宙ぶらりんでもいれる街、京都市左京区|文・itou

著: itou

街について書く。このお話をいただいた時にまず思ったのは、自分は普段の生活でどこかに旅行に行ってもあまり写真を撮ることがない。ましてや仕事柄毎月買い付けで色んな都道府県に行くのに、大体夜は地元の居酒屋などには行かずサクッと夕飯を食べスーパー銭湯からの漫画喫茶でフィニッシュする。そう、街についての興味が割と薄い方なのだ。
そういうことで僕なんかが書けるものなのかと悩んでいた時に、行ったことのない色んな街を訪れるのが大好きな妻が、そういう人の文章ほど読んでみたいけどねと言った。という訳で、うまーく気分良く乗せられた僕は今住んでいる京都の左京区について書くことにした。


元々生まれは福岡で、京都には大学時代から住んでいるので今年で12年。自分が進みたい進路と九州から出てみたいという気持ちなどを踏まえ、何か字面がかっこいい京都を選んだ記憶がある。
そしてその大学がたまたま左京区にあったのだ。そして大学卒業前には住んでいたアパートでお店を始めたので、自ずとそれからの生活圏も変わらなかった。かと言って出不精の性格や趣味の無さも相まって、観光地や美術館などにはあまり行かないので、当たり障りはないが、最近の個人的左京区ご飯話をメインにしていこうと思う。
今回は左京区の中でも主に家のある出町柳から店のある一乗寺までの叡山電鉄ライン。疲れてる時はこの叡電に乗ってサクッと飲みに行ったりもする。1両か2両くらいのローカル線なので気楽で良い。

まず自分が京都に来て間違いなく1番行っているお店、出町柳の次の駅「元田中」から降りてすぐにある「友楽菜館」。ここは俗にいう町中華的なお店となっており、お財布に優しい価格帯ということもあって、学生時代から通っている。大体おばちゃん1人で回しており、いつも太陽のような朗らかな笑顔で迎えてくれるのだ。もう安心感が違う。
そして店に着くなりまず頼むのが氷彩サワーのプレーン。氷彩サワーとはワインを蒸留したホワイトブランデー仕立てのサワーで、ほのかな甘さが癖になる。そして意外にこれを飲めるお店は多くない。次いで食べ物でいつも注文するのが、漬物、餃子、肉もやし炒め。特にここの肉もやし炒めは皿に残ったスープを完飲しちゃうほどの美味さ。知り合いのラーメン屋曰くラーメンの出汁を使ってるのだろうと言っていたが、ちゃんと聞いたことはないので定かではない。あえて聞こうとも思わない。そこのおばちゃんとは本当に他愛のない2、3言を交わすぐらいで丁度良いのだ。
それもあっておそらくおばちゃんは、僕とよく行っていた友達2人の名前は覚えているが僕の名前は知らないと思う。行きつけだけど、自分が固有名詞で存在しなくていいというのは案外1番心地が良いのかもしれない。


さあさあ、こっからは一乗寺に上がっても出町柳に下がってもよく行く居酒屋がある。どちらからいこうか。すいません、ほんと飲食店の話ばっかで。でも続けます。まずは一乗寺から。

僕のお店は毎月20日から月末までのオープンとなっており、うちが閉店する18時から丁度始まる「寝台船」という居酒屋が一乗寺駅降りてすぐの所にある。僕のお店から自転車で3分ほどということもあり、店終わりにふらっと1人でお邪魔することが多い。
こちらの店主はまだ20代で、京都の飲食店のオーナーにしてはとても若い方な気がする。料理は行くたびに何かしら新しいメニューが更新されており、1つの味で安定させそうなポテトサラダでも度々食材が変わる。もちろんとても好みの時があれば、そうでもない時もあるが、試行錯誤が味から感じられるのが何だかとても嬉しい。僕が行くお店で1番変化を恐れてない貪欲な店だと思っている。

店の雰囲気は京大の吉田寮を連想させるような色んな要素のゴチャゴチャ感があるが、良い塩梅でお客さんがすっと入り込める余地もある。見ている感じお客さんもやはり20代の学生さんが多く、こういう店がそういった若い方達の必ずしも綺麗じゃない、だけど美しい思い出を作り上げていくのだろうなと。そしてその積み重ねが街の文化を形成していく一因になるのではないか。なんて、お酒を飲みながら書いているので、ちょっとカッコつけた文章を書いてみた。

あと最後に、ここの店、春とか秋とかは扉を開けて営業していたりするのだが、入口とは別に奥にも扉があるので、とても気持ちよーく風が抜けるのだ。建物において僕はこれが結局1番大事だと思ってるんですが、皆さんいかがだろうか。うちの店はそこまで風の通りが良くないのでとても羨ましい。次の店舗では必ず……。風、大事!


そしてお次は出町柳の家から歩いてすぐの「村屋」。左京区ではかなり知られた居酒屋だと思う。印象としては、まず店内がとにかくカオス、そして来るお客さんも学生やろうなーって方から、何やってる人なんやろってなるパンチのある人まで様々でこちらもほんとカオス。そういう意味でとても受け皿が広くて深い店なんだと思う。トイレとかめちゃ怪しい雰囲気で初見はびびると思いますが(笑)。 

営業時間は曜日によっては昼もやってるが夜は19時から。早く行かないとどんどん席は埋まっていく。そして何と言っても京都では日本酒やワインを多く扱っている飲食店が多い中、この店は焼酎の種類が本当に豊富。普段から焼酎を1番飲んでいる僕としてはとてもありがたい。基本的に冷たい飲み物が好きなので、ロックorソーダ割りでグビグビ飲んじゃいます。
そして不思議なことに、普段は飲みに行った店で知り合いに会うのがそんなに好きじゃないのですが、この店で知り合いに会っても何故だか割と平気なのだ。店の雰囲気のおかげなのか、何なのか。干渉したりしなかったり、他人との距離って難しいけど面白いですね。いずれにせよ僕にとって居心地の良いお店であることは間違いない。


ここまで居酒屋の話ばっかしてきましたが、最後にモーニングの話をしようかと。普段は家で朝食を食べるのだが、妻が土日で休みの時はよく一緒にモーニングに行く。しかーし、土日特に日曜日は家の近くの喫茶店はほぼほぼ休み。そんな我らの救世主、自転車で家から5分程度、最初に話した「友楽菜館」の近くで「ケニア」という店が朝の8時からやっている。

何屋と括れるようなお店ではなく、サンドイッチもカレーも丼ものも、最近はラーメンまで始めた。つまり色んな人の欲望を満たしてくれる店なのだ。モーニングセットも6種類くらいあり、僕は大体カレーライス+ドリンクか、モーニングプレート+ドリンクを頼む。カレーライスは酸味の効いた割と家庭的な味。スパイスの効いたカレーも好きだが、朝はこのくらいが丁度いい。モーニングプレートはご飯に味噌汁、サラダに唐揚げ、そしてベーコンエッグが付く。これまた嬉しい取り合わせで満足度が高く、栄養的には分からないが、もりもり食べれて健康的な気分になる……。
そしてこの店の雰囲気もまた良いんだよなー。あくまで個人的見解だが、ここに来るお客さんは、眠い目をこすりながら、半ば家の延長線くらいの感じで朝食を食べに来ている方が多い気がする。それが許される空気が流れているのだ。やっぱこの店も色んな人に開かれてるんだなーと。


そう思うと、左京区って結構濃い人たちが集まっているイメージだが、それを強要する感じはない。私たちはこういう思考で楽しくやってる、あなた達も好きなように楽しくやって。みたいな。出町柳駅から歩いてすぐの鴨川デルタなんてその代名詞かと。寝てる人、飲んでる人、楽器を演奏している人、本を読んでる人、川に入って遊んでいる人、色んな人たちがそれぞれ思い思いに時間を過ごしている。みんな程よい距離で。この色んな生活が交錯する感じがとても良く、それも開かれた場所があるからなのだろう。

僕が今回書いたお店も割とそんな雰囲気を纏ってる気がする。

僕は京都に来てずっと左京区という場所に住んでいるが、全く執着はない。だけどこの場所に心地よさを感じているのは事実で、結局人も場所も自分に合った距離感が保てるのが大事なんだと思う。観光客も学生も多いこの街、入ってくること出ていくことが多い街だからこそ、どこか常に宙ぶらりんな自分でさえもここにはいられるのかもしれない。

著者:itou

itou

古物商。1992年福岡生まれ。2015年から京都にて古道具屋を始める。2016年京都工芸繊維大学卒業。後にグラフィックデザイナーの浦川とユニット「ムフ」を結成し、国内で様々な展示を行う。

address/京都市左京区一乗寺出口町7 2F
open/20日〜月末日(前半不定期営業あり)12:00〜18:00
hp/itou-mono.com
instagram/@itou.uoti

編集:ツドイ