僕が「ぜひ魚沼に訪れて第二の故郷にしてほしい」と言うほど地元が誇らしい理由|文・おばたのお兄さん

著: おばたのお兄さん 

風景画にしやすい街、魚沼

「出身は、新潟県の魚沼市というところです」と僕が言うと、「あ、お米の!コシヒカリだ!」と返ってくる。このような会話を生涯何度も何度もしてきた。出身地を言ったときに、そこがどこか、何が名産かパッと出てくる地域に生まれ育ったことを僕は心の底から誇りに思っている。

こんにちは、新潟県魚沼市出身のお笑い芸人、おばたのお兄さんです。

魚沼特使でもある僕が、地元の魅力を読者の皆さんにお伝えしたいという想いで今、筆を走らせています。すみません、嘘をつきました。スマートフォンの画面上に、人差し指を走らせています。指紋が削れないように、時に中指に変えたりもします。新幹線で東京から新潟に向かいながら。

「魚沼市」と聞いて、どんなイメージをもつだろうか。経験上よく言われるのは「お米がおいしい」「お酒がおいしい」「水がきれいそう」「田んぼだらけ」などなどであるが、全くもってそのとおりである。

今日のこのエッセイでは、「魚沼市の街の魅力」と「お酒」について特筆しよう。

魚沼市を訪れる芸人仲間は皆「めちゃめちゃ素敵な風景」「好きな田舎ランキング1位だわ!」と言ってくれる。僕の妻であるフジテレビアナウンサーの山﨑夕貴も、魚沼が大好きである。好き過ぎて、僕が仕事の都合で行けないのに、僕の実家に妻だけで行ってしまうほどだ。

皆がそのようにいう理由として、僕が思うのは「風景画にしやすい街」ということ。

つまりは空、山、川、田んぼ、冬は雪景色のバランス、調和が素晴らしく取れているのだ。

まず、「空がきれいとはどういうこと?」と思う方もいるだろう。魚沼の空は、とても青くて広い。僕は東京に住んでかれこれ16年になるが、快晴の日の空の色が「地元魚沼よりも青くないなぁ、空が狭いなぁ」と思うことがよくある。

東京はどこもかしこも高い建物があって、空を見上げてもビルなどの高い建物が必ず視界に入ってくる。純粋な空を楽しめない。だから空が狭く感じる。しかし魚沼はそのような状況はまずない。魚沼は空気が澄んでいて、その分空も青く美しいのだ。

そしてその青空に色を差すように、背の高い山々がそびえ立つ。魚沼市からは越後三山がきれいに見えて、冬になれば雪化粧をする。

その下には田んぼ。夏から秋にかけて、こちらもまた色を徐々に変えてくれる。稲の緑色から稲穂の黄金へ。風が吹けば稲穂が奏でる音の演出も加わる。虫たちの歌声も加われば少し豪華にすら感じる。

そして、大きな川が街を流れていることから、橋も多くかかっている。橋から川を望めば、川に腰まで入り釣りを楽しむ人たちがいて、それもまたこの「キャンバス」に味が出る。前述したとおり川はきれいなので、水面がキラキラっと輝き続ける。朝昼夕と、太陽の当たり方で川の水面は表情を変える。

また、魚沼のどこもかしこもというわけではないが、早朝に山から街を望めば雲海を眺めることができる。季節でいうと秋がベストだろう。それもわざわざ登山をしなくても車で登れる山ばかりなので、気軽に雲海を楽しめる。

朝少し早起きをして、魚沼産コシヒカリでつくったおにぎりと、水筒にみそ汁を入れて山に登り、雲海を見ながら朝食をとる。これは、地元民の隠れた贅沢だ。鳥のさえずりも心地よく、深呼吸をしてきれいな空気を肺や脳に運べば、最高の一日のスタートを切れる。ただ、クマの出現にはご注意を(笑)。

地元にいるときは気がつかなかったが、この「キャンバス」はとても貴重であり、僕の中ではこれ自体が名産であると感じる。日々の暮らしの中で、自然に癒やされることは大変貴重なことなんだと、地元に帰るたびに思う。

こんな素敵な街だから、もうお米が美味しいことは納得できるだろう。そして、雪深い地、きれいな水で育ったお米からできるお酒もさぞかし美味しいのだろうと期待が高まっているのではないだろうか。その期待を裏切らないのが、魚沼の酒造たちだ。

www.niigata-sake.or.jp

「緑川酒造」。日本酒が好きな方はご存知だろうが、日本酒界ではそれはそれは優秀なお酒を輩出している酒蔵が、僕が通っていた小出高校の近くにある。余談ではあるが、あの世界の俳優、渡辺謙さまも小出高校出身で、僕の大先輩にあたる。すごいでしょ、あの渡辺謙ですよ!

「勘弁してほしいランキング第1位」の「俺の先輩すごいだろ?」自慢はこれくらいにして、「緑川」の話に戻ろう。緑川というお酒は、豪雪地帯魚沼の雪を使って貯蔵されている。

この素晴らしき地で育ったお酒の特徴は、すっきり飲みやすく、それでいて風味高く、舌の上、口の中で上品な香りと旨みが転がるような感覚があり、味わい深い。僕はよくお土産としてお世話になっている方にこのお酒をお渡しするが、まぁ間違いなく喜んでくださる。それをきっかけにこのお酒のファンになる方も少なくない。

また、地元の祝い事、祭りなどの場には必ず緑川が並ぶ。夏祭りの際には、夏限定の緑川のお酒を冷酒でキュッと飲み、陽気になるおじちゃんたちが商店街や公園に大量出現するし、冬のスキー場のカーニバルや、魚沼市で35年の歴史をもつ「国際雪合戦大会」では、熱燗にした緑川をちょびちょびと飲み、頬を赤らめた笑顔の大人たちが雪上に溢れる。

そうかと思えば、故人を偲ぶお葬式でも緑川は顔を出す。このお酒は、魚沼の人々の思い出の1ページに必ず存在し、春夏秋冬、喜怒哀楽全てに寄り添ってくれる。緑川は地元に愛され、地元以外の方に自慢できるかけがえのないお酒なのだ。

しかしこの緑川というお酒、どこでも買えるわけではない。緑川酒造さんが販売するのは正規特約店さまのみ。「本当に気に入ってくれた方のみに販売したい」というポリシーからこのようにしているんだとか。この希少性がお酒のブランド力や価値を高め、愛され、通を唸らせる理由なのだろう。

東京でたまに新潟の食に特化した居酒屋さんや、魚沼飯を食すことができるお店を見つけると「ここは緑川置いてあるかなぁ?」と期待を寄せたりする。店内に入り緑川が置いてあったときには、都会の人混みの中で魚沼の幼馴染に偶然会ったかのようにうれしくなる。

さて、緑川のことについて述べていて、自分自身へ疑問に思うことがあった。「なぜ僕はこんなにも緑川に対して思い入れが強いのだろう」大好きな地元、魚沼のお酒ということには間違いないのだが、魚沼にはほかにも優秀なお酒がある中、なぜこの緑川に対して特に熱があるのだろうか。と、記憶を巡らせて辿り着いた、一軒のお店について以下で書こうと思う。

僕の実家の近所に「松喜屋酒店」という酒屋さんがある。近所も近所、歩いて1分だ。皆さまお気づきだろうか? これにて僕の実家の所在地がほぼほぼ特定されてしまったことを。

今更そんなことはどうでもいい。地元の中高生が僕の実家の前で「ここおばたのお兄さんの家らしいよ」「え、そんなの知ってるよ」という会話を母はよく耳にするらしい。そう、もう知られているから別に今更関係ない。

話を戻そう。近所の松喜屋さんの話。

歩いてすぐのところにあり、もちろん家族全員顔見知り。僕のはじめてのおつかいは、この松喜屋さんだったような気がする。松喜屋さんのご主人は、絵に描いたようなお人好し。顔も、絵に描きやすそうなお顔。いつもニコニコ、仏のような、それでいてすごく明るい方で地域のみんなから愛される方。幼いころから僕のことを見つけると「かずきく〜ん!こんにちはー!」と笑顔で声をかけてくれて、安心感をいつも与えてくれた。

さすがこちらのご主人の奥様、奥様もまたいつもニコニコ笑顔でご主人と仲睦まじい様子が地域を明るくしてくれる。みんな大好きなご夫婦だ。そんな松喜屋さんは、いうまでもなく緑川の正規特約店である。

なんなら今は、緑川に特化した酒屋さんとなっている。店内は、老舗高級旅館のエントランスかと思うような落ち着きのある洗練された造りで、とても雰囲気がいい。以前東京から来た知り合いを連れて行ったときも「すごく素敵なお店!」と感動していた。

幼いころにはおつかいで行き、こうして大人になった今はお世話になっている方や、大切な方へのプレゼントを買いに行くようになった。緑川も数種類あるので、僕はいつもご主人に「今だったらどのお酒がいいですかね?限定のものとかありますか?」などを相談すると親身になって一緒にお酒を選んでくれる。

テレビに全く出られず稼ぎが全然ない時期は、恥ずかしながら「支払いは母ちゃんにつけといてください」と言うこともあった。それでもいつもご主人は「はーい!でも頑張ってる様子、SNSとかでチェックしてるよー!かずきくん売れそうだねー!」と言ってくれた。

僕は情けなさがある半面、ご主人のこの言葉に救われていた。テレビに出られるようになり、お酒を買いに行くと「すごい活躍だねー!見てるよー!」と、変わらない笑顔で出迎えてくれて、その笑顔が初心に戻らせてくれる。「ここは僕にとって大切な場所なんだ」と、松喜屋さんのご夫婦が感じさせてくれるのだ。

だからいつも緑川を見ると、同時に松喜屋さんのご夫婦の顔が浮かび、「また胸を張ってお店に顔を出せるように頑張らなきゃな」とエンジンをかけることができる。「緑川への思い入れは、近所の松喜屋さんへの想い入れがイコールになっているんだ」と、この記事を書き気づかされたことに感謝する。

魚沼を第二の故郷にしてもらって構わない

地元魚沼について指を滑らせたこの時間は、改めて地元を好きになった時間だった。そして、ぜひ一度魚沼市に訪れていただきたい。僕らは寛容だから、たった一度しか来たことがなくても「第二の故郷」にしてもらって結構である。そして、地元が同じ有名人いる?」みたいな会話になったとき、「渡辺謙とおばたのお兄さんがいるよ。第二の故郷に」とでも言っていただきたい。いつか緑川を飲みながら、お話しできたらうれしいです。

著者:おばたのお兄さん

おばたのお兄さん

新潟県魚沼市出身。吉本興業所属。2016年におばたのお兄さんとして活動を開始。2017年に出演した「爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル」で小栗旬のモノマネで注目を集めた。この春、舞台化された「千と千尋の神隠し」では青蛙役を演じて話題に。魚沼をPRする「魚沼特使」でもある。


編集:小沢あや(ピース)