在住歴50年。そんな私が案内する夏の札幌、お腹いっぱい最強最高ツアー|文・前田麦(イラストレーター)

著者:前田 麦(まえだ ばく)

前田 麦

イラストレーションをベースとして、平面、立体を問わず様々なアプローチで作品を製作。 近年では、リボンを使ったアート、「Ribbonesia(リボネシア)」、スタンプコラージュ 「STAMP BY ME(スタンプ・バイ・ミー)」、紙やすりに描く「TRANSLUCENT」シリーズ、「 EYE OF FIRE」など様々なスタイルで発表している。
https://www.instagram.com/bakumae/

東京、大阪、南は九州まで。アーティスト・イラストレーターという仕事柄、出張も多い。はじめましての方に「北海道からですか?」と聞かれると、咄嗟に「あっ、札幌です」と返す自分がいる。この0.5秒の間にあまりに広大な北海道の大地に自分がポツンといる絵を浮かべ、せめて札幌というピンポイントな場所を相手に提示する義務があると思ってしまうからだ。

……すいません。半分、嘘をつきました。
正直に言うと、札幌に生まれ、札幌で育ち、ペーパードライバーであまり札幌から出ずに、札幌でヌクヌクと育った北海道を誇るほどには、北海道のことを知らず「札幌ならちょっとはわかるよ」程度のおじさんなのです……。胸を張って「北海道から来ました!」とは言いがたく、つい「札幌から来ました」と答えてしまうのです。

決して、「北海道? いやいや俺は、北海道一の人口を誇る世界的大都市、SAPPOROから来たんだぜ! 他の市町村と一緒にするなよ!」なんて微塵も思っていませんからね。

そんな私が好きな、おそらく何事もなければ死ぬまで住むであろう、“住みたい街”否、“気がついたら住み続けている街”、札幌。ここからは、備忘録の意味も込めて、私がここ数年、道外からの友人やお客さんをアテンドするときのゴールデンコースを紹介していきたい。


この年齢になると、「ススキノ連れて行ってよ~グヘヘヘ」みたいなことを言う野暮な友人や知人はほとんど皆無で、だいたい嗜好も似通っているひとを案内することが多い。そんな友人たちに喜んでもらうためには?をいちばんに考えている。その日の天候、気温、風速にもよるし、服装(例えば水に入るサンダルを持っているか)だったり、保冷バッグの有無だったり……。そういった細かいことを考えながらコースを練るのが楽しい。

ただし、冬のアテンドは苦手だ。そもそも運動が苦手だから、もちろんスキーも苦手。スノーボードなんてもってのほか、絶対ケガをするので、これからの人生でも冬山には決して近づかないであろう(矛盾するかもしれないが雪は好き。美しい自然現象なので)。

というわけで11月~4月は省き(笑)、6月中旬~7月中旬のベストシーズンに北海道にきた設定で話を進めさせてください。湿度が低く、カラッとしている。日が当たっている場所は暑いが、木陰に入るとスッと気温が下がり、心地よい風が吹いているそんな日。

……すいません。また、半分嘘をつきました。
そんな日ももちろんありますが、最近は結構湿度が高い日もありますし、梅雨っぽい日もあります。本気で避暑地がいいなら釧路に行きましょう。


さて、気を取り直して。札幌の朝は、早……くはない。モーニング文化があまりないのだ。ホテルの朝食を取らずにゆっくり起きてもらって、向かうは俺たちの「六花亭円山店 喫茶室」。札幌駅前には利便性ピカイチの六花亭札幌本店があるのだが、なんせいつも混んでいる。そこで中心部、地下鉄大通駅から東西線で3駅で行ける円山店をおすすめしたい。朝10:30開店と同時に行くとあまり並ばずにゆっくりと過ごせるはずだ。

ここでブランチを食べれば、最高の一日になることは確定。2階の喫茶室は、広々していてとても落ち着けるし、窓からは夏の緑の円山を望むことができる。
六花亭といえば全国的に北海道を代表する菓子メーカーとして認知されていると思うが、「季節のピザ」がとてもおいしい。月毎に変わる季節の具材を使ったピザを食べるために、私はほぼ毎月こちらに通っている。ベスト3は、「カキとちぢみほうれん草のピザ」「クレソンピザ カルボナーラソース」「新大根のピザ」。毎月ここでピザを食べられる環境にいる私はなんて幸せ者なんだろうといつも噛み締めている。
札幌に来たら六花亭のピザとぜひ心に留めておいてほしい(ちなみにパートナーのM子さんは、ホットケーキが大好き)。ふー、食べた食べた大満足。

再び大通公園に戻り、向かうは……「モエレ沼公園」。世界的に著名な彫刻家イサム・ノグチが手がけた広大な公園である。天候が良ければ未見の道外勢には必ず訪れてほしい場所だ。
1998年開園、2005年にグランドオープン。私が初めて訪れたのは、まだ大学生だった頃。友人の車でピクニックがてらやってきた。だけど当時はモエレの凄さにまだ気がついていないのである……。

それから数十年、いろいろなものを見て知って、多少知識も増えてきました。しばらく足を運んでいなかったモエレ沼公園をふと訪れて、モエレ山の(ゴミ処理場を埋めたて、盛り土で作った人工の山)山頂から公園を見渡したとき、「とんでもないな……」と息をのんだ。

このスケール、高度なデザイン。どうやったらこんなことができるだろうか?

考えてもわからない、そもそも思いつきすらしない。ここから見える景色は、イサム・ノグチが設計したものしかなく、私たちは常にイサム・ノグチの“大地の彫刻”の中にいる。
元気がある人は、もうひとつの人工のピラミッド(あ、ピラミッドは人工か……)プレイマウンテンにも登ってみよう。このふたつの山を登ってこそ「モエレ沼公園に行った!」と言えるでしょう。

とはいえ、一回で全てをまわりきるのは、かなり時間も体力も必要なので、2回、いや3回は来ましょう。来るたびにいろいろな「モエレってすげ〜」を感じることができ、新しい発見があるでしょう。そして、レジャーシートを忘れないように。

さて、札幌駅方面に戻ってきました。晩御飯まで少し時間がありそうだ。そんなとき、ぷらっと休憩するのにおすすめの場所が「北海道大学」である。札幌駅から徒歩5分でこんなに素晴らしい環境があるなんて!と、驚くことでしょう。まるで海外に来たような美しいロケーション。正門から入ってすぐに見えてくるのが、青々とした緑が茂る広場・中央ローン。湧水から流れ出る小川があり、とくに夏の夕暮れは最高。吹奏楽部が練習で四重奏を奏でている。ドラマか!

時刻は15時になる頃だろうか、少し小腹が空いてきた。近くの北大マルシェ「Café&Labo」でアイスを買うのがマスト。時間があれば、そのまま道なりに歩いて「北海道大学総合博物館」にも行ってみてほしい。鉱物から恐竜の骨格標本、北大の成り立ちまで。自然科学好きにはたまらないことでしょう。近くにある大野池もチルスペースとしておすすめです。

ディナーは「札幌ビール園」を予約しました。ここ何十年かで、札幌のジンギスカンのレベルは、上がりに上がり、ジンギスカン屋さんもたくさんできています。お気に入りの店はいくつかあるのですが、正直どこに入ってもだいたいおいしいです。
小さい頃は、冷凍の輪切りマトン(生後2年以上の羊)ばかり……ちょっと臭みが強く、正直言って得意ではありませんでした。ただ最近では、生ラム(生後1年未満の羊)がほとんどで、臭みもなくすいすい食べられるでしょう。

さて、そんなどこでもおいしい札幌のジンギスカンですが、ひとつだけ札幌ビール園にかなわないことがあります。なんだと思います?

……それは、歴史と雰囲気です! 1890年から残るレンガ造りの建物。メインホールの開拓使館の天井は高く開放感たっぷり、札幌という街は、積雪の影響で木造建築はスクラップ&ビルドが多く、こういった建築は貴重です。
歴史的建造物の中で食すジンギスカンは、「私は今、札幌に来て、サッポロビールを飲みながらジンギスカンを食っているぞ……!」を全身に感じることができ、それすなわち最高なのです。またしても、お腹がいっぱい。

夜風が気持ち良いですね……締めはラーメン?パフェ? いえ、今日は私の行きつけである狸小路7丁目のダイニングバー「FORK」でおいしいワインでも飲みましょうか。かれこれ10年ほど通わせてもらっています。テーブル席が3~4卓とカウンター。コンパクトながらも落ち着けるお店です。
早い時間は、若者でいっぱいなので予約は必須。22時以降の遅めの時間帯になると常連さんが増えはじめ、運が良ければ店主のイケオジ、ナカジーさんこと中嶋さんと間近で話せるカウンターかぶりつき席に着くことができます。

さて、夜も更けて来ました。そろそろ解散。見送りがてら、狸小路を歩いていきます。おっと……忘れていました。札幌、いや、北海道といえば、ここに寄らなければ! そう、俺たちのセイコーマート! 泣く子も黙る国内最強最高コンビニエンスストア(私調べ)である。

もちろん、道内(一部道外も)にたくさんあるセイコーマートですが「セイコーマート ザ ノット札幌店」をおすすめしたい。ホテルに併設しているので、観光客向けの品ぞろえが豊富。なんなら、北海道産のお土産もここで買えちゃいます。もし小腹が減ったならホットシェフ(店内で作っているお弁当やお惣菜)でザンギ(釧路発祥の醤油ベースの鶏の唐揚げ)かフライドチキンを買って帰りましょう。

以上、私の考えるベーシックかつ王道の札幌アテンドコースでした。私の思うアテンドとは、自分の住んでいる街の好きな場所をいっしょに巡って、好きを分かち合うことです。道外から遊びに来てくれる友人たちに、大好きな札幌の魅力を、これからもこの街で伝えていきたい。おそらくそれが、今なお札幌に住み続けている理由なんだろう。

明日は、どこに行きましょう? 「十年二十年」「エルスカ」「ケイハチロウ」「mountainman」?「パフェ佐藤」「ブランコ」「クマデ」「空き地」……まだまだ紹介したい場所やお店はつきません。いつか、またの機会に紹介できれば!

著: 前田麦

編集:ツドイ


ガシャポン『EYE OF FIRE FIGURE COLLECTION』7月第4週発売

ガシャポン『EYE OF FIRE FIGURE COLLECTION』



EYE OF FIRE
FIGURE COLLECTION
(税込500円)

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ガシャポン『EYE OF FIRE FIGURE COLLECTION』商品ページ
※「ガシャポン」は株式会社バンダイの登録商標です。


『THE VISUAL 前田麦作品集 Eye of Fire』7/24発売

『THE VISUAL 前田麦作品集 Eye of Fire』7/24発売

前田麦(著) / トゥーヴァージンズ


Eye of Fire初作品集がトゥーヴァージンズより7/24発売!

燃えるイエローの目玉と、獣のような顔を持つ、ブルーのボディの魔界から地上にやってきたPOPな悪魔、Eye of Fireの世界のすべてがここに!イラストレーションをベースに、平面、立体を問わず様々なアプローチで作品を製作するマルチアーティスト・前田麦、初の作品集!2020年よりライフワークとして続ける「Eye of Fire」シリーズのほぼ全点を網羅。モノクロスケッチやブループリントシリーズも掲載。日英バイリンガル。

『THE VISUAL 前田麦作品集 Eye of Fire』
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本体価格:3,200円(税別)
出版社:トゥーヴァージンズ
ISBN:978-4-86791-056-6
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