
静岡県の西部に位置し、新幹線のこだまが停車する駅としても知られる「掛川市」。私がお笑い芸人になる為に上京するまでの18年間を過ごした街だ。
東京方面からの新幹線が減速し駅に到着する直前、左側の車窓に私の母校「掛川工業高校」が見える。
工業系の勉強にあまりついていけないのもあって、1年生の時にはすでに「東京に行って芸人になりたい」と思っていた。母の「高校まではちゃんといきなさい」という言葉に引き止められなんとか卒業することができたが、まあまあ無駄にぼーっと過ごしてしまった3年間だった。
母校を眺める度にその思春期の悶々とした気持ちと、毎日夕方になると学校まで車で迎えに来てくれた親への感謝の気持ちを思い出す。
住んでいる時にはあまり気づかなかったが、外からこの町を見てみると、ここには素晴らしい観光名所と自然豊かな場所がたくさんあることに気づかされる。
春こそ訪れたい、地元民の宝「掛川城」と「掛川花鳥園」
まずは誇るべき掛川の観光地を紹介したい。一番の目玉はやはり「掛川城」。白く美しい天守閣は小ぶりながらも見ごたえがある。

自分の子どもが産まれ初めて地元に連れて行った時には、まずこの掛川城に我が子を抱っこしてのぼり、「お前も天下を取るのだぞ」と天守閣から城主気分で城下街を見せてあげた思い出がある。
城を堪能したらすぐ近くに、「こだわりっぱ」というお土産屋と休憩所を兼ねたスペースにいくことをお勧めしたい。
城の一部かと見間違うような城風の建物の中には、静岡のお茶やお茶を使ったお菓子などが余すところなく並び、店頭では静岡茶を使ったソフトクリームが味わえる。

その流れで次のスポットに行くなら「掛川花鳥園」。美しい花たちが溢れる。さらになんと、かわいいペンギンの餌やりや、膝にのせての写真撮影が可能だ。
目玉は、迫力満点のバードショー。元気な鳥たちにまぎれ、まったく動かないハシビロコウと見つめあうだけでもあっという間に時間が過ぎていく。
鳥のような繊細な動物や花が年中見られる施設があるのは静岡の温暖な気候のおかげに違いない。
静岡名物「さわやか」の穴場エリアでもある

次は食。静岡で有名な食べ物といえばうなぎや餃子を思い浮かべるだろう。しかし、静岡に来たら、まず食べるべきは「ハンバーグ」だ。今や全国的な知名度を誇るハンバーグの店「炭焼きレストランさわやか」には是非行ってほしい。
なんと、掛川にはこのさわやかが「掛川本店」と「掛川インター店」の2店舗ある。そしてさわやかの第一号店は掛川の隣の菊川市にあって、ハンバーグの製造工場は反対隣の袋井市にある。つまり、この真ん中に位置する掛川はさわやかのルーツに触れたい人にとっては絶対に降りるべき新幹線駅なのだ。
といっても地元に住んでいる時には1回くらいしか行ったことなかったし、特に意識していなかった店だった。私が上京した後に「さわやかが美味しい」とテレビで誰かが言って、最近では人気すぎて3時間待ちは当たり前になってしまっている。
しかし今では帰った際には必ず行く店、と言っても過言ではない(地元に住んでる甥っ子に整理番号をとって待っててもらっている)。アウトレットが近い御殿場エリアや静岡の中心エリアにある店舗に比べると、比較的スムーズに入ることができる穴場といってもいい。
鉄板に乗って運ばれてきたハンバーグは半分に切ると中がまだ赤くレアの状態だ。それを店員さんが目の前で焼き上げてくれて完成させる。その作業を飛び散る油を避けながら間近で見つめることで「はやく目の前のハンバーグ食いてーなー」という気持ちがマックスになり、それまで待った長い時間も含んだ最高のハンバーグを味わえる。まだ行ったことない人には経験も含め一度訪れてほしいお店だ。
他にも、温泉や宿泊施設もあるリゾートでありながら、コンサート会場としても知られる「つま恋」や、サッカーやラグビーのW杯の会場となった「エコパスタジアム」なども掛川にある。映画やテレビなどの撮影に使われる一両編成のローカル電車「天竜浜名湖鉄道」も走っているし、お茶畑、イチゴ農園なども大充実だ。観光と自然満載の街、それが掛川である。
幼少期に通った駄菓子屋「いんまー」の思い出
と、いろいろ掛川駅付近の情報を書いてきたが、正確には私の地元はここではない。私の実家は掛川駅から車で30分くらい南下した場所にあり、2005年に掛川市に合併されたが、元々は「小笠郡大東町」という名前だった。
幼少期の掛川に対する感情としては「掛川は都会! デパートがあってマクドナルドのドライブスルーがあるらしいぞ!」みたいな遠い存在だった。
幼少期に一番行ったお店は「出野菓子店」。いわゆる駄菓子屋だ。現在営業しているかどうかは確認が取れなかったが、グーグルのマップにはお店が映し出されていたのでやっていると思いたい……。
通っていた千浜小学校の真横にある駄菓子屋で、当時は店の名前も知らず「いんまー」と呼んでいた。いんまーの語源はおそらく今川焼(いまがわやき)。いわゆる大判焼。駄菓子屋でありながら今川焼を焼いて出してくれる。
あとここの名物はおでん。今では「静岡おでん」と言われているが、当時はおでんと言えばここの駄菓子屋のおでんが普通のおでんだと思っていた。
濃い色のだしのおでん鍋の中に串にささった大根や牛モツやはんぺんなどが浸かっている。1本30円ほどのそれを注文すると店のおばちゃんが透明なビニール袋にどんどん詰めていき、最後にスプーンでサバの粉と青のりを掛け入れてくれる。
持ち帰って食べるころにはおでんの熱気で粉がべちゃべちゃになっているので、今考えれば粉は別添えでもらった方がおいしく食べられそうだが子どもの自分はそんなことは考えない。
それに私はそこまでお金をもっていなかったので、よく思い出してみたら自分ではあんまり買っていない。いつも遊んでいた金持ちの森下君がよくここのおでんを大量に買っていて、たまに私に恵んでくれていた。それがおいしくておいしくて。森下くんの親からお年玉をもらって土下座して感謝したこともあったな。
この店は私のお姉ちゃんの同級生の実家、ということでもとても身近なお店だった。ここは思い出を語る上ではずせない。
小笠郡大東町エリアの穏やかな風景と源泉がもたらした変化
私の一番見てきた景色。それは海だ。歩いて10分のところに国安海岸がある。
荒々しい波が打ち寄せる海、遠くまで広がる何もない砂浜、永遠に続く水平線。

だだっ広い海岸の景色に、長く無機質な「潮騒橋(しおさいばし)」と、バカでかい風力発電の風車が見える。ここで潮風にあたりながらひとりであぐらをかいて沖に見えるサーファーを眺めるのが好きだったのだ。
海に向かう道の草むらでエロ本を見つけるのも楽しみの一つだった。私が「これはいらないな」とスルーしたエロ本を、父親が持って帰ってきたこともあったな。
そんな何もないのが魅力だった海に、高校生の時に衝撃的なことが起こった。
海岸の近くで源泉が掘り当てられ、温泉施設シートピア(現:リバティーリゾート)が出来たのだ。
これにより一気に町が活気づいたと共に、私の生活のグレードも一気にあがった。もともと、うちは貧乏で湯船のお湯を何日も替えてなかったし、ボイラーの設備もぶっ壊れていたので温度調節がガバガバだった。さらに父親はお風呂でタバコを吸っていたので石鹸の横に濡れたタバコの吸い殻が山盛りになっていたり、とにかく家のお風呂が楽しいものではなかった。

そこに誕生したのが、ピカピカの温泉施設だ。開業当初には近隣住人に特別割引チケットが配布されたため、安値で温泉に入ることができたのも大きかった。土曜の夕方になると必ず「シートピアに行ってくるよ!」と言って出かけて行き、鉄分豊富な茶色く濁った温泉がそれまでの我が家のお風呂に対するストレスをもすべて洗い流してくれた気がした。
車の免許をとった時に母親を助手席に乗せて駐車の練習をしたのもこのシートピアの駐車場だ。当時は町が管理する日帰り温泉だったが今は民間の運営に代わり、当時はなかった宿泊施設もあるらしい。掛川駅からは遠いが私の実家の釣具屋からも近いので遊びに来てほしい。
地元のスーパー「ピア」で見た海砂利水魚に憧れて
あとは「ピア」というスーパー。何てことない地元のスーパーだが、私が中学生の時、ここにお笑いコンビの海砂利水魚(現:くりぃむしちゅー)さんが営業に来てくれた。お笑いが大好きだった私にとっては当時ボキャブラ天国に出ていた海砂利さんは大スターだったし、初めて生でみるお笑い芸人さんに興奮した。
私と同様にお笑い好きだった同級生のノリオとトシアキと一緒に自転車を漕いでピアに行った。「僕たちを観たことあるよーって人? もしくは初めてみたよーって人?」「全員だろ!」という営業の掴みから大爆笑させてもらったし、がめつくサインももらうことができた。この日の出来事がきっかけでお笑い芸人になる夢を明確に見たのかもしれない。そんな思い出の詰まったスーパーだ。
東京に憧れ、上京資金を稼いだバイト先
あと地元の思い出が強い場所は松本石油。ガソリンスタンドだ。高校生の時に私はここでバイトをしていた。学生生活は虚無からまったくやる気が起きなかったので、「せめて上京するためのお金を貯めよう!」ということで高校2年生の時から約2年働いた。
車への興味があった訳ではなかったけど、ガソリンの匂いと、街灯が無く真っ暗な畑の中に立つ、煌々と照らされたこの店のきらびやかな雰囲気はとても好きだった。
そんなバイトで貯めたお金が親に使われていた時には泣いて怒ってしまったが、その後お笑いの養成所に通うお金や引っ越し資金を出してもらったのでよしとしよう。
今はコロナ禍の影響で帰る機会が減ってしまっていたが、この文章を書いていたら地元に帰りたくなってきた。
東京から2時間、名古屋からは1時間とアクセスも良好。飛永のルーツが詰まった掛川の街に皆さんもふらっと降り立ってみる旅はいかがでしょうか?
著者:飛永翼(ラバーガール)
1983年静岡生まれ。お笑いコンビ・ラバーガールのツッコミ担当として2001年にデビューし、「キングオブコント2010, 2014」で決勝進出を果たす。近年は俳優としても活躍の幅を広げ、ドラマ『来世ではちゃんとします3』や映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』『映画刀剣乱舞-黎明-』などに出演している。
YouTubeチャンネル『第2ラバーガールChannel【公式】』でも日々ネタを更新中。
編集:小沢あや(ピース)
