東京から大阪へと移住したスズキナオに聞く、あまりお金がなくても楽しく生きるコツ【いろんな街で捕まえて食べる】

著: 玉置 標本 

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たまに安い酒場なんかで一緒に飲んだりする、スズキナオという友人がいる。30歳前後にネットでの執筆を副業としてスタートさせ、その後に退職してフリーライターとして生活しているなど、私と似た道を歩いていることもあり、勝手にシンパシーを感じている男だ。

そんな彼は2014年の夏に家庭の事情で東京から大阪へと移住して、今は自称根無し草として、ライターを続けながらフワフワと生きている。ほとんど縁のなかった大阪の地で自分の居場所を見つけるまでの不安だった日々、そしてお金があまりなくても心の余裕を失わないコツを、二日間一緒に飲み歩きながら教えてもらった。

「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」という本が出た

大阪に引越したナオさんだが、東京には実家も、長年の友達も、リーダーを務めるバンドもそろっているため、月に1度は帰ってきている。そんな大阪と東京を行ったり来たりの生活をしながら、数々の媒体で執筆したものから彼らしさがあふれる記事ばかりを収録したベスト盤ともいえる本、「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」が絶賛好評発売中だ。

この本の内容については、公式の紹介ページや、検索すればたくさん出てくる著名人による書評を読んでいただくとして(私も自分のブログに勝手に書いた)、今回の記事では大阪に移住した彼本人にスポットを当てつつ、本のまえがきに書かれていた「考え方次第で、なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにすることができるという思いは確信に近い」という力強い思想を、実際に行動でみせてもらおうと思っている。

今更改まってインタビューするのもなんだか恥ずかしいのだが。

f:id:tamaokiyutaka:20200122003230j:plain気分を盛り上げるために深夜高速バスで読みながら大阪へ行こうかとも思ったが、夜行バスの中だと真っ暗で本が読めないなと気づき、新幹線で大阪へ向かった

奥さんが家業を継ぐため、大阪へ家族で移住

ナオさんと待ち合わせた場所は、大阪環状線で大阪駅から僅か2駅の桜ノ宮駅だ。東京から離れた彼は、お義母さんが住む奥さんの実家近くにマンションを借りて、夫婦と子ども二人の四人で住んでいる。

友人の配偶者(妻)を、私が何と呼ぶべきなのか未だに答えは出ないのだが、ここでは奥さんと呼ばせていただく。ちなみにまだ会ったことはない。

f:id:tamaokiyutaka:20200122003243j:plain一見すると学生っぽさすらあるが、改めて年齢を聞いたら41歳だった

まあどうにかなるだろうと引越した先で彼を待っていたのは、仕事も人脈もないフリーライターという孤独だった。

――そもそも、なんで奥さんの実家がある大阪に引越したんですか。

スズキナオさん(以下、ナオ):「奥さんは大阪から東京に出てきた人で、イラストやデザインの仕事をしていて、知り合ったのは東京です。二人とも東京で仕事をしていたし、ずっと東京で暮らすつもりだったんです。僕はIT関係の仕事をしていたんですが、移り変わりの激しい業界で、いつまで今やっている自分の仕事が続くか分からんとも感じていて、将来に悩んだ時期があったんです。ちなみに今もその会社はあってみんな元気にやっているんですけどね」

――僕もホームページをつくる仕事をしていて、似たような感じでしたね。これまで培ってきたものがどんどん古くなっていく不安。新しい技術の吸収も全然できなくて。

ナオ:「奥さんの大阪の実家は家業があって、お義母さんもそろそろ高齢になってきたので、『娘が手伝ってくれるなら助かるなあ』という話がそんなタイミングで持ち上がって、『じゃあやろうかなー。あなたの仕事、どうせ骨をうずめる覚悟はないんでしょ?』って」

――一緒に大阪へ来いと。

ナオ:「退職して引越したのが2014年の夏。僕がやっていた仕事はアルバイトからにゅるっと入って正社員になって、10数年働いていたんですけど、とにかく自分には向いてないことを痛感していて、怒られたり迷惑かけたりするばっかりでした」

f:id:tamaokiyutaka:20200122003303j:plainよく散歩するという大川の遊歩道へとやってきた。桜ノ宮の名のとおり、春には見事な桜が咲くそうだ

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砂を積んだ船が川を下っていく。なんとなく隅田川っぽい雰囲気

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大阪駅のすぐ近くとは思えない静かな住宅街だが、そこら中にマンションが建ちまくっていた

――ちょうど生活をリセットできる機会かもしれないけれど、不安も大きいですよね。ナオさんは大阪に詳しかったんですか?

ナオ:「修学旅行で来たり、大人になってから関西の友達が案内してくれるっていうんで、道頓堀とかをちょっと観光したくらいですね」

――そんな縁の薄い土地に移住って、不安はなかったですか。

ナオ:「どうだったかな? 寂しさは無茶苦茶ありましたね。それでも移住に賛成したのは、僕が会社を辞めたかっただけかも。今考えると。最初はもう勢いで、大丈夫だろう、ライターなんてどこでもやれるしって。大阪に来てからは、会社とかに属さずにフリーでライターをやっています」

――移住する前から、もうライターの仕事もしていたんですよね。

ナオ:「文章を書くのが好きで、ライター仕事は会社員と並行してやっていたんですよ。勤め先の関連企業でバイトとして。といってもノルマもなくて、月に一つ書くか、書かないかくらいでしたけど。あとは友人がやっているサイトに無料で書いたり。レギュラーの仕事はそれだけでしたね。ノルマがない分、取材できれば三本でも四本でも書いていいんですけど、でも実際はだいたい月に一本とかね」

――その状態で大阪に来て新生活って、なかなか厳しいスタートですね。

ナオ:「寂しかったっすね。知り合いもほとんどいなくて。例えば気軽に飲みに誘えるような人は一人もいなかった。バンドをやっているので、大阪には少しだけ音楽関係で一緒にライブとかに出たことがある、会ったことがあるっていう人がいるくらいで。仕事もなくて、すごいやばかったですね。奥さんは仕事で忙しいのに、俺は日中からなんにもない。行く当てもない。今考えると、計算が一切なく大阪に来てしまいましたね。まったく勝算がない」

――うわぁ。積極的に営業をするタイプじゃないと、やっぱりそうなりますか。

ナオ:「当初は仕事はまったく無かったです。近所の人の目も気になりました。他の人とめちゃくちゃ喋るのに、俺にだけ挨拶もしてくれないおばさんがいるんですよ。フラフラしている男が嫌いみたいで。昼間に缶ビールとか買って帰ってくるから。ははは」

――もはや不審者扱いだ。

ナオ:「東京に夜行バスで行けば最安だと2000円ちょっとなんで、帰ると向こうの友達が優しくしてくれるから、寂しくなったらすぐ逃げる。よく行ってましたね。実家に帰らせていただきますって、本当に帰って実家のご飯食べたり。でも子どもたちは引越してすぐ友達ができて、一カ月くらいで関西弁にも馴染んじゃって。僕は一向にダメでしたね」

f:id:tamaokiyutaka:20200122003357j:plain引越してきた当時を思い返すナオさん

f:id:tamaokiyutaka:20200122003410j:plainせっかくなので逆側からも

f:id:tamaokiyutaka:20200122003453j:plainそのまま歩いて淀川との合流地点まできた

連載一本だけで始めたフリーライターの道

――立派な本も出たし、そろそろライターで稼げるようになりました?

ナオ:「全然っすね。引越してきた当時は原稿を書く先は一カ所だけで、でも、それから少ししてデイリーポータルZでちょっと書かせてもらえるようになって、他にもう一個くらいあったりなかったり。3つくらい書く先があると、気持ちが違うんですよね」

――週に一本位締め切りがあると、ライターやっているなっていう気がしますよね。それでちゃんと食えるかと言われると無理なんだけど。

ナオ:「それです。この店はこのサイトだったら使えるな~なんてネタをストックしたり。でもそっからは、ほとんど平行線。連載が続かなかったり、サイト自体が消えたり。たまにいい仕事があっても一回で終わったり。だから自分の名前の出ないような、夜景スポット百選みたいなムック本の紹介文を書いたりする仕事をさせてもらってます。意外とそういう仕事のほうがお金が良かったりするんですよね。単純作業は嫌いじゃないし。でも去年の夏、自分の本の出版準備をしているときはそれもできなくて、月の収入が2万円とかになっちゃって。すでに書いた記事をベースにして本にするだけだから、割とスムーズにできるんじゃないですか? みたいな甘いノリではじめたけど、いざやってみたら、過去の自分と向き合う恥ずかしさ。絶望。苦痛の夏。昔の自分が書いた変なテンションの文章に腹が立つんです。バズろうとしやがってって。本の印税が振り込まれるのもしばらく先なので、今は経済的に相当やばいです」

――大阪の媒体で書いたりはしていないんですか。Meetsとか、おもしろいタウン誌もあるじゃないですか。

ナオ:「Meetsはすごく憧れの雑誌だし、そういう話がいつかくるんじゃないかと思っていたけど、来ないですね。チェアリング(イスを持って飲みに行く活動)の取材がいくつかきたくらいで。それも光栄なんですけど」

――地元民じゃないと、タウン誌とかは厳しいか。東京だと上京した人が多いから、記事を書く上で出身地はあまり気にならないけど、大阪だと関西以外の人が地元のことを書くのは変なのかな。もちろんがんばっている人はいるんだろうけど。

ナオ:「やっぱり知らないですもんね、街の歴史とか。あと僕の偏見かもしれないけど、大阪の人からしても、なんか使いにくかったり、ちょっと嫌なのかもしれないですかね。東京の人はスカしてるって思われてるからなー」

――スズキナオがスカしているのはオナラくらいなのに。

ナオ:「飲み屋さんで喋っていても、なんか東京弁のキザな奴って思われているんじゃないかって。被害者意識かもしれないけれど、ぬぐえないですね。未だに。でもそれはそれでポジションで、関西の仕事はないんですけど、大阪に来た東京の人っていう視線で書いてくれっていう仕事が、東京のほうからたまーに来るんですよ」

――大阪の人では書けない、大阪の紹介記事だ。

ナオ:「他所から来た寂しさはあるけれど、寂しいながらここにいるという個性みたいなのがあるかもしれないから、それを立ち位置にするしかないなって」

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火を使っていい素敵な場所を案内してもらった。真冬の平日なのでガラガラだ

f:id:tamaokiyutaka:20200122003534j:plain立派なノビルを発見。ネギみたいに食べられる野草だ

f:id:tamaokiyutaka:20200122003545j:plainオカジュンサイとも呼ばれるギシギシの新芽もあるな

f:id:tamaokiyutaka:20200122003600j:plain電話をするスズキナオの奥に気になる文字が……

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ノビルとギシギシを味見程度に収穫

f:id:tamaokiyutaka:20200122003635j:plain「これ、本当に食べるんですか?え、俺も?」


 

――大阪と東京ってやっぱり違うんですか。

ナオ:「そうっすね。大阪らしさみたいなものがすごく大切にされるというか。東京に対するライバル意識もすごくあって。東京でそれが流行っているなら、こっちは違うやつだぞ! みたいなとか、そういう意志が強いように思います。でもそれがまた独自の文化を発展させたりして。あと、快楽主義というか、飲み屋が朝早くから開いているのもきっとそうなんですけど、飲みたかったらいつでも飲めていいはずだっていう考えがあると思うんですよ。みんなの欲望があれば、それをかなえる店ができる。格好をつけずに飲めばいいって。やりたいことを我慢するなんてアホらしいっていう考えなのかな。でっかい駅ビルにもガヤガヤした立ち飲み屋があったり。とりつくろわないなって。ある場所ではすごく見栄っ張りだったりするんですけど」

f:id:tamaokiyutaka:20200122003344j:plainそういえば来る途中に、関西であることを強く主張するスーパーがあった

――大阪で好きな場所とかありますか。

ナオ:「こっちに住むまでは道頓堀とかグリコのあたりしか行ったことがなかったんですけど、引越すことも考えているころに奥さんの実家に泊めてもらって、隣の天満駅の辺りにあるでっかくて長い商店街を歩いたんですよ。そこは今まで見た大阪とは違ったっすね。道頓堀のあたりはみんなせっかちに歩いているイメージだったんですけど、こっちはもっと生活感があって。街の人が今日の晩御飯を買い歩いている姿をみて、この感じなら自分も暮らせるかなって。良い店がめちゃくちゃあるし」

――良い店っていうのは?

ナオ:「良さそうな安い立ち飲み屋とか、際限なくあるんです。それで天満の街を朝からめちゃくちゃ歩いて、ちょっと飲んで」

――それって奥さんやお義母さんから怪しまれないですか。

ナオ:「そこはライターとして、お酒が好きでそういうことを調べているって説明して。ただ飲んでいるだけなんですけど、取材熱心っていう感じで。天満とは反対側に環状線で行った京橋もいいし、シカク(後述)のある西九条もいいし。どこでも通っていると好きになっちゃうのかな」

――じゃあその商店街を案内してください。

 

ここまでのナオさんの話をそのまま受け止めると、全然働いていないダメな父親なのかなと思えてしまうのだが、改めてこっちから聞いてみると、家にいるときはご飯もつくるし、子どもを連れて遊びに行ったりもしているようだ。地元に帰って家業を手伝う奥さんが仕事に全力を出せるように。ただそれが本人としては、まだまだ不十分だと感じているから、自分から積極的には語ろうとしないけど。

夫婦の関係は本人たちの問題であり、その役割分担は家庭ごとによって違うもの。なんだかんだで大阪に来てサポートしてくれている旦那に対して、奥さんは感謝をしているんじゃないかなと思う。思わせて。言いたいことは、そりゃもう山のようにあるとは思うけど。

 

f:id:tamaokiyutaka:20200122003653j:plain楽しい野外料理の会のはずなのだが、なぜか遭難者っぽさが出てしまった。太陽が出ていれば温かいし、雲で隠れれば一気に寒くなる、人生を教えてくれるような天気だった

f:id:tamaokiyutaka:20200122003713j:plainまずはノビルをサッと茹でていただこう。「サッとじゃなくて、クタクタに茹でてください!」とナオさん

f:id:tamaokiyutaka:20200122003726j:plain「これは全然食べられますね。そういえば山形出身の親父が食べてました」

f:id:tamaokiyutaka:20200122003753j:plain正月明けで胃がつかれているだろうと、メインディッシュは七草ならぬ、二草がゆ。言葉的に「憎さ」になってしまった

f:id:tamaokiyutaka:20200122003816j:plain「こんな食べ物ないでしょ。戦後がゆだ」と怪しがるナオさん。何回教えてもギシギシをゲジゲジと言い間違える

f:id:tamaokiyutaka:20200122003829j:plain「最近食べたものの中で一番味がしない。いかに普段、強い塩気を食べているかが分かりました。味がないから米や草の味が分かるっていうね。でもちょっとでいいから塩がほしいー!」

f:id:tamaokiyutaka:20200122003844j:plain適当に買ったレトルトのお粥を温めて、茹でた野草を入れたのだが、まったくの無塩の白がゆを選んでしまったようだ。確かに味がしないわ

f:id:tamaokiyutaka:20200122003904j:plain「草、いいかもな。野草を子どもに食べさせるのはいいとして、その姿を友達に見られたらいじめられますよね、あいつ草を食っているぞって」とナオさん。それはたぶん毒草だよ

f:id:tamaokiyutaka:20200122003934j:plain「今度はあそこで草鍋パーティーやりましょう」「その時はちゃんと味をつけよう」と、社交辞令以下の適当な約束をした。いつか実現したとき、心から笑えそうだ

f:id:tamaokiyutaka:20200122003951j:plain「玉置さん、絶対ここに反応すると思った」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004103j:plainセルフタイマーで記念写真

f:id:tamaokiyutaka:20200122004233j:plainカメラが落ちなくて本当に良かった

多様な人を受け止める、商店街という存在

淀川の川原から、ゆっくりと歩いて天満駅の方向へ。

彼が大阪で生きてけると思わせてくれた、お気に入りの商店街へと向かう。

f:id:tamaokiyutaka:20200122004257j:plainなかなかかっこいい川原だ。

f:id:tamaokiyutaka:20200126002908j:plain彼の本の帯に推薦文を書いてくれた、岸政彦さんの「図書室」という本の表紙と同じ場所で、記事の冒頭にある写真を撮った

f:id:tamaokiyutaka:20200122004316j:plainナオさんも初めて通るという道には、やたらとかわいいパンダがいた

f:id:tamaokiyutaka:20200122004327j:plain道すがら、すごく良さそうな店を発見。とても魅力的だが今日のところは商店街へ

ナオ:「この商店街、ちょっと道頓堀の感じとは違くないですか。あっちはもっとアッパーな若者の街という気がして。大阪っていうとあの感じしか知らなかったけど、こっちはなんかいろんな人がいて、おじいちゃんおばあちゃんが総菜屋さんでコロッケ買ったりしている。大阪って商店街にめちゃくちゃ活気があるんですよ。ここも活気があって、延々と楽しい。これには本当にやられましたね。ちゃんと人の行き来があるから、新しい店もできるし、昔からの店も残っている。この辺で西川きよしのロケを見て、『本当にいるんだ!実在するんだ!』って。この商店街はいっつも大阪のテレビがロケしてますね」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004339j:plain活気にあふれる天満駅へと続く商店街。私も東京の新小岩という街に住んでいたとき、商店街が気に入っていたことを思い出した

ナオ:「よく思い出すのは、この近くに人気の天ぷら屋さんがあって、人がめちゃくちゃ並んでいたんです。僕がその行列の横を通り過ぎるとき、同じタイミングでおばちゃん二人が歩きながら『ここいつも並んでるねー、なんでやろうねー』って話していたんです。そうしたら並んでいるおっちゃんが『安くてうまいからやー!』って叫ぶように会話に入ってきたんですよ」

――なんとなく大阪らしい気がします。島木譲二さんが頭に浮かびました。

ナオ:「こんなに楽しい場所ってそうないじゃないですか。銭湯もあちこちにあるし、古本屋の多い一画もあったりするし。いろんな人がいて、いろんなことをしたい人たちがいられる場所。何の目的も無く歩いていてもいいんだって思えたのが大きかったです」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004358j:plainおいしいタコ焼き屋があるからと、おいでやす通りへ向かった

f:id:tamaokiyutaka:20200122004421j:plainその名も、うまい屋。まさかスズキナオからタコ焼きのオススメを案内される日がくるとは

f:id:tamaokiyutaka:20200122004440j:plainソースなしで食べるのがオススメだとか。彼はぺこぱのシュウペイに似ている

f:id:tamaokiyutaka:20200122004458j:plain外が程よくカリカリで中がフワフワ。これは確かにソース無しで満足できる味だ

f:id:tamaokiyutaka:20200122004511j:plain「あのおかゆの後なので、味がものすごくします!」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004542j:plain商店街の存在が移住の後押しになったというのが、なんとなく分かる散歩だった

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天満駅近くにあるいきつけの自販機で、「今日はこれが最安ですね」と30円のスイカソーダを購入。この寒空でスイカ味を楽しめるのがナオさん

ナオさんが会社員からフリーライターになった訳

今更だが、ナオさんはなんでIT系の会社員からフリーライターの道へと進んだのだろう。そういえばその辺の話はまったく聞いたことがない。

適当な店に入って、腰を据えて聞いてみようか。

f:id:tamaokiyutaka:20200122004617j:plain天満駅の近くにある路地もまた味わい深い。酒場好きにはたまらない街なのだろう

f:id:tamaokiyutaka:20200122004633j:plainナオさんがよくいく但馬屋という酒場へ連れてきてもらった。常連っぽく裏口から入店

ナオ:「本を読んだり、文章を書いたりがずっと好きだったんですよ。大学は日芸の文芸学科卒です。中学校のころは筒井康隆がすごい好きで。ああいうおもしろいアイデアがあれば、自分も書けるかなと真似して小説を書いてましたね。妹に見せたりして。今思うと、相当くだらない内容ですけど」

――妹に見せるんだ、仲いいな。

ナオ:「あと小学校のころ、宝島社のVOW(バウ)っていう雑誌の投稿コーナーが流行っていたんですよ。それがすごく好きで、そのコーナーだけ立ち読みしていたんです。自分の街の路地裏の何かがネタになるかもっていう感じがすごいおもしろくて、写ルンですを持って、一人で街を取材していたんですよ。自分の見慣れたものが、価値がある、笑えるものになるかもしれないって投稿したら、実際にそれが掲載されたりして」

――ライターとして、そして今の生き方に通じる原風景がもうそこに。

ナオ:「バウの影響がめちゃくちゃ大きかったですね。どうでもいいってみんなが思っているものも、裏返したり、見方によっては、おもしろいものとされてバウに載る。自分が住んでいる街から宝を探すなんて、なかなかできないじゃないですか。なんでもない裏路地にこそ宝があるというか、このなんでもないものが宝になるんだ!っていうのがけっこう衝撃で」

――路上観察趣味の基礎が、すでにできあがってますね。

ナオ:「バウの感覚はずっと好きなので、珍スポットとか珍看板とかはずっと好き。そういうことについてだったら書けるんじゃないかっていう気がしていて、それがたまたま職場の関連会社がやっていたWEBサイトのライターバイトとして成り立ったから始めたんです。それがなかったら、今もライターはやってなかった。いくらデイリーポータルZとかが好きで読んでいても、自分には向上心が無いので売り込んだりはしなかったと思いますね」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004700j:plainチューハイで乾杯。お金がないから飲む回数を減らすのではなく、その金でも毎日飲める酒を探すという思考回路。ちなみに二人とも全然お酒に強くない

なんでもない日々を少しぐらいは楽しいものにするコツ

にゅるりとライターになったナオさんが書いている文章は、バウ的な宝探しの目線に加えて、ナオさん独自の価値観が、太くてしなやかな芯となっている。

見方や考え方次第で対象物に新たな価値を見出すだけでなく、どうがんばっても世の中的には価値が低いものに対してさえ、自分の中での価値観を変えることで尊きものにできる思考回路。そのポイントは、意外な人物を演じることにあった。

――息苦しさを感じることもある毎日の中で、楽しく生きるコツを教えてください。

ナオ:「どっちかというと会社員時代から、お金を貯めて月に一回ドカンと豪勢に楽しむというよりは小さな楽しみが毎日あるほうが自分としては好きだった。お金を一気に使っちゃうと、絶望だけが残るから。でも例えば一日1000円ぐらいで楽しむことができれば、月に何度も楽しめるじゃないですか。家にいると気がふさがるし。それで、お金をかけて遠くに行ったりせず、近所を発見しなおすみたいな楽しみ方が生まれる。近所にあるのにずっと入ったことのない中華料理屋を巡ってラーメン食べたり。としまえんとか、ディズニーランドみたいな遊園地に入るお金がなくても、その周りを歩くのが楽しいことが分かれば、ちょっと豪勢な遊びに対して一矢報いることができるじゃないですか」

――反骨精神だ。

ナオ:「もちろんディズニーランドとか、入ったら絶対に楽しいんですけどね。でも条件が厳しい状態でなにかをするのが好きなんですよ。お前はこれしかできないよって縛られた、限られた自由をどう使うか」

――遠足のおやつ代300円で何を買うか、みたいな。

ナオ:「そうそう。普段から好きにお金を使える子だったら、300円じゃ何も買えなくつまんないかもしれない。そういう考えの延長線に興味があるのかなー」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004731j:plain「もやしエビちりめん」と書かれたメニューを見て、エビのチリソースがかかった麺かもとナオさんが注文。その正体はこのとおりだ

f:id:tamaokiyutaka:20200122004748j:plain「エチオピア」をシマガツオという魚だと信じて注文したら、なぜか豚足が出てきた。どうやらエチオピアのアベベ選手が裸足でマラソンを走ったことに由来するらしい。遠い

ナオ:「あと何か、未知のものに引っ張られるのがすごく好き。知らない場に引っ張られるのが楽しいんです。もうどうなってもいいみたいな。そういう場所ににゅるっと入っていきたい。にゅるみを大切にしていきたい。そういう能力が大事な気がして」

――にゅるみ、ですか。あまり聞かない言葉ですけど、ナオさんが使うとしっくりきます。

ナオ:「あとは、みんなにすがるしかないです。僕が好きな保坂和志という小説家がいるんですけど、その人はプータローみたいな人がすごく好きで、なにして生きているか分からない人でも、実はちゃんとその場所にいてよい理由があると。居候も、家にいられて嫌だなと思われていないからそこにいられる訳で。その技術というか、理由はなくてもそこにいていい存在というか、それを目指したいです。社会の居候を目指しています! あの人ってなにかしているの? って思われつつ、なにもしてないけど、まあいていいんじゃない?って思われたら最高ですね

――なるほど。勉強になります。

ナオ:「でも実際は、自分の家からして、いて良くないと思われてますけどね」

――家でゴロゴロしてないで仕事しろと。ごもっとも。

f:id:tamaokiyutaka:20200122004802j:plainこれが食べたかった但馬屋のキムチ天。意外とクニュクニュしていて、なんだかイカを食べているような不思議な歯ごたえ。うまい

f:id:tamaokiyutaka:20200122004824j:plain「最高のつまみがそろったんじゃないですか」と、予想と違う料理が来てもご機嫌だ

――ナオさんってお金がそんなになくても、不思議と悲壮感がないですよね。本人は大変なんだろうけれど。公園でお酒を飲んでいても、雑草を食べさせられても楽しそうに見える。ケチとか貧乏とは違う、育ちの良さというか、心にゆとりのあるしみったれというか。

ナオ:「ああいうのは殿様がやっている設定で楽しむようにしています」

――殿様!!

ナオ:「庶民の生活を体験している殿様のつもり。貴族の遊びのつもりなんですよ、自分の中では。実際、本当にお金が無いだけなんですけどね。コンビニで買ったベビースターの袋にお湯を入れて食べるとかはまさにそれ。気持ちだけは殿様のつもりで缶チューハイが飲めれば、もう何も怖くない」

――本に掲載されている、カップヌードルに入れておいしい漬物を探すのも、庶民の立場を楽しむ殿様の道楽なんだ。

ナオ:「『うむ、シャキシャキしてなかなかうまいではないか』ってね。志村けんのバカ殿もお忍びで城下町に来るじゃないですか。クワマンとかマーシーと一緒に。あの心意気です」

――落語でいう『目黒のサンマ』かと思ったら、そっちの殿様! でもナオさんは白塗りが似合いそうだなー。

f:id:tamaokiyutaka:20200122004856j:plain「せっかくだからクラブにいきましょう」と言われてついていくと、そこはクラブ温泉という銭湯だった

f:id:tamaokiyutaka:20200122004914j:plainおそらく世界一修業にならない、適温で程よい湯量の滝が気持ち良かった

大阪で見つけたシカクという居場所

大阪の商店街に心を支えられつつも、どんよりとした感じで始まったナオさんの大阪暮らし。このままだったら今ごろは一人で東京に帰っていたかもしれないが、意外とすぐに転機が訪れてくれた。

――そんな引きこもりに近い生活から、どうやって抜け出したんですか。

ナオ:「2014年のお盆明けに引越して、その秋にパリッコさん(当サイトでも執筆している酒好きのライターでナオさんと『酒の穴』というユニットを組んでいる)がシカク(二次創作ではない同人誌などを販売する店)で展示する機会があって、その開催期間中にトークイベントをやるっていうのがあったんですよ。せっかく大阪にいるんだしって、そこに僕が呼ばれて。それでイベントの前に、ちょっと店を覗きに行ったんですよ。そしたらかなりヤバい店。大阪の奇抜な若者がやっている店だ! こえー! ってすぐ帰りました」

――挨拶もせずに!

ナオ:「ははは。ただ、すごく古い商店街にあって、こんなところでこんな店をやっているやつらがいるんだって、すごくワクワクしました。なんとかなるんだって前向きな気持ちになったんです。どう考えても儲からなそうなのに、なんか楽しそうに生きているぞと」

f:id:tamaokiyutaka:20200122113257j:plain中津という街にあった、ナオさんが初めて訪れたころのシカク

f:id:tamaokiyutaka:20200122113312j:plain私が訪れたときは、ぬいぐるみ作家さんの展示中ということもあって混沌としていた

――怖いと思いつつも、気にはなったんだ。

ナオ:「トークイベントのときに改めて挨拶したら、そのときの店長が僕の事情を聞いて、うちの店番をしてくれないかと。一日3000円しか出せないけど、遅刻も早退も中抜けもかまわないから、店番をしながら自分の記事を書いていてもいいからって、声をかけてくれたんですよ。給料が安くても、家にいるのも気づまりだし、願ってもない話。行けば3000円もらえるんだから、二つ返事で僕でよければって。それがありがたかった。それがなかったら今ごろどうなっていたんだろう」

――とりあえず、行くところができたと。

ナオ:「店長たちが大阪のおもしろいイベントとか珍しい場所を教えてくれるんですよ。団地が好きな人がいるよとか、給水塔に詳しい人の本があるよって。一緒に取材も行ってくれたりもするし。それにシカクは変な人が集まる場所だから、いろんな人とも出会えるし、情報も集まってきて」

――ライターとして最高の環境じゃないですか。一日3000円って安いなと思ったけど、それナオさんがお金を払ったほうがいいですよ。

ナオ:「いい居場所ができたんです。心細かった時期に、自分がいても良い場所。行けば自分を迎えてくれるところが大阪にあるっていうのに助けられました。シカクと出逢えたのは幸運でしたね。あれがなかったら相当ヤバかったです」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004934j:plainこちらは西九条(千鳥橋)にある現在のシカク。勇気を出して扉を開けてみよう。私の同人誌も置いているよ

シカク近くの居酒屋に場所を移し、ここからは当時のナオさんを知る、現店長の竹重さんにも話を聞いてみた。

竹重みゆきさん(以下、竹重):「あらー、うれしい。そんな風に思ってもらってたんや」

ナオ:「竹重さんたちとは、趣味が一緒だったんですよ。シカクにある情報は自分の知らないことばかりで、かつ、シカクの人たちはライターじゃない!」

――ライターだと、おもしろいネタは本人が記事にするからね。竹重さんは当時のことを覚えてますか?

竹重:「最初はほんま5分で帰ったね。ナオさんがイベントに出ることは決まっていたけど、まだスズキナオの顔を知らなくて。そのときはシカク自体が今よりぜんぜん売れてなくてお客さんも少なくて……今もそんなにですけど……展示もしていない平日の開けたばかりの時間なんて、まず誰も来なかったんですよ。開けた瞬間に知らないおじさんがきて、なにもいわずに店内を一周して帰ったから、こわって。なに今の人」

――お互いが怖がっていたんだ。

ナオ:「なにも買わないし」

竹重:「シカクは通りすがりで入ってくるような店でもないから、絶対に目的があって来ている。そのはずやのに5分で帰る異常性が怖くて。その日はナオさんしかお客さんが来なかったんですけど、夜にエゴサーチしていたら、ナオさんがシカクに行ったってツイッターに書いてて。あれがスズキナオなんやと。あのときに来ていたのスズキナオさんだったんですね、声かけてくださいよってリプライして。ああすみませんって」

――運命が変わる予感のしない、微妙な出会いですね。

竹重:「展示の打ち合わせでパリッコさんと東京で会ったとき、シカクさんって従業員募集してないんですか?って聞かれて。人手は足りないからいい人がいたらなーって答えたら、僕の友達のスズキナオっていうのが大阪に引越すから、働かせたらどうですか? っていう話をしていたんです」

ナオ:「ああ、そうだったんですか!」

――本人は知らなかったんだ。

竹重:「イベントのゲストに呼ぶから、そのときに紹介しますねって。なのに、なんで名乗らへんの。こわってなるわ」

ナオ:「僕にしたら、今度どうせイベントで会うから、挨拶はそのときでいいかなと」

f:id:tamaokiyutaka:20200122004954j:plain左が現店長の竹重さん。なんとなく似ているが兄弟とかではない

――僕も人見知りなんで気持ちは分かりますけど、挨拶はしてもよかったんじゃないかな。そんな怪しい男をよく雇いましたね。

竹重:「切羽詰まっていたんですかね、うちも。でもナオさんが働き始めてくれて、うちの売り上げが3倍に増えたんです。ほら仕事ができるから。今って商品が入ったら店頭と通販で同時に売りはじめているんですけど、当時はあまりにも手が回っていなくて、通販に全然アップできていなくて100冊ぐらい溜まっていて。もうレビューとか書く時間もなくて無理!って状態だったんですけど、ナオさんが全部レビューを書いてアップしてくれたんです。そしたら売り上げが上がって。本って通販に出したら売れるんやーって、そのときに分かったんですよね。むしろこっちがありがたかったですよ。ありがてえ、ありがてえ」

ナオ:「それが大阪に来て割とすぐだったから、おかげで引きこもりにならなくてすんだんです。タイミングが良かった」

――パリッコさん、ありがとうだ。初対面の悪さは置いておいて、東京から来たナオさんをどう思いました?

竹重:「品があるなって思いますね、相槌が。わたしのマックス丁寧が『はい、はい』やったんですけど、ナオさんが『ええ、ええ』っていうのが、すごい品があるなってびっくりしました。私の辞書に『ええ』ってないし、大阪でまずいないんで。びっくりしました。私も品がある会話のときに真似しているんですよ」

――ええ、ええ。

竹重:「東京の人って、もちろん人によるけど、偉そうな人も多いじゃないですか。ナオさんは偉そうやないから、いい東京の人やと思いましたね」

――でもナオさんは、大阪が俺を受け入れてくれないって、ちょっとスネてますよ。

竹重:「あら、そんな悲しいことを言っていたんですか? でも、それはどこでもありますよね。結局地元じゃないから。なんとなく認識してるのは、シカクに来る人の多くは、めちゃくちゃ100%大阪的な人じゃないんですよ。どっかみんな大阪人になり切れない思いをもっている。大阪ってどちらかというと体育会系な人っていうイメージがないですか。明るくて元気で、会話のテンポが早くて、おもろいこと言ったら評価されるみたいな。その雰囲気に馴染み切れない人たち、ちょっとはみ出した人たち。ナオさんみたいに他府県出身の人も多いですし。そういう人がシカクに集まってくるから、ちょうど話せるんですよ。まず店長が『こんな受け答えもできへんのかいな!』っていうガッツガツの大阪人じゃないから」

――ええ、ええ。竹重さんは大阪じゃないんですか?

竹重:「私は大阪なんですけど、北のほうで京都の近く。地元の言葉とか学校とか、ひとつも馴染めたことが無かったけど、今はシカクをやっているから、シカクの人間関係で楽しくやれてます。ちょうど良かったんだと思います。はみ出した者同士の居心地の良さが」

ナオ:「僕はシカクで手伝いするようになって、大阪から見た東京を教えられました。例えば何かおもしろい展示があったときに、その展示が大阪でしか開催されないと、東京の人は文句を言うと」

竹重:「なんで大阪だけ?東京でもやってよーって。東京でやるのが当たり前になっているから、あえて大阪でしか見られないおもしろい展示をやってやるぞって今も思っているかな。岡山でもやってくださいとか、北海道でもお願いしますって、一回も言われないんですけどね」

ナオ:「そういう話だと僕はどっちも分かるんです。東京の人からしたら悪気はないんですよ。こんな良い内容のイベントなら、東京だとたくさん人が来るのにって。実際、大阪のイベントですごいおもしろい企画なのに来る人が少ないともったいないと思うし。だから、どっちの味方もできない、どっちも分かるような」

竹重:「こういう風に、自分が知らない価値観をもたらしてくれるのがおもしろかった。言葉の違いとか捉え方とか。日常的に接しないと分からないので」

ナオ:「シカクの周りの人たちは、全然否定をしない。個性的な趣味をもっている人が多いからなのか、たとえ全然知らないものでも否定しないで、おもしろそうですね、やってみましょうって付き合ってくれる」

――カップラーメンに入れておいしい漬物を試したり、半額になった肉だけで焼き肉をやってみたり。

竹重:「誘われるのうれしいですよ。ナオさんがそういう仲間をみつけるのが、うまいのかもしれません」

ナオ:「いや、たまたま知り合っただけです」

――たまたまの積み重ねで理解ある友達をつくれるのは、それこそ人間性なのだと思いますけどね。

 

シカクという場所やナオさんの本がそうなんだけれど、ひとりひとりの存在だったり、ひとつひとつの記事が集まることで、それぞれがうっすらもっていたメッセージや価値観が強くなって、そこになんらかの意味や力強さが生まれている気がする。カラーというやつだろうか。

引越してすぐにパリッコさんの展示があったのは偶然だけど、遅かれ早かれナオさんはシカクへと流れて着いていたのだろう。なんて思いつつも、あの時にナオさんがシカクの扉を開けなかったら、また違う展開だったのかなとも妄想してしまう。

 

シカクのお客さん、ヤマコさんの証言

シカクのお客さんには、ナオさんの記事によく出てくる人が何人かいる。滞在二日目は、その一人であるヤマコさんに昼酒を飲みながら話を伺った。

彼は神戸生まれで、なんとなく笑福亭仁鶴師匠っぽい喋り方をする人だ。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005015j:plainヤマコさんが愛する、神戸に残る下町へとやってきた

f:id:tamaokiyutaka:20200122005050j:plain大阪のスズキナオを知る男、ヤマコさん

ヤマコ:「シカクでパリッコさんがやった個展の一環で、飲み会をしましょうっていうサブイベントがあって。それがナオさんとの初対面です」

――おっと、スズキナオがシカクとの接点をもった伝説のイベントじゃないですか。

ヤマコ:「それまでシカクは通販しか利用したことがなくて、僕もびびりなんでイベント前に下見をしました」

――ナオさんと同じ行動パターンだ!

ヤマコ:「だから店員さんと仲が良かった訳でもないんです。その後にシカクのイベントが何回かあって、酒が絡んだ会によく来るなっていうのが何名かいるんですよ。それでポン酢の食べ比べとか、飲食記事をやるのに頭数が必要なときにあいつら呼ぶかって、会う機会が増えたんですかね。ただの客がグラデーションがかかるように仲良くなったんです」

――客として来た人の中で、シカクやナオさんに溶け込む人と、溶け込まない人がいるんでしょうね。もちろん溶け込む必要はないんですけど。

ヤマコ:「店や人が自然とフィルタリングしているんですかね。ナオさんが入った、良いタイミングで遊びに行くようになったのかなって思います」

f:id:tamaokiyutaka:20200122005105j:plainこの中畑商店は、鉄板焼きスタイルのホルモン焼きが食べられる珍しい店

f:id:tamaokiyutaka:20200122005129j:plainホルモン焼きは1本60円から

――ヤマコさんから見て、ナオさんってどんな人ですか。

ヤマコ:「記事のまんまですね。やっぱりまだスズキナオさんっていうと、記事を書いたりライブをする人で、僕はファン目線なんです。よく飲んだり遊んだりするんですけど、『あ、スズキナオさんだ!』っていう瞬間がまだあります。でも実際に喋っているのも、まんま。イメージが乖離してないですよね」

――確かにそうかも。喋り方とかが記事と一緒だ。

ヤマコ:「僕は根がミーハーなんですよ。ちょっと対象が狭いんですけど、東京の練馬に憧れているんですね。その話を練馬のライターさんとかにすると、そんなことをいう関西人はいないって」

――それって東京の人が、この中畑商店でいつか飲んでみたいって思うのと同じですよ。

ヤマコ:「そうかもしれません。大阪とか神戸で、ナオさんに教えてもらった良い店もめちゃめちゃ多い。これは持論なんですけど、主語が大きくなっちゃいますが、自分を含めて神戸の人は神戸が大好きなんですけど、うまく説明できないっていうイメージがあって。言葉にしようとするとガイドブックの写しみたいになっちゃう。真っ先にこの店とかを紹介したほうがおもしろいのに、たどり着けない説明ベタさがすごくあって。それをナオさんみたいな目線が、外から見た神戸のおもしろいところを指摘してくれて刺激になります」

――おもしろがる達人ですからね。上手な翻訳家というか、相手の良いところを見つけて引き出す力が強い。

ヤマコ:「入るかどうか迷う店ってあるじゃないですか。そこに普通に入っていくから頼もしい。一緒に首を突っ込んで楽しかったことが多いですね」

――ナオさんのインタビューってどんな感じなんですか。

ヤマコ:「取材につきあっていると、相槌すら打たない時間があって、ちょっと不思議でした。それでも相手が気持ちよく話を続けている。もっと、ここはどうなんですか?あれはどうなんですか?って聞くのかと思ったら、世間話以下ですよね。そういうもんなんですか?」

――いや、特殊だと思います。といいつつ私も似た感じなんですけど。営業しているのか外観からは判断付かないようなラーメン屋のおじさんに聞いた話とか、インタビューされることに慣れてない人を相手に雑談として聞いて、それが彼のフィルタを通して文章になると「俺の言いたいことはこれだ!」ってなっているような気がします。相手の言葉以上のことを受け止めて、ちゃんと文章にしている。

ヤマコ:「記事を読んでいると、途中から思ってもいないところでギアが上がる場合があるじゃないですか。そういうのがすごくいいですね。そういえば飲んでいるときも、急に話のアクセルを踏み込むときがあるんですよ。シラフのときはあんまり言わないような熱いことも語ってくれて。そこがメチャメチャおもしろかったりするんですけど。ナオさんのアマゾネス願望の話、知ってます? 飛行機が不時着して、アマゾネスの村で一人だけ助かるっていう」

――初耳です。それは本人がいるときに聞きましょう。

スズキナオ流の記事づくり

ヤマコさんと一緒に神戸から京橋へと移動し、そこで家の用事を終えたナオさんと合流。

行こうと思っていた店が満席だったので、とりあえずブラブラしていたところ、ねじり鉢巻きをした立ち飲み屋のおっちゃんに「そこのハンサムなおにいちゃん!」と呼び止められて、ナオさんは素直に入店した。これがにゅるみか。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005228j:plainナオさんと一緒にいると、知らない人からやたらと話しかけられる気がする

f:id:tamaokiyutaka:20200122005250j:plain「僕はスルーすると思ったんですが、よく入りましたね」とヤマコさん

――ナオさんは、インタビューで相槌すら打たなくなるという証言がヤマコさんから出ていますけど。

ナオ:「一応、何個かは聞くことを用意しているんですけど、そんなにうまく聞けないので、うーんって困っていると、みんな『こんなんでいいの?』って心配してしゃべってくれるんで。話を聞かせてくださいって来たのに、なにも聞いてこないから。本当に、自分にはライターとしての能力がない」

ヤマコ:「でもインタビューされる側の人が、聞かれてないこともめちゃめちゃ気持ちよく話している。喋りやすいんだと思いますよ」

ナオ:「聞き手がおもしろいツッコミをしている記事あるじゃないですか。それが俺はできなくて、幽霊みたいな存在として、そうなんですね~くらいの相槌。自分は一切でてこなくていいっていう気持ちで書いてますね」

――ただ笑みを浮かべて佇んでいるだけ。お地蔵様のインタビューだ。しかもナオさんの取材対象って一般の人である場合が多いですよね。取材慣れしてない人。

ナオ:「まだ世に出ていない珍スポットとか珍ピープルに対して取材できたら一番斬新でおもしろいと思うんですけど、それを探すのが大変だし、取材を受けてくれかどうかも分からない。他にそういうことを書いているおもしろい人もたくさんいるし、その根性が自分にはなくて。だったらそこを裏返して、行きつけの店の大将の話を二万字書くほうが自分に合っているのかなと」

――取材されるほうも、『え、私でいいの?』ってなっているでしょ。友達のお母さんの家で、いつものラーメンをつくってもらうとか。

ナオ:「でもそういう話も楽しいっていう確信はある。すごく奇抜な何かを持った人はがんばって探せばいるかもしれないけれど、自分にとって身近な人を深く掘っても、同じくらいおもしろい部分は見つかるんじゃないかっていう気がして。よくよく聞いてみるとみんな結構、変なことしているんですよ。それもバウ的な目線なんじゃないかな。身近なところから、切り取ることでおもしろく見せる。もしそれができたらすごく楽じゃないですか。それで結果的に、協力してもらった人に、自慢してもらえるような記事にできたらいいなって」

――有名人や有名店に電話で説明して取材許可をとるよりは、知り合いと遊んでいるような記事を書くほうが楽というか、性に合っているというのはよく分かります。私もそうだから。まさにこの記事とか。

ナオ:「取材申請の連絡が本当に苦手なんです。気持ちを無理矢理持ち上げないとできないから、朝から気分をつくって。それでやって夕方に電話して、一日が終わることもある」

――分かる!できればメールで全部すませたいよね。でもこっちが取材したい人は、だいたいメールなんてやっていない。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005317j:plain初めての来店だからと湯豆腐をおまけしてくれた。まるしん、ありがとう

f:id:tamaokiyutaka:20200122005336j:plainタマネギとイワシの天婦羅、白子ポン酢など。呼びこまれてよかった

――あとナオさんの記事って、いい意味で無駄が多いですよね。店のレポでも、入店するまでが長かったり。店の前でモジモジしているシーンとか、普通はカットするだろっていうところが生かされている。

ナオ:「玉置さんもそうでしょ。それを書くと読む人は退屈だろうなと思いつつ、書かずにいられない。店のレポートって、入ってからって書くことないじゃないですか。自分には味のこともうまく書けないし、そんなにたくさん食べられないし。なんていうか、そこに至るまでのプロセス。誰に教わったとか、歩き疲れたからふらっと偶然入ったとかが大事だと思うんですよ。的確に伝える役割は、それこそテレビとか、グルメに詳しいライターさんがやったほうがいいから、自分はそこで取り上げられない話やエピソードを伝えたいっていうのはあります」

――ナオさんって、そういう道草的な部分を書くのが上手だなっていう流れで、昨日は道端の草を食べさせたんですけどね。

ナオ:「道草食ったなー、そういえば。過去に書いた記事を自分の本に改めて載せるとき、試しにそういう無駄なダベりの部分を削ったんです。文章ダラダラ派に属しているから、ページ数に制限がある紙の本だと記事をたくさん収録できない。一つの記事が一万字とかあると読むのも辛いから。でもそうやって削っていったら、まとまってはいるけど、ダラっとした感じが無くなったことで、味みたいなものが薄くなったって編集者に言われて」

――その場の空気感だったり、どんな人が書いているのか見えなくなっちゃうんだ。

ナオ:「そうかーって、やっぱりダラダラな方向でいいんじゃないかってなったんですね。それで無駄を入れなおした。無駄の差し戻し。おかげで全体のボリュームが増えて、どうしても入りきらなくて収録しなかった記事もあるんですけど、そのぶんダラダラがそのまま読めます」

――ナオのダラダラでいかせて、だ(「とんねるずの生でダラダラいかせて!!」という番組が昔あった)。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005351j:plainシャコの食べ方を教わるナオさん。しがんで食べるそうだ。店主に撮影許可を求めたら、「おれのことは高倉健と書いといてな」と言われた。ザ・大阪

――ちなみに自分で一番好きな記事ってあります?

ナオ:「全然ないですね。これはすごい、だれもやってないぞ、おもしろいぞって思って書いたのがだいたいダメで。なんかこんなのダメだろっていうやつが意外と読まれたりするんですよ。でも僕は基本バズるとかないですから。ネットの記事だと、PVとか、確固たる数字があるから、それがいつも低かったら、こいついらないなってなると思うんですよ。数字は気にしなくていいよって言ってくれる編集さんもいますけど」

――とはいえね。

ナオ:「年に一本くらい、バズりたい。ほかの人気ライターさん並にたくさん読まれた記事がたまにでもあればクビにならないんじゃないかと。それだけは思いますね。ずっとバズるのは無理。でもたまに少し人気の記事になるとめちゃくちゃ安心するっすね」

――俺はここの媒体で書いていいんだって思える。

ナオ:「でもすごく人気のある記事のPVとか、僕と3桁とか違うんですよね。メディア側としたら、そういうヒットが多いライターに力を入れたほうがいいじゃないですか。ダラダラした僕の記事に、ページと原稿料を割いてくれる余地はあるのかっていつも不安に思っている」

――にゅるりといさせてほしいですよね。

ナオ:「なんとなくお金がまわってきて、ぼくらでもライターとして食べていける世の中であってほしい」

――景気が悪くなったときに切られる立場ですから。切実に思います。

アマゾネスに守られるという生存戦略

ここから先は完全に酒の席での無駄話なので、読まなくても全然大丈夫。

スズキナオというライターの内面部分に興味がある人だけどうぞ。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005440j:plain自由の女神は世の中に何体あるんだろう

f:id:tamaokiyutaka:20200122005509j:plain丸一屋という店に入った。ここもナオさんの行きつけらしい

ヤマコ:「そうだ、ナオさんはアマゾネスに守られたい願望があるんですよね」

――この話、聞いても大丈夫ですか?

ナオ:「いや、全然大丈夫ですけど。小学校から高校の二年くらいまで、ずっと背の順が一番前だったんです。それで小学校低学年のころ、登校班にたまたま年上の女の子が多くて、それがみんな負けん気が強い、クラスの中でも目立つような子たち。それでいつもからかわれていて、僕の帽子を取られて、投げ合いされて、返せよ~みたいな感じの日々だったんです」

――女の子に帽子でフリスビーされちゃうんだ。

ナオ:「でも今思うとそれが結構、嫌じゃなかった。僕は妹が二人いる長男なんですけど、長男としてのしっかりした感じがまったく無くて、そういう風にお姉ちゃんたちにからかわれるほうが落ち着くなーって。そこが自分の居場所なのかなって思って。それから中学校にあがったら、その子たちは学校の不良と仲が良い女子たちになっているんだけど、お前は相変わらず背が小さいなーみたいな感じでからかってもらって」

――イケてる年上の女子から声をかけてもらえる存在だ。

ナオ:「僕の実家で毛の長い白い猫を飼っていて、いつも学ランにその猫の毛がめちゃくちゃついていたんです。そういうのを気にするという感覚もなくて。それを気の強い同級生の女子が、ガムテとかコロコロで『しょうがないなー』ってとってくれるという時期がありました」

――それが、今思えばたまらなかったと。

ナオ:「たまらないというか、居心地いいなみたいな。会社に入ってからも、いつもなぜか敏腕の女上司にすげえ怒られる立場で、『お前って仕事ができない本当にクズだな』とか言われるんだけど、でも一緒に飲んだりもするんです。仕事帰りに公園とかで飲んで、おまえはよーって蹴られたりして。だいたいいつもアマゾネス的な人々と縁があるんですよ」

――アマゾネスは気の強い女性という意味か。モテてるじゃないですか。

ナオ:「モテなのかな。でもまあそういう関係でいられるんで。めちゃくちゃ気の強い人ばっかりだと、何もしないでもいいっていうか、居心地がいい」

f:id:tamaokiyutaka:20200122005529j:plainカニグラタンというセレクトが渋い

f:id:tamaokiyutaka:20200122005543j:plainどうやらこれがやりたかっただけらしい

f:id:tamaokiyutaka:20200122005604j:plainなんだこの写真

――じゃあ理想のタイプがアマゾネス系の女性なんだ。

ナオ:「だいたい気が強い人が好きですね。それで妄想するんです。女性だけの部族がアマゾンに今もいて、そこに僕が乗った飛行機が不時着。自分だけが助かるんだけど、言葉もまったく分からない。最初は残飯みたいなのを出されて、それを貪り食うなさけない僕の姿をアマゾネスのみんなが笑っているんです」

――お、話のアクセルを踏みましたね。

ナオ:「自分が持っているスマホで動画とか見せて、ちょっと魔術師みたいなこともします。アマゾネスはスマホを知らないじゃないですか。だからこいつはおもしろいから殺すのはもったいないと。ペットみたいな存在として、何も仕事はしないけれど、異常に度数が高い謎の酒を飲ませてもらったり。そういう生活が一番なのかなって」

ヤマコ:「僕がこの話を聞いたときは新幹線ののぞみでもこだまでもなくひかりの中で、移動の時間を潰す暇つぶしだったんですけど、アクセル全開でした。最初は言葉も通じないんだけど、向こうから寄せてきて『ナオ、コレタベル?』って言ってくるとか、スズキナオを見初めたアマゾネスが、ナオを殺そうとする村人から守ろうとするとか。全部妄想なんだけど設定が細かくて、いま観てきた映画の話みたいに語るんですよ」

――深夜バスで寝られないときに、『生まれてきてからこれまでのことを全部思い出す』って本に書いてあったけど、練り上げられたアマゾネス物語を脳内で上映することもあるんだろうな。さすが。

ヤマコ:「どこにも発表しない作品。アマゾネスに守られるスズキナオは、テキストにもならない美しさがありますね」

f:id:tamaokiyutaka:20200122005619j:plain太麺の焼きそばが美味しかった

f:id:tamaokiyutaka:20200123010024j:plainM-1の予選であっさりと落ちた結成8年目の漫才師みたいな二人

ナオ:「でも中学校の思春期のころは、裕木奈江がすごい好きだったんです。そのころの裕木奈江は不思議少女っていう感じでホワーンとしているように見えて、俺が裕木奈江を守る!っていうつもりでした。ドラマの影響で世間からバッシングがすごくて、世界中が裕木奈江の敵だとしても、俺だけは守るって。絶対に守るって思っていたんですけど、どうやら自分にそんな力はないっていうのが、学校生活をしていて気づくじゃないですか。腕っぷしも強くないし、ケンカもできない。なんなら女の子に猫の毛をとってもらっている。守るほうじゃない、むしろアマゾネスに守られていたほうがいいなっていう、高度な生存戦略というか」

――僕はめぞん一刻に憧れて、ボロアパートで浪人するって決めていました。ちなみに現実の世界は?

ナオ:「奥さんも気はめちゃめちゃ強いですけどね。妄想の世界では仕事のない僕を見てアマゾネスは笑ってくれますが、現実では普通に困るんで。本が出る直前の収入がほとんどない時期は、『ちょっと本当に、これ、どうするの?』って」

――分かる。僕もライターでちゃんと食べていく方法が未だに分からない。それにしてもアマゾネスって。

ナオ:「いやいや、夢があるじゃないんですか。ほかにもちょっとあって。重力がね、地球の重力は重いでしょ。もっと軽い世界に行けばみんな非力で、そこで僕だけジャンプ力とかすごい。そういう世界に行きたい。そういうのを望んでいます、常に。世の中との折り合いがうまくつかないから逃避願望があって。だいたい何をやっても思うようにうまくいかないですから。どこか別の世界に行きたい」

――ナオさんの妄想って、リアリティがまったくないのがいいですね。わざと中二レベルの心を残しているというか。よく読んでいた筒井康隆の影響なのかな。でも最上級の金持ちが殿様で、甘えられる女性といえばアマゾネスって、いつの時代の思考回路なんだ。次の本は、そういうスズキナオの内面を読んでみたいです。

ナオ:「あー、そういうのね。……読んで楽しいのかな?」

大阪に来た東京人として、東京に行く大阪人として

最後に商売繁盛を祈願して、ちょうどやっていた今宮戎(えびす)神社のお祭りへ竹重さんも合流して向かった。東京でいう酉の市みたいな感じだろうか。

「商売繁盛笹もってこい」という歌の意味はよく分からないが、なんとなくご利益がありそうな空間だ。せっかくなのであやかろう。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005748j:plain難解な読み方だなと思った今宮戎駅。

f:id:tamaokiyutaka:20200122005720j:plain通天閣の近くにある今宮戎神社。すごい人出だった。

――改めて聞きます。大阪は好きになりましたか?

ナオ:「そうっすね。やっぱり自分が入っていけない壁を感じることも多いんです。これは永久に無理かなって。でもおもしろいんですよ、大阪らしくて好きなところもいっぱいある。シカク以外でも、なんもなくても飲みに誘える人がだんだんと増えてきたかな。音楽関係とかライターの仕事で知り合った人とか。ちらほらですけどね」

――東京と大阪、今はどっちの人?

ナオ:「……半分ずつですね。大阪にいて今も寂しいところはある。自分はどこまでいっても東京の人間というか。大阪の人間じゃないんだなって。でも大阪にいると、なんでもかんでも東京至上主義なのも腹が立つし」

f:id:tamaokiyutaka:20200123010616j:plain
ナオさんがリーダーを務めるチミドロというバンドは、彼以外が東京在住のため、スケジュールが合わないとリーダー抜きでライブをやることもある

ナオ:「大阪にいて気づいたのは、東京から大阪に遊びに来る人が結構いるんですよ。そうすると、どこか案内してとか、空いてたら飲もうよとか言われるので、それでだいぶ寂しくないです。大阪らしくて満足してもらえるところはどこだろうって調べて、そこをおもしろーって言ってもらえたらうれしい。いいだろ大阪って」

――僕も何度かナオさんに案内してもらったけど、確かに最高でした。やっぱりナオさんには、東京から大阪に引越してきた人間として、いっぱい記事を書いてもらって、それを本にしてほしいかな。

ナオ:「それをやってみたい夢はありますね。こうして大阪に暮らしているんだから、自分にしか見えないものがあるかもしれんって」

f:id:tamaokiyutaka:20200122005734j:plain神社で笹をもらって、それにつける飾りを購入するシステムらしい

f:id:tamaokiyutaka:20200122010209j:plain「商売繁盛笹もってこーい」という曲が延々と流れている

f:id:tamaokiyutaka:20200122005823j:plain竹重さんの引いたおみくじが大吉だったので、それがみんなの運勢だということにした

パリッコさんをはじめ、昔からナオさんを天才だと信じている人は多い。いつか世に出る人だろうと。世間に気づかれるのは時間の問題だと。私も改めてじっくりと話して、説明がしづらいんだけど、やっぱり天才なんだなと思った。

みんながナオさんのように生きる必要はない。しっかりと政治や経済を回してくれる人がいてくれればこそ存在可能な社会の居候。それが許されるのであれば、これからも彼にしか書けない、その場の空気感が伝わってくる文章を残してくれるのだろう。

一冊の本にまとまったことで、これまでとは違う層にも彼の良さが届くはずだ。ナオさんは最終的にどんな作品を書く作家になるのかなと考えながら、別方向に向かう電車に乗り込んだ。

 

 

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著者:玉置 標本

玉置標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。

Twitter:https://twitter.com/hyouhon

ブログ:http://www.hyouhon.com/

 

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