心地いい風が吹く街、「京都・下鴨」。ここに吹く風に、私も。

著: 熊谷麻那 

f:id:SUUMO:20220111184715j:plain

はじめに

 2021年4月から、京都に住んでいる。もともと宮城からリモートで働いていた仕事を、直接肌で感じながらやりたいと思い、引越してきた。地元を離れるのは初めて。仕事のスキルアップのための京都行き。だからこの街は私にとって修業の街だった 。

 今後の文章にも関わってくるので、ここで先に自己紹介。私は、出版社さりげなくで働いている、牡羊座、23歳。宮城県生まれ。さりげなく代表・稲垣佳乃子さん(以下、かのこさん)のもとで編集を学んでいる。

気持ちのいい風が吹く場所で、学ぶこと。

 京都・下鴨の北の方に、『花辺 』という場所 がある。花辺には喫茶室と、香りの店・makaさん、 そして出版社さりげなくの事務所が入っていて、私は毎日ここに通っている。

f:id:SUUMO:20220111185026j:plain

”花辺”のハーブ園と喫茶室への入り口

 喫茶室では、毎月展示がひらかれ、魅力的な作品にいつも財布のひもが緩んでしまう。ときには演奏会があり、心地いい音楽をBGMに仕事をしたり、週末には子どもの造形広場が催され、子どもたちからエネルギーをもらったりする。仕事に疲れると、喫茶室に甘いものを食べに行く。季節のフルーツを使ったパフェとロールケーキがおすすめ。フルーツも然り、中のクリームがとびきり美味しい。

 makaさんでは、季節や体調にあったハーブティーを買うことができる。1時間ほど話し香りを処方してもらえる”調香”も、香りから自分のことを知る機会として、また、気持ちをリセットする時間として、とてもいい。花辺の真ん中は、紅葉と木蓮が咲く庭があり、気持ちのいい風が吹いている。おだやかな空気を持つ人がたくさん集まる、不思議で、おもしろい場所。

f:id:SUUMO:20220111185149j:plain

喫茶室の”桃とブルーベリーのロールケーキ”。6月ごろに食べられる

 花辺のすぐ後ろには、『茶ノ木原公園』がある。保育園の子どもたちが遊びに来たり、夜はスケボーをしている学生もいたりする。トイでないプードルも散歩している(赤子?!と見間違えるほど大きい)。仕事の合間には、ここでブランコを漕いでみたり、造形広場の子どもたちと全力で鬼ごっこをしたりする。

 公園の裏はすぐ山になっており、その山の上には『宝ヶ池』という、大きく綺麗な池がある。池には鯉と亀、白鳥のボート。一周できる散策コース。ここにも、とても気持ちのいい風が吹いている。ときさん(花辺のオーナー)が言うには、雪景色も素晴らしい、とのこと。今冬のおたのしみだ。

f:id:SUUMO:20220111185941j:plain

宝ヶ池。夕焼けが湖畔に映るのが、とても綺麗。朝焼けもいつか見てみたい

 ここは京都市の、いわゆる中心街からは離れているが、美味しいご飯屋さんがたくさんある。さりげなく代表のかのこさんとは、よく一緒にご飯を食べる。そこでは仕事の話はもちろん、最近気に入りのYoutuberの話、編み物やいい糸屋の話…、本当にたくさんの話をする。
 よく行くお店は、タイ料理『チャンノイ』や蕎麦屋『きたむら』、インド料理『チャンダー』に、焼肉『北山』『エルドール』。いずれもさりげなくのエネルギー源となってくれる場所たちだ。

 ここで突然だが、さりげなく代表・かのこさんの主な昼食を発表してみよう。
 インド料理・チャンダー:チキンカレーの辛さ3、ナンではなくご飯セット、最後にチャイ。タイ料理・チャンノイ:胃の調子が良ければトムヤムクンヌードル、最近は米粉麺の塩ヌードルとヤムウンセン。蕎麦:鴨南蛮。焼肉:タン塩、ハラミ、冷麺か石焼ビビンバ。
 毎日のように行くお店たち。すっかり覚えてしまった。どのお店も本当に美味しく、気分によってお店を変えることができるのも嬉しい。

f:id:SUUMO:20220111185328j:plain

チャンノイの”ヤムウンセン”。ピリッと辛いこの味は、ここで覚えた

 いずれの場所でも、昼からビールを呑むことがある(たまに、ね)。これは、京都に来てよかったなぁと思うことの1つ。
 呑みながら話すのは、これからのさりげなくのこと、今つくっている本のこと、これからつくる本のこと。それから、昨日見たテレビの話であったり、2人でハマっている編み物、糸屋の話であったり、様々。お酒を呑みながら、多くのことをかのこさんから学んでいる。

長い年月の記憶が積み重なる、山と川に囲まれて

 京都に来ておもしろいと思ったのは、山と川のこと。この街は四方八方、山に囲まれている。事務所の窓からも山、帰り道でも通勤でも山。北西東ぐるりと、山である。この景色に、宮城で生まれ育った私は未だ慣れない。山のパワーも、地元とは大きく違うように思う。京都の山はきっと、昔から祈りのため、あるいは修行のために、人が入って行くことが多かったのではないか。人に触れ、触れられてきたことを感じさせる 、そんな山々。そのためか、山に挨拶に行かねばいけない気持ちになり、いくつかの山に登った。

 一番最近に登ったのは、鞍馬山。その日は予定では、金毘羅山に登るつもりだった。しかし途中で道を間違い、わからないまま車を走らせていたら、いつの間にか鞍馬山に着いてしまったのだ。後から聞けば、金毘羅山は力の強い山だそうで。もしかしたら山のほうから、まだ来るべきではないと諭されたのかもしれない、とも思えた。

 そんな意図のようなものを感じさせる山。とても主観的で一方的な見方だと思うが、京都の山にはそんな雰囲気が備わっている気がする。同じような理由で、比叡山にもまだ行けていないが(体力が間に合わなさそう、というのもある)、いつか準備ができたとき、ふっと行けたらいいなと思っている。

 偶然に辿り着いた鞍馬山は、麓から山頂までずっと、景色がとても美しかった。

f:id:SUUMO:20220111185434j:plain

鞍馬山で見つけた”ユキノシタ”という植物。冬を耐え忍び、春に白い花を咲かすそう

 それから、川。この街は、中心に大きな川がある。下鴨よりもずっと北から、南の京都駅付近を過ぎてもなお、京都市を縦断するように賀茂川が続いている。川辺では毎日、誰かが絵を描いたり、楽器を練習したり、足をつけて遊んだり。ときには鹿がやって来たりしている。

 この川は、平安時代にも同じ形で流れていたそうだ(横幅はもっと広かったとも)。つまり、大きな都があったときも、戦が続いたときも、人々が車や電車に乗って移動し始めたときも、この川は街の中心にあったということ。その間、どんな出来事があったのだろう。どんな雨が降っただろう。この川は一体、どれだけの記憶や思いを吸い込んできているのだろう。想像すると、途方もない気持ちになる。

 京都に来て、土地について、そこにある記憶について、考えることが増えた。それは、誰かが祈りのために入った山や、人々の暮らしをじっと見つめてきた川が近くにあること。そして、かつて400年近くも、この場所に大きな都があったことも関係するのではないか、なんて私は考えている。

f:id:SUUMO:20220111185512j:plain

賀茂川

ここに吹く風に、私も。

 ここで過ごした約8カ月を思い返してみると、思ったよりも街を楽しんでいる自分に気づいた。引越してきた当初は「やはり地元が好きだなぁ」と思うことも多く、どこかよそよそしいと感じていた街。修業のための街。仕事だけできればいい、編集の力がつけばいい、とどこかで思っていたけれど、いや、とても楽しんでいる。自分でもやや驚くほどに。

 花辺のまわりの人たちと、もっと話したいこと。さりげなくとして、この街でやってみたいこと。一緒にみたい景色がたくさんある。行きたい場所も、感じたい風もたくさんある。この土地が持つ記憶や物語も。

 私のなかの風と、京都の風が混ざり合い、そうして、私がこれからつくっていく本にも、心地いい風が吹いたらいいな。腰を据えて京都で生きてみよう、なんて思えるようになった。もうすぐ2年目の京都生活が、始まる。

著者:熊谷麻那(くまがいまな)

熊谷麻那(くまがいまな)

編集者。1998年宮城県生まれ、牡羊座。出版社さりげなく編集部。何かと何かの間を見出し、ときには時空を超えてゆく”編集”をしていきたいです。

 

編集:ツドイ