まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ

取材・執筆: 小野寺将人 

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茅ヶ崎の海と富士

好きな街に住むこと

あなたは「好きな街に住むこと」がいかに素晴らしいことか、もうご存じだろうか。私はその素晴らしさを3年前まで知らないまま生きてきた。住んでいる街のことをあまり好きになれなかったからだ。

休日になると車を2時間以上走らせて非日常の空気を体の中に取り入れた。そうしないと息苦しかったから。いまこの瞬間もそんな思いをしている人は少なくないと思うけれども、あなたはどうだろうか。

3年前、私は神奈川県の茅ヶ崎市に移住した。東北の港町で生まれ育った妻と話し合い、「もしなにかお店をつくるとしたら、どんな街が良いだろう」という基準で探したら茅ヶ崎にたどり着いた。

実際に茅ヶ崎で暮らすようになってから、時間の流れがゆったり進むようになった。あなたが海辺の街の温泉旅館に泊まったことがあれば、きっとこの感覚を分かってくれると思う。こういう日常があると休日に無理して遠出する必要がなくなり、市外に出ることが減った。同じ移住者に話を聞いたとき、まったく同じ台詞を言っていたのをよく覚えている。

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国道134号越しの茅ヶ崎の海

茅ヶ崎には「茅ヶ崎好きの人」が多い。もともと住んでいる人はずっと住み続けるし、新しく移住した人も特別な事情がない限り出て行かない。だから茅ヶ崎の道はいつまでたっても細いままだ。おかげで、茅ヶ崎市内を運転するときはひやひやさせられる。

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スーパーたまや幸町店に描かれた交通安全アート

 

良いところだけど、行ったことはない

私は会社員で、平日は都内に通勤している。茅ヶ崎に住んでいることを会社の同僚に話すと、必ず「良いところだね」と言ってもらえる。そう言ってもらえるのはすごくうれしい。でも決まって同僚はこうも言う。


「行ったことはないけど」


茅ヶ崎は「湘南」とか「サザンオールスターズ」とか、そういう良いイメージが全国的に知られている街だ。しかし県外からはるばる遊びに出かけるとき、茅ヶ崎の隣の江の島やその隣の鎌倉ほどの誘客パワーはもっていない。なんなら茅ヶ崎を飛び越えて箱根まで行っちゃう人だっている。


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烏帽子岩

裏を返せば、だからこそ「ゆったりした時間を過ごせる茅ヶ崎に来てみたらどうですか」と、言いたい。観光地化されていないからこそ出せる雰囲気というものがある。そういうものを求めて、茅ヶ崎に移住する人は多い。

国から文化財に指定されている茅ヶ崎館という素晴らしい宿もあるので一泊してみたらいい。私はよく「だまされたと思って、一度住んでみてはいかがでしょう」という話をする。これは半分冗談だが、半分本気でもある。それほどおすすめな街だからだ。


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茅ヶ崎館

 

 

 

茅ヶ崎に住むことを検討するとき、通勤電車のことが気になる人は多いだろう(私もそうだった)。

早く出ることができる人ならば問題なく座れるが、ラッシュ時間帯の場合はコツがある。2つコツがあって、1つは「ライナー券」を購入して優雅に座る方法、そしてもう1つは「電車待ちの列の先頭に並ぶ」方法だ。実は、東海道本線は茅ヶ崎を起点としてだんだん混んでいく。だからどうしても座りたい場合は、あえて1本逃がして先頭に並ぶと良い。

ただまずは茅ヶ崎に魅力を感じないと行くことすらないだろう。だから一度来てもらうために、どうやって茅ヶ崎の魅力を伝えるか考えてみた。その結果、イメージしやすい「海の幸」と「茅ヶ崎の人」をセットで紹介することにした。

紹介したい茅ヶ崎の人はたくさんいるが、ここでは3人に絞る。ぜひ最後まで読んでいただき「そんな魅力的な人がいるなら住んでみたいなあ」と思ってもらえたらうれしい。

釜揚工房「茅ヶ崎イシラス」の石田さん

あなたは茹でたてのしらすを食べたことはあるだろうか。スーパーで買うしらすとはまったく別の食べ物だ。初めて食べる人はきっと「えっ! なにこれ! いつもスーパーで買うしらすとは、まったく別の食べ物みたい!」と、私の言葉をそっくりそのままなぞるように言ってしまうだろう。

そんなしらすが食べられるのが、釜揚工房の茅ヶ崎イシラスだ。


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茅ヶ崎イシラスの外観

茅ヶ崎のしらすが美味しいのは「一艘引き(いっそうびき)」という漁法に秘密がある。しらすを傷つけず生け捕りにできて、しかも船上で生きたままのしらすを氷水でしめるから鮮度がバツグンに良いのだ。

そして2018年、茅ヶ崎漁港から徒歩2分のところに茅ヶ崎イシラスができた。おかげで鮮度が失われないまま釜茹でができるようになったのだ。茅ヶ崎の釜揚げしらすは歴史上最も美味しく食べられる時代を迎えていると言えるだろう。


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透き通った生しらす

茅ヶ崎には2018年の4月まで魚市場があった。そこで働いていたのが茅ヶ崎イシラスの石田さんだ。魚市場の閉鎖にともない、「茅ヶ崎産」がなくなってしまう危機感から、石田さんが茅ヶ崎漁港の近くに釜揚工房をつくったという経緯がある。

通常、漁港の近くは漁師の縄張りなので、新しい事業者が入ってくるのを極端に嫌うものである。でも石田さんは漁師たちと長年の信頼関係があったので、漁港の近くに釜揚工房をつくることができた。「石田さんがやるなら、うちで獲れたしらすは全部任せるよ」と言われるほどの人物なのだ。


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釜揚げしらすを仕込んでいる石田さん

そんな石田さんと話をすると皆がファンになる。だれとでも分け隔てなく、愛嬌たっぷりに接する石田さんはかっこいいのだ。ぜひ茅ヶ崎に来たときは石田さんに会いに行き、会話をして、釜揚げしらすを食べてみてほしい。それだけで茅ヶ崎のことがちょっと好きになるだろう。


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笑顔の石田さん

 

  • 茅ヶ崎イシラス
    • 茅ヶ崎市南湖 6-18 -3
    • 0467-39-6935
    • 営業時間 : 10時~16時
    • 定休日 : 不定休
    • 公式サイト
    • Facebook

 

 

魚屋「魚卓」の浅見さん

あなたが住む街に獲りたての地魚が並ぶ魚屋さんはあるだろうか。地域の魚屋さんが減り続けていることは国の統計データからも明らかだ。だから近所から姿を消してしまったと感じる人は多いだろう。だからこそ余計に、この時代に新鮮な地魚が買える魚屋さんがあるとありがたみを感じられる。

茅ヶ崎駅南口から海に向かう道は、かつて加山雄三さんが暮らしていた家があったことから「雄三通り」と呼ばれている。茅ヶ崎駅を降りて雄三通り歩き出すと、海のほうから「いらっしゃいませーーー」と、元気な声が聞こえてくる。そこが魚卓だ。茅ヶ崎の地魚を買いたければ魚卓に訪れるのが最も近道だろう。


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魚卓の商品は一日のなかでどんどん変化していくから楽しい

一般的なスーパーでは売りやすい魚しか扱わないことが多い。だからスーパーの鮮魚コーナーはどこにいっても同じ魚しか見ることがない。でも魚卓ではたくさんの種類の魚を見ることができる。

朝に行けば朝獲れの魚が買えるし、午後に行けば午後獲れの魚が買える。いつ行っても獲れたて、切りたての魚が並んでいる。


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次から次へと多様な商品が置かれていく

魚卓の魅力はその魚だけではない。茅ヶ崎生まれ茅ヶ崎育ち、中学卒業後から鮮魚店で働く浅見さんの存在である。浅見さんが店頭に立つと、道行く人が次々に声をかけていく。もしかして茅ヶ崎の人はみんな友達なのかな? と錯覚するような光景である。それほど、浅見さんは地域から好かれている。


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左が魚卓の浅見さん。右が茅ヶ崎の人気アイスクリーム屋Plenty’sの長谷川さん

浅見さんはお客さんと会話をするのが大好きなので、ぜひ魚卓に行ったときは話しかけてみてほしい。「SUUMOタウンの記事読みました!」と言えば、必ず笑顔で会話をしてくれるだろう。私は普段から浅見さんと仲良くさせていただいているが、商店街の魚屋さんと仲が良いというのは魅力的な暮らし方だとつくづく思う。


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「いらっしゃいませーーー」

 

 

 

多国籍創作料理店「クーカイ」の裕三さん

まずはとにかく、この写真を見てほしい。


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空海サラダ

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ずわい蟹とふわふわ玉子の炒飯

どうですか。うまそうでしょう。魚介の素材を最大限引き出す料理が食べられる多国籍創作料理店が、arecole cuisine クーカイだ。クーカイという店名は「空海」という茅ヶ崎らしい情景からきた説と「アレコレ、食うかい?」というシャレからきた説がある。

クーカイで出される料理はとにかくうまい。アレもコレもうまい。料理人の裕三さんは鮮魚店で生まれ育ったので魚の目利きには絶対の自信をもっている。さらには板前修業をしていたので魚の扱い方も超一流。前職の料理店ではメニュー開発をしていたので創作料理のプロフェッショナルでもある。


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包丁を握る裕三さん

先ほど写真をお見せした「ずわい蟹とふわふわ玉子の炒飯(通称カニチャー)」は、実は裕三さんが前職で考案した人気メニューだった。しかし辞めた後にだれもその完成度を再現することができず、結局クーカイでもつくることになったという逸話がある。もしあなたがInstagramを利用しているならば、ぜひ一度#カニチャークラブで検索をしてみてほしい。カニチャーのファンたちのうれしそうな顔がそのおいしさを物語ってくれる。


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この光に吸い寄せられるようにお客さんが来店していく

検索してくれた人は気づいたと思うが、このお店にはその料理とともにファンがついているマダムがいる。マダムは進化し続けるクーカイを発信するだけでなく、お店の顔としての役割を担っている。毎日毎日クリエイティブな発信を続けるマダムの尽き果てることのない遊び心を、ぜひ見逃さないでほしい。


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グラス越しのマダム

 

 

 

まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ

私は茅ヶ崎の商店街の活性化をお手伝いしている関係で、茅ヶ崎で暮らす人や働く人からお話を伺う機会が多い。そんな私が感じる茅ヶ崎の人たちの特徴は、「コミュニケーションが気持ち良い人が多い」ということだ。

基本的に心がオープンな人が多いので、初対面でもすぐに打ち解けられる。茅ヶ崎にはローカル感漂うお店がたくさんあり最初は入るのにためらうが、一度入ってしまえばすぐに打ち解けられる。ゆったりとした空気感がそうさせるのか、そもそも茅ヶ崎が好きになるような人にそういうタイプが多いのか、どちらが正解なのかは分からない。


まだ茅ヶ崎に行ったことのないあなたへ。疲れていたり、余裕がなかったり、もしくは単に潮風を感じたくなったら、茅ヶ崎でゆっくり過ごしてみてはどうだろうか。茅ヶ崎の波は荒々しくないので音が心地よい。そんな波の音を聞きながら砂浜に座ってサーファーや犬の散歩をしている人たちを眺めるだけで、気持ちがリセットされるはずだ。

ちなみに茅ヶ崎は東京から遠いところだと思われているが、実は新宿駅や東京駅から1時間程で行ける街だ。圏央道が開通したことで、埼玉からも行きやすくなった。ゆったりとした空気感のなか、おいしい海の幸でも食べつつ、ゆるくてすてきな人たちと接するということを、次の休日にでもやってみませんか。


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茅ヶ崎の海辺

 

 

画像引用元

www.ekiumi.com


・茅ヶ崎イシラス

www.ekiumi.com


・魚卓 本店

www.ekiumi.com

茅ヶ崎ローカルファーストジャーナル 第8号


・arecole cuisine クーカイ

www.ekiumi.com



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著者:小野寺 将人

小野寺 将人

1986年生まれ、2015年茅ヶ崎市に移住。ご縁あり、茅ヶ崎のローカルインタビューメディア「エキウミ」、茅ヶ崎の駅近&海近な「東海岸商店会」の公式サイト、茅ヶ崎産の専門通販サイト「茅ヶ崎しらす」を立ち上げる。その他、ハンドメイドアクセサリーブランド「m'no【エムノ】」の公式サイト管理なども行う。本業は総合ポータルサイト運営会社にて、ビジネス企画系の仕事に従事。

Twitter:@roolues  Facebook:小野寺 将人 Blog:茅ヶ崎のまさと