「疲れたら鹿児島、刺激が欲しいときは東京」――音楽クリエイターが語る、東京と鹿児島の二拠点生活のメリット

インタビューと文章: 小沢あや 写真:飯本貴子 

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リモートワークの普及で、「地方に住みたい」「二拠点生活もアリかも」と考える方も増えたのではないでしょうか。

鹿児島大学の軽音サークルで結成されたロックバンド「テスラは泣かない。」は、2014年以降、鹿児島と東京を行き来する生活を続けていました。

同バンドのギターボーカルの村上学さんと、キーボードの飯野桃子さんに、二拠点生活や移住先としての鹿児島の住みやすさや、地域で仕事を掴むコツ、人のあたたかさについてじっくり伺いました。

一度入ったら抜け出せないこたつCITY、鹿児島

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――  鹿児島は、想像以上に栄えていますよね。東京と変わらないショップもそろっていますし、天文館の商店街も活気があります。

村上学(以下、村上):鹿児島、結構都会ですよ。自然は雄大だけど、商業施設があるエリアは良い意味でミニマム。すごく極端な話をすると「家、イオン、アミュプラザ、天文館!」って感じで、ギュッと固まってるんです。もちろん、他にも開発されている地域もあります。東京でいう、渋谷新宿東京駅などの機能がコンパクトにまとまっていて、とても便利です。

飯野桃子(以下、飯野):東京でお手ごろな家賃のエリアに住もうと思うと、都心に出るまで時間がかかってしまいますよね。鹿児島なら、鹿児島中央駅や天文館の近くに気軽に住めるのかなと思います。

村上:僕ら、東京に来て、初めて「終電」という概念を知ったんですよ。「終電何時?」とか、これまで聞いたことなかった。運転代行も安いし、みんな天文館からすぐ帰れるエリアに住んでいたから。

飯野:確かに、みんな3時くらいまでダラダラ飲みがち(笑)。気がついたらいなくなってる人もいるんですけどね。「いったん、しめましょうか!」っていう文化があまりないんです。

のり一

深夜ラーメンは「のり一 (のりいち)」が定番だそう


――  天文館エリアは、飲食店が大充実していて、はしご酒も楽しそうですよね。鹿児島移住・二拠点生活におすすめの駅はありますか?

飯野:鹿児島市内だと、丘の上にある「桜ヶ丘」エリアは家賃が安くて、広い物件が多いイメージですね。

村上:鹿児島市内は、市電(路面電車)が山手線みたいな役割なんだよね。市電沿いなら、どこでも住みやすいと思いますよ。「唐湊(とそ)」は学生街だし、「宇宿(うすき)」あたりも家賃が安いんじゃないかな? もし、クリエイティブ系のお仕事をされる方なら、やっぱり天文館周辺がいいかもしれません。

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天文館周辺の街並み(写真:PIXTA)


飯野:天文館は中心地だけど、家賃も比較的安いです。

村上:東京にいると、「意外と移動時間がかかるなあ」と思うんです。ひとつの用事のために、その日に行く街を決める感じがあって……。

――  確かに、そうかもしれません。

村上:鹿児島はね、いい意味で、手の届く範囲に全部あるんですよ。ずっとこたつの中に入っていられる感じ(笑)。もう、抜け出せないんですよ。友達もすぐ会えるし。

――  こたつ! イメージしやすいです。

村上:「ちょっと外出るか〜!」って気分になったり、鹿児島にはない、別の刺激が欲しくなったりしたときは、東京に行くのも一つの手だと思います。

飯野:LCCのジェットスターなら航空券も安いし、気軽に。読書したり、映画観たりしていると、移動時間は本当にあっという間でした。

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村上学さん(写真右)と飯野桃子さん(写真左)

働きながらの二拠点生活は、スケジューリングと根回しがカギ

――  今は新型コロナの影響もあってイレギュラーだと思うんですけど、どれくらいの頻度で東京〜鹿児島を行き来しているんでしょうか?

村上:今は東京拠点に生活しているんですが、デビューしてから数年間はライブツアーやCDリリース時以外は、だいたい1週間東京、3週間鹿児島で過ごしていましたね。レーベルスタッフにもワガママを言わせてもらって、東京に行くときは超短期集中型でスケジュールを組んでもらっていたんです。鹿児島にはそれぞれの家があって、東京では一軒家で、シェア生活をしていました。

飯野:私は、鹿児島で働きながらの二拠点生活でした。新卒で就職した勤務先に相談して、非常勤にしてもらったんです。バンドのスケジュールを事前に「この期間は東京です。帰ってきたら、また働きます」と伝えて。支えてくださった方々には、感謝しかないですね。

村上:本当に、周囲の方に恵まれていたなと。今はオンライン会議なども当たり前になったけれど、僕らはずっとリモートでやれることは鹿児島でやっていたんですよ。取材も、インタビューもオンラインで。鹿児島にも東京にも、二拠点の活動を支持して、協力してくださる方がいて本当に助かりました。

飯野:東京も、リモートワークなどいろんな働き方ができる仕事が増えましたよね。鹿児島も、じっくり探せば色々な働き方ができると思うんですけどね。クリエイターとかエンジニアさんの仕事は、より流動的に働けるし、選択肢も増えていると思います。

やれることややりたいことを宣言すると、いつの間にか仕事に繋がる

――  鹿児島で仕事をつかむコツみたいなのは、ありますか?

飯野:「これができる!」って発信すると、仕事が紹介してもらえる機会が多いと思います。

村上:鹿児島はコンパクトな分、共通の知人をきっかけに、すぐチームが出来るんです。鹿児島銀行のCMに起用していただいた際も、東京とは少し違うチーム感が有りました。結束力が強くなるのも、早かったと思います。

――  地元のネットワークが強いんですね。

村上:東京の代理店で働いて鹿児島に戻ってきた、Uターン組の友人は、帰省後に1カ月くらい天文館で飲み歩いてそうなんです。飲み屋で出会った人とコミュニケーションを重ねるうちに、いつの間にか今の会社に入ることになって、気がついたらその後の仕事に活かせるネットワークもそろっていった、という話も聞きます。

――  そんな奇跡が!

村上:すごいですよね(笑)。でも、鹿児島で二拠点生活をするなら、東京の仕事をしっかりつかんでおくのがいいんじゃないかな。井の中の蛙にならないで、大海を知って、その上で自分の居場所をつくるのが理想。僕らも、「鹿児島最高!」って思ってたけど、一度東京に出たことで、今まで気づかなかった鹿児島の魅力を知ることができました。

「生活に欠かせない衣食住のうち、食・住は最上級だと思います」

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村上:僕たちがずっと鹿児島に軸足を置いているのは、とにかく暮らしやすいから。もちろん、生まれ育った街っていうのもあるけど、東京での生活を知ってから改めて感じた鹿児島の良さもたくさんあります。ご飯も、圧倒的に美味しいし。

飯野:本当にね。SUUMOタウンさんの取材なのに、「ご飯が美味しいです!」って、地味過ぎて、いいんかな(笑)? でも、本当に食が美味しいんですよ。鹿児島。

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村上:東京のスーパーで、地元が恋しくなったときには、鹿児島産の野菜や肉魚を買ってみることもあります。でも、なんか違うなあと。もちろん、東京も良いスーパーはたくさんあるんですけど、鹿児島は、美味しくて新鮮なものがどこでも、安く買えるんです。ご当地スーパーは「タイヨー」は、良質な食材が安くて、僕は魚を買うことが多いかな。鹿児島、生活に欠かせない衣食住のうち「食・住」は最上級だと思いますよ。

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飯野:地元名産だと「サクラカネヨ」のお醤油がお気に入りです。お醤油自体が甘いから、煮物をつくるときも、砂糖少なめで美味しくできる。県内に何箇所かある直売所には、お醤油のかき氷など、レアなデザートも食べられるんです。

カレーの名店も多い鹿児島

飯野:スケジュールの都合でインタビューに参加できなかったんですけど、カレー好きのさねさん(ドラムの實吉 祐一さん)から、 LINEで鹿児島の推しカレー情報と写真を預かってきたので、読み上げてもいいですか?

――  よろしくお願いします!

<伊場カレー>
「先輩バンドマンが営む、隠れ家のようなカレー店です。旬な食材を惜しみなく使っていて、行く度に新しい味に出逢えます。ハマった人は毎日のように通い続けているのだとか。疲れているときに行くと、元気になれます。ワンオペ営業なので、複数人での来店の際は事前に連絡するとスムーズです」
鹿児島市山下町12-12 ー二三ビル1F

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<さくらじまjacobspice>
「東京の名店で修行を積んだ店主が営むカレー店です。素揚げされた野菜とカレーソースがとてもマッチしていて美味しい! 全てがハイクオリティです。家族連れが多く、女性や子どもに大人気」
南九州市川辺町清水9399-3

さくらじまjacobspiceのカレー

<カレーショップサフラン>
「創業40年の老舗カレー店。鹿児島中央駅の、郵便局の目の前にあります。コスパがとても良いです。ドロっとスパイシーなカレーソースがトッピングにとても合うんですよ。カレーも素晴らしいですが、この店の魅力は人情味あふれる、オーナーの老夫婦。疲れているときに、2人と話してるだけで元気になれます。出前もやってます!」
鹿児島市中央町2-5

サフランのカレー

――  そのまま書き起こしできるレベルの熱いコメント……ありがとうございます!

まだまだ魅力が盛りだくさん

飯野:よしむー(ベースの吉牟田直和さん)も、鹿児島生まれ・鹿児島育ちなので、おすすめスポットをLINEしてくれました。

<桜島 有村海岸>
「鹿児島は、日本有数の温泉県です。それぞれ、泉質の違う温泉が数限りなく県内に散らばっているので、お気に入りの温泉を探すのは鹿児島に住む人間の楽しみの一つでしょう。僕は、桜島にある「有村海岸」を推させていただきます。なんと、浜辺を掘れば温泉が湧き出てくる! 日本でもとても珍しい場所なのです。少し掘れば温泉。足湯でもつくって浸かりながら、マグマや地球の神秘に浸るのも乙なのでは!」

――  え、浜辺を掘って、セルフで温泉をつくるってことですか?

飯野:そうみたいです。

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うそみたいです。すごい。


<磯海水浴場>
「基本的に鹿児島の生活は車ありきなのですが、月極の駐車場も数千円から借りられるので、都会に比べればマイカーのハードルは低いです。車に簡単なアウトドアグッズを積んでおく人も多いです。鹿児島の中心地から、磯海水浴場までは車で約10分。海開きの季節以外なら浜辺に車を止めることができます。目の前には桜島がドーン! ハンモックでもアウトドアチェアーでも出してしまえば、なんと優雅なコーヒーブレイクが実現します」

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磯海水浴場(写真:PIXTA)


――  駐車場が数千円! 行動範囲と夢が広がりますね。

飯野:まだあるみたいです。

<離島>
「桜島、屋久島、奄美大島などの有名な島はもちろん、硫黄島、悪石島、喜界島、与論島などの離島が、少しずつ文化様式を変えながら多数点在しています。自分もまだ制覇できていないので、フワッとしたおすすめにはなりますが、観光客が多い島以外も、自然豊かな島だらけです」

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悪石島(写真:PIXTA)


――  鹿児島の離島めぐり、楽しそうですね!

おっとりした鹿児島県民

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――  鹿児島独特の県民性って、ありますか?

飯野:鹿児島は、本当に人がおっとりしているんですよ。薩摩タイムが流れている感じ。私たちがワンマンライブをやるときも、鹿児島のお客さんはみんなのんびり会場に来るから、開演時間が押しがちです(笑)。

村上:みんな、余裕があるよね。東京の感覚に慣れていると、イライラしちゃう人もいるかもしれないけれど(笑)。ウチのマネージャーも、東京ではかなりタイトなスケジュールで頑張っているけれど、鹿児島に来るときは前後に余裕持って泊まっていくことが多いです。

マネージャー・会沢さん(以下、会沢):仕事なのに、鹿児島に行くのが毎回楽しみになっている自分がいるんです。僕、普段は早口なんですけど、鹿児島にいるときはちょっと口調がゆっくりになります(笑)。とにかく、鹿児島は物腰が柔らかい方が多いんですよ。おかげで、現地での仕事もスムーズに進みます。

村上:実は、一番鹿児島好きなのマネージャーかもしれない(笑)。

会沢:鹿児島って閉鎖的な空気は一切なくて、東京進出も「頑張っておいで〜」っていう温度感なんですよ。クリエイターがやっていることを、しっかり肯定して応援してくれる。ものづくりが安心してできる土地だなと思います。

村上:鹿児島弁って、安心感があるんですよ。東京にいるときも、街で「だからよ〜」「ですです」って鹿児島弁が耳に入ると、パッと振り向いちゃうくらい。体に染み付いてるんですよね、鹿児島の空気が。

飯野:どの街にも温泉があるから、ふらっとお風呂に入ってリラックスできるのもあるかも。「花野温泉 たぬき湯」も通ってました。鹿児島は、大学生も車を持っている人が多いので、みんなで夜中に温泉行ってましたね。

村上:天文館の近くにあるも霧島温泉も、古くてエモい感じでおすすめ。

飯野:番台のおばあちゃんが、ゆる〜い感じで(笑)。

創作活動を続けられているのは、鹿児島のおかげ

――  最後に、お二人が「東京・鹿児島の二拠点していて良かった」と、しみじみ感じることは?

村上:正直、昔は「もっと早く東京に行けばよかった」思っていたんです。東京は競争が激しいし、「僕たちも、もっと刺激を浴びた方がいいんじゃないか」と、焦りがありました。でも、今思えば、今でも人と比べずに自分たちらしい音楽を続けられているのは、バンドの根っこにある鹿児島のおかげなんです。

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村上:僕が二拠点生活にこだわっていたのは、鹿児島で歌詞を書きたかったから。心からリラックスした状態でつくった曲が、テスラは泣かない。の糧になっている。僕たちは、東京と鹿児島のダブルなんです。

飯野:東京の刺激や荒波に揉まれたときも「私たちは鹿児島に帰る場所がある」って思えることが、精神的な支えになりましたね。つらいことがあっても、気分を変えられる。二拠点生活は、追い詰められないところがいいなと思います。

お話を伺った人:テスラは泣かない。:村上学(むらかみまなぶ) / 飯野桃子(いいのももこ)

村上学(むらかみまなぶ) / 飯野桃子(いいのももこ)

2008年、鹿児島大学にて結成された4人組ロックバンド。医学部を卒業した村上が書く、独自の死生観から生まれる歌詞も話題に。9月にデジタルシングル「呶々々」(読み:どどど)をリリース。

聞き手:小沢あや

小沢あや

コンテンツプランナー / 編集者。音楽レーベルでの営業・PR、IT企業を経て独立。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。SUUMOタウンに寄稿したエッセイ「独身OLだった私にも優しく住みやすい街 池袋」をきっかけに、豊島区長公認の池袋愛好家としても活動している。 Twitter note