漫画家が中古マンション購入をしてフルリノベに至るまで(寄稿:小林銅蟲)

マンションリノベーション

こんにちは。暮らしてますか? 漫画家の小林銅蟲です。

さて本稿ですが、自分が中古マンションを購入してフルリノベーションした話になります。なにが契機になったのか、実際どうしたのか、結局どうなのか。その流れを説明していきたいと思います。

住宅購入に至る経緯

昔の話からになりますが、自分は妻となる人の住居(アパート)に転がり込んで主に寝て暮らしており、狭い部屋でお互いまあまあしんどかったので、妻となる人が何年間か応募をしたのちに、前の住居である県営住宅に当選して10年ほど暮らしていました。

県営住宅は造りは古いですが2人で暮らすぶんには適当な広さもあり、主に寝ていたうちの半分くらいは漫画を描いて生活できるようになったので、自分にとってはいい感じの住居でした。そのまま根を張るかと思われたのですが、空間から突如新しい人間が1名、出現して自分の子と相成りました。

同じタイミングでメインの漫画連載が終了し、さらにコロナが社会に介入を始め、基本引きこもって育児をするだけの暮らしに突入します。

「これは子が育ってきたら今の住宅での暮らしは詰むのでは?」と、子が生まれる前からなんとなく考えてきたのですが、住環境が牙をむくのにはそう時間を要しませんでした。*1

よって手遅れになる前に具体的な住宅購入の検討に入りました。2022年1月のことです。

中古マンション購入+フルリノベーションの選択をするために検討したこと

ではどういう角度から検討していけばよいのか? というわけで、理想を現実と照らし合わせていく過程で知見を深めていくことにしました。当方蓄えはそんなにありません。

県営住宅のある場所は、ターミナルからは少し離れますがさまざまな方面へのアクセス手段があり、文化的施設も多くて、土地勘があれば個人的には好ましいエリアでした。自分は他に積極的に移住したい地域はないので、「この近隣で、県営住宅ではない住宅」というのがひとつの選択肢として生まれました。

また賃貸だと家賃が爆発的に上がるため、ここはひとつ気合い入れて購入したほうが予後がよかろうという話になりました。

で、最初は大きく「一戸建てとかなんとかならんか?インターネット速いし」とか適当に考えたのですが、近所に建っている新築物件の相場を調べると、「みんな金持ってんなあ」という結論に至り無事除外。中古の売家というのも希望する地域には基本的に存在しない(または不可視)状況でした。なので戸建てはパス。新築マンションは、新築であることのメリット(未入居、設備、税制など)と価格面との折り合いがわれわれ的に見出だせないため、選択肢から除外しました。結果として「中古マンションを購入しよう」という方向にフォーカスされました。

では当該の地域で予算的にどのような選択肢があるのか。このあたりから不動産業者にも相談したのですが、自分たちからするとハードルの高い物件ばかり提示されて*2満足のいく結果が得られませんでした。

そもそも、今どきは自分たちのような一般人でも物件を検索するだけならWebで充分かもしれません。*3

また設備で自分たちが外せないと考えたのは、

・本格的な調理にも耐えられる、料理研究用のキッチン
・仕事部屋
・子ども部屋

の3つです。これらは言うのは簡単ですが、間取りとの兼ね合いもありなかなか強気な主張です。

自分たちの予算と業者さんから提示される相場感の大きなギャップから「ひょっとしたら、自分はナメた理想を持っているのではないか?」と考えるようになりました。やりたいことは「いい感じの場所に、いい感じに住みたい」なのですが、この「いい感じ」をどこまで突っ張るのかということになってきます。削れる条件を極限まで削って譲れない条件を残せば、もしかしたらうまくいくのかもしれません。でも、どうやって?

ほしい間取りがないなら作ればいいじゃない

そこで持ち上がったのが、フルリノベーションで内装を一度すべて取り去ってから自分たちの好きなようにデザインし直す手法です。つまり、激安中古物件で立地を、フルリノベーションで内装設備を確保して、極端な話それ以外の要素を捨てることで自分たちの理想の条件に近づけるという構想です。

インターネットをやりまくっていたら予算感の相談から物件探し、リノベまで包括的にサポートしている業者さんに出会い、そこから周辺地域も含めて物件を自分たちで調べまくりました。ちょうど居住地から近い地域にいい感じの中古マンションが売りに出ていたのですが、本当にいい感じなのかというのはすぐには判断できず、最終的に調べまくってから「やはりここしかないようだ」となりました。

まだ人が住んでいる状態で内見をしたところかなり味わいのある物件だったのですが、「どうせ全部ぶっこわして作り直すんでしょ?」と考え、誰かに買われてしまう前にただちに契約しました。*4

売買契約が成立したのが2022年6月ごろです。このときちょうどコロナに罹患して、契約時の集まりに期日までに出席できず契約が延期、というトラブルもありました。世の中的にも同様の事案が大量にあったようです。万全を期すのは難しいですが、気を付けたいポイントです。

余談ですが、40過ぎの漫画家が35年の住宅ローンを組めることに驚愕(きょうがく)しました。いろいろ大丈夫なんでしょうか?

物件を購入したら、次は内装をどうするかの面談をひたすら繰り返します。自分たちの要望が何通りかの図面に起こされたものからひとつ選択し、さらに細部を詰めていきます。自分は全体的な仕様は妻に任せて、仕事部屋とキッチンのディテールを担当しました。

設計には3カ月ほどかかり、そこから工事が3カ月あって年末に施工完了しました。実際に入居したのは2023年1月で、物件を探し始めてからちょうど丸1年ということになります。生活において常に住宅マターが存在したため、とても大変な1年でした。実現には強い精神力が要求されると思います。

フルリノベ後のキッチン、仕事部屋、子ども部屋はこうなった

完成した部屋の見どころをいくつか紹介します。

キッチン

物件が変な形で床面積も広くないため、当初理想としていた隔離された仕事部屋と、充分に大きなキッチンはどうしても両立できず、仕事場を優先してキッチンは少し小さくしました。それでも無理矢理アイランドキッチンです。

県営住宅のキッチンはかなり低くて腰が痛くなったので、こちらではやや高め(870mm)に設定しました。

キッチンリノベーション

実際の運用では対面式キッチンとして機能し、料理をしながら背中を向けずにコミュニケーションが取れるため、ここに人間がたむろすることが多いです。テーブルが高いぶん椅子も高めになるため、子ども的にはやや使いづらい部分があるかもしれません。

というか「その壁紙はなんなんだ」という話ですが、壁紙ってカタログを見せられても全部同じで分かんなくないですか??(個人差があります)なので分かるものにしました。みんな大好き、国立科学博物館のコラボ壁紙です。

いちおう料理動画を撮影できるような環境にしたいという目的もあったのですが、壁紙が独特すぎるため、その点では適切かどうか今後の議論になるかと思われます。

ちなみに廊下などという気の利いたものはないため、玄関を開けた宅配の人がいきなりクジラの群れを見ることになります。

キッチンリノベーション

調理側には大きめの食洗機があるので、結構いろいろ入ります。シンクが狭いので、必然的に食洗機に都度投入しようというモチベーションになります。

キッチンリノベーション

料理研究をしている様子です。別でロースターがあってここのグリルは使用しないので、排気口は封印しています。

キッチンリノベーション

さまざまな料理研究が行われます。

キッチンリノベーション

狭さに関しては慣れればなんとかなります。

キッチンリノベーション

照明は基本的にダクトレールでつなぐので、位置や角度を任意に設定することができます。これにより、料理を撮影する頻度の高い場所に光量を集中させています。ダクトレールはプロジェクタを設置できるメリットもあります(現状では設置していませんが)。

キッチンリノベーション

黒系のフライパンが暖色の照明と相性がよく、撮るだけでわりと映えてくれるので助かっています。

キッチンリノベーション

これはカキチャーハンです。

キッチンリノベーション

キッチン後ろの壁にコンセントを配置したので、電源を使用した料理研究もできます。

キッチンリノベーション

キッチンの横の棚に調理機器を並べています。寸胴鍋など大型のものは収まっていないので、仕事部屋に収納して使用時に持ち出しています。

仕事部屋

元々はリビングだった空間を分割、手前を納戸にして、窓側を仕事部屋にしました。

仕事部屋リノベーション

これは納戸と仕事部屋入口です。納戸を挟むことで収納を確保しつつ、ささやかながら遮音もしようという構想です。

仕事部屋リノベーション

仕事部屋は極限を追求した結果、2畳です。ネットカフェみたいな空間になっていますが、案外大丈夫です。寝袋によって子の襲撃を受けずに仮眠することも可能です。

仕事部屋リノベーション

機材が入るとこうなります。机には配線を通す穴が一応あるのですが、自分の配線が多すぎたため無力でした。これは設計時に想定できなかった自分のミスです。なんでも生返事しないほうがいいでしょう。

仕事部屋リノベーション

壁側に照明があり、光がPCに写り込んでほしくないので強引に間接照明にしています。

子ども部屋(リビング)

子ども部屋リノベーション

部屋の半分を小上がりにして、下に収納スペースを設けています。天井にはハンモックをつり下げるフックを用意したのですが、現状設置していません。懸垂するやつを引っ掛けたくもあるのですがそういうものではないので、機が熟すのを待っています。

アーチ状の出入口は自分の提案ではないのですが、実装してみるといい意味で家っぽくないので盛り上がります。

子ども部屋リノベーション

本棚の手前にスクリーンを張ってプロジェクタを投影する構想もありましたが、本棚がわりとかっこよくなったため見送られました。

子ども部屋リノベーション

実際に住んでみて

まず自分は所有欲の強い人間なので、賃貸ではないありとあらゆる部分が自分たちの目的に沿った構造をもつ物件の「自分のモノ感」に包まれていると、独特の充足感があります。これだけでだいたい優勝しています。

また、この物件は驚異的に日光が射さないため一日中闇の世界という特徴があるのですが、よく捉えれば洞窟内の住居といった味わいがあります。日光は外出して浴びようというモチベーションにもなります。自分はコケを育成しているのですが、そのままでも光量が適正なので、放っておいても勝手に育っています。コケの画像はややグロいので割愛します。

地域の特徴として騒音がないため安眠できます。なんならうちが一番騒がしい。

玄関へダイレクトに生活音が飛んでいくため、玄関からの音漏れは結構あります。また寝室の壁の真裏が冷蔵庫なので低音のうなりが気になることがあります。冷蔵庫設置時に吸音材を敷いておくべきだったなと思います。

中古マンションの宿命というか、現在インターネットが遅いのですが、これは介入できる立場を得たため改善に向けて歩んでいます。

多少立地が変わったため、メインの行動範囲に新たな選択肢が加わりました。*5

トータルでは非常に有意義な体験になったと思います。ローンが発生したことで労働のモチベーションも以前より高まったと思います。本当です。

物件についての選択肢は本当にいろいろあるのだと思います、今回はあくまで自分についての特殊なケースのご紹介になっていたかもしれませんが、読者の皆様におかれましては暮らしのヒントのヒントくらいにでもこの記事がお役に立てれば幸いです。よかったですね。

著者:小林銅蟲

小林銅蟲

1979年神奈川県生まれ。横浜市在住。漫画家。著作「ねぎ姉さん」「さいはて」「寿司 虚空編」「めしにしましょう」など、よくわかんない内容の作風で知られている。

Twitter:@doom_k / ブログ:パル

編集:はてな編集部

*1:外部に仕事場もあったのですが、コロナで外出しなくなったことや、育児的なフットワークにより自宅で作業したかったという理由もあります

*2:実際やたら高い地域ではあり、これは業者さんと自分たちとで物件に対する価値観がだいぶ異なるのもあったと思うのですが

*3:だからこそ業者さんからの視点が重要になってくるのですが

*4:ちなみに前の不動産業者さんには「新耐震基準だが古すぎるのでやめたほうがいい」と言われました。業者さんによって築年数をどの程度気にするのかというのもずいぶん差があるようです

*5:これはそもそも地域全体として高低差が激しいことによるので、一概に最高というわけではありませんが……