点在か、一極集中か。天神と博多駅前どちらと過ごそうか

著: 結騎 了

福岡の「街」といえば、どこが思い浮かぶだろうか。

例えば、全国的に流通している福岡の街を冠した単語と言えば「博多ラーメン」が挙げられる。しかし、観光地として福岡を長らく牽引してきたのは、実は天神エリアだったりするのだ。

夢のレンズを探して天神愛眼にたどり着く人もいれば、ライオン広場や警固公園(けごこうえん)で待ち合わせをする人もいるだろう。いつも行列の絶えない元祖博多めんたい重や「ひょうたん寿司」を堪能し、駅から直結の新天町商店街を楽しむのも良い。老舗の百貨店に流行りのショップといった新旧共存の街並みは、福岡を代表するエリアとして長らくその名を轟かせてきた

天神エリア 天神には古きと新しきが入り混じっている

しかし、最近は博多駅前も負けてはいない。2013年に移転するまで、駅の真横には博多郵便局の大きな局舎があったものだが、その風景はとっくに過去のもの。近年、駅周辺の変わりようは目覚ましいものがある。

天神エリア博多駅前。このふたつは、それぞれ相反するような特徴をもち、互いに影響を与えあいながら、福岡の魅力を高めているように思う。

今回は、約10年前に数年ほど福岡に住んで以来、その魅力に惚れ込み、現在も年に幾度かは仕事で訪れる私の視点から、両者を軸に福岡を紹介してみたい。

「路地裏の発見」が無限に続く、点在するエリア・天神

博多駅から中洲を挟み、地下鉄で5〜6分ほどの場所に位置する天神エリア。この街の魅力は、なんといっても「点在」というキーワードに尽きるだろう。

とにかく、さまざまなものが徒歩圏内にあるので散策が抜群に楽しいのだ。西鉄福岡(天神)駅を中心に、福岡三越岩田屋といった老舗の百貨店、少し懐かしい雰囲気も漂う新天町商店街、そしてお洒落な古着屋や雑貨屋がひしめき合う大名や、落ち着いた雰囲気のカフェなどが並ぶ今泉。厳密には大名や今泉は異なるエリアだが、十二分に徒歩圏内のため、私の場合は天神一帯として一度に巡ることが多かった。無論、迷路のように広がる天神地下街も忘れてはならない。いわゆる「街に出る」タイプの遊び方であれば、天神がぴったりなのだ。

福岡三越 福岡三越。世界的に有名なブランドが軒を連ねるほか、9階にはギャラリーを構える
岩田屋 岩田屋。1936年に九州初のターミナルデパートとしてオープンした
新天町商店街 新天町商店街。およそ90ものお店が集まり活気があふれている

その昔、私が住んでいたのは天神のほど近く。休日になると、気に入った服や靴を身に着けて、街に繰り出したものだ。

とりあえず自宅から数分のApple Storeを目指したあとは、新天町にある積文館書店の狭くもどこか懐かしい陳列を経由し、マクドナルドに並ぶ長蛇の列を横目に西鉄福岡(天神)駅構内を東へ向かうのがお決まり。福岡市役所や、コンサートなどがおこなわれるアクロス福岡のあたりまで歩くと急に人の数が減り、じきに天神中央公園などの豊かな緑が顔を出す。特別何があるわけでも、何かをするわけでもない。でも、散策するのがとにかく楽しいのだ。

積文館書店 積文館書店。新天町商店街のなかにある
天神中央公園 天神中央公園。都会のオアシスとして親しまれている

お次は、だいたい西へと来た道を折り返す。徒歩で十数分もあれば端から端まで行き来できるコンパクトな街だ。天神の西側には、大小さまざまな個性派ショップが並ぶ大名がある。私のような「オシャレさんじゃない人」は少し気後れすら抱いてしまうが、そうした街並みを眺めつつ、外れにある輸入玩具を扱う「トイコネクト」に寄ることが多かった。アメコミジャンルのフィギュアなど、普段はネットでしか買えないようなものを実際に目にすることができる、今でもお気に入りのショップである。

大名 大名の路地裏の風景。至るところに個性際立つお店が立ち並ぶ

大名の南を走る国体道路を越え、今泉に足を向けると、これまた小洒落たお店が点在している。

そう、あくまで天神エリアは「点在」なのだ。「もしかして?」「お?」と道を折れると、そこにたいてい何かがある。「へぇ、こんなお店があったのか」。そんなふうにして見つけた洋菓子店「henry&cowell」でシュークリームを買い、それを片手にまた国体道路の方をぶらぶらしたりもした。

観光で訪れた人には伝わり辛いかもしれないが、何度も歩いていると「路地裏の発見」が無限に続くような感覚を受けるのが、天神エリアの面白いところである。

こうした「散策の面白さ」は、天神界隈がもつ貴重なアドバンテージだ。どこかひとつのビルに何かが集中している訳ではない。言い換えれば、それはもしかしたら「不便」なのかもしれない。しかし、街全体に漂う言い知れぬ活気のおかげか、一歩、また一歩と、歩を進めたくなる。福岡を離れた途端、急速にお腹周りが気になったのは、天神に通わなくなったからだろう。

気づいたら、何をした訳でもないのに数時間も歩き続けてしまう。それこそが、天神という奇妙で面白いエリアの真骨頂なのだ。

極端なまでの一極集中、凝縮されたエリア・博多駅周辺

そんな「点在」の天神に対し、近年めきめきと発展してきたのが、九州の玄関口である博多駅前だ。

博多駅

もともと博多駅は、駅を出れば背の高いビルが所狭しと立ち並ぶ「ビジネス街」の様相を呈していた。よって、「観光地」としてのストレートな魅力には、いささか欠けていたと言えるのかもしれない。

しかし、2011年の九州新幹線開通を経て、急速にその姿を変えているように感じる。具体的には、博多駅を含む駅ビルが肥大化し、さまざまなエンターテインメントやショッピング施設を集結させてきたのだ。

東急ハンズや映画館「T・ジョイ」を有するアミュプラザのほか、阪急KITTEも参戦。「交通の要所」としてのやや殺風景な街並みが、一気に華やぐことになった。「博多はビジネス街なので観光性能では天神に劣る」。そんな定説も揺らいでいるのではないだろうか。

博多駅 奥に見えるのが2016年に開業した「KITTE博多」
博多ほろよい通り 博多駅の地下に広がる飲食街「博多ほろよい通り」

このエリアの特徴は、なんといっても「一極集中」だ。博多駅を中心に、一瞬たりとも雨に濡れることなく、地上から地下まで、界隈にある多くの店舗を行き来することができる。

それを実現させているのが、2011年3月から段階的に開通した巨大なペデストリアンデッキだ。駅ビルから博多口方面に向けて「生えた」かのようなこの大きなデッキは、左右に屋根付きの遊歩道を備え付けている。

博多駅

なかでも、私のようにゲームやアニメなどのオタク趣味をもつ福岡市民の聖地・博多バスターミナルと駅ビルが繋がったのは、歴史的な快挙と言えよう。

通常「バスターミナル」といえばバスの発着所をイメージするが、博多の場合はビル内にさまざまな施設やショップが展開されている。博多地区最大級のゲームセンター「namco」に、アニメ関係のグッズを買うなら間違いのない「ゲーマーズ」。すでに閉館してしまったが、7階には単館系のアニメ映画を多く上映する「シネ・リーブル」も存在していた。

今でも私は福岡に行くと、まず真っ先に「とりあえず」博多バスターミナルに向かってしまう。ちなみに、その後の順路は駅構内を抜けた先にある「ヨドバシ博多」である。

博多バスターミナル

もともと博多駅は、福岡空港からの驚異的なアクセスの良さが知られていた。しかし現在はこうした駅周辺の発展により、「ぎりぎりまで焼き鳥を食べ」「お酒を堪能し」「ラーメンを流し込んでから空港へ駆ける」、そんなふうに最後までたっぷりと遊ぶことがより「許される」エリアとなった。

仮に今、福岡に住めるとしたら、私は博多駅近くに家を探すだろう。電車で5分の箱崎駅あたりが良いかもしれない。観光客と同じように、ぎりぎりまで博多を浴びて、ほろ酔い気分で電車に飛び乗る。なんとも素晴らしい環境ではないか。路面バスもまるで冗談のような本数が運行しているので、交通の便は最高である。

意味もなく散策するというよりは、誰もが目的のために効率的に行き交う博多駅前。ペデストリアンデッキを駆使し、博多バスターミナルが誇る初見殺しの二種のエスカレーターを使いこなし、まるで迷宮ダンジョンをクリアしていくようにビルからビルへ闊歩する。

食事も、エンタメも、交通も、ショッピングも。全てがぎゅっと詰まった、理路整然としているのか凸凹しているのかよく分からない一角。それが、博多駅前である

相反するふたつのエリアが、福岡を熱くする

抜きつ、抜かれつつ。天神エリアと博多駅前は、両者それぞれの発展を魅せていく。「天神エリア=点在」「博多駅前=一極集中」という性質の違いは、互いをうまく差別化しながら共存していく。そう感じられるのだ。

どちらで遊ぶか、どちらで過ごすか。いっそのこと、どちらにも行ってみるか。というのも、福岡を訪れたことのない人にはあまりピンと来ないのかもしれないが、この両者は十分に徒歩圏内に位置しているからだ。成人男性なら、急げば徒歩で20分ほどだろうか。

キャナルシティ キャナルシティ博多。施設の中央には運河(キャナル)が流れている

両者を結ぶキャナルシティ博多を経由するように移動することで、「散策」の幅は広がり、「一極集中」の利便性も際立つ。福岡は、なぜああも「住みやすい」のだろうか。それは、相反する特徴をもった二つのエリアに起因しているように感じる。

今や、意味もなく天神に向かったあの日も、目的のために博多駅周辺を探検したあの日も、福岡という「思い出」の大切なピースとなった。その日の「気分」「目的」「テンション」、それらに両者ともに応えてくれる。さて、今日はまずどちらに行こうか。どちらで用を済ませ、食事を摂り、エンタメを堪能しようか。天神のつれない感じも、博多の物分かりが良い感じも、全てが懐かしい。

福岡は、ころころと顔色を変える恋人のように、離れた今でも私を翻弄し続ける。


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結騎 了

仕事と育児に追われながら「映画鑑賞」「ブログ更新」の時間を必死で捻出している一児の父。『週刊はてなブログ』『別冊映画秘宝 特撮秘宝』等に寄稿。現在は電車も通っていない地方に暮らす。

ブログ:ジゴワットレポート

編集:はてな編集部