私たちは、ちょっとだけ下北でできている。|文・かりん&ほのか(ゆとたわ)

書いた人:かりん&ほのか(ゆとたわ)

都内で働くOL(かりん・ほのか)によるトークユニット。2017年のクリスマスから、“スタバで聞こえるOLの会話を盗み聴きできる”というコンセプトのポッドキャスト番組「ゆとりっ娘たちのたわごと(ゆとたわ)」を開始し、毎週配信中。

3年前の2月、私たちは下北沢に部屋を借りた。住むためではなく、週末にポッドキャストを録るためだ。ポッドキャスト自体は2017年のクリスマスからやっているのだけれど、コロナ禍で場所が借りられず、収録場所を探して転々としていた。

そんな中、偶然見つけたのが、通称・ゆとたわハウス。和室六畳二間、風呂なし、虫の訪問客多め。それでも毎週末、ふたりでおしゃべりできる場所ができて、大人の秘密基地みたいでうれしかった。


ゆとたわハウス入居直後の写真

そんな私たちが毎週末やっている下北ルーティーンを、思い出とともに振り返ってみることにする。

日曜日の午後、東口で待ち合わせる

ここのところ下北沢は再開発が進み、出口がたくさんある。方向音痴の私たちは、迷わないようにいつも東口で待ち合わせるようにしている。

ところが、毎週同じ場所で待ち合わせているのに、すぐに出会えたためしがない。あまりの人の多さにお互いを見失い、到着してから3分くらいは「どこにいる?」と彷徨うところまでがいつもの流れだ。

どうにか合流して、まずは腹ごしらえ。駅前のピーコックがあるビルの上に、「清龍苑」という中華さんがあった。


閉店した清龍苑

集合してもお互いに空腹のときに、「とりあえずここに入ろうか」と第一候補にあがる馴染みの店。こういう店は、知らず知らずのうちに生活の一部になっていく。

だからこそ、ビルが取り壊されてなくなってしまうと知ったときはショックだった。いつまでもあると思っていたものが、実はそうじゃなかったと気づかされたとき、なんとも言えない切なさが押しよせる。

下北でいちばん賑やかな夜とチャーハン

下北沢の思い出の中で、いちばん賑やかな夜だったのが、このビルの3階にあるイベントスペース「しもきたドーン」でやった大声ライブだ。芸人のカナメストーンさんに来てもらい、一緒に大声を出す練習をした。


大声ライブでカナメストーンさんとはしゃぐ

お客さんの前に出る体験は、緊張感と幸福感の入り混じる何にも代えがたいもので、いまでもときどき寝る前に反芻する。

そういえば、このライブの前にも清龍苑でチャーハンを食べた。ここの中華はいつだって、思い出とセットになっている。

不思議な不動産屋さんが導いてくれたご縁

お腹が満たされたら、コンビニでお菓子と飲み物を買い込んで、いそいそと部屋へ向かう。

黄色い看板が目印の不動産屋さん・共楽商事の前を通ると、毎回「ここに偶然入らなかったら、私たちはいま下北にいないよね」と確認し合う。


下北にある不動産屋さん・共楽商事

そう、何を隠そういま私たちが借りている物件は、ここ共楽商事で見つけたものなのだ。
よい物件がなくてふらふらと下北沢の街を彷徨っていたとき、ふとこの黄色い看板が目に入った。

なんとなく入ってみようかと思い立ち、おもむろに扉を開けると、昔ながらの不動産屋さんの光景が広がっていた。あまりにも外の世界とミスマッチで、なんだか奇妙な世界に迷い込んだ気持ちになり、私たちはゆっくり顔を見合わせたのだった。

けれど、ひとたび条件を伝えると、すぐさまぴったりの物件を紹介され、とんとん拍子で契約が決まって今に至る。こういう経験をすると、縁というものはほんとうに実在するのだと、つくづく思う。

六畳二間におしゃべりがぎっしり詰まってる

ゆとたわハウスに着くやいなや、まずこたつのスイッチをつける。ハウスの中は、夏は蒸し風呂のように暑く冬は山小屋のように寒いので、冬場のこたつはオアシスだ。

適当にお菓子を開けて、機材を立ち上げ、マイクをセッティングする。このあたりの動作は完全にルーティーン化していて、どちらともなく勝手に動くようになっている。

ただ、ここからが私たちの持ち味(?)で、準備ができてもなかなか録り始めない。誰に聴かせるでもないとりとめのない雑談を、収録せずに数時間近く喋るのだ。
「今日も下北は祭をやってるな」「最近カレーばっかり食べてるかも」「あのドラマ、最新話観た? やばかったよね」「さっき駅前ですれ違った犬が可愛すぎた」などなど...。

他のポッドキャストをやっている人たちには、「なんて時間の無駄なんだ! それを録ればいいのに!」と驚愕されることが多いのだけれど、この無駄な雑談が意外と私たちにとって大事な時間になっている気がして、なかなかやめられないでいる。

ひとしきりしゃべり終えたら、「よし、録るか」。そう言って、ようやく録音ボタンを押す。


ゆとたわハウスでの収録風景

私たち以外の人からすれば、収録前の雑談とほんとうに何も変わらない雑談を、今度はマイクにのせてしゃべる。「あんまり盛り上がらないかもね」なんて心配していたテーマでも、気づけば1時間以上話していたりする。

これを、誰に言われるでもなくもう8年近く毎週続けていると思うと、けっこうすごいことだよな、と我ながら感心する。

石川湯は第二のおしゃべり地帯

収録が終わると、銭湯へ向かう。ゆとたわハウスにはお風呂がないので、泊まる日は銭湯へ行くのが習慣なのだ。

向かう道の途中に、「一本松公園」という小さな公園がある。以前ハウスで収録するのに飽きて、この公園で収録したことがあった。のどかな住宅街にひっそりと佇んでいて、適度な環境音が入るので、外での収録にはうってつけなのだ。

ただ不思議なことに、なぜかその日は大量のハトが滞在していて、収録している私たちのほうをじっと見てくるという事件が起きた。ハトの大群に恐怖する私たちの様子が収録され、思いがけず、世にも奇妙なハト回が配信されたのだった。それ以来、この公園をハトの公園と呼んでいる。


石川湯

下北沢にある銭湯・石川湯に到着。石川湯は昔ながらの銭湯で、番台で下駄箱の鍵とロッカーの鍵を交換するスタイルだ。

中に入ると、昭和レトロな大浴場が広がっていて、奥にはぶくぶくと泡が立つ大きな湯船がある。最初のころは、常連さん独自のルールがあるんじゃないかもしれないと怯えて、おそるおそる入っていたけれど、最近はすっかり慣れて、悠々自適に湯船を楽しんでいる。

ちなみに、ここのドライヤーは3分で20円。なかなか1回じゃ乾かない。時間に余裕があるときは2回戦に突入するが、だいたいは半乾きのまま帰ることになる。

帰り道。タオルを首にかけ、お風呂道具をもって歩きながら、収録ではなかなか話せないプライベートなおしゃべりをする。お風呂の帰り道は、なぜだかいつも赤裸々な話がしたくなるのだ。

途中でコンビニに寄って、「このコンビニはアイスの品揃えのセンスがいい」なんて言いながら、その夜の気分にぴったりのアイスを買うまでがセットだったりする。

5月花火と弾丸鰻


花火

夜の散歩といえば去年の初夏、公園に行って花火をした。「5月のちょうどいい気候のなかで花火をしたら、虫もいないし気持ちいいかも!」という思いつきで決行した5月花火は、最高の企画になった。

下北沢から梅ヶ丘にある「羽根木公園」まで歩く。片道20~30分。ちょっと遠いかなと思ったけど、花火セットを持って静かな夜道をゆらゆらと散歩する。


花火は想像以上にあっという間で、1時間もしないうちに全部終わってしまった。そのあっけなさも含めて楽しかった。

大人になっても、こんなふうに大人だけで花火を楽しむ未来があるなんて、子どものころは思ってもみなかった。大人はもっと賢くて、まじめで、完璧なのだと思っていた。

でも、実際に大人になった私たちは、驚くほどなんにも変わっていない。表面だけ大人になって一丁前に見せていても、内側はどこまでもあの頃のままだ。そのことが少し恥ずかしくて、うれしい。


鰻屋さん「世田谷 宮川 本店」

花火をした帰り道、偶然見つけたうなぎ屋「世田谷 宮川 本店」に入った。歴史を感じつつも手入れの行き届いた外観をひと目見て、「ここ、絶対おいしいはず!」と謎の自信がわきあがった。もしかすると、花火の熱にやられて、いつもよりチャレンジングな気分になっていたのかもしれない。

実際店内に入ると、田舎にあるおばあちゃんちにはるばる遊びに来たようなどこか懐かしい空気が漂っていて、導かれるように瓶ビールを頼んだ。

ここの看板メニューだと案内された二色鰻重はびっくりするほど身が詰まっていて、「やっぱりね」なんて言いながら夢中でほくほく食べた。あまりにも美味しいから、つい無言になってしまう。

スマホに頼らず、いいお店を引き当てたときの幸せは、いつだって格別だ。

ルックアップコーヒーで朝食を

下北には、居心地のいいカフェや飲食店がたくさんある。お昼をがっつり食べたいときは「とん水」のとんかつか、「シモキタシュリンプ」の天丼を。ちょっとコーヒーを飲んで一休みしたいときは、「BEAR POND ESPRESSO」で温かいラテを買ってハウスでくつろぐのが定番。

ハウスに泊まった翌朝は、モーニングを食べて解散するのが私たちの下北ルーティーンの締めになっている。
「ミクスチャー」というパン屋さんのモーニングはゆで卵までついているので、お腹を空かせたブランチにはぴったりだ。

そんな中、最近のお気に入りは「ルックアップコーヒー」のアボカドのタルティーヌ。

アボカドのタルティーヌ

このカフェ自体は以前からよく使っていて、コーヒーがとても美味しい。ただ、モーニングをやっていたことはつい最近まで知らなかった。
ある日、いつものようにハウスに宿泊した朝、ルックアップコーヒーが賑わっているのを発見した。えらくお腹をすかせた私たちは「もしかして、朝ごはんがあるのでは!?」と、美味しい朝食の気配をめざとく嗅ぎつけたのだ。それが、私たちとアボカドのタルティーヌとの運命の出会い。

上にのっているのは塩昆布なのかキノコなのか、はっきりわからない何か。でも、無性に美味しい。私たちは、よくわからないものを「まあ、うまいならいいか」と受け入れるタイプである。だからポッドキャストを8年も続けているのかもしれない。

今、7分の1を下北沢で生きている

私たちは下北沢に住んでいるわけではない。週のほとんどは別の場所にいて、違う時間を生きている。

それでもこの3年間、週に1日だけ、こうして下北沢の風を浴び、この街のなかで生きてきた。知らない街だったこの場所が、じんわり自分たちの居場所になっていく。

「カフェ ヴィエット アルコ」は、リスナーに教えてもらってから、すっかりお気に入りの場所になった。打ち合わせのたびに足繁く通っていて、この場所で生まれた企画や雑談がたくさんある。

誰かに手土産を買うときは、決まって昔ながらのせんべい屋「玉井屋」で。

BONUS TRACKにある日記専門店「日記屋」で出合ったエッセイがきっかけになって、リスナーから日記を送ってもらうコーナーが誕生したことも。

こんなふうに、下北沢をアナザースカイで紹介したいくらいには、すっかり第二の故郷になりつつある。

著: かりん&ほのか(ゆとたわ)

編集:小沢あや(ピース株式会社