たのを覚えてます。

―― 大人になってからは、また新たな熊本の姿も見えてくるかと思います。今地元に帰ったときに感じる変化や、立ち寄るようになった場所はありますか?

伊織ラッキー:月に1回、熊本で番組の収録があるんですが、そのときに地元の友達と飲みに行くと、店員さんやお客さんに声をかけてもらう回数が増えましたね。旅行で出かけたときもサービスしてもらえたりして、人のあたたかさを感じます。

青空:知り合いに「(からし蓮根のテレビ出演を)見たで」って言われることはありますね。街の変化で言うと、新しいショッピングセンターができたり、高速道路が増えてアクセスが良くなったりはしています。熊本の山のほうにあるおじいちゃんの家にも、かなり短時間で行けるようになりました。小国の家族風呂がある温泉「岳の湯」にも車で行ったりします。

伊織ラッキー:僕は同級生がやっている居酒屋「酔い処 山口家」によく行ってます。

―― からし蓮根さんのライブで熊本に来たファンの方に、ぜひ行ってほしい場所があれば教えてください。

伊織ラッキー:かなりきれいになってきた復旧中の熊本城と、やっぱり下通ですかね。それから、漫画家の尾田栄一郎さんが熊本出身で、熊本地震の復興プロジェクトの一環で、熊本県内にはいろんな場所に漫画「ONE PIECE」のキャラクターの銅像が立っているので、巡ってみてほしいです。僕の好きなジンベエ像がある宇土(うと)にもぜひ。

あとは、熊本での番組のスタッフさんと収録前の早朝によく行く「トトノウバイ」ってサウナもオススメです。

青空:熊本なら、「阿蘇カドリー・ドミニオン」に行ってほしいですね。「志村どうぶつ園」に出演していたチンパンジーのパンくんがいて、クマにえさをあげたり、猿回しを見たりもできます。僕も家族で行きました。

―― 熊本の食文化も気になります。

青空:基本、なんでもうまいです。

伊織ラッキー:僕が空港で必ず食べるのは、いきなりやわたなべの「いきなり団子」ですね。フジバンビの「黒糖ドーナツ棒」もよく食べてました。

青空:ああー、たしかにね。

伊織ラッキー:あとは熊本ラーメンかな。「黒亭」や「大黒」、それから空港の近くにある「文龍」は、時間があればちょいちょい行きます。

下積み時代を過ごした街、大阪

―― お二人は高校卒業後、NSC大阪校に入学し、そのまま大阪で活動されています。福岡にも吉本興業の支社はありますが、なぜ大阪を選んだのでしょうか。

伊織ラッキー:そのときは、M-1グランプリで優勝していたのが大阪出身の人たちばっかりやったんで、大阪を選びました。

青空:たしかにそれはある。「大阪に行こう」という話は、わりとスッと決まりました。

―― 大阪時代の思い出の場所はありますか?

伊織ラッキー:日本一長い商店街がある天神橋筋六丁目に住んでいたんですが、自分の田舎に似ている感じがしましたね。そこにある「トークソングエムズ」という、オール巨人師匠がオーナーのカラオケスナックでバイトしていて、巨人師匠にもお客さんにも、たくさんかわいがってもらいました。

僕は福岡ソフトバンクホークスのファンなので、当時難波にあった「難波のあぶさん」というホークスファンが集まる居酒屋にも、バイト先のお客さんによく連れて行ってもらってました。ちょっといいお値段のお店ですが、関西の賞レースで賞をとってからは自分のお金でも行けるようになって、うれしかったですね。心斎橋にお店が移転した今も行っています。


青空:僕は心斎橋にある「桧之川」ってスナックでバイトしてました。ママがめっちゃ豪快で、めっちゃ酒飲んで、キャラが強い人やって。いろんな社長やお医者さんが来る店でしたね。

もう1カ所、おせち料理専門の「板前魂」ってところでもバイトをしてて。M-1グランプリ2019のファイナリストになった後にそこのバイトを辞めて、自分たちのラジオ番組の通販コーナーで板前魂のおせちを紹介したときは、「あ、なんか売れたな」「ここまで来たな」と思いました(笑)。

わかりやすく調整しつつも使い続ける熊本弁

―― お二人は、熊本弁での漫才を続けていますよね。東京での舞台が増えた今、漫才で調整したところはありますか?

青空:ネタのなかで方言は使いつつも、うまく伝わるレベルに調節はしてますね。わかりやすく、語尾に「〜〜ばい」を付けるだけにしたり、キメの部分以外はほとんど標準語にしたりしています。

伊織ラッキー:大阪のお客さんは「ちゃんと(厳しく)ネタを見ますよ」という感じがあったけど、東京は「一緒に楽しもう」って雰囲気を感じます。なんか……大阪のお客さんって、面白ければたくさん笑ってくれるんです。でも、東京のお客さんは優しくて全部を笑おうとしてくれるぶん、1回の笑い声は浅め・短めな気がする。

青空:(笑)。まさに今、東京向けにチューニング中です。

焦ってもすぐには変わらない。どっしり構えてやることをやる

―― まだ上京して数カ月かと思いますが、お二人ともすごく自然体だなと感じました。

伊織ラッキー:いま、「ぎょうぶ」って後輩のお笑いコンビが大阪から東京に武者修行しに来てるんですが、僕が東京の芸人さんと楽屋でしゃべっている姿を見て「東京になじみすぎてて怖かったです」とは言われました。前から一緒におった感じでみんなと話してます。

―― 「もっと売れるぞ」という思いとともに慣れない土地に引越して来たなかで、これほど肩の力を抜いていられるのはなぜなんでしょう。

伊織ラッキー:うーん、別に焦ってないわけじゃないんですけど。12年大阪にいる間に、お笑いの世界の厳しさと、売れるきっかけや売れる芸人などの「売れる流れ」がわかってきたからだと思います。今東京に来て、「頑張ろう」って焦ったところで、すぐに状況が変わるわけじゃないのはわかってるので。どっしり構えて。

青空:やることやって、って感じですね。

―― そんなふうにコンビで歩調を合わせて芸歴を重ねてこられた理由のひとつに、同じ熊本出身なこともあるのでしょうか?

伊織ラッキー:高校1年から、かれこれ15、6年一緒にいて、もうお互いがどんな人かわかっているのはあると思う。「慣れ」でもあると思います。

青空:ほんまにそうっすね(笑)。「こんなことしたら、こう思うやろな」って、お互いにもうわかってるんで。

―― あらためて、これまで過ごした熊本・大阪・東京という3つの地域が、それぞれお二人にとってどんな場所か教えてください。

伊織ラッキー:熊本では、穏やかな心や人との接し方を学びました。大阪は、テンポは違えど、人のあたたかさなどはちょっと熊本に似ている場所。まだ東京は来たばかりですが、遊び方や金の稼ぎ方を教えてくれそうな街だなと思っています。

青空:(笑)。熊本は、どんな自分でも受け入れてくれるホームのような場所ですね。そこがあるから外でも戦える。大阪は、このお笑い業界で戦うためのすべを学んだ場所。東京は、その技術を披露する場所であり、そんな技術をもつ人がいっぱいいるところですかね。


お話を伺った人:からし蓮根さん

熊本県出身で、高校の同級生だった伊織ラッキーさんと青空さんによるコンビ。芸歴7年目のときに「M-1グランプリ2019」の決勝に進出し、その後「第8回ytv漫才新人賞決定戦」「オールザッツ漫才2024 1分間ネタバトル」で優勝をおさめる。2025年、熊本公演からスタートする全国ツアー「火の国HOT」を開催予定。

編集:ピース株式会社