
神奈川県の葉山町で生まれ育ち、神奈川の音楽大学で作曲を学び、「カメラ=万年筆」というバンドでは鈴木慶一や野宮真貴も参加したCDを発表した音楽家の佐藤望さん。またの名をムッシュレモン(ポップな曲をつくるときの別名義)。
大学卒業後に一度は就職をしたものの、自分の音楽と向き合うために山籠もりをするぞと佐渡島へと旅立ち、1年後に再び東京へと戻って活躍の場を広げると、子どもの誕生をきっかけに佐渡へとNターン(という言葉があるのかは知らない)。
築70年くらいの古民家に家族で移り住み、トマトの収穫や草刈りに追われつつ、スーパーで買った新鮮な佐渡の魚に舌鼓を打ち、自宅に置かれたグランドピアノを弾いて、映画やCMの音楽をつくっているそうだ。
会社をやめて、自分の音楽と向き合うために佐渡で山籠もりをする
8月のとある日曜日の午後。佐渡島南部にある小木港近くの宿まで、佐藤さんに車で迎えに来ていただいた。
平日保育園に預けている娘さんのお迎えをするときのように、何軒かのスーパーを巡って魚の目利きをしながら、佐渡へと移住したいきさつを伺った。
佐藤さんとは佐渡島で2014年に知り合ったが、二人で話すは初めてかもしれない
――ご出身ってどちらですか。
佐藤望さん(以下、佐藤):「神奈川の葉山町、湘南ですね。大学は新百合ヶ丘の昭和音楽大学で、専攻は作曲です」
――葉山からだと大学はちょっと遠いから、学生時代は1人暮らしですか。
佐藤:「そうですね。私立の音大は学費がべらぼうに高いので、8割以上が裕福な家の子どもだったけど、僕はスーパー苦学生でした。
まず学費が安くなる特待生にならないと通えないレベルだったので、しっかり勉強して特待生として入学して、1人暮らしもお金がかかるから奨学金をもらいつつ、バイトもしてっていう感じですね」
――勝手な印象ですけど、佐藤さんが苦労人だったイメージは全然なかったです。
佐藤:「大学4年間、昼ごはんはほぼ食べていないんじゃないかな。学校が食育の一環として、100円で朝ごはんを用意してくれていたので、それを食べて夕食まで我慢していました」
――渋谷系だったと噂の「カメラ=万年筆」の佐藤望・ムッシュレモンが、まさかそんな暮らしをしていたなんて。
佐藤:「まあ渋谷系だけど、いわゆる渋谷系みたいなものは全くやってなかった。ニューウェーブ?アバンギャルド?
そのころは自炊でもかなり切り詰めていたので、肉なんて鶏の胸肉以外買ったことなかったです。できるだけ安く食材を仕入れて、それをおいしく食べるにはどうするかみかたいな研究の日々」
――なかなかの苦学生ですね。でも料理は好きだったんですか。
佐藤:「いや、別に好きっていうよりかは必要にかられてじゃないですかね。めちゃくちゃお金なかったけど、あんまりまずいものを食べたくなかったから。両親が魚料理の店をやっていて、実家ではよくマグロとか店で残ったおいしいものがやってくる生活だったんですよね」
――舌が肥えていたんだ。おいしいものを食べたい、でもお金はない、なら料理の腕を上げるしかないと。調理師学校じゃなくて音大ですよね。
小木港の目の前にあるなじみのスーパーへ。おいしそうなマダイ、ブリ、メバル、カレイなどの魚が並んでいたが、佐藤さん的にはイマイチとのことでスルメイカを購入
――音大卒業後の進路はどちらへ。
佐藤:「大学を卒業してコンテンツ制作会社みたいなことに就職したんですけど、サラリーマンがつまらなく感じてしまって。仕事は音楽関係でしたけど、自分の音楽っていうよりかは、その周辺のことをやることが多かったので。
フルタイムで働くのもすごいだるかったんで、1年でやめて佐渡島へと渡りました。それが2013年です」
――なぜ佐渡島へ。
佐藤:「もう1回音楽を勉強し直そうというか、しっかりと向き合いたいっていうマインドになって、それなら山籠もりをしようと。
自分の音楽で身を立てられるようにしないといかんぞと。そのためには人里離れたところで、集中して音楽をやろうと思ったんです」
――伝説の空手家みたいな発想ですね。もともと佐渡に縁があったんですか。
佐藤:「いや、特にない。行ったこともなかった。でも知人から『佐渡はいいところだよ』っていう話を聞いていたんですよ。それで佐渡の雰囲気を知るためにお試しで1週間くらい滞在してみたんです」
店によって品ぞろえが違うからとスーパーをハシゴをするのがルーティーン。ここは地元産アスパラガスなどが安いそうだ
佐藤:「佐渡にいることをツイートしていたら、僕の音楽活動を知ってる人がたまたま佐渡にいて連絡をくれて、近くの集落に住んでいるから1回会いましょうという話になって。
その集落に住む仙人のような方から安く住める単身者向けの場所を教えてもらって、本格的に住み始めることにしました。山奥のアパートだったけどユニットバスもあったし、住みやすかったですよ」
――お試しの滞在で、佐渡が気に入ったんですね。
佐藤:「佐渡が合わなければ別の田舎に行こうとも思っていましたけど、すごい良かったんで。でも行ったら行ったで、お祭りとか、食べ物とか、いろいろと吸収することが多すぎて、自分の音楽どころじゃなかったんですけど。
本当にストイックに修行をしたい人には向いてないですね。やれることが多すぎて」
昨年たまたま佐藤さんが山籠もりのために住んでいたアパートの別部屋を見る機会があった。家賃は東京の1/10くらい
こういう部屋で自分の音楽と向き合っていたそうだ
――佐渡に来て、まずはなにをしたんですか。
佐藤:「最初は柿の摘蕾(てきらい)をやってましたね。蕾の数を減らして、柿の実を大きくするための作業。人手が足りないっていわれたので」
――ノーミュージック、農作業。
佐藤:「音楽に関しては、YouTubeを見たり、それで良かったらAmazonでCDを買ったり。ネット経由で受けた仕事もしてましたけど、それで生活できるほどではなかった」
――がっつり音楽だけに集中するのではなく、佐渡での生活を楽しみつつ、自分の音楽を深めていった感じですか。
佐藤:「そうですね。東京にいると、そんなペースは望めないじゃないですか。佐渡なら生活にお金もそんなかからないし」
――佐渡にいても音楽活動は問題なくできましたか。
佐藤:「まあネット納品ですからね。パソコンでつくって、パソコンで送るっていう感じなんで。もともと僕は演奏の仕事をほとんどやっていなかったし。
その合間に営業用のデモ曲とかもつくって、CMの仕事を取りに行くみたいなことをしていました」
気に入る魚を求めてさらにスーパーをハシゴ。ここは小木の店と違って佐渡北部方面から魚を仕入れているようで(佐藤さんの推測)、品ぞろえが少し違うとか。しかしめぼしい魚は売り切れていた
――それで佐渡はどれくらいいたんですか。
佐藤:「1年ですね。自分の名前で仕事が取れるようになったら、東京に帰ろうって思ってたんで。これまでもバンドでの仕事は結構あったんですけど、自分個人で仕事を取るってことができてなかったんで。自分の名前で生活ができるようになるための基盤ができたら、1回東京に戻ろうと。
別に何かを成し遂げた訳でもないですけど、婦人倶楽部(佐渡島に暮らす主婦たちによるポップアートユニット)のプロデュースも始まったし、CMの仕事も取れたんで」
スーパーには並ばないお値打ちの野菜や果物が集まるという店も行きつけだ
200円のプリンスメロンを購入
――そのままずっと佐渡にいようとは、そのときは思わなかったんですか。
佐藤:「まだ自分が何物でもなかったですからね。ぼちぼち仕事が取れたとはいえ、それで将来ずっと暮らしていけるかっていうと微妙なところ。
まだかけ出しのかけ出し。佐渡の生活は最高だっていうのは置いといて、1回東京に戻ってステータスをもうちょっと上げていかないと、今後音楽家としてやっていくのもきついんで。それを得るために島を出た感じですかね。名誉欲とかもあったし」
――やっぱり東京じゃないとできないこともありますか。
佐藤:「コネクションづくりがやっぱり難しいですね。佐渡も特有のコネクションはつくれますけど、もっと成り上がっていこうぜっていう感じのテンションではない。変わった人とのコネクションも大切ですけど、それはまた別の話ということで」
――そうかもしれませんね。おいしいお米をつくっている人とか、山奥でドーナツを揚げている人とか、おもしろい人が多いですけど。
佐藤:「それからも佐渡との関係はずっと続いて、婦人倶楽部をやっていたのもありますけど、やっぱり佐渡が素晴らしいと思っていたので、年に1回ぐらいはずっと行っていたかな」
これは余談なのだが、佐渡島で佐藤さんが山籠もりをしていた期間中、あるイベントの打ち上げで初めてチラっとお見掛けして、「あの白いシャツを着たシュッとした人は誰ですか?」と友人に訪ねた覚えがある。
佐藤さんと初めて会った山奥のカフェで、昨年一緒にラーメンをつくった
佐渡のおいしい野菜をたっぷりと使った南インド風冷やし中華。そういえばあそこのスーパーで買ったアスパラが安くておいしかった気がする
東京寄りの神奈川でのマンションから佐渡の古民家へ家族での移住
佐藤:「2014年に東京へ戻りました。住んだのは東京寄りの神奈川ですね。賃貸マンションに1人で住んでいて、2019年に結婚をして妻と一緒に住むようになりました。そして翌年の春に妊娠がわかって、家族で暮らす新しい家への引越しを考えだしたころ、世の中がコロナ禍になってしまった。
東京近郊の手狭な家だったので、子育てができて、ついでにピアノが置けて、猫も飼える家を探したんですけど、賃貸だとほんと選択肢が限られるし、あっても家賃がもうやばい」
――子ども可、ピアノ可、ペット可の賃貸物件って、都心部だとすごく高そうですね。
佐藤:「だからちょっと冗談で、佐渡の友達に『良い家があったら教えてください』っていったら、速攻『良いのあったよ!』って連絡が来て。
不動産屋とかに物件情報を公開していない、信用できる人にしか売らない古民家を教えてくれたんです。もし僕が家族で移住してくるんだったら売ってもいいよっていう話になって」
――瓢箪から駒、冗談から古民家。
佐藤:「コロナが始まったころでみんな先行きがなにもわかってなかったし、リモートワークという言葉も定着していなかった。緊急事態宣言が発令されて外にも出られない雰囲気のとき。
まだちょっと何とも言い難かったんですけど、とりあえず奥さんを連れて6月に家を見に行った。そうしたら家も立地もすごく良かった」
崖沿いの山道の先にある大きな一軒家でした
――周囲に家が1軒もないような場所ですけど。
佐藤:「『ポツンと一軒家』みたいなね。でも僕はそういうのは気にならなかったので。この場所が持つ雰囲気とか、家から海が見えるとか、そういうことの方が重要だった。近くに家があったら僕も大きな音が出せないし。ここなら怒られるとしても家族にだけじゃないですか」
――優先すべきがそっちなんですね。お隣の家ってどのぐらい離れているんですか。
佐藤:「上の家が200mぐらいかな。下の家までだと300mとか」
――それなら大きな音を出し放題だ。でも佐藤さんはいいかもしれないですけど、奥さんは不安だったんじゃないですか。
佐藤:「僕は1年暮らしたことがあるので、どういうテンションで住めばいいのかっていうのはわかるけど、奥さんは佐渡が初めてだったからね」
さっき買ったメロンを食べながら2人に話を伺った
――ここからはムッシュレモンこと佐藤さんの妻、マダムレモンにも話に加わっていただきましょうか。それで大丈夫だったんですか?
マダムレモン(以下、マダム):「大丈夫かどうかもわかんないじゃないですか。どちらにしろ、どこかに引越さなきゃいけなかったけど」
――ですよねー。
マダム:「東京の会社に勤めていたんですが、3月ぐらいからコロナが広がり始めて、その月の下旬に妊娠がわかって、翌月にはリモートワークに切り替わったんです」
――妊娠初期だと一番不安な時期ですよね。
マダム:「めちゃくちゃ不安でした。当時はコロナが怖すぎて、もう家から出たくないっていう気持ちになっていたとき。ずっと外出しないような生活をしていたから、佐渡はすごい開放感があったんですよ。それにここから海が見えることに一目惚れしました」
佐藤:「6月で天気は悪かったけど、庭にシロツメクサが広がって、すごくヘブン感がある家だった」
納屋の窓から見える海。ちなみにこの柿畑も佐藤さんの土地で、近くの農家さんが育てているそうだ
マダム:「マンションでは望さんの家に私が転がり込むような感じで生活をしていました。1人暮らしの家にしては広いんですけど、2人だとギリギリ。
3人はさすがに狭いなと思っていたから、この広さも決め手です。こんなに広くなくてもいいんですけど。それに家を買ったら畑も山もついてくるって聞いて、びっくりしました」
佐藤:「自分の山がどこにあるのか、まだ詳しく知らないんです」
暑すぎて少し疲れていたシロツメクサ
佐藤:「ここは1人で住んでたおじいさんが亡くなられて、何年か空き家だったそうです。それを近くに住んでいた親戚の方が、誰も住まない家は管理が大変だからと売り先を探していた」
――築何年くらいですか?
佐藤:「わかんないけど70年ぐらいじゃないですかね」
――人が住まなくなった古民家っていうと、屋根が傷んでいたり、水まわりがボロボロだったりっていうイメージですけど、この家はすごくきれいですね。リフォームに結構かかりましたか。
佐藤:「ここはすごく条件が良くて、最初から普通に住める状態でした。雨漏りもないし、追いだきができるお風呂があるし。トイレなんかフタが自動で開いてびっくりしちゃった。今住んでいるマンションよりも全然良いトイレじゃんって。
リビングの床とかも今だったら考えられないむくの板が張ってあるし、瓦も張り替えたばかりだったし。本当にありがたいですよね。
何年も空き家だったのに、埃っぽいとかカビ臭いとか、そういうのもなかった。多分日当たりと風通しの良い立地なんでしょう」
マダム:「これから子育てが始まるから、カビ臭くないっていうのが一番うれしかったかも」
佐藤:「マンションは1階だったせいか、もう本当にやばかったから。壁中がカビちゃって、アコーディオンが鳴らなくなったりしていたから。
ただ基本的に現状引き渡しで、ここに人が住んでいましたっていう状態だったから、ゴミを捨てたりは必要でした。そこは佐渡の友達に手伝ってもらって。納屋とかはまだ全然片付いていないですけど」
――普通の引越しと違って、まっさらな状態に入居する訳じゃないですもんね。
佐藤:「軍隊手帳とか出てきました。卒業証書とか年賀状とか」
リビングの様子。壁や天井は2人で好みの色に塗り替えた
日当たりがとても良く、これならカビが生えないだろうなという立地。中央のテーブルは納屋にあった板を使って自作したもの
台所からも海が見えて感動。そりゃ一目惚れもするだろう
佐藤:「壁とか天井をデザイン的に直した部分っていうのはあるんですけど、大規模な改修はピアノを置く部屋の床板くらいですね。畳が1カ所に積まれていて、そこが沈んでしまっていたので。だからリフォームに何百万円かけたとかではないです。
この家に住んで1年半ぐらいですけど、今もちょっとずつ、電気工事みたいな素人ができない部分は業者さんに頼みつつ、できるだけDIYで直しています」
床を張り替えた広い仕事部屋
憧れのグランドピアノは昭和46年製を佐渡市の競売でゲット。佐渡唯一の調律師によって調整済み
佐藤:「まだまだ直したいところはいっぱいあるんですけど、ローンを組むのが嫌で。 この広さで全部バーっと直すってなったら1000万円とかかかっちゃう。 そうするとそのリフォーム代を払うために働くっていうモードになって、それだと家賃の掛からない家に住む意味がない。
そうじゃなくて、あくまで余剰資金と空いた時間で、できるところから直しましょうと。感覚的には、ロールプレイングのゲームとかで、最初からすごく強い武器とか持っていたらつまらないから、ちょっとずつ戦って得たお金で、装備をそろえていくみたいな。
壁を塗り直したり、床材にオイルを塗ったり、納屋にあった板でテーブルをつくったり。ゲストルームにしようと壁を塗っている納屋も、完成するのは十年後とかになる可能性が高いです」
――盆栽みたいな長期スパンですね。一生楽しめる趣味だ。
一番景色が良い納屋をゲストルームに改装中。この納屋だけでちょっとした一戸建てくらいの広さがある。十年後に泊まらせもらおう
かっこいい陶器のブレーカー
また佐渡で暮らしはじめた
――この家はとりあえず賃貸でスタートとかじゃなくて、いきなり買ったんですか。
佐藤:「買いました。すごく申し訳ない額で……」
マダム:「しかも持ち主の親戚の方は野菜とかお米とかもくれるからね。困ったときにすごく頼りになるし。
最初の見学でお会いしたときに、すごく感じの良いオーラを放っていて、ここに住むことで、この人とかかわり合いができるのはありがたいことだなって思ったんです。
その人がもし悪い感じの人だったら、ここに引越そうとは思えなかったかもしれません」
――田舎暮らしだと人間関係や近所づきあいは大切だと聞きますしね。
佐藤:「だからまず近所の30世帯くらいに、手土産とプロフィールシートを持って回って、あいさつ回りをしました。田舎に引越してくる音楽家なんて、絶対やばいやつじゃないですか、世間的には。変なクスリとかやってんじゃない?みたいな」
――誤解されやすい職業かもしれません。
佐藤:「いや違いますよと。こんなしっかりした仕事をやってますよって、 これまでにCM音楽をつくった高名な企業の名前を並べてプレゼンをして。今はもうちゃんと認識してくれていると思います」
佐渡の保護団体から譲り受けたタンタン。超絶かわいいし私に対しても愛想が良い
――所属する集落(ここでは町内会のようなもの)によって、何か違うことってあるんですか。
佐藤:「納会の頻度とか、草刈りの範囲とか、祭りの内容とか違うのかな。仲の良い集落だと旅行に行ったりするみたいですよ。
僕らの入った集落は、みんなで酒を飲んだりとかも全くなくて、年に一度の祈祷があるくらい。だから田舎暮らし独特の面倒臭さみたいなものはないです。とても整頓された集落なので」
――消防団に入れとかもないですか。
佐藤:「一切なかったですね。そういうのが盛んな土地もあるんでしょうけど。
夏は草刈りが大変なんだけど、近所の方がうちの土地までついでにやってくれたりするので、すごく助かっています。良い人ばっかりで良かった」
マダム:「本当良い人ばっかりですね」
タンタン~
佐藤家の食卓
――佐渡島に移住して、やっぱり食事は変わりましたか。さっきの買い物を見ていればわかりますけど。
佐藤:「ははは。もうまるっきり違いますね。もう全然違う。東京に戻っていた間は、本当に魚介類をほぼ買ってないですから。1年間佐渡に住んだ後だったので、買えなかったですよね」
――やっぱり佐渡と比べちゃうんだ。
佐藤:「だって、ねえ。ホンビノス貝くらいしか買っていなかった。あれはうまい」
――東京湾に増えている外来種ですか。
小木のスーパーで買ってきた新鮮なイカ。なんと3バイで298円!
触ると細胞が反応して色が変わるくらい新鮮
「このイカは本当に最高ですね。ちょっと食べましょうか」と手際よく捌いてくれた
おすそ分けを期待するタンタンだが、残念ながらイカなのでもらえない
マダム:「お店とかでも魚介類が出てくると、『佐渡の方がおいしいな~』て言いながら食べていました。私としては『今食べてるものもおいしいのに!』って思っているのに」
――大変失礼ですが、めんどくさい旦那ですね。
佐藤:「そうならざるを得ないですから」
――わかりますけどね。
マダム:「正月に私がリクエストしてタイのお刺身を買ってきても、食べながら『いやタイはもっとおいしい魚だ』って」
佐藤:「ちゃんと養殖した魚だからまずいってことはないんだけど、どうしても佐渡の天然物と比べてしまう」
――マダムが佐渡に来て、実際食べてみてどうでしたか?
マダム:「おいしいですね、本当においしいです!」
――向こうで文句を言ってた佐藤さんの気持ちが今ならわかりますか。
マダム:「わかる。今ならわかっちゃいますね」
佐藤:「今日は気に入ったのがイカだけでインパクトがないっていうのがすごく悔しい。昨日のうちになんか買っとけば良かった」
――いや、このイカだけでも佐渡のすごさがわかる人にはわかります。ちなみにこれまでで一番おいしかった魚ってなんですか。
佐藤:「最近だとアマダイがめちゃくちゃおいしかったね」
マダム:「うん、高級な味がしました」
松笠揚げでアマダイの高級魚たる所以を噛み締めましたが、夏はコチもおいしいです。地物の茗荷はワイルドな味。 pic.twitter.com/FPYTzOy28l
— 佐藤 望 - nozomu sato (@nozomu_sato) August 4, 2022
佐藤:「あとは冬の脂がバチバチに乗ったクロダイもおいしいですね。クロダイとかメジナみたいな磯の魚も、海が冷たいうちは臭みがなくてうまいんですよ。
アカナマコもやばかった。これはもう本当に衝撃の味わいですね。でも一番は肝醤油で食べるウマヅラハギかも。こっちだとコウグリっていう名前です。東京だとウマヅラハギはあまり評価されずカワハギが珍重されますけど、こっちだとウマズラがうまいんですよ。めちゃくちゃおいしい」
【移住1年間で食べた佐渡の美味しいものランキング〜海編〜】
— 佐藤 望 - nozomu sato (@nozomu_sato) May 24, 2022
1位こうぐりの肝刺し
2位赤ナマコ
3位マダラの白子、マイカ刺し花山葵添え pic.twitter.com/eu409lomlT
マダム:「本当に食のレベルがすごい。前に住んでいたところではなかなか味わえないものが、日常で出てくるようになりましたから」
佐藤:「漁師さんから大きなアワビをもらったりね」
マダム:「あれもすごかった」
佐藤:「野菜だって向こうでも地物の野菜を買えたけど、それでもやっぱり佐渡とは違いますから。季節ごとに並ぶ野菜や果物の多さとか値段の安さとか」
マダム:「確かに佐渡は野菜もおいしい。夏は特にね。いっぱいもらえるからほとんど買わなくていいし。近所の方が子どもに収穫させてくれるんです」
――でもほら、冬は地物の野菜がないですよ。今の時代は島外から来た野菜が普通に並びますけど。
佐藤:「冬はやっぱり海産物ですよ。夏がスルメイカなら冬はヤリイカ。痛風になるんじゃないかっていうぐらい白子を食べたり」
――寒ブリやカニもありますしね。
庭で摘んだ紫蘇を添えた刺身。びっくりするくらいイカの味が濃くて甘い
オリーブオイル、ライム、塩でマリネした、さっくりとした歯ごたえのイカも出してくれた
――肉は食べなくなりましたか。
佐藤:「食べますけど、その比率は下がりました。僕は夜にお酒を飲みたいので、そのときにつまむものは魚の方がおいしいと感じることが多い。だから肉を食べるなら昼かな。
マダム:「望さんが魚を好きなのは、家で飲むお酒が日本酒っていうのもあるかもしれない」
――佐渡は日本酒もおいしいですもんね。
佐藤:「お気に入りは逸見酒造の『至(いたる)』。その純米吟醸の生酒ばっかり飲んでいます。この酒と佐渡の魚があればご機嫌の晩酌ができる。夕飯がカニのときはあまり飲まないですけど。面倒くさいからね」

佐藤さんお気に入りの酒
そんな佐藤さんの想いが詰まった曲、婦人倶楽部「グルメ紀行」をどうぞ!
離島暮らしのメリットとデメリット
――佐渡島という離島に来て、生活で困ることってありますか。
佐藤:「それなりにありますけどね。服とか靴を買うときに通販だと試着ができないとか。さすが数万円するようなものをポンって買うのはなかなか難しいんで。そういうのは東京に行ったときですね。日用品とかはAmazonとかでも買えるから特に困らない」
マダム:「子どもの服とかは西松屋とメルカリですね」
――佐渡は離島だけど、西松屋もファッションセンターしまむらもありますからね。
佐藤:「中心部に行けばそこまで田舎じゃない。みんながもつ離島のイメージより、もうちょっと便利」
マダム:「モスバーガーも大きいツタヤもタリーズコーヒーもあるし」
――吉野家もミスドも牛角もありますね。
佐藤:「ほぼあるって言えばあるよね。でもカルディコーヒーとか無印良品みたいな雑貨屋さんがないか。誰か佐渡でそういう店をやったら絶対もうかりますよ。
だから欲しいけれど通販で手に入れづらい雑貨とか食材は、東京の友人に果物とかと交換で送ってもらっています」
――物々交換というか貿易っぽいですね。
家にあった草刈り機で畑までの道をつくる佐藤さん
――佐渡に来て生活費って下がりましたか。
佐藤:「家賃がゼロになったのは大きいです。あと僕の場合は交際費がなくなったのは大きいですね」
――飲み会みたいな集まりが減ったということですか。
佐藤:「友達も多かったし、外でおいしいお酒を飲むのも好きだったので、向こうでは月に5万円くらいは使っていたと思うんですよ。こっちだとそれがほぼゼロまで下がるんで。
遠くから誰かが来てくれればもてなしたりはしますけど、それだって大してかかる訳じゃないから」
――近所のスーパーでおいしい魚を目利きして、料理して出せばいいですもんね。
佐藤:「それを喜んでくれるからね」
――これがTwitterでいつも自慢している佐渡の魚かと。
佐藤:「食費は食べてるものが違うから一概に言えない。向こうでこっちと同じレベルの魚を食べようと思ったらめちゃくちゃ高くなっちゃうけど、向こうは向こうで安くておいしいものもあるし。肉とか加工品はこっちの方が高いし、こっちじゃ手に入らないものも多い。
向こうは向こう、こっちはこっちって考えると、金額は別にそんな変わんないかなって感じです。こっちは魚がおいしいからお酒が欲しくなっちゃうし」
――都市部の大型ディスカウントストアとか業務スーパーみたいな店に慣れている人からすると、物価が高いと思うかも。
佐藤:「あと車が必須なので車両費はかかりますね。車の保険、ガソリン、メンテナンスとか。都市部で電車を使って暮らすよりもちょっとかかるかな。
電気代や冷暖房費は家が広くなった分だけ高くなりました。水道代は単価が前のマンションより倍くらい高い。下水道がないから浄化槽のメンテナンス代も必要だし、携帯代やネット回線代も普通にかかるし、暮らし方次第だけど一概に田舎なら安く暮らせるという訳ではない」
――インフラに掛かる金額は都市部よりも割高になるんですね。本当の山奥で自給自足をするならまた別なんでしょうけど。
白いシャツを着て集落の方にいただいた小型耕運機で畑を耕す
――かなり自然に囲まれていますけど、虫は大丈夫ですか。
佐藤:「意外と大丈夫。ここはしばらく空き家だったから、最初のころは虫が入ってきちゃっていたけど、周囲の草刈りをしたり、家に虫が入ってこられないような対策をしたら全然変わりました」
マダム:「虫との距離感がわかってきたよね。まだ引越しをする前に、夏休みをもらって1週間くらいこの家に滞在してみたんですよ。そのときはなにも対策をしなかったから、20カ所くらい蚊に刺されちゃって」
佐藤:「すっごい刺された。虫とのかかわりがわかってないと刺される」
マダム:「今年はそんなに刺されていないです。畑に行くときは虫よけスプレーをするとか、虫がいるという前提で暮らしてる分にはそこまで害はないかな。東京の感覚で来ちゃうと『虫がこんなにいる!』ってなるけど、慣れればいいんですよ」
――慣れですか、さすがマダム。ムカデとかは大丈夫ですか。
佐藤:「小さなムカデに顔を這われたことがあるけど、僕はムカデよりもゴキブリの方が嫌いだから。あいつ速いから」
――ゴキブリはいないんですか。
佐藤:「小さいのを1回見ただけ。それも東京に出るゴキブリじゃない。森に住むタイプじゃないかな」
何年も放置されていた畑なので、油断するとクズが伸びてきて大変そうだ
――冬の佐渡はどんな感じですか。
佐藤:「こっちは南部で海も近いから雪はそんな降らない。パラリパラリくらい。年に2回ぐらい少し積もる日があるけれど、そうしたら家から出ないで解けるのを待つ。スタッドレスタイヤにはしますけど、四駆じゃなくて二輪駆動の車で問題ないです。去年、1回判断を間違ってスタックしたけど」
――やっぱり寒いんですか。
佐藤:「家が広いから、めちゃくちゃ寒い」
――風通しが良さそうですもんね。暖房は何を使うんですか。
佐藤:「石油ストーブとエアコンですね。薪ストーブはやろうかどうか迷ってる状態です。煙突とかつくんないといけないので、結構かかりそうなんですよ。冬場は暖房代が一カ月あたり4万円ぐらいかかるし、停電とかのリスクを考えると、あってもいいのかな」
――さっきの話でいうと、薪ストーブという装備を増やすかどうか。これから燃料も上がりそうですしね。
佐藤:「輸入した石油を燃やすよりは、木こりから薪を入手した方がサステナビリティな感じではあります。太陽光温水器もいいですよね。そのあたりは暮らしながら考えていこうかと」
春に植えたムッシュレモンのレモンの木。雑草に負けず実ってほしい
田舎は子育てがしやすかった
――向こうで出産されてから佐渡に来たんですか。
マダム:「はい。住んでた家から近いところに、すごく良い産院があったので。生後3か月で首が座って、長時間移動できるぐらいに育ってから佐渡に来ました」
――実家のお母さんがサポートで来るとかでもないですよね。知り合いがいない場所での育児、1人だとなにかと大変じゃなかったですか。
マダム:「1人じゃないです。夫婦で来たので。なんでも2人。望さんはご飯をつくれるし、なんでも家事ができるから、すごく頼りになるので頼りました」
佐藤:「まあ家族で協力してやりましょうっていう感じです。
佐渡だとやっぱりいろいろとゆるいんで、そのあたりは楽ですよ。この家なら子どもが大泣きしても、誰にも迷惑は掛からないですし、家の中を走り回っても上にも下にも住んでる人はいないし」
マダム:「生まれてから三カ月間、マンションのときに夜泣きをしちゃうと結構しんどいなっていう感じはあったんで。
保育園に入る前の小さい子どもが遊べる子育て支援センターがあるので行ってみたら、 そこもみんなすごく感じのいい対応してくれました。私はそこに行くことに勇気が必要で、なかなか利用しなかったんですけど、行ってみたらすごい良かった」
佐藤:「どう考えても田舎の方が子育てしやすい気はしますね」
マダム:「確かに子育てはすごくしやすいと思います。東京で子育てしている人とは感覚がもう違うので、なんとも言えないですけど。
畑にトマトを摘みにやってきた
――首都圏だと保活が大変という話をよく聞きますが、保育園は入れましたか。
マダム:「春から預けています。年の途中だと人員の配置が決まっているから空きがないと無理ですけど、4月からの入園だったらそこの園は100%大丈夫みたいです」
――それは共働きだと助かりますね。本当は都市部でも子育てがしやすい状況になれば一番いいんですけど。
マダム:「スーパーで会ったおばあちゃんが、赤ちゃんを『尊い』っていう感じの目で見ていて。顔を見せたらボロボロと泣き出して。子どもの存在がここでは望まれてるっていうのがうれしかったです」
佐藤:「最近は移住の人がすごく多いですよ。ここ2年で1000人超えてるんで(※佐渡UIターンサポートセンターによると令和2年度が504人、3年度が503人)。人口約5万人の島に1000人だから、めちゃくちゃ多いです」
――そんなにいるんですか。島民の約50人に1人が新顔だ。
モリモリとトマトを食べていた
――マダムはこっちに知り合いが1人もいなかったんですよね。さすがに寂しくなかったですか。
マダム:「望さんの友達と仲良くなったので。お店をやっている人もいるから、なんかちょっと寂しくなったら、たい焼き屋さんに行くとか、カフェに行くとか、本屋さんに行って話をするとか」
佐藤:「そういうのって東京だと難しいですからね。 普通は知り合いの店っていっても、別に友達な訳ではないから、気軽に話をするような感じではない。みんな忙しいし」
――佐渡の個人店なら友達として雑談をする余裕くらいはありそうです。みんな車移動だし、東京に住んでるときよりも、気軽に人と会いやすい環境かもしれません。
マダム:「一緒にお茶の葉を摘んで紅茶をつくったり、海水を煮詰めて塩をつくったり、東京だったらお金を払ってワークショップに参加しなければできないようなことを体験させてもらっています。
佐渡に来て免許を取って、ようやく運転にも慣れてきました。でも東京の道は怖いので、佐渡でしか運転しないって決めています」
私もいただいたが、完熟でとてもうまい
――だいぶ先の話ですけど、小学校とかは近くにあるんですか。
佐藤:「スクールバスが近くまで来てくれるので大丈夫みたいです。ただ医療に関してはちょっと不安がありましたね。特にコロナ禍が始まってどうなるかわからない状況だったので。どうしても病床の数が少ないし」
マダム:「小児科も佐渡南部の病院は 週に1日だけとかって聞いていたんだけど、総合診療っていう小児科じゃなくても子どもを診てもらえるシステムに変わったんですよ」
佐藤:「1人の先生がさまざまな病状を診る。それで必要があれば専門医を紹介する。だいたい薬を出してもらえば収まる程度の病気が多いので」
マダム:「そういう風に変わってくれて本当助かっています」
――お2人とも音楽がお好きですけど、東京在住と違って気軽にライブへ行けないみたいな不満はありますか。
佐藤:「それは当然ありますけど、本当に行きたいイベントとかフェスは行けばいいんだから。配信で見ることもありますけど、やっぱり生で観たいっていうのはどうしても大きいので、計画を練って子連れで行ったりもしています」
――多少交通費や時間はかかるけれど、どこでも行きたければ行けばいいんですね。
佐藤:「まあいろんな暮らし方があるけど、こういうのもいいよねっていうところかな。この暮らし方の良さを、もっと広く知ってもらいたいんですけど。
やっぱりね、佐渡の暮らしは生活のリズムが全然違います。向こうだったら海に入ろうなんていう気にならなかったし」
マダム:「海まで歩いて行けるから、水着でそのまんま海に行って、子どもと一緒にザブンと入って、そのままに戻ってくるって感じなんで」
――近所の公園に行く感覚で、海に行ったり、山に行ったり、畑に行ったりできるんだ。
佐藤:「この暮らし方は、佐渡の中でもすごく条件の良い立地だからかも」
マダム:「ここに住めたのが本当に良かった!」
――佐渡にはこのまましばらく住むんですよね。
佐藤:「そうですね。しばらくというか、もう家も買ったんで、基本はここを拠点にします。僕の活動場所が海外になってくれば、ここを残しつつそっちにも住むとかはあるかもしんないですけど」
――もし海外で暮らすことになったら、そのときはまた話を聞きに伺います。
ハーブなども使い放題
佐渡で営む音楽家稼業
――最後に佐藤さんの仕事内容を教えてください。
佐藤:「映画とかCMとか、映像に音をつける仕事がほとんどですね。最近だと映画版の『映像研には手を出すな!』とか、ムロツヨシさんが主演した『神は見返りを求める』とか」
――そういう大きな仕事って指名で案件が来るんですか。
佐藤:「僕が佐渡から戻って、しばらく映画関係の会社で社員として働いていたんです。個人としての作曲活動はそのままやってていいからっていわれたので。でも忙しすぎて3カ月でやめて、 業務委託みたいな感じに切り替えてもらったんですけど、その時にかかわった方々から今も仕事をいただいてます」
――東京に戻ってコネクションをつくるって意味では目論見通りですね。
佐藤:「なにも繋がりがないと、やっぱりフリーランスに大きな仕事は来ないですからね。めちゃくちゃオリジナル作品で売れてるとかじゃなければ」
佐藤さんの知らない面がたくさん見られておもしろかった
――リモートで仕事をやっていて困ることってありますか。
佐藤:「誰かに演奏をお願いする場合、1つの楽器の録音だったら、もう今はみんな家で録ってデータを送ってくれるんですけど、 バンド編成のレコーディングで、いっぺんに音を出すとかは、さすがに僕が現場に行ってディレクションをしないといけないっていうのが、不便といえば不便ですね。まあでも年に数回ぐらいですか」
――それくらいは東京に行く用事があるほうが、買い物とかできるしちょうど良さそうですね。マダムもリモートワークで働いているんですか。
マダム:「東京の制作会社にそのまま雇用してもらっています。望さんの地元が葉山だから、妊娠したときにチラっと『神奈川の海沿いの方に引越すかもしれません』と言ってたんだけど、出産してから『実は佐渡に移住することになりました』って伝えて、そのまま育休に入ったんです」
――海沿いの方ではありますけど。
マダム:「それで佐渡でも大丈夫っていう許可をいただいたので、良かった、良かったって」
佐藤:「出社の必要がなければね、神奈川も佐渡も変わんないっちゃ変わんないっすよ」
――ネットでのやりとりですもんね。海が荒れると荷物が届かなくて困るっていう仕事じゃないでしょうし。
佐藤:「逆にここネットは速いですからね。マンションに住んでたときよりもこっちの方が100倍ぐらい出てるんじゃないかっていうくらい。光回線を占有できるから」
――リモートワークが当たり前になったので、移住のタイミングとしては良かった。
佐藤:「これが10年前だと大変だったかもしれないっていうのはありますね。今の状況なら、佐渡は遠いから仕事を依頼するのはやめておこうっていう感じじゃないから。
どこに住んでるかより、どれだけのクオリティが出せるか」
――仕事は順調ですか。
佐藤:「ま、今のところはって感じですかね。どんどん世界は変わるんで、どうなるかわかんないですけど。状況が変わったら変わったでがんばりますっていう感じで」
――もちろん自分の仕事に自信がなければ、できない生き方だと思います。
佐藤:「でも音楽の仕事がなくなったとしても、そしたらほかのことやるかぐらいで。音楽をやめることはまずないですけど、それで収入が得られなくなったとしたら、佐渡で輸入食材屋でも始めますか」
ありがとうございました!
こうして佐藤さんは、夫婦でストレスなく子育てができて、立派なグランドピアノを存分に弾けて、かわいい猫を飼える理想の家を手に入れたのだった。
どこに住んでもメリットとデメリットはあるものだが、佐藤さんは佐渡に住むことのメリットを全力で享受しつつ、避けようがないデメリットはサラッと受け流し、なんというかシュっとかっこ良く暮らしている。
うっかり私も佐渡に良い家があったら一軒買おうかなという気になってしまったが、この地で稼ぐ自信も二拠点生活をする甲斐性もまったくないので、もう少し落ち着いて考えようと思い直した。
【いろんな街で捕まえて食べる】 過去の記事
著者:玉置 標本

趣味は食材の採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は古い家庭用製麺機を使った麺づくりが趣味。『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる』(家の光協会)発売中。
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