「喜志駅周辺、マジでなんもないです」ヤバTこやまの、複雑な関西愛

インタビューと文章: 小沢あや 写真:佐野円香 

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コミカルな歌詞をキャッチーなメロディーにのせ、若者から大人気のロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん」。2013年に大阪で結成されて以来、幅広い世代に共感される楽曲を多数リリースしています。

ヤバTの楽曲をつくっているのは、ギターボーカルのこやまたくやさん。地元である京都・宇治への複雑な気持ちや、「なんもないです」と語る喜志駅周辺の情報などをみっちり教えてもらいました。

京都出身なのに……根底にあるのは「京都市コンプレックス」?

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――  こやまさんは、京都府出身ですよね。

こやまたくやさん(以下、こやま):生まれたのは京都市内で、5歳のころから宇治です。でも、正直僕は「京都出身」って、なかなか言いにくい部分もあって……。

―― 3rdアルバム「Tank-top Festival in JAPAN」収録の 『どすえ 〜おこしやす京都〜』では、複雑な地元・京都への気持ちを歌っていますね。

こやま:宇治の人って、自分たちの中に強烈な「京都市内コンプレックス」があるんですよね。洛中と洛外じゃ文化も違うし「いや、僕らみたいなもんが『京都出身』っていうのおこがましいですわ〜」って気持ちで。感覚的には「宇治は奈良」なんですよ。小さいころから、20年以上、京都市内への憧れを持って、こじらせてます。

――  宇治市出身のミュージシャン・岡崎体育さんとは、同じ中学校出身なんだとか。

こやま:岡崎体育くんは、インターネットで見つけて「なんや、この人面白いな!」って、コンタクトをとったんです。向こうも「MV撮って欲しい」って言ってくれて、仲良くなってから「あれ、中学同じやん?」って。驚きましたね。バンドでいうと夜の本気ダンスとか、ヘビーメタルのTHE冠さんも宇治出身。なんでかは分からんけど、実はバンドマンが多いんですよ。宇治って、スタジオとかライブハウスも無いし、やることなさすぎて、楽器やるしかないんちゃうか? って。

――  地元バンドマンとの交流もありますか?

こやま:よく「宇治会」してます。大都市じゃないし、みんな「あの店が美味い」「どこ中学校が」みたいな話、全員で共有できるのが楽しい。みんな宇治だから、僕と同じように、京都市民に対する劣等感があるし、控えめキャラ。ジャンルはバラバラだけど、音楽性も似てる。かっこつけるのが下手なんですよ。ふざけたがり、笑わせたがりです。

関西ローカルの「地味なあるある」が武器に

――  京都のほかにも『喜志駅周辺なんもない』、『天王寺に住んでる女の子』など、関西モチーフの楽曲が多いですよね。

こやま:ヤバTは出身地バラバラやけど、もともと大阪芸術大学の軽音サークルで結成したバンドだから、3人とも大阪で過ごした時代があるんですよ。僕ら、カッコつけて歌うのが恥ずかしくて、どうしてもできなくて。「それやったら、身近なもの、ありのままを歌おう」と思ったんです。

――  生活の中で見たものを、歌詞にした結果なんですね。

こやま:ほんまそう。『DQNの車のミラーのところによくぶら下がってる大麻の形したやつ』もね、大学の近くに停まってる車にぶら下がってるアレを、そのまま曲にしました。他も、全部その場の思いつき。『ネコ飼いたい』も自分の気持ちやし、日記みたいな感覚でつくってるんです。自主制作時代のCDに収録した『天王寺経由してなんば』も、そのとき本当に大阪の田舎のほうにある喜志駅周辺に住んでて、繁華街に出るときの自分のルートを歌ってます。

――  どれも人気曲で、大型ロックフェスでも演奏してきますよね。「関西代表」という気持ちはありますか?

こやま:ないない! ほんまないです! カッコつけられなかっただけなんですよ。「多くの人に届けよう」という気持ちで曲を作ると、どうしても歌詞とかメロがカッコよくなっちゃう。だから、ターゲットを超絞った感じですね。スケールの小さい話ばっかり曲にしてるな。

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――  最大公約数を狙わない戦略なんですね。

こやま:ニッチなことやってるのに、結果的に東京の人にも聴いてもらえて、こういう風に「関西」がテーマの取材をしてもらえるのは、ありがたいですね。ヤバTは、最初は大阪でしかライブしてなかったし、大阪のお客さんには、随分支えてもらえましたよ。

――  全国区になった今も、地域の曲をつくり続ける理由は?

こやま:ローカルの魅力を、マニアックなままポップにする! って気持ちでやってますね。やりたいことだけやって自己満足になるのも、ウケ狙いすぎるのも嫌なんです。「好きなものを、分かりやすく伝える」ってのは、意識していますね。

喜志駅は第二の地元

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――  こやまさん初めての一人暮らしは、「喜志駅」周辺だったそうですね。

こやま:大阪芸大の最寄駅ですね。家族と離れて暮らすのが初めてだったし、初日の夜、寂しくなって思わず泣きました。読者のみなさん、家賃が上がっても、陽当たりは重視したほうがいいですよ、マジで。太陽光が入らないと、本当病むんで。駅から離れても、陽当たりは優先させたほうがいい。僕は広い家に住みたかったから、家賃3万2千円で、12畳の1Kを借りてました。喜志でも、駅近やと結構高いし。

――  重要情報、ありがとうございます。『喜志駅周辺なんもない』の歌詞には「天王寺まで410円はイタい」というフレーズがあります。増税により、価格部分を変更したことがニュースになってましたね。政治経済も歌うバンド!


【LIVE】ヤバイTシャツ屋さん - 「喜志駅周辺なんもない」

こやま:芸大時代にずっと喜志住んでて、一番増税感じたのが交通費。最初390円だったのが400円になって、消費税が10%になってからは410円になって。「マジ、増税や〜ん!」って、リアルに思ったから、歌詞変えましたわ。

――  『喜志駅周辺なんもない』と歌われていますが、あえて聞かせてください。聖地巡礼するヤバTファンが、喜志駅周辺で行くべきところは?

こやま:ほんま、マクドナルドが潰れるレベルでなんもないですよ(笑)? でも、歌詞に出てくる「サンプラ(地元スーパー、サンプラザのこと)」やね。数店舗あるけど、駅から一番近いの行って欲しい。芸大生がいっぱいおるんで、「ああ、あれが芸大生か」って、見て欲しいですね。行くと大体、挨拶しようか迷う感じの知り合いがいるんですよ。ほんまに。

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――  飲食店はどんな店があるんでしょうか?

こやま:「すき家 富田林川面店」! 喜志駅から芸大に向かう途中にあるんですけど、本当に週10ペースで行ってたんで。

――  『週10ですき家』という曲が生まれた店ですね!

こやま:いつも迷うけど結局「牛丼並」をオーダーしてましたね。24時間やってるし、時間関係なく、お腹空いたタイミングで食べてましたね。コンビニより近いし、自炊も皿洗うのとか面倒じゃないですか。東京にいるときも、ちょくちょく入っちゃいますね。すき家。

――  全国で食べられる、ヤバT思い出の味なんですね。

こやま:あと、喜志駅には「加寿屋(かすや)」っていう、かすうどん屋さんがあって美味しいです。関西を中心に展開しているチェーンなんですけど、いつも「かすうどん 並」を頼みます。おすすめですね。

(調べたら、関東も唯一「中山競馬場」店があるみたいです。ヤバTファンの方、ぜひ!)

――  ちなみに、お土産とかは……?

こやま:そんなの、あるわけないですやん(笑)。大阪芸術大学のパンフレットとか持って帰ったらええんちゃう? そんで、芸大の学食食べて。

――  学食の思い出メニューは?

こやま:芸大は結構広いんですけど、真ん中の方にある校舎に、誰でも入れるカレー屋さんがあります。そこの唐揚げがめっちゃでかくてゴツい。インパクトがすごいから、食べてみて欲しいですね。ほんでまた喜志駅出たら、そのまま天王寺出て、「あべのハルカス」に行って展望台から「あべのハルカスめっちゃ高い!」って実感してもらって、天王寺経由してなんば寄って観光してくださいな。

――  「なんもない」と言いつつ、結構寄るスポットありますね。

こやま:いや、なんもない(笑)。とはいえ「『喜志駅周辺なんもない』なんて歌つくって、地元の人から怒られるんちゃうかな?」と不安があったんですよ。もはや僕にとって第二の地元やし、ちょっと心配で。でも、実際喜志に5年も住んでて実感したけど、ほんとになんもないんで。こんなに「なんもない」って言ってるのに、それきっかけに訪れてくれるファンの人もおる。ありがたいですね。ヤバT3人とも、喜志には思い入れがあるし。

――  永住するなら、第二の地元である喜志駅周辺に?

こやま:いや、やっぱ最終的には京都市に住みたいですね。東京への憧れよりは、京都生まれやし。なにより、市内コンプレックスあるし(笑)。大学卒業後に「そろそろ喜志駅出てみよう」と思って、1年だけ京都市内に住んだことがあるんだけど、やっぱいい街なんですよ。京都市、また住みたいです。


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お話を伺った人:こやまたくや

ピエール中野

バンド「ヤバイTシャツ屋さん」のギターボーカルで、作詞作曲も担当。自身のバンド以外への楽曲提供も行う。また、「寿司くん」名義で映像作家としての活動も行っている。数多くのアーティストのMUSIC VIDEOを手がけ、岡崎体育「MUSIC VIDEO」のMUSIC VIDEOでは『第20回文化庁メディア芸術祭』の「エンターテインメント部門 新人賞」を受賞した。自主制作アニメ「寿司くん」も制作している。 


2020.03.18(水) 9th single 「うなぎのぼり」 発売!

yabaitshirtsyasan.com

聞き手:小沢あや

小沢あや

編集者 / ライター。音楽レーベルでの営業・PR、IT企業を経て独立。ハフポスト日本版、Dybe!、ウートピ等で執筆。Engadget「ワーママのガジェット育児日記」連載中。SUUMOタウンに寄稿したエッセイ「独身OLだった私にも優しく住みやすい街 池袋」をきっかけに、豊島区長公認の池袋愛好家としても活動している。 Twitter ブログ