ⓒ高橋陽一/集英社
東京都葛飾区の西部に位置する四つ木。
地名だと「つ」は平仮名だが、京成押上線の四ツ木駅の「ツ」はカタカナ。
そんな四つ木に生まれ育ち、30歳くらいまで住んでいたライターの小堺丸子さんに、京成線と並行して走るJR総武本線の新小岩駅近くに住んでいたことがある私を案内してもらった。
四つ木は『キャプテン翼』の街になっていた
押上駅から京成押上線に乗り換えて、各駅停車で三駅先の四ツ木駅へと向かう。
久しぶりに車窓から見る荒川は(私が知っているのは2キロほど南を走る総武本線からの景色だが)、相変わらず広くて穏やかだった。
新小岩に住んで、飯田橋や五反田へと通勤していた頃を思い出す。たまにシジミ漁をしているらしき船が見えたのだが、今も漁師さんはこの川にいるのだろうか。
川を越えると街の雰囲気が変わる気がする
目的地である四ツ木駅で電車を降りると、今も大人気のサッカー漫画『キャプテン翼』の絵が、すべての壁を覆い隠す勢いで貼られていた。
さらに列車接近を知らせるメロディは、ついつい口ずさみたくなる『燃えてヒーロー』。
そういえば、四つ木は『キャプテン翼』推しの街だと小堺さんから聞いたことがあるぞと思い出したが、まさかここまで翼くんだらけだとは。ちなみに連載開始は1981年である。
すっかり大人になった翼くんたちが出迎えてくれた ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
この足の振り上げ方、懐かしい! ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
ついつい全部の絵をチェックしてしまうので、なかなか階段を降りられない ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
ようやく降りて振り返ったら若林くん ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
改札階に降りてもこうですよ ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
カール・ハインツ・シュナイダーやヘイマン・カルツという名前がスッと出てきてびっくりした ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
等身大の翼くん人形や木像、そして作者である高橋陽一先生のイラストや有名サッカー選手のサインなどもあり、駅からなかなか出られない ⓒ高橋陽一/集英社
「キャプテン翼銅像めぐりマップ」をゲット。中沢さんが葛飾区応援団長になっている!ⓒ高橋陽一/集英社
ここが最寄り駅の人にとっては、これが日常の景色なのか。
久しぶりに触れた『キャプテン翼』の世界観にすっかり盛り上がってしまい、駅構内からなかなか出られず、うっかり待ち合わせ時間を少しオーバーしてしまった。
やばいやばいと改札を出た先で小堺さんと合流。どうやらうろうろしている私を、しばらく観察していたらしい。
四つ木を案内してくれる小堺丸子さん ⓒ高橋陽一/集英社
小堺丸子さん(以下、小堺):「なかなか出てこないなーって見ていた。降りてきた階段でシュナイダーくんがシュートしているでしょ。そのボールが駅前のファミリーマートの看板にめり込んでいるんだよ」
なにをいっているんだと思ったが、本当にそうなっていた。すごい威力のシュートである。ちょっと迷惑な気もするけれど。
いやあ、楽しい。まだ駅とその前のファミリーマートしか見ていないけれど、もう四つ木まで来た甲斐があったなと感動している。
四ツ木駅の入口。階段からシュナイダーくんがシュートをしている ⓒ高橋陽一/集英社・キャプテン翼シーズン2 ジュニアユース編製作委員会
向かいのファミリーマートの看板に直撃!
せっかくなので『キャプテン翼』の銅像めぐりをする
小堺:「どこを案内しようか迷っていたんだけど、『キャプテン翼』が好きだったら、銅像をめぐりながら歩こうか」
駅でもらったキャプテン翼銅像めぐりマップを開くと、四ツ木駅をスタート地点として、京成立石駅方面に9個の銅像がマッピングされていた。
そしてそのゴールは、葛飾区役所の近くにある南葛飾高等高校。
南葛飾……南葛……あ!
小堺:「知らなかった? 作者の高橋陽一先生が四つ木出身で、南葛飾高校出身だから『キャプテン翼』の舞台の名前が南葛市なんだよ。その場所はサッカー王国の静岡らしいけど。
10年くらい前から、急に翼推しの街になったんだよね。私も超ド世代だから『キャプテン翼』はもちろん知っていたけれど、作者の高橋先生がここの出身だとは知らなかった。
最初に翼くんの銅像が四つ木つばさ公園にできたんだけど、それを記念して北星鉛筆っていう地元の有名な文具メーカーの鉛筆が配られるっていうから、もらいに行ったのを覚えているわ」
ちょっと調べてみると、2013年に大空翼の銅像が建立され、翌年には石崎くんや日向くんの銅像も作られ、2019年に四ツ木駅がこのように生まれ変わったようだ。
全部はちょっと回れないけど、5番の中沢さんまでなら行けるかな。PDFはこちら ⓒ高橋陽一/集英社
南葛という名前は南葛飾高校から来ていたのか。その近くにある清和小と日向くんがいた明和小との関連を高橋先生に伺いたい
四ツ木駅を出て線路の南側の道を立石方面に歩いていくと、最初の銅像が見えてきた。
顔面ブロックの石崎くんだ。修哲小学校の「とりかご」を打ち破る名シーンが脳内で自動再生される。
銅像のサイズは想像していたよりもコンパクトだったが、これまで漫画やアニメといった平面でしか存在しなかったキャラクターが、こうして立体になっているだけで、もうありがたい。
小堺:「『キャプテン翼』目当てっぽい外国人観光客も結構いるよ。外国のサッカー選手も、『キャプテン翼』に憧れていた人がたくさんいるらしいからね」
『キャプテン翼』を全巻読み返したくなってきた ⓒ高橋陽一/集英社
小堺:「線路を潜った先にあるのが四つ木公園。ここは日向くんの銅像があって、指先に落とし物の帽子とかがよく掛かっているんだよ」
――確かになにかを掛けたくなる。日向くん、役立っていますね。
小堺:「実家の犬がまだ生きていた頃、よく散歩に来ていた思い出の場所。昔は将棋とか囲碁をやっているおっちゃんがよくいたなあ」
――私が20年くらい前に住んでいた新小岩の公園にもいました。
小堺:「公園の奥に四つ木富士っていうのがあって、子どもの頃によく登ったのよ。そこから滑り台で降りて、その先にある擬木に登るのが楽しいから、とりあえずやろうか!」
四つ木公園の日向くん。この袖のまくり方を真似しているやつがいたよね ⓒ高橋陽一/集英社
海抜3.7m。実際に1021回登った人はいるのだろうか
これが四つ木富士。ここでギターを弾いている女子高生がいて、とてもエモかったそうだ
四つ木富士から眺める東京スカイツリー
お城みたいな建物は、石崎くんの実家のモデルにもなった竹の湯という銭湯とのこと
大人には若干狭い滑り台を躊躇なく滑っていった
そして一気に擬木を駆け上る
喉が渇いたのでジュースを買おうとしたら、いたずら禁止の張り紙が
タヌキが葉っぱをお金に化かしてジュースを買おうとしたのだろうか
まいろーど四つ木商店街を散歩する
四つ木公園から荒川方面へと進み、まいろーど四つ木商店街へとやってきた。
京成立石駅方面へと延びる長い商店街なのだが、道路拡張工事の影響もあるようで、賑やかとはいえない状況のようである。
小堺さんにとっては思い出の場所で、初めてバイトをした焼肉屋や、インターネット初心者すぎて散々迷惑をかけたパソコンショップ(画像の拡張子を消してアップしてしまったり)などがあったそうだ。そんな小堺さんだが、現在の本業はIT企業の会社員。
駅から少し離れたところから始まる、まいろーど四つ木商店街。街灯にサッカーボールがさりげなく設置されている
もちろん営業している店もあるが、閉店してしまったところも多いようだ
カメラ屋さん、昔はどこの商店街にも必ずあった
道路拡張工事のため、少し下がって建て直された家や店が並んでいるが、まだそのままのところも多い
三つ目の銅像を目指して、四つ木つばさ公園へ ⓒ高橋陽一/集英社
公園に設置された等身大の翼くんの前には外国人グループが。海外から『キャプテン翼』を目当てに来たのだろうか ⓒ高橋陽一/集英社
Tシャツの袖を押さえたポーズをしている翼くん。小堺さん曰く、キャプテンマークをつけるシーンではとのこと ⓒ高橋陽一/集英社
線路脇に、この銅像前にみんなが集まる描き下ろしイラストがあるよ ⓒ高橋陽一/集英社
小堺:「私が子どもの頃、それこそ京成線が高架じゃなくて地面を走っていた時代(平成11年に高架化)は、駄菓子屋とかゲームセンターとかもあって賑やかだったんだけど、だいぶ潰れちゃった。八百屋、魚屋、本屋、なんでもあったのに。
空き家になって、駐車場になって、いつのまにかマンションが建っている」
――お店は減っていっても、マンションは増えるんですね。
小堺:「都市開発ってものすごい長い年月がかかるから、当初の計画から時代が変わってしまって、うまくいっていない部分もあるのかな。最近のホットニュースは、『まいばすけっと』という小型スーパーのマーケットがオープンしたこと。
四つ木は飲食店が少なくて、友達とかと話す場所がないのが弱点。駅前にチェーンの喫茶店とか一軒もないし、どうにか残っている昔ながらの喫茶店も18時半とかにしまっちゃう。もし四つ木にスタバができたら大事件だね。昔は駅前のファミマもなかったんだから。
ファミレスも駅前に全然なくて、唯一徒歩圏内にあるのがヨーカドーにあるサイゼリヤ。あそこを徒歩圏内といっていいのか微妙だけど。
四つ木にヨーカドーができた当時は大ニュースだったんだよ。中学生のときだったから、もう30年くらい前か。この辺の人全員が行ったね。日本テレビの24時間テレビの中継地にもなって、赤井英和が募金を集めていた。
当時は洋服を買える店なんて限られていたから、みんなここで服を買う。だから友達と服がかぶるっていうのがたまにあって、あれ恥ずかしいよねー」
『キャプテン翼』の銅像の除幕式で記念鉛筆を配布した北星鉛筆。鉛筆資料館『東京ペンシルラボ(TOKYO PENCIL LAB.)』の見学ができるそうだ
――ご両親の出身も四つ木なのですか。
小堺:「父親が新潟、母親は茨城から出てきた人で、家を買ったのが四つ木。なんで四つ木にしたんだろ。比較的安かったのかな。
私はここで生まれ育ったんだけど、どこか田舎者というイメージがあった。あか抜けない感じ。地方出身の人から『東京生まれってすごいね!』とか言われるけど、みんながイメージする東京と全然違うから。
このあたりは小さい工場が多い地域で、私が小学校の頃のクラスメートにもそこの子がたくさんいた。もうなくなった工場も多いけど、継いだ人も何人かいるかな。
平和でいい街。落ち着いて住めるのが四つ木。ここに生まれて、ここに残る人は意外といるのかも。実家を出ても近くに住む。私のお兄ちゃんもそう」
――住んでいる人にとっては、四つ木から出る必然性を感じないんですかね。住めば都というか。下町といっても立石ほど飲み屋街があるという訳でもない。でも住むのであれば、これぐらいがちょうどよいのかも。行こうと思えば立石も歩いて行ける距離だし。
「ほら、ビル毛!」と指を伸ばす小堺さん
ビルの屋上からはみ出ている植木などをビル毛と呼んで鑑賞しているそうです
――京成線の使い道はどうですか。僕も葛飾区に住んでいたけれど、新小岩だったのでJRしか使わなくて。
小堺:「結構便利。都営浅草線に乗り入れているから、浅草、銀座(東銀座)、新橋まで一本だし。お正月とか親に連れられて行く映画とか買い物は銀座が多かったかな。四つ木の住民は上野とか銀座に行きがちで、ずっと新宿とか池袋は未知の世界だった。
東京方面に乗れば三駅でスカイツリーのある押上駅でしょ。そこから乗り換えれば羽田空港へもすぐ。千葉方面に乗れば、すぐ隣が京成立石で、その隣の青砥で乗り換えると成田空港にアクセスできる。
それもあって民泊用の家が増えたみたいで、キャリーバッグを引っ張っている外国人をよく見るようになった。浅草とかも近いし、海外からの観光客には人気なんだろうね」
ロベルト本郷が近くにいれば、私も翼くんのようになれただろうか ⓒ高橋陽一/集英社
お味噌屋さんで昔の話を伺う
道路拡張の影響で立て直しをしたという、お味噌屋さんのまるさ坂本商店で、賑やかだった頃の四つ木の話を伺うことができた。
小堺さん曰く、「このあたりは四つ木のおしゃれエリア」だそうです
「あま酒くださーい」と入って、そのまま取材交渉をしてくれた
店主:「この店は70年前の昭和29年に創業して、平成30年に道路拡張工事で建て直しました。創業前の話だけど、大正12年まではここの通り(まいろーど四つ木商店街)が線路で、すぐそこに四ツ木駅があったんですよ。
戦後は葛飾の中では四つ木が一番盛り上がっていました。なにしろ燃えなかったから。震災の影響も少なかったし空襲も受けていないので、墨田区の方が川を渡ってたくさんやってきたんです。商店街もすごく盛り上がっていて、スマートボール屋さんとかビリヤード場に釣り堀、映画館が3軒もあって。
4がつく日は西光寺さんの縁日で、参道からうちの前まで露店が出ていていたから、電気を貸してね。それこそ金魚屋さん、植木屋さんも来ていたし。賑やかな町でしたよ、本当に。
このあたりはセルロイドの工場がたくさんあったけど、火事になることが多く、数がだんだん減っていった。工場があったからこその商店街だったんだけどね」
店の前の道路。昔はここが線路だったとは
「道路の拡張工事で建物を下げないといけなくなって、うちみたいに奥に長かったところは建て直せたけれど、普通はそんなに奥行きがないでしょ。後ろにも家があるから下がる訳にも行かないので、じゃあさよならって。同じ場所に建て直せた人の方が少なかった。
私たちより10歳くらい上の世代が多かったけれど、その年で引越さないといけないから、皆さんお気の毒でしたけどね。
先輩達からは『建て直すならよく考えてないと。他の店が無くなるということは、お客さんの足も遠のくよ。いっぱい店があるからお客さんも来ていただけるんだよ』と言われて。
まさにその通りで、ほとんど人が歩かない通りになってしまった。目の前のパチンコ屋さんも潰れたし、新しく建つのはワンルームのマンションばかり。寂しいですね、全然変わっちゃいました」
建て替え前の様子が載っている本をみせていただいた
荒川河川敷を散歩する
まるさ坂本商店で甘酒を買わせていただき、そこから昔は線路だったという道を東に進んでいく。ここが線路だったと知ると、少し景色が違って見えた。
このまま進むと京成立石駅方面だが、平和橋通りで左折して、イトーヨーカドーを眺めつつ、国道6号線の脇を通って荒川河川敷へと向かった。
この道路の拡張工事が終わるのはもう少し先の話なのだろうか。その頃はどうなっているのだろう
川魚を扱う店はいつ頃まであったのか
そして葛飾郵便局前で待ち構えていた『あねご』こと中沢早苗。三次元の体と二次元の旗の融合だ ⓒ高橋陽一/集英社
小堺さんはキャプテン翼サブレを配るのが趣味だそうで、イトーヨーカドーの店内にあるパティスリーコトブキで買ってくれた ⓒ高橋陽一/集英社
四つ木といえば首都高の看板でよくみる地名だ
四つ木めだかの小道という遊歩道から土手を目指す
よく犬の散歩をしていたという道を上がっていく
川は二本が並行に流れており、手前の細い方が綾瀬川、広いのが荒川
小堺:「私が子どもの頃は、この土手のアスファルトのところが全部草で、バッタとかカマキリをよく捕まえていた。カマキリは苦手なんだけどさ。
近くに川原があるのはいいよね。犬の散歩をしたり、走ったりできるから。
この土手から隅田川の花火が見えるんだよ。ちょっと小さいけど。混雑が嫌な人がここからのんびり眺めている」
たくさんの思い出があるという荒川河川敷
綾瀬川の向こうに四ツ木駅が見えた。この角度から見ると、すごく川沿いの場所に駅があることがわかる
この土手に座り込んで隅田川の花火大会を眺めるのは気持ちよさそうだ
上りと下りの電車が同時に通り過ぎて行った
小堺:「お店が減って寂しい部分もあるけど、四つ木はいい街だよ。観光客の来る街じゃないかもしれないけれど、また『キャプテン翼』の像めぐりをして、お味噌やサブレでも買って、駅前の銭湯に入っていってよ」
壁に富士山が描かれている竹の湯で体を温めてから帰った。コンパクトな露天風呂が気持ち良かった ※竹の湯は4月から休業中でしたが、2025年4月9日に廃業が発表されました
『キャプテン翼』に少なからずの思い入れがある世代にとって、四つ木は訪れる価値のある街だと思う。
そして街の緩やかな新陳代謝を見守りながら、この地に住むのもいいなと思った。
【いろんな街で捕まえて食べる】 過去の記事
著者:玉置 標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。同人誌『芸能一座と行くイタリア(ナポリ&ペルージャ)25泊29日の旅日記』、『伊勢うどんってなんですか?』、『出張ビジホ料理録』、『作ろう!南インドの定食ミールス』頒布中。
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